2011年11月12日土曜日

マックスウェーバーとアジアの近代化

中国を政治や経済、歴史の観点だけでなく、社会学のフレームワーク
で理解したいと思い、ちょこちょこと本を読んでいる。
日本を代表する社会学者によって書かれたアジアの近代化に関する
本が見つかった。
1998年に出版された本なので、中国の最近の発展については考慮
されていないが、日本の近代化を社会学で分析し、そのフレーワーク
で中国の近代化の可能性、課題について分析されている。
社会学者である富永健一氏がそれ以前に発表した論文をまとめたもの
であり、マックスウェーバーさらにはパーソンズのフレームワーク
を活用し、日本の近代化、中国の近代化を分析ししており、大変
興味深く読めた。





まずは近代化を以下のように定義する。

マックスウェーバーの近代化の定義
(1)経済の領域における近代化:近代資本主義の形成
(2)行政と法と政治の領域における近代化:近代官僚性と
近代民主主義
(3)社会の領域における近代化:家ゲマインシャフトと
氏族ゲマインシャフトと村落ゲマインシュフトの解体、
及びこれによる近代家族、近代組織、近代都市の形成
(4)文化の領域における近代化:呪術からの解放、及び
これによる合理的な精神の成立

富永氏による近代化の定義
(パーソンズのAGIL図式を再解釈)
(A)経済的近代化は、近代的経営組織によって担われた
資本主義の発展とこれによる近代経済的成長の実現。
(G)政治的近代化は、近代官僚性組織によって担われた法
と行政の発展とこれに基づく民主化の実現。
(I)社会的近代化は、血縁ならびに地縁による基礎社会
(ゲマインシャフトを解体し、機能別に形成された目的
社会(ゲゼルシャフト)を組織化しこれによって自由
で平等な市民社会の実現。
(L)文化的近代化は、伝統や因習による拘束(魔法の呪縛)
からの解放によって,思想や宗教や生活様式における合
理化を実現する。

ウェーバーは、
あの有名な『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
で、「資本主義の精神」の敵対者は「伝統主義」であり、キリ
スト教自体もその古代中世的形態においては伝統主義に他
ならなかった。キリスト教をこの伝統主義から離脱せしめた
ものこそ宗教改革の所産としてのプロテスタンティズムで
ある。
その経済的合理主義への指向によって伝統主義を離脱して
いった。
現世的な職業を「神から与えられた天職」であるとする思想
を創始したのは、宗教改革の最初の提起者であるマルチルタ
ーであるが、「天職」観念はまだ伝統主義の枠から離脱した
とは言えないものであった。
カルビンの「予定説」が伝統主義からの離脱のコアであると
いう。来世において救いが予定されているか否かは純粋に神
のみの決断によることがらであり、教会や聖職者がこれに関
わることはできない。だからだれも他人を当てにすることも
できないし、いかなる呪術や儀礼も役立たない。
予定説は、純粋の個人主義、呪術からの解放、禁欲主義そし
て合理的な生活態度を生み出した。
予定説の教義のこのような個人主義は、一方では個々人の内
面に激しい精神的孤立化と緊張を作り出したが、他方ではそ
のような不安から逃れて、自分は神によって選ばれているの
だという自己確信に到達するために、ひたすら禁欲に徹して
神の恩寵を得ようとする態度を生み出した。
カルバン派は、修道院や教会内での禁欲は否定されているの
で、そのような禁欲はあくまで世俗内的に、すなわち日々の
職業労働に励むというかたちでなされねばならなとされた。

ウェーバーは、儒教を以下のように理解した。
『宗教社会学論集』「儒教とピューリタリズム」の中で、
儒教にはピューリタリズムにおけるような世俗に対する強烈
な緊張感がなく、ただ現世適応だけがあるに過ぎなかったの
で、呪術が温存されて合理化を達成することができなかった。
また儒教は無条件の現世肯定によって特徴づけられることか
ら、現世における生活態度を規制するだけの力をもった倫理
を生み出すことができなかった。
これらの理由により、儒教はピュリタリズムのように資本
主義発展の原動力になり得なかった。
さらにインドの宗教についは以下のように理解した。
「ヒンヅー教と仏教」で、インドの諸宗教が、純粋に来世
のみを指向して現世を無価値としたために、インドでは禁欲
主義は、瞑想的で神秘主義的なものとなり、ピュリタリズム
の禁欲主義のように経済合理主義や合理的な生活様式と結び
付くことがなかった。
日本についての言及は断片的ではあるが、
(1)神道はアニミズム的呪術的であって、倫理的要求を
何ももってない。
(2)仏教は、神道よりも合理的で宗教的な生活規制を行い、
来世における救済の教義を教えたけれども、徳川時代に
はその威信は衰えていた。
(3)徳川時代の武士が信奉した儒教は、本来中国の皇帝が
儒教にはよっての教皇であったために、日本では政治
的正当性を確立できなかった。
と述べている。
日本が西洋中世と同様に封建制をもった歴史的事実を上げて、
この封建制のもとでのレーエン関係(封土を介しての主従関係)
が、中国の神政政治におけるよりも、西洋的な意味での個人
主義を日本に作り出すのに好都合であったと論じた。

近代化の初期条件に関して日本と中国とを以下のように対比
させた。
(1)支配の構造
(日本)家産制的要素を伴った封建制
(中国)家産官僚制
(2)血縁社会
(日本)同族:物的基礎を特に持たない本家と分家の結び付き。
(中国)宗族:族産のような物的基礎をもった強固な氏族集団。
(3)地域社会
(日本)村落(共同体的規制)
都市(幕はん権力と結び付いたギルド組織株仲間)
(中国)村落(共同体規制と強い宗族的結合の相乗効果)
都市(政治的権力から切り離された同郷的背景をもつ
ギルド的組織)
(4)支配階層
(日本)武士(本来は戦士であるが徳川時代には儒教には
よって訓練された知識人でもあり、幕府とはんの官僚
組織の成員でもある。)
(中国)士太夫階層(儒教にはよって訓練された正統派
知識人。科挙試験によって選抜されて家産官僚と
なる。)
(5)儒教
(日本)封建社会における武士の在り方の精神的基礎。
幕はん体制の基盤たる身分階層的秩序を正当化
する倫理思想。
(中国)世俗宗教であって家産官僚制の精神的基礎。
氏族社会の現世的秩序を正当化するする倫理思想。

以上のように整理し、中国は封建制を経由していないが故に
個人主義が育たず、また儒教の現世適応主義のため、合理的
な生活様式も生み出せず、近代化が日本より難しいと結論
付けているように思われる。

このような説明を今までは納得していたところもあるが、
資本主義と市場経済は異なる概念で、市場経済は近代
以前から発達していた。
資本主義の特徴は、機械を使ったものづくり(産業化)
であり、計画的な設備投資である。
プロテスタンティズムの個人主義と勤勉が資本主義を
起こしたのは事実としても、産業主義を採用するには
中国のような国家主導の経済体制と損得感情の発達した
国民が適しているようにも思われる。
経済が発展すれば、情報がオープンになり自ずから政治
体制も生活も合理化されるようにも思う。

2011年9月23日金曜日

ゲームが変わった(ポストものづくりの競争をどう勝ち抜くか)

日本企業の今後の方向性特に製造業の方向性について最近多くの本が出版されている。
この本は、現役の経済産業省の官僚が、日本企業の今後の方向性について「研究開発のあり方」「水ビジネス、鉄道ビジネス等のインフラビジネス」について書いたものである。


1.ゲームが変わった
まずは今までのゲームを、繊維、自動車、半導体を例にして
①先進国を相手に
②競争が少ない状況で(まだ、新興国などが競争相手ではなかった)
③低価格で(為替レートが円安、先進国と比して生産コストが低かった)
 ④高品質の製品を供給する
とし、以下のようにゲームが変わったので、日本語企業の利益が出なくなったと言う。
①新興国を相手に
②新興国企業などと競合しながら
③低価格で
 ④最低限の機能で
 ⑤相手国のニーズにあった製品を提供する

このようなゲームの下で米国企業は、以下の戦略をとっているという。
自国や進出国の消費者のニーズに応じて製品を開発するというよりは、
消費者自身も認識していないような深層にあるニーズを見つけだして、そのニーズ呼応した製品の提供を行っている。
製品の提供も自国で生産してメイドインUSAで売っているわけではない。生産は他の国で行い、デイザンバイUSAとしてかっこよくて、使いやすい「米国製品」を売り出している。
さらに製品売却で終わりではなく、その後もサービスを提供し、それへの対価として安定的な収入をあげ、顧客をロックインでできるサービスモデルで展開している。

