2009年11月22日日曜日

現代思想の「起源」--記号的世界と物象化-

現代思想の「起源」 情況出版社-記号的世界と物象化-
丸山圭三郎と廣松渉の対談を読む。
この本は、1983年~1990年までぐらいに岩波の「思想」に掲載され
た対談を単行本化したもののようだ。
この時代は、私にとって学生時代および若手社員時代で、よく分から
ないながらも「構造主義」や「ポスト構造主義」に関する本を読んだ覚
えがある。
特に廣松渉氏は、マッハ等の科学者の認識論についても詳しく、マル
クス系の思想家に留まらず幅広い学の領域で活躍されていた記憶が
ある。今でも[物象化論」の構図」「事的世界観」「もの・こと・ことば」
の本は所蔵している。
なぜか、20年ぶりに関心が呼び覚まされ、分からないところもあるが、
興味深く読んだ。対談形式であるので、廣松氏の難しい漢語が分かり
やすく語られている。
仲正昌樹氏の解説がきわめてよくまとまっているので、それを参考に
したまとめとする。この解説により私の理解は格段に高まった。


 廣松氏は、後期フッサールにおける「間主観性」とマルクスの「物象化」
を接合してマルクス主義的現象学を確立した哲学者であり
 丸山氏は、言語を「差異の体系」と見るソシュール言語学と現象学・
構造主義以降のフランス思想の関係を明らかにした言語学者である。
 二人の仕事は「主/客の境界線の不確定性」と「言語に内在する他
者性」を軸に展開しているようで、具体的には以下の点で一致している
ようだ。
 ・ 実体主義的な「主体/客体」の二項対立図式から「実体なき関係
  主義」への転換を図る
 ・「物象化(廣松)もしくは「フェティシズム」(丸山)と呼ばれる社会的
  な関係性の実体化傾向を批判し、解体する。
 ・「世界」を客観的に実在している「もの」の集積体としてではなく、言語
  記号を介した意味作用による「こと」的連関として理解する。
 廣松氏と言えば「共同主観性=四肢構造」が有名である。概略以下の
ような主張のようである。
 各「主体」はお互いから全く独立に、外界に存在する「もの」を認識した
り、働きかけているわけではなく、「私と客体」のかかわりの内に不可避
的に「他の私(=他者)のまなざしが」入りこんでいる。つまり私が何かを
認識するとき、他者も同様に「認識」するはずだと前提している。
「主体」としての「私」は、他者」たちが認識するように「客体」を認識」し、
「他者」たちが扱うように「客体」を扱っているのである。
 さらにこれを社会哲学に発展させていく。
上記の「共同主観性」の考えを、等価性の原理に基づく「交換」関係の
中で「主体」のまなざしや振る舞いが制限される。
特に資本主義社会では、貨幣を媒介にした値段によってどれも同じ
「客体」として認識することとなる。そのように「客体」としての「もの」の
画一化に対応して、主体としての「我々」の認識や欲望、行動パターン
も、また「もの」のように画一化してしまう。これが「物象化」である。
 我々の認識の「客体」となっている「もの」というのは、実のところ、
客観的に実在する「物それ自体」ではなく、我々の間で共同主観的に
成立している「こと」の意味連関に過ぎない。
この「物象化」から抜け出すために、従来の「物的世界観」つまり「物象
化された世界観」から、そうした「事的世界観」へのパラダイム転換を図
ることによって、共同主観性の中に潜んでいる社会的・経済的力関係を
明るみに出していこうと提言する。

 丸山は、概念(意味されるもの)相互の区別は、「我々」がどういう
「ラング」をもった文化に生まれたかに依拠しており