2009年11月8日日曜日

よき経営者の姿

経営にかかわりながら、よき経営者とはどのような人なのかと考える。
他社の経営者の方にお会いし、その人はどのような経営観を持っているのかと思う。

よき経営者とは、どのような人を言うのか、よき経営者は何ができなければならないか
を考えているときに、『よき経営者の姿』伊丹敬之を読む。
よき経営者を、(1)顔つき、(2)仕事、(3)資質、(4)育ち方、(5)失敗、
(6)退き際に分けて論じている。

(1) 顔つき 
    ① 深い素朴さ:地に足のついた考えをしており、とらわれないものの見方
                              ができる。かっこをつけたり、斜めに構えたりしない。
  ② やわらかい強さ:ものごとの自分なりの筋を一本持っている強さであ
    り、失敗にめげない強さ、不安にぶれない強さ。強さは硬さであって
    はいけない。硬さは人を遠ざける。強さを背後に秘めややわらかさ
    で人を魅了する。
  ③ 大きな透明感:責任意識とはこうせねばならないという思いである。
    覚悟とは何にかをなした後の結果について自分ですべてを引き取ると
    いう思いである。その覚悟を決めると人の顔は透明になる。濁りがな
    くなる。

この3つの特徴をもつ顔を育む思考と決断のプロセスは以下の特徴を持っている。

  ◆「正」(正しい方向)と「悪」(達成の障害の除去)を両睨みで考える。
  ◆三つの目(詳細を見る虫の目、高く広く鳥の目、流れの先を読む魚
    の目)をもって現実に沈潜して、考える。
  ◆繊細なる鈍感さで決断する。あきらめと覚悟の同居が跳躍。
    敏感に考え、時に決断する勇気。

(2) 仕事(役割)
  ① リーダ:集団を率いていくことが求められる。そのためには、人格的
         な魅力が必要だが、その背後には人格的な温かさが信頼
         感につながる。
         ひとつの筋を通してぶれないからこそ信頼感を持つ。
  ② 代表者:社会に対しての企業の責任をすべて一身に負う存在で、判
         断を仰ぐ人が他にいない孤独な立場。
         総合判断の結果責任をすべて負う。

  ③ 設計者:企業全体の方向性を決める。資源の配分の基本枠を決め
         る。組織の構造と管理の仕組みの基本を決める。その仕
         事の仕組みの中での人の配置を考える。

経営とは、他人を通して事をなすことである。そのためには、経営理念を策定し、伝道していくことが求められる。人々の間のさまざまな分配(賃金、権力、名誉、時間)の決定者であり、働く人々の能力を育成する教育者であり、事業活動の意味を考え、働く人々の仕事の意味を考える哲学者でもある。

(3) 資質
  ① エネルギー:難所で踏ん張るエネルギー、難しい総合判断を考え抜くエネ
           ルギ―の水準が高い。土光敏夫さんの定義。
                バイタリティ=知力×(意力+体力+速力)  
  ② 決断力:判断力+跳躍力と表せる。判断力の源泉は、知力と現場情
         報への沈潜。
         跳躍力の源泉は、広い意味での哲学あるいは倫理観。
         「自分よりはるかに大きなものに受け入れられる感覚」
  ③ 情と理:理に情を添える。カネの流れの動き方と蓄積・利用のメカニ
         ズム、情報の流れの動き方と蓄積利用のメカニズムは、論
         理が支配する世界であり、「理」で理解する必要がある。
         情報の流れの中で働いているのは人間であり、感情を持っ
         た存在である。

経営の状況によって、求められる資質が異なり、それぞれ以下のように整理できる。
   ◆事を興す人:「構想力」
   ◆事を正す人:「切断力」
   ◆事を進める人:「包容力」

また、経営者に向かない人の特性として以下を挙げている。
   ◆ 私心が強い人。
   ◆ 人の心の襞が分からない。泣いて馬しょくを切ることは必要。
   ◆ 情緒的にものを考える人。
   ◆ 責任を回避する人。
   ◆ 細かいことに出しゃばる人。 
さすが経営者といわれる人には、上記特性を持つ人は少ないが、会社の
部長、事業部長クラスには思い当たる人もいる。
「よき経営者は偉大なる常識人」が結論とも書いている。

(4)育ち方
 ①高い志
  高い志を持ったものは、低次元に現状満足しない。自己修練の契機
  を作り出していく。その高さゆえ多くの人をひきつける。
 ②仕事の場の大きさ
  大きな仕事の場は、大きなスケールでものを考えざるを得ない状況に
  し、深い悩みとぎりぎり決断を迫る状況が生まれる。
  若いころに経験するのがよい。
 ③ 思索の場の深さ
  読書を通じて、対話を通じて、内政のプロセスから物事の道理を自分
  で発見していく。経営、人間行動、社会の動きについて自分なりの考
  えをもつようになる。

(4) 失敗
経営者の失敗の背後には、以下のような要因がある。
 ① 状況認識の誤り。
   環境に関して知的判断力の低下。現実を直視しない心理。
 ② 人物鑑定の誤り。
   人物に関して知的判断力の低下。現実を直視しない心理
 ③人格的ゆるみの誤り。
   厳しい自己抑制や自己規律のあった人が何らかの理由で甘えが出
   て抑制が効かなくなる。

上記の原因は、加齢、成功そのもの(成功体験の呪縛。自信が過信へ)、組織への過剰密着(客観的に自分の組織を見れなくなる。組織の内部事情を外部の状況より優先してしまう。)

以下のような傾向がでれば、それは失敗の予兆である。
  ◆自分勝手な論理で考え始める。
  ◆派手な行動好む。
  ◆決断のタイミングがずれる。
また、いい人たち宦官が失敗を加速するとも説く。

(5) 退き際
  後継者をきちんと確保した上で、惜しまれて「自ら」退くことが必要
  であり、またタイミングが重要とも説く。
  自分が当事者になれば、タイミングをなかなか判断できないもの
  なのだろう。

理論でスパッと整理した感じではなく、事例を丹念に調べ、また経営
とは何かを思考した中で出てきた結論であるように思う。
じっくり考えながら読むに値する本であった。
  

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