日本の携帯電話は何故海外で売れないのかについて、説得力ある説明がされているので、引用しておく。
メーカは、利用顧客の要求する仕様に応じてではなく、携帯通信会社が要求する仕様に応じた端末を提供している。
なぜならば、メーカは、携帯通信会社の販売奨励金をもらっており、利用顧客から直接お金をもらっているわけではない。。
携帯通信会社は、取り込んだ既存ユーザーからの収入単価をあげるため、多機能、高性能のサービスを提供するための端末を要求しており、メーカはそれに応える端末を開発し、提供してきた。
海外では利用者が端末の費用負担をするので、それにあった機能しか求めない。日本の端末メーカは上記によって利用顧客ニーズが分からなくなってしまっており、それに応えられる端末も開発できなくなっている。

また、日本企業の製品は、パソコンや携帯電話に代表されるように、グローバルでは競争力がなくなっている。例外として
デジカメは、日本企業の優位性を確保できているという。その理由は、レンズから画像処理装置に至るまで技術のする合わせ要素が多く、これを完全に「ブラックボックス化」できたからだという。
また、電気機械の最終財は、中国での生産が大半となっていることは一般に知られている。それでも、中間財においては日本が大半を占めているので安心とと思っている人が多い。しかし実態は、韓国、台湾からの供給が急増しており、日本が約367億ドルに対して韓国が294億ドルと急においついてきている。

2.研究開発力
 学術論文が特許の取得にどの程度影響を与えたかを示すサイエンスリンケージでは、米国が4.5で全世界平均が2.5であるにも関わらず、日本は0.5となっている。つまり日本は、基礎研究をうまく特許化できていないことを表している。
各国の研究開発費と政府の負担割合を示したものが以下のとおりであり、日本は米国に遠く及ばないだけでなく、中国や韓国に追い上げられていることがわかる。

研究開発費と政府負担割合( )内の数値は、政府負担割合
  米国:46.4兆円(27%)
  EU15:31.4兆円(33%)
  日本:18.8兆円(18%)
  中国:12.3兆円(25%)
  ドイツ:8.6兆円(28%)
  韓国:5.0兆円(25%)
  フランス:5.0兆円(39%)
  インド:3.0兆円
  ロシア:2.7兆円
インフラビジネスでは、以下のゲームになるという。
 ①新興国を相手に
 ②先進国の高ブランド企業や新興国企業などと競争しながら
 ③相手国のニーズにあった、場合によっては、最低限のサービス水準を低価格で提供する。

3.インフラビジネス
 インフラビジネスは、インフラを設計・構築するだけでなく、運用まで含めた「システムで稼ぐモデル」が必要。

水ビジネスは、今後大きな伸びが期待できるが、入札になることが多く価格が勝負とも言える。
 ・36.2兆円 (2007) ⇒86.5
 ・素材、部材、コンサル、建設設計48.5兆円
 ・管理運営サービス 38兆円

事業毎では、以下の内訳となると言う。
上水道:38、9兆円
下水道:35、5兆円
工業用水:5、7兆円
海水淡水化:4、4兆円
再利用水:2、1兆

水に関しては、少ない供給に対して需要が大きいという問題があり、省水型の水循環システムなど日本に比較優位のある技術が有効であり、日本の企業の強さを出していける領域である。そうは言っても、低コストがポイントで、すべての部品や設備を日本製にしてしまうことは難しい。
現在では、ウ゛エオリア、スエズが、海外水メジャーとして、シエアの大半を占めている。

3.鉄道ビジネス

鉄道ビジネス
15、9兆円(2007)⇒22、0兆円(2020)
保守:9、3兆円
車両:6、6兆円
軌道:4、3兆円
信号制御:1、9兆円

海外競合
シーメンス(独)、<16%>、アルストム(仏)<21%>、ボンバルディア(独)<21%>
日本のメーカー合計<9%>
現代ロテム(韓)、北車グループ、南車グループ(中)
⇒低コストと安全性がポイント

このように経済産業省の現役の官僚が書いただけあり、日本の産業を取り巻く環境の変化が定量的に
網羅的に書かれている。
ただ残念なのは、より深い分析やそれから導かれる戦略が書かれていないことである。

2011年9月19日月曜日

ダニエルカーネマン 心理と経済を語る

個人が集まって組織を作ったとき、個人の意思がどのような組織行動(administrative behavior)を帰結するかに関心を持っている。合理的な個人を前提にゲーム理論等で組織行動を分析することも必要だと思うが、不完全情報の下での個人の意思決定を前提とした組織行動の分析が現実解のようにも感じている。
その問題意識の下、『最小合理性』勁草書房、『心は遺伝子の論理で決まるか』みすず書房を図書館で借りてきたが、なかなか取り組めていない。
以前購入して積んでいた『ダニエルカーネマン 心理と経済を語る』を、今日突然読んだ。
心理学者でノーベル経済学賞受賞のカーネマンのノーベル賞受賞記念講演と自伝、さらに二つの論文「効用最大化と経験効用」と「主観的な満足の測定に関する進展」 を翻訳した本である。プロスペクト理論やヒューリスティクス等キーワードと概念 は経済心理学や実験経済学の本で知っているが、なぜこのような概念を思いついたのかはよく知らなかった。その理論を構築した本人が書いたものであり、この本を読むことにより、大変よく理解できた。特に記念講演と自伝を興味深く読んだ。 受賞記念講演の中からポイントとなるところを以下に記す。
 



(1) 知覚の特性①・・・・・・「変化」に集中し、「状態」を無視する。
目から脳に伝えられる情報のほとんどは、変化する物事、前とは違う物事に ついての情報である。 現在の刺激だけによって決まるのではなく、現在の刺激と過去の刺激との間の 差異によって決まる。 ⇒プロスペクト理論 効用(満足度)を決めるのは「変化」であって「状態」(富の絶対量)ではない。 知覚と類比させて考えてみたこと、適応という概念を借用したこと、そして 中立的な参照点という概念が、プロスペクト理論の発展を導いた。
(2) 知覚の特性②・・・・・足し算すべきときに平均値を求めてしまう。 
基本的な知覚的な表象には、例えば全部の線を足した長さがどのくらいに なるかというようなより複雑な統計は含まれておらず、平均値は直感的に ただちに分かるので、平均値に基づく判断を行ってしまう。 平均値は表象に含まれているが、合計は含まれていない。
表象に含まれているもの。
 ・ 平均値/典型的な値
 ・ 極端な値
 ・ 特徴の(おおよその)相対度数 表象に含まれていないもの。
 ・ 合計などの統計値

アンカーリング:数値や物事を推定したり調整したりする際に、与えられた 初期値が錨(アンカー)のような機能を果たし、人の志向がそこに縛り付けられる こと。またそれによって判断に影響が及ぶこと。
ある人が、あるグループもしくはカテゴリーに属すかどうかを判断する。
(例1)
「・・・大学では哲学を専攻。・・・学生時代に反核デモに参加。」    この人は、A:「銀行の出納係り」       B:「銀行の出納係りであり活発なフェミニスト」  確率的なBの場合「銀行の出納係り」かつ「フェミニスト」  なのでAの「銀行の出納係り」より確立は低いが、代表性に よる判断、つまり代表制ヒューリステイックにより、主観的 にはBが選ばれる。
(例2)
大腸内視鏡検査で8分間の検査のAさん、22分間検査のBさん。 辛い思いを長くしたのはBさんだが、Bさんの場合、最後の方で 辛さが和らぐと、主観的に辛い思いをしたのはAさんになる。
直感的思考は、比較的苦心もせず、余分な計算をすることもなく、 基本表象(basic representation)にそのまま従って動作する。 グループの基本表彰には、平均値は含まれているが、合計値は 含まれていない。

つまり以前の経済学は、意識や注意を無限で制約がないものとし、その他のものの最適化・効率化を検討していたが
経済心理学は、意識や注意も最適化・効率化が必要で、それらを含めた最適化を考えることを提唱していると思う。 

2011年9月3日土曜日

Getting   to  PLAN B

新規ビジネスを成功させるにはどうすればよいかを、ケーススタディを通して分析し、整理した本である。 最近あるパッケージビジネスの立ち上げに苦労しているところもあり、大変興味深く読むことが できた。著者二人は、スタンフォード大学で新規ビジネスを担当しているビジネススクールの教授 とロンドン大学で同じく新規ビジネスを担当しているビジネススクールの教授で、多くの事例から 成功のための法則を導き出している。 その法則とは当初策定したビジネスプラン「PLAN A]」は使い物にならないものが多いが、それであきら めるのでなく、以下に述べる観点で「PLAN B」に移行すべきと説く。観点や実施ステップは目新 しいものではないが、実行が勝負と思うと納得がいく。 アップルのTunes/iPod/iPhone、グーグル、イーベイ、ライアンエア、スカイプ、アマゾンがケース スタディとして取り上げられており、それぞれの事業の「PLAN A」がどのようなものであり、どの ような観点で何を参考に改善が行われてきたかがわかり、興味深く読めます。 『Getting to PLAN B』 「PLAN A」の失敗事例だけでなく、始めから成功したトヨタのレクサス高級路線、コストコの会員制モデル、ザラの 高速ファッションモデル等ビジネスモデルのどこが優れているかについても書かれており、ビジネスを成功させるポイ ントも参考になります。多くの面白いケーススタディが出てきますが、結論としては当初立案したビジネス計画「PLAN A」 を、以下のビジネスモデルの五要素に着目し、 ①収入   誰が買ってくれるのか、何に対価を払ってくれるのか、なぜ買ってくれるのか、頻度、量、値段はどうか。 ②粗利、   原価をどこまで下がられるか、どこまでの価格なら受け入れられか、稼ぐ製品と見筋製品のミックスをどうするか。 ③運営(営業費)      事業成長のために使わざるを得ない営業費目、売上比例費目、削減可能な費目は何か、どこまで削減できるか。 ④運転資金、   顧客の支払タイミング、早期化の可能性(会費制等)、取引先への支払タイミングを延ばせるか、必要在庫等期間   は。 ⑤投資   立ち上げまでの投資を最小化(段階的投資、既存設備流用等)をどう実現するか。 <ステップ1>    Analog(類似事例)、と ②Antilog(反例)を を見つけ出し、それらを謙虚に分析し、 <ステップ2>  成功の要因と信ずるもの、賭けてみたいアイデア(Leaps of Faith)を整理し <ステップ3>  それを検証する仮説や手法を考え、 <ステップ4>  「Dashboard」(仮説に対応するKPIの結果管理とフィードバック)で 検証あるいは反証し、  これらのステップを繰りかしえ、「PLAN B」を作成すべきと言っています。  これらを実行できるかどうかが、事業を成功させることができるか、失敗のまま終わるのかを決定する  とのことです。うまく行っているビジネスモデルは、これらの要素が相互に結びつき、さらなる成長軌道  に乗るとも言っています。

2011年5月30日月曜日

社会学を学ぶ(内田隆三)

「小室直樹の思想と学問」を読んでから、社会学に関する関心が呼び
覚まされた。小室さんが社会学を学び、師と仰いだタルコット・パー
ソンズが気になり出した。いきなりパーソンズにいくのではなく、周辺
を理解しようと、「社会システム論」や「情報と自己組織性」に関する
本を拾い読みしている。
物理システムと社会システムの違い等分かりやすい話もあったが、一般
的には抽象的な議論が多く、軽く読んで理解できるようなものではない。
その中で、社会学の歴史の中で、分かりやすく「社会システム論」を説明
している書籍が見つかった。著者の思考の歴史や時代背景も書いてあり、
大変興味深く読むことができた。
それは、『社会学を学ぶ』(内田隆三)である。
1969年に京都大学の文学部に入学して、現在は東京大学の教授で
あるが、その間の時代背景と著者の思考経験と関連つけながら、社会
学的な知の布置がその本質的な部分でどのような変遷をたどってきた
のか、またその深い可能性がどこにあったのかを書いている。



1.社会学の大まかな歴史
社会学は19世紀における産業資本主義の抱える諸問題を研究してきており、
資本主義がもたらした歴史の「現在への問い」を設立動機としている。
オーギュスト・コント、ハーバード・スペンサーらの仕事の後を受け、
エミール・デリュケーム、マックスウエーバ、、ゲオルク・ジンメルらの
精緻な理論的研究が輩出したように19世紀末また第一次大戦へいたる
ころにかけて、社会学はその古典的な達成期を迎えた。
アメリカでは、20世紀初頭から二つの大戦の開戦期のころにかけて、
西欧の社会学の影響を受けながら、ソースタイン・ヴェブレン、
C・H・クーリー、G・H・ミード、W・I・トマス、R・E・
バークに代表されるように、経済学や社会心理学、人類学などの隣接
領域と交わりながら、多彩な研究が花開いていく。
第一次大戦の後に生じるのは、20世紀社会学の基本的な磁場の形成
である。
それらは社会学における、①自己反省の試み、②形式化の試みを、
大きな潮流として含んでいる。
「反省的なまなざし」としてカールマンハイムのマルクス主義のイデ
オロギー批判、ゲオルグルカーチの『歴史と階級意識』の問題を受け
止めながら、その限界を相対化するべく「知識の存在拘束性」という
概念を立て、知識社会学という「自己反省」の様式を導入した。
この反省に少し遅れて生じたのは、タルコット・パーソンズによる総合
と形式化の試みである。パーシンズはデユルケームと代表される実証
主義の系譜とウエーバに代表される観念論の系譜とを方法論的に接続
することを目指したが、それはまず両者の理論を同一の地平に吸収
することを要求した。
「反省」と「形式化」は20世紀社会学の二つの大きな軸線であり、
反省はマルクス主義的な「批判」の言説と相関していたし、形式化は
機能主義的な「システム論」の言説と相関していた。
この二つの試みを同時に遂行しようとしたのでニコラス・ルーマンで
ある。

2.デユルケームの実証主義
デュルケームが示したのは、社会のありうようは一定の規則性をもって
諸個人の行為の様式を拘束しており、しかもそれは実証的な客観性をもっ
ていることである。社会的事実は
①諸個人の意識から見れば外在的なものであるが、
②結果として諸個人の行為のありようを強く拘束している。
しかも
③社会的事実のもつ拘束力は逃れがたく、
所与の社会の全域で「普遍的な力」として働いている。
社会的事実は所与の社会で必然性をもって生起する。社会学の生命線は、
具体的で経験的な出来事との相関の上で何かを語ることにある。
さまざまな社会的事実の「作用原因」としての社会とは、何か実体化でき
るような第一原因ではなく、むしろその具体的な効果自身の内に存在する。

3.ウェーバーの行為理論
ウエーバによれば、社会学とは、社会的行為をその主観的に思念された
意味(動機)に従って理解し、行為の家庭および結果を因果的に説明する
科学である。主観的に思念された意味とは、行為者の状況に対する
「志向的な関係」のことである。意味があり、理解の対象となる社会的
行為には次の4つの類型がある。
①「目的合理的行為」
 結果としいて合理的に追求され考慮される自分の目的のために条件
 や手段として利用するような行為。
②「価値合理的行為」
 ある行動の独自の絶対的価値―倫理的、美的、宗教的、その他―その
 ものへの、結果を度外視した、意識的な信仰による行為。
③「情緒的行為」
 直接の感情や気分による行為。
④「伝統的行為」
 身に付いた習慣による行為。
理念型は、現実に起こった出来事の特徴を調べ、その逸脱や偏差を測定
するための理想的標準として設定される。社会学の課題はこのような
理念型を構築し、それを用いて、現実の社会現象や行為の意味を理解
することにある。

4.パーソンズの構想
 パーソンズが乗り越えようとしたのは、ウエーバの「行為」理論と
ともに、デユルケームの「社会的事実」の理論であった。
デユルケームの理論は規範の拘束力が経験的な準拠を超えて、超越
論的な仕方でセットされているように見える。
それは規範の拘束力の根拠を「集団の情緒的熱狂」というような超越
論的な事実性に還元しているように見える。
 他方ウエーバのいう理念方とは歴史的事象のいくつかの要素を理想
的な形で再構成した一種の理想的な可能性のことである。
理念型に基づく方法論はモザイク的で記述的であり、しかもフィク
ションと現実という二分法をとっている。
「構造―機能分析」では、社会システムの同一性を標識し、安定的で、
常数とみなしうる部分を「構造」として取り出し、他の諸要素はこの
構造を維持する上でどのような「機能」(あるいは逆機能)を果たして
いるのかが明らかにされる。
システムにおいて構造が維持されていることを一種の均衡状態とみなし、
この均衡条件を明らかにすることが構造―機能分析の重要な焦点に
なるのである。構造とは社会システムがその同一性を維持するために
是非とも充たさなければならない機能的要件の集合であるといえよう。
実証主義的なスタンスでは十分に説明できない規範的秩序の形成をー
集団の超越論的な経験ではなく、相互的な行為の過程に求めた。

5.物象化
物象化というのは、人間の労働生産物が「商品」という携帯を取るとき
に生じている現象である。
物が商品となるのは、それを売買する人と人との社会関係を通じてである。
商品は何らかの使用に役立つという意味で「使用価値」をもつと同時に、
いくれで買えるのかという意味で一定の「交換価値」を持っている。
物の交換価値は、それを生み出した労働の社会的性格に由来している。
この由来がすっかり忘れ去られること、そしてその結果、物の交換価値
が物それ自身の属性のように実体化されてしまうこと。
これが「物象化」である。
「人と人との関係が、当事者たちの意識に、物象のように映現する事態。」
物にとって「より以上の物」である意味や価値といった「ideal」な次元の
形象は、共同主観的な構造、言い換えれば人々の共同連関=交換のシステム
の媒介を受けて成立している。
意味や価値が「より以上の物」として通有していることは、そうした物が
循環する領域が「共同主観性の場」として、つまりひとつの「社会」として
成立している証である。
物象化とは本質的には「社会性の成立」を標識する現象である。

6.構造主義
言語は①「形態素」を基本単位とする有意味的な水準と②それ自身はもは
や意味を有しない、「弁別特性」の束からなる音素の水準へ文節される。
音素の水準は、主体にとっては無意識的な水準である。そこにはひとつの
構造が存在しており、この「構造」は意味作用の可能性の条件として役立
っている。
言語のように有意味的な主体の行為に対して、その無意識の制約条件
として機能している「構造」を抉り出し、解明するのが構造主義である。
現代社会が主体の意識に還元できないもいのから成り立っているのでは
ないかという不安の意識と関係している。

6.現在の社会学
ボードリヤールの現代社会分析は、現代社会の営みや挙動には一定の
拘束条件が働いておりその拘束条件の働き方が明らかにされる。
先進的な資本主義社会のシステムに照準している。

ルーマンにおいては、社会システムはオートポイエーシス的(自己作成的)
なシステムであり、それ自身による継続的な自己生成の過程が問題になる。
パーソンズの場合は、こうした動態的な過程ではなく、既に均衡状態に
ある静態的な構造とその安定性が基本的な問題になっていた。
社会システムは、コミュニケ-ションのシステムは主体を前提としない
「創発的な現象」であり自己作成的に継続されていく意味連関の領域である。

アドルノとホルクハイマーの『啓蒙の弁証法』で示したのは、ヨーロッパの
歴史において神話からの離脱という「啓蒙」の過程は、他ならぬ啓蒙そのも
のの追及と発展による、再び「神話」に転落するという逆説である。
 啓蒙という文明化の過程、脱神話化の過程、つまり理性による「自然の
支配」の過程が、結局のところ、啓蒙が否定し、克服しようとしたはずの
野蛮と、暴力と、非理性の状態をもたらすというわけである。

私の関心あるところを著者の文章をそっくりそのまま抽出したところが
多いが、考え方のポイントをうまく抜き出せたと思う。

個々人が意識しないが、人とのつながりの中で、個々の行動を動機つけ
ている(価値有らしめている)ものを体系的に分析・整理するのが社会学
であることがよく理解できた。

2011年4月30日土曜日

オブジェクト指向でなぜ作るのか

長い間プログラミングはしていないが、ソフトウエア業界
にいるかぎり、ソフトウエアの技術動向には関心を持た
ざるを得ない。
その中で、「オブジェクト指向」は、重要なキーワードで
あり、いろんな本を読んでみたが、「モノ中心」で汎用的に
物事を捉える方法論と概念的には理解できたが、それと
実際のプログラミングとどう繋がるのかが分からなかった。

この本は、オブジェクト指向はソフトウエアを楽に作る
技術であり、プログラミングの仕組みと明確に整理し、
「モノ中心」で汎用的に物事を捕らえる考え方とは別物で
あると明快に説明した書籍である。。


まず、プログラミングの歴史をアセンブラ、高級言語、
構造化プログラミングと振り返り、プログラミング技術
は以下のことを狙いに発展してきたと説く。
 ・命令を簡単に表現する⇒生産性向上
 ・プログラムを分かりやすく⇒保守性向上
 ・制約をつけて複雑さを避ける⇒品質向上
 ・重複ロジックを排除して、
  部品化と再利用を促進⇒ 再利用

構造化プログラミングでは、
 ・基本3構造(順次進行、条件分岐、繰り返し)
 ・GOTOレスプログラミング
 ・サブルーチンの独立性強化
を行ってきたが、まだ不十分である。
これらを克服するために、オブジェクト指向プログラミング
が登場したと言う。
OOP(0bejct Oriented Programming)にはグローバル変数
を使わずに済ませる仕組みが備わっており、共通サブルーチン
以外の再利用を可能にする仕組みが備わっている。
それらは、「クラス」、「ポリモーフィズム」、「継承」である。
1.「クラス」は「まとめて、隠して、たくさん作る」仕組み。
 (1) サブルーチンと変数を「まとめる」
 (2) クラスの内部だけで使う変数やサブルーチンを「隠す」
 (3) ひとつのクラスからインスタンスを「たくさん作る」
2.「ポリモーフィズム」
 サブルーチンを呼び出す側のロジックを一本化する仕組み
 すなわち「共通メインルーチン」を作る仕組み。
 共通サブルーチンは、呼び出される側のロジックを一本化
 するがポリモーフィズムは反対に呼び出す側のロジックを
 一本化
3.「継承」
 似たもの同士のクラスの共通点と相違点を整理する仕組み
 重複するクラス定義を共通化し、別クラスにまとめる仕組み。
 変数とメソッドをまとめた共通クラスを作り、別のクラス
 からその定義を丸ごと拝借する。
 継承を使う場合、共通につかいたいメソッドとインスタンス変数は
 共通クラスに定義し、利用したいクラスはその共通クラスを
「継承する こと」と宣言する。
 共通クラスのことをスーパクラスと呼び、それを利用するクラスを
 サブクラスと呼ぶ。

以上簡潔だがオブジェクト指向のエッセンスを理解することができた。

小室直樹の思想と学問

小室直樹さんと言えば、私は大学時代を思い出す。
高校時代に政治学者の丸山真男さんに憧れ理解系から文科系に
転向した。大学では希望ではなかったが経済学を専攻する
こととなった。
経済学を習いたてのころは、市場の動きなど抽象的な議論が
多く、期待していた社会を鋭く切るというに議論にはほど遠く、
なかなか興味をもつことができなかった。
そのころに、出会ったのが小室直樹さんの書籍であった。
カッパブックスというアカデミックな本とは程遠い本であったが
歴史・宗教の本質的な知識に基づき、最新の経済学、社会学、
政治学を駆使し、現在社会を鋭く分析する論理に強く惹かれた。
数学、経済学、社会学、政治学をその道のトップの大学で極めて
いるキャリアにも関心した。
小室直樹さんの本を読むことにより、経済学の抽象的な一般
均衡論についても興味を持つことができたし、マックスウエ
ーバーの思想にも関心を持つことができた。
社会科学の面白さを教えてもらった先生である。
学園祭で講演をお願いし、そのときに『危機の構造』に直筆
のサインをしてもらった記憶も蘇る。

その小室直樹さんの思想と学問について、門下と自認される
橋爪教授と副島さんが語られた内容を文書にした書籍である。


まずは、1980年に出版された『ソビエト帝国の崩壊』の話
から始まる。ソビエト連邦が崩壊したのが1991年であるから
この予言は10年後に見事的中した。
私は、この本の価値は予言が的中したことではなく、社会科学
の分析・論理展開のすばらしさにあると思っている。
ソビエト帝国を構造・機能分析をすることにより、崩壊するとの
結論に導いていく。
ソビエトの本質は、マルクス主義を国教とする人為的な国家であり、
その宗教の目的は資本主義以上のすばらしい社会を実現していくで
あったという。しかしながら現実には、
・社会主義は、階級をなくすどころか新しい階級を作ってしまった。
・計画経済は、資本主義をなくすどころか新しい裏の経済を作って
 しまった。お金を持っていても、それで必ずしも商品が買えると
 は限らないので裏の経済に頼ることになる。 
・計画経済は、技術確認による質の向上と価格の低下とは正反対の
「ある工場は鉄を何万トン生産して生産目標を達成した」という重量
 で図った生産ノルマの達成と消費者無視を必然的に帰結してしまう。
 これは重工業時代にはそれなりにうまく行ったが、技術進歩が早い
 経済ではうまくいかない。この分析は計画経済の本質を突いている。
・人々を自由にするどころか、西洋型の自由が全くない社会を作って
 しまった。

無理にでもマルクス主義の中に未来を賭けていこうとすれば、一種の
ロシア正教的なメシアというか、偶像というか、個人崇拝の要素が
必要となってくるが、1956年にフルシチョフによってなされた
スターリン批判により、求心力をなくし、急性アノミーに陥っていた
と分析する。
さらに、ソ連邦を構成する共和国は、ソ連邦を離脱して独立してよい
と憲法72条に明記されており、強制力、軍隊によってのみしか民族
問題を解決できない構造であったという。
農業においても、スターリンは農民から土地を取り上げて国営農場、
集団農場に押し込み、農民は、スターリズムの潜在敵国を形成して
いたという。このような状態で農業の生産性は上がらず、農業が
崩壊したという。
また党と軍の関係を以下のように分析している。
ソ連陸軍は、トロッキーによって設立されドイツ軍の指導のもとに
近代化されたこともあり、親独的な関係があり、党としては信頼が
おけない。共産党とソ連陸軍という二大組織が単なる分業と共同の関係
にたちつつ併存することはありえないという。
これらの分析から、ソビエト連邦は自己矛盾を起こし、崩壊すると説く。
またマルクス主義は、ユダヤ教と以下の共通点を持つ宗教であるとも
付け加えている。。
神との契約が宗教の内容をなし、これが法であり、規範でもあること。
魂のき救済とか何とかがなくて現世救済であること。
個人救済ではなく契約による集団救済であること。

ソビエト帝国の崩壊の分析をたどったあと、小室さんの学問・思想の
中身に入っていく。
小室さんは、社会を「社会システム」として捉えており、これが基本
思想、フレームワークであるという。
ここで言っている「システム」とは
「多数の変数がお互いに複雑に結びついている全体」と定義している。
この社会システムのベースとなっているのが、経済学では、ワルラス、
ヒックス、サムエルソンの経済学の一般均衡理論であり、社会学では
パーソンズの構造・機能分析であるという。
パーソンズの社会学は、個人も集団も、国家もシステムであり、シス
テムとシステムの間で変数のキャッチボールが行われる「境界相互交換」
と大きなシステムは小さなシステムに分かれていく考え方より成り立って
いる。システムの分かれ方としてAGIL理論を紹介している。
A:Adaptation             ⇒経済
G:Goal Attainment          ⇒政治   
I:Integration             ⇒シンボル
L:Latent Pattern Maintenance and Tension Management) ⇒文化

変数の結びつきを構造と呼び、それがシステムに個性を与えていると考える。
変数の間の安定したパターンがある。これを構造と呼んだ。
構造が構造としてあるあり方を維持する働きを機能と考える。
どんなシステムもAGILという四つの機能に集約され、それぞれの
目的を維持するように活動しているとの考えに立っている。
機能とは結局のところシステムが自分を維持するための条件を示すもので
ある。
小室さんはウエーバこそ構造・機能分析を先取りした社会学者であるという。
さらにフランスの社会学者であるデュルケームからはアノミー概念を得ている。

これらの経済学と社会学をベースに構造・機能分析の小室バージョンは以下の
ように示せるという。

① 社会は変数の集まり  
x1、x2、x3、・・・・・、xn
②変数の間には製薬がある。 
  f1(x1、x2、x3、・・・・・x)=0
  f2(x1、x2、x3、・・・・・x)=0
・ ・・・・・・
  fn(x1、x2、x3、・・・・・x)=0
③関数f1、f2、・・・fnを構造と呼ぶ。
  構造が、均衡x1*、x2*、・・・・・xn*を決定する。
④それを、機能評価する。
この構造の下で変数の値が決まるとその変数の値がさらに機能的に
(例えばAGILの観点から)評価される。
 機能評価関数、限界機能
⑤機能が達成されなければ、構造が変動する。
つまり、①から③において、対象が価格・数量だけなら経済学の一般
均衡に過ぎないが、価格・数量以外に文化や権力を対象とし、それら
を④で4機能評価することを考えている。機能評価が達成されなければ
構造が変動する。つまり社会の構造変動を機能の観点から説明する。
小室さんの活躍された知的フィールドは多く、法律学、政治学でも活躍
している。
法社会学で小室さんの考え方をよく著している例でとして、法の
サイバネティクスモデルを提示している。
裁判過程は社会を制御する。さらに法(的制御)は裁判過程を制御する。
かくて、このような二重制御のメカニズムを通じて、法は社会制御と
して機能すると。

政治学での思考は、丸山真男氏が重視した「作為の契機」をベースに
している。ここでは、近代以前の伝統主義な社会では。社会のあり方、
制度や習慣や権力は、あたかも天然自然のごとくそこに「ある」と捕
らえているが、近代社会の人々は、それらを人間が「作り出した」も
のだと考える。人々の意思で、返ることができると考える。
このことの強烈な自覚なしに民主主義は成り立たないと言う。
この考え方を、小室さんは「危機の構造」で描く日本社会の危機として
描いた。企業や学校なのどのさまざまな組織が(擬似)共同体に転化して
しまい、それが本来果たすべき機能を差し置いて、自己の存続を自己
目的化していくというところにあると説く。
丸山真男氏の超国家主義研究を現在に適用している感じである。

小室さん、さらに田中角栄問題と中国・韓国分析を行っている。
田中角栄問題は、田中角栄を袋井叩きする世論に反対し、国民に違う
観点から考えることの必要性を訴える目的が先にありだったと私は
思っている。30年前の大学祭でここのところを質問したが、私は
理解できなかった。この本の中で、副島さんが
「国会議員の地位は憲法によって国内のあらゆる勢力の攻撃から
守られている」との論拠で説明しているが、やはりよく分からない。

韓国の分析のサマリーは以下のとおりである。
韓国は、輸出が増えれば増えるほど輸入が増える国であり、世界経済
の動向が何倍にも増幅されて、自国経済に跳ね返ってくる。さらに
その輸出のために日本の半導体や先端技術を大変な額を買わなければ
ならないことで、日本との関係では深刻な経済不均衡を引きずり続け
るという。さらに韓国の企業では人材が育たない、あるいは韓国人の
社会では労働のエートスが成立しないという厳しい指摘を行っている。
この当時、輸出・輸入構造から韓国の課題を論じていることは流石だと
思うが、後半の人材や労働のエートスについては、昨今のサムスン等の
躍進を見るにつけ、必ずしもあたっていないと思う。

最後に中国ついて、以下のように分析している。
中国は、底辺が宗族という血縁手段からなり、官僚組織は、血族の原理
とは無関係に運営するかとなっている。このシステムが資本主義とミス
マッチであり、政治的な自由主義、民主主義と調和しない。
そのとおりであるが、最近躍進凄まじい中国を小室理論で分析してほし
かったと思う。
最後に、小室さんが追求したのは、人間の発想と行動を捉えている根底的
な要因は何かということに対するあくなき追求であったと二人は述べている。

2000年までの「もの」を中心とした経済、覇権争いの国際政治の分析
では大変的確で、今読んでも勉強になると思われる。

GoogleやFacebookが主役の、「ものつくり」精神のエートス
と異なる情報ネットワーク社会、中国・インドの経済的台頭した世界につ
いて小室さんならどんな分析をしただろうかと考える。
当時の小室さんの分析は、私にとって、社会や世界の方向性を社会科学的に
理解する羅針盤でもあった。
今は、私自身、最近の情報ネットワーク社会、エコ経済の歴史的意義、
今後の方向性がつかめず、表面的理解にとどまっていることを反省して
いる。

2011年4月20日水曜日

『ホワイトスペース戦略』 (マークジョンソン)

著者は、『イノベーションのジレンマ』で著名なハーバード・ビジネススクール教授の
クリステンセンと共同で戦略コンサルテイング会社(イノセント)を創業したイノベーション
の専門家とのことである。またこの書籍は、2009年のハーバード・ビジネスレビューで
マッキンゼー賞を受賞した論文を発展させたものとのことである。
期待を持って読んでみたが、私個人としては、『イノベーションのデイレンマ』を読んだ
ときのような面白みは感じられなかった。『イノベーションのジレンマ』の面白さは、
経済主体の合理的な活動が、失敗に帰着するという『モデルに基づく思考』にあるが、
この本は、新しいビジネスモデルを企画・実行していくために必要な検討項目を体系的に
まとめた内容となっている。



1. ビジネスモデルの「四つの箱」
新しいビジネスモデルを成功させるためには、以下の四つの箱の内容を検討していく
必要があると説き、全体のフレームワークの定義からスタートする。
①顧客価値提案
②利益方程式
③主要経営資源
④主要業務プロセス
 これらの四つの箱の内容を、以下のように定義している。
① 顧客価値提案
顧客価値提案とは、一定の金銭的対価と引き換えに、顧客がそれより有効に、あるいは
確実に、便利に、安価に、重要な懸案を解決したり、課題を成し遂げたりするのを助ける
商品やサービスのことと定義し、そのためにはターゲットとする顧客がどのような未解
決のジョブを抱えているのかを十分理解することから始める必要があるという。
この顧客価値提案の質は、
・ その顧客価値提案で解決されるジョブが顧客にとってどの程度重要か
・ 顧客が既存の選択肢にどの程度満足しているか
・ ほかの選択肢と比べて、その提案がどの程度、ジョブを有効に解決できるか。
    によって評価できる。
② 利益方程式
利益方程式とは、収益モデル、コスト構造、商品やサービス一単位あたりの目標利益率、
経営資源の回転率の4つの変数で構成されるもので、以下のように定義する。
・収益モデル:価格×販売数量。
      (どれだけの数の顧客を、一回の取引での数量は、ひとつの顧客で何回の取引が)
・コスト構造:直接費と間接費。規模の経済も考慮。
・一単位あたりの目標利益率:間接費をまかない、目標とする利益水準を達成するために
             一回の取引で得るべき利益
・経営資源の回転率 :商品の開発から出荷までの所要時間、一定期間内で処理できる業務の量
在庫の回転率、資産の活用度など
③ 主要経営資源
主要経営資源は、顧客価値提案を実現するために必要な人材、テクノロジー、商品、施設・設備、
納入業者、流通経路、資金、ブランド等のことであり、通常のものと変わりはない。
④ 主要業務プロセス
主要業務プロセスは、持続可能、再現可能、拡張可能、管理可能な形で顧客価値提案を実現する
ための手段業務プロセス、ビジネスのルールと評価基準、行動規範のことであり、これも通常の
  定義と変わらない。

2.新しいビジネスモデルが要請されるときとその事例
  フレームワークを定義した上で、新しいビジネスモデルはどのようなときに必要とされるのか
  を明らかにしていく。それの答えとして
① 既存の利益方程式、特に間接費のコスト構造と資源の回転率の一方または両方を変更しなく
てはならない場合。
② 主要経営資源・業務プロセスを新たに多数導入しなくてはならない場合
③ 事業を行うために、これまでとは全く異なるルールや規範、基準を取り入れなくてはなら
ない場合。
   を挙げる。
    この事例として、以下6つの事例について述べている。
① 顧客がコモデティ用品を要望し、それにWEB販売で対応したダウコーニングのザイアメター事業。
② 電動工具のコモデティ化をチャンスに管理サービス・レンタルサービスを開始したヒルティ社。
   ③販売チャネルとして農村の女性互助グループを活用したヒンドウスタン・ユニリーバ社。
④電気自動車のインフラを作るために、自動車は低利益率で提供し、収益源はエネルギー補給システムの
利用料とするビジネスモデルを確立したベタープレイス社。
⑤インターネットを活用して顧客参加型のTシャツデザイン、製造スレッドレス社。
    ⑥自然食品・有機食材の合理的な流通網を確立したホールフーズ社。

  参考であるが、競争の基準は以下の関係で変化していく。
  機能性(商品イノベーション)⇒信頼性(業務プロセスイノベーション)⇒利便性(ビジネスモデル)⇒価格(ビジネスモデルイノベーション)
  また参考であるが、今までの技術革命の歴史を以下のように整理している。

技術革命の歴史
         技術    ⇒インフラ
第一次(1771~):綿工業・錬鉄・機会⇒運河・水路・有料道路・水力
第二次(1829~):蒸気機関・機械・鉄鉱石・石炭⇒鉄道・電信・帆船・港湾
第三次(1875~):安価な鉄鋼・重化学・電器・缶詰⇒世界の貨物輸送大陸横断鉄道・電信電話
第四次(1908~):自動車・石油科学・家電・冷凍食品⇒道路・港湾・空港網・電力制御・アナログ通信網
第五次(1971~):コンピュータとソフト・遠距離通信・制御機器⇒デジタル通信・インターネット・電力網・高速輸送網
第六次(2003~):太陽光等の再生可能エネルギ・電気自動車・ナノ素材⇒分散型発電・電力インフラと輸送エネルギーインフラ

3.新しいビジネスモデルの設計。
  新しいビジネスモデルは、以下の順序で設計していくべきと説いている。まずは
① 顧客価値提案
まずは顧客のジョブを発見することから始めよと説く。
顧客のジョブを発見するとは、顧客の課題を把握することであり、そのために自社の製品に何を求めるかを聞いても意味はなく、
それを聞いても、機能・価格の要望は得られるが、業務課題は見えてこない。
例として、ミルクシェイクの売り上げを伸ばしたいファストフード店で、商品に対する要望を聞いても売上向上の施策は打て
なかったが、だれがどのようなタイミングで購入するかを調べ、利用目的を調べた上でその目的に応じた対策(朝食時、帰宅時)
を打って場合にのみ効果があったとのことである。
  また顧客価値を提案する場合、以下の構成要素を考慮すべきと説く。
・商品/サービス内容
・アクセス(販売方法)
・支払いスキーム
② 利益方程式
③ 主要経営資源
 ④主要業務プロセス

4.新しいビジネスモデルの導入
  ビジネスモデルの考慮点での四つの箱は当たり前であまり参考にならないが、導入時に考慮すべき点は参考になる。
  ポイントは「新しいビジネスモデルを導入するとは、仮説を明確化に定義した上で、ビジネスモデルを実際に導入しながら
その仮説を検証し、もし仮説に欠陥が見つかれば修正する。」この一言は大変重要である。
  フェーズを「育成期」、「加速期」、「移行期」にわけ、それぞれの留意点を書く。
① 育成期
顧客価値提案の成否を左右する重要な仮説を割り出し、それを意識的・体系的に検証して、その仮説のひいてはビジネス
モデルそのものの実現性を早期に判断する。この仮説検証の重要性の例として、サウスウエスト航空はオースチンとダラス
の間をバスで移動している非消費者をターゲットにしてサービス・価格を設定して成功した事例と、ソングエアラインが
ディスカウントのディーバ(低価格でおしゃれな旅行を希望する女性)をターゲットにして中途半端なサービス。価格で失敗
して例を挙げている。
② 加速期
利益を上げるための再現性のあるプロセス確立に注力。業務プロセスを洗練化・標準化」し、ビジネスのルールを確立し、
成功の評価基準を定める。この例としてzaraのグローバル展開を取り上げている。
③ 移行期
新しいビジネスモデルは、コアスペースの事業に統合できるのか、それとも独立を保つのかを考えることが一番重要と説く。
これが言うは容易だが、実行は難しいこと。買収したビジネスを無理やり既存事業に組み込もうとして、そのビジネスの独自性を
壊してしまう企業が多いことにもよく現れている。
またこのときに、既存事業を担当する部署が苦しんでいると、新規事業の取り組みが打ち切らたり、既存のルール、行動規範、
評価基準が新ビジネスモデル移行への障害となると説く。この既存のルール等が邪魔をすることを「限界費用のドクトリン」と
言うらしい。つまり既存のものの限界費用は低いので、既存のものを活用する。延長の事業になってしまい、新しいビジネス
モデルが制約されてしまうことを言うようだ。コダックは、1975年にデジタルカメラを企画していたにもかかわらず、
フィルムにこだわったため、デジタルカメラのビジネスを立ち上げることができなかった。
ここで著者は、意外なことを言う。大変重要なメッセージである。
「新しいビジネスモデルを築こうとする人たちが直面する障害の多くは、既存のビジネスモデルを十分理解していない
ことが原因で生まれる。」つまり既存のビジネスモデルを十分理解していると、その限界もよく分かりどのような事業
では効果を発揮するが、どのような事業ではうまく行かないかが判断できるということである。

この本の中でビジネスモデルの類型として、以下を挙げているので参考として残しておく。
親睦団体提携型、仲介型、セット販売型、携帯電話型、クラウドソーシング型、中抜き型、共有型、フリーミアム型、リース型
サービス削減型、プロセス逆転型、従量制料金型、髭剃りと替え刃型、リバースオークション型、逆髭剃りと替え刃型、サービス
移行型、標準形型、定期購買型、ユーザコミュニティ型

既存、新規にかかわらず、事業が成功している要因・ビジネスモデルを顧客価値、利益方程式、主要経営資源、主要プロセスに分解して理解
することの大切さを認識できた。事業の現象のみでなく本質を掴むことが必要である。

2011年2月6日日曜日

第6の波-環境・資源ビジネス革命と次なる大市場-

環境問題は、どちらかと言えば倫理的側面で捉えがちである。
私自身も、現在の環境熱は一過性のものかもしれない、いつまで
続くのかと少し懐疑的であった。以下の本を読んで経済の問題と
して環境問題を理解できるようになった。
経済学者とジャーナリストの共著ということで、最新の事例を
理論的に分析し今後の方向性をそれなり一貫した論理で提示する
のに成功していると思う。


1.イノベーションの波
「第6の波-環境・資源ビジネス革命と次なる大市場-」
でオーストラリアの経済学者とジャーナリストが、今後の経済の
動きの原理を提示している。
まずは、経済発展の原動力はイノベーションであるとし、イノベーション
プロセスは、技術と市場と制度のいずれかで変化がおこれば、開始される
という。コンドラチェフの波に基づき今までのイノベーションの歴史を以下
のように整理する。
 第1の波(綿・鉄・水力の時代):1780年代~1815年
 第2の波(鉄道・蒸気機関・機械化の時代):1846年~1873年
 第3の波(重工業・電化の時代):1895年~1918年
 第4の波(石油・自動車・大量生産の時代):1941年~1973年
 第5の波(情報通信技術の時代):1980年~2001年
第6の波は、2001年ごろから始まっており、この特徴は、環境・資源
の最適化であると説く。
第5の波の本質は、情報通信技術の波ではなく、情報技術を活用した
“取引コスト”の削減であり、これが、企業の規模と中核事業を規定して
きた。
2.第6の波の特徴
 第6の波は、資源効率性がキーワードであり、大きな市場機会が期待で
きる。具体的には“売れ残りの製品を限りなくゼロに近づける”もしくは
逆に“売れ残りの製品から利益を得る新しい手法を見つける”ことがポイ
ントとなる。そのためには、今まで所有権がなかった自然等に対して所有
権や受給権を適切に導入してやれば、所有する資源を守るために投資を行
うインセティブが生まれるようになる。
水に所有権を設定すれべ、資源から価値を得られる者と、資源を所有して
いる者との間では、取引が開始され、資源の価値は取引を通じて明らかに
なっていく。このような動きの一つとして、世界各国の政府による外部性
の内部化というトレンドも見られる。
天然資源を守るため、そして今まで価格がなかったもの-水や土や生物
多様性-に価格をつけるため、様々な制度が構築されるつつある。
著者は、
「次なるイノベーションの波は、資源効率の向上によって突き動かせられ、
 天然資源と廃棄物の値付けによって実行性があたえられ、クリーンテッ
 クによってターボ加速される。」
と説く。
この時代のイノベーションの特徴は、以下のように表せる。
第一のコンセプト:廃棄物=チャンス。
         廃棄物が多ければ多いほどチャンスは大きくなる。
第二のコンセプト:商品でなくサービスを売れ。
         資源消費なしに価値を創出する方法はサービスである。
第三のコンセプト:デジタル界と自然界は融合。
         あらゆる天然資源には測定と監視が行われるように
         なる。
第四のコンセプト:原子は地元に、ビットは世界に。
         効率性を追求すればするほど、天然資源にかかわる
         全ての活動は、どんどん地元で行われるようになる。
         他方インターネットは国際的性質を持つため、情報
         にかかわる全ての活動は、国境をまたいで行われる
         ようになる。
         エネルギー生産は分散化と地域化が進み、資源は生
         産地に可能な限り近い場所でリサイクルされる。

3.第6のイノベーション特徴と内容
 (1)廃棄物はチャンスである。
  資源効率が競争優位の源になっている世界では、廃棄物を減らす
  技術もしくは廃棄物をゼロにする技術者は、高い確率で成功を手に
  することができる。しかしそうは分かっていながら、エネルギー効
  率の向上に対するビジネススピードは上がっていない。
  なぜアメリカでエネルギー効率性の向上が進まないのかについて、
  マッキンゼー社は調査報告で、以下の理由を上げている。
  ①エネルギー効率の向上には先行投資をしなければならないが、投
   資回収のほうは、導入した省エネ装置の寿命が尽きるまでの期間
   に、もしくは導入した省エネ装置が終了するまでの間に少しづつ
   行われることとなる。
   つまりエネルギー効率に対して投資する場合、手っ取り早い儲け
   はできない。
  ②エネルギー効率の向上から生まれる利益は、数え切れないほどの機
   器、場所、場面に振り分けられるため、ひとつひとつのサイズが極
   めて小さくなる。だから単純明快な省エネ策はなかなか見つからな
   いし、唯一無二で万能の省エネ策というものも存在しない。
 (2)商品ではなくサービスを売る「シエアリング」
  生産者と消費者の目的の不一致が、大量の廃棄物を生み出している。
  消費者は、購入した商品が可能なかぎり長く保ってくれることを期待
  するが、生産者のインセンティブは、異なる方向に働く。
  生産者としては、商品は妥当な期間だけ保ってくれればよく、それ以上
  の耐久力は望まない。
  当該商品の耐久力が長続きしすぎれば、当該商品の市場が縮小してしま
  う。つまり、計画的陳腐化の考え方により商品設計は行われている。
  生産者が商品に関するあらゆる責任を新しいオーナー(消費者)に押し
  付けず、商品寿命が尽きるまで所有権を持ち続けるなら、耐用年数を過
  ぎたあとに商品がどうなるかを考えなければならなくなる。
  なぜなら最終的に無価値な廃棄物や、有毒な廃棄物、再利用不可能な
  廃棄物を大量に背負い込んだ場合、企業のバランスシートの見栄えが
  相当に悪化してしまう。それを避けるために、企業は商品を簡単に分解
  する方法や、再生産のために最大限の資源を回収する方法を設計段階
  から考えるようになる。そのようなインセンチィブを持つようになる。
  サービスは、集約して行えば経済的効果がある(提供可能となるまたは
  コストが下がる)場合に成立する。
  サービスを提供する際の重大要素は、サービス利用状況を追跡する能力
  と、サービスによって消費される資源を追跡する能力。
(3) デジタル界と自然界は融合しつつある。
  自然界との相互作用、ツールや機器を通じた相互作用は、すべて測定・
  跡されるようになる。
  このインタフェースの3大特徴は、
           機能付与、インテリジエント化、相互接続。
(4) 原子は地元に、ビットは世界に
  分散化は、規模の経済に由来する効率性向上と“原子”の輸送量削減
  に由来する効率性向上とはトレードオフの関係にあり、最適的で決定
  される。
  情報を世界中に運搬してもほとんどコストはかからないため、テクノ
  スフィアで事業を展開する企業-情報やサービスなどのビットを扱う
  企業-は、世界中のニッチ市場に接触する機会を与えられる。

私なりに整理すると以下のようになる。

今後の第6の波は、”売れ残りの製品を限りなくゼロに近づける”もしくは逆に“売れ残りの製品から利益を得る新しい手法を見つける”ことがポイントとなる。そのためには、今まで所有権がなかった自然等に対して所有権や受給権を適切に設定する制度の必要性を説く。
「次なるイノベーションの波は、資源効率の向上によって突き動かせられ、天然資源と廃棄物の値付けによって実行性があたえられ、クリーンテックによってターボ加速される。」とも説く。
上記の「天然資源と廃棄物に値付け」が行われた世界を前提に、著者の経済学的論理を私の推測も入れて、展開すると以下のようになる。
1.廃棄物および処理に価格(負の価格含む)が付くことにより、「廃棄物=チャンス」となる。
2.'A生産者が、商品寿命後の処理の費用を負担しなくてよい制度においては、商品売り切りが生産者にとって合理的(消費者には非合理的)であるが、生産者が商品寿命後の処理の費用負担をしなければならない制度においては、「商品ではなくサービスを売るシエアリング」が社会的に効率的となる。
3.自然という有限の資源を経済効率的に管理活用するために、「デジタル界と自然界との癒合」、
 つまりデジタルツールを使って自然の状況を追跡監視必要性が高まると説く。
4.規模の経済に由来する効率性向上と“原子”の輸送量削減に由来する効率性向上とはトレードオフの関係にあり、双方がバランスする最適な的で分散化の度合いは決定される。”原子”(物理的物)の世界においては、資源効率性の重要性が増すことより今まで以上に輸送量削減が重視され、生産と消費が同一地域で行われる傾向が増す。しかし情報(ビット)は、世界中に運搬してもほとんどコストはかからないため世界に流通するようになる。「原子は地元に、ビットは世界に」
このようになんとなく潮流となっていること(シエアドエコノミーやM2M等)に対し、「資源効率性」の観点から必然性を説明しているところはユニークであり論理的なので大変評価できる。
環境問題等を経済学の論理できちっと考えてみたい方には大変参考になる本だと思う。

2011年1月30日日曜日

行動経済学(「不合理行動」とのつきあい方

最近きちんとした本をあまり読んでいない。関心の赴くまま読み始めるが、
読み終える前に他の本に関心が行っている。あまり目を使わないでできる
中国語の勉強は一応実施しているので、中国語はそれでも着実に上達した
感じはする。
組織行動を個人の意思決定、行動で説明する組織の行動のミクロ的基礎に
ついて少し体系的に考えて行こうと思っている。
これをベースに、情報、組織、経営というような一貫た理論を構築しそれを
コンサルテイングのテーマにできればとも思う。自分でも面白いと思い、
経営者に評価されるコンサルティングが全く行えない。これを脱却したいと
思う。
今日はその中で、行動経済学をベースにした個人の意思決定構造について
分かりやすく整理した本があったので、ポイントをメモとして残しておく。

1.個人の不合理的行動の原因
 ①認知的節約による不合理的行動
  A:過去にうまく行った行動を繰り返す。
    習慣化。
  B:周りの人たちの行動を模倣する。
    群集行動。さくらに30%に人は同調する。
  C:後悔しないように楽な選択をする。
    他人のアドバイスに従う。何もしない。
    選択肢が多いと、認知的負担が多くなり何も選ばなくなる。
    ⇒「決定回避」 
  D:問題を簡略化する。
    すべての要素に注目するのではなく、2,3の重要な要素だけに
    注目して選択肢を比較する。
    自分に都合のいい情報を受け取ろうとする「認知的不協和」
 ②本能的な評価による不合理的行動
  A:価値(評価)関数の性質①:緩やかなS字型
    参照基準点近くの差は強く認識され、参照基準点から離れたとこ
    ろでの差はあまり認識されない。
   「確実に2万円を失う」<「50%の確率で4万円を失う」
  B:価値(評価)関数の性質
    「損は得より心に響く:損出回避の感情」
    →現状維持バイアス
    →保有効果「一度手に入れたものを手放したくなくなる。」
    期待以上なら満足やうれしさを感じるが、期待以下なら不満や怒り、
    失望を感じる。
    そのためには、参照基準点を変えることが効果的。
    表現の仕方(フレーミング)を変える。
    同じことでも、「半数が助からない」→「半数が助かる」と表現を
    変えると判断が変わる。

 ③近視眼的本能による不合理行動
  A:時間の経過とともに好みが変わる。
   「目先の利益」を優先。「目先の費用負担」は避けたくなる。
  B:心の会計。
   前売り券を買って失くした場合、その当日券は買わない。
   同額の現金を失くした場合、その当日券は買う。
   ハウスマネー効果(あぶく銭効果)は使ってしまう。
  C:サンクコストの呪縛
   「今後の損得で判断しないで、今まで多額の費用をすでに支出して
    しまっていることに引っ張られる。」
    私見ではあるが、リアルオプション的思考では、今までの投資等
    による競合への優位性があれば、今後の合理性だけで損得を判断
    できないのではないかとも思われる。
  
 ④不確実性による不合理行動
  A:確率の把握は難しい。
  B:代表性ヒューリステックス(象徴する、代表する特徴だけ捉えて判断や
    識別を行う。
    想起しやすい(最近起きた)物事の確率を高く見積もる傾向
    ⇒「利用可能性ヒューリステックス」
   *「正しいプロスペクト理論」はS字型価値関数のことだけでなく、
     下記のステップを全て含めたものとのこと。
  Step1:問題を「編集」
          「重要でない要素を捨象したりして認知的な節約をする」
  Step2:編集された選択肢の評価。「価値関数」で評価し、過重された価値
      の総和で選択しの望ましさを評価。
      失敗は「偶然」、成功は「自分の実力」
      自分に都合のよい解釈=「解釈と記憶の自己奉仕バイアス」
 ⑤理性の限界による不合理行動
  A:機会費用の軽視
  B:時間的視野の狭さによる短略的行動
2. 利他的行動と協力行動
  人間は、個人的合理性だけでない「利他的行動」や「協力行動」をなぜ
  とるのか。具体的には、以下のように質問化できる。  
  Q1:見返りや制裁がなくても利他的行動や協力行動をなぜとるのか。
  Q2:自分の利益を犠牲にしてまで、他者に制裁をするのか。
  Q3:「そのように行動するもの」というときの行動はどのようなものか。
  Q4:思いやり、同情、正義感などの感情はなぜ生じるのか。
  Q5:見返りや制裁がない状況で利己的に行動する人とそうでないひとが
   分かれるのはなぜ?
  →「無意識」と「学習」が上記の回答のキーワードである。
    また以下のような性質を持つ。
   ①無意識に学習された行動の意味や役割に人は気づかない。 
   ②無意識の学習は利己的な目的に適うように行動を改善する。
   ③無意識に学習された行動は融通が効かない。

3.行動経済学の応用
  (1)自動選択の設定(デフォルト)
     人間は、自分で選択できないときには「何もしない」
     (認知的節約による不合理行動)を利用し、選択を誘導する。
  (2)スーパーチャージ
      参加率を上げるため行動をしてくれた人に褒章を与える。
      たとえば健康診断を受けさせるために、
       ①健康診断を受けた方から抽選で一定人数の人に賞金を出す。
        という広告を出す。
       ②全該当者(健康診断を受けていない人も含む)から抽選で
        一定数を選ぶが、健康診断を受けていない人が抽選に当
        たっても賞金は出さない。
        公表は、当事者だけでなく、健康診断を受けていたら当選
        していたはずの人も公表する。
  (3)バブルの仕組み
      ①人はランダムの株の動きにもトレンドを見つけてしまう。
      ②楽観的な投資家の期待は実現する。期待の自己実現。
      ③いずれ行き過ぎた熱狂になってしまう。
      ④まずは企業が将来の見通しの行き過ぎに気付く。
      ⑤機関投資家が企業行動の変化に気付きだして売り始める。
       値下がりが始まることを確信しだしたら、売りを積極化する。
      ⑥高い値で買った人ほど売ることができず、大きな損を抱えて
       しまう。

  (4)教育への応用
     勉強に熱中させるヒント。
      ①分かりやすく、明確な目標がある。
      ②主体的に行動できる。
      ③何度失敗しても、また挑戦できる。
      ④難しすぎず簡単すぎない。
      ⑤目的を達成するとほめられる。
      ⑥他人と比較することなく上達を実感できる。
      ⑦好奇心をくすぐる。
   (5)参照基準点の変化で感情をコントロールする。
      ①他の人と比べて劣っていても、以前の姿を参照基準点として
       意識させられれば意欲を引き出せる。
      ②ボーナスをカットしなければならないケースでも、同業他社
       等を引き合いにだし、より低い参照点を意識させれば受け入
       れてもらいやすくなる。
   (6)仕事の満足に関する4つの要因(優先度順)
      ①仕事の面白さ
      ②人間関係
      ③安心(失業の心配がない)
      ④将来性(昇進の可能性がある)      

以上ポイントを整理してきた。中身は深くはないが、全体を整理するには
よい。
今後、これらの視点を加味して組織行動を整理して行きたい思う。
「行動経済学による組織行動学(行動経済学によるミクロ的基礎付け)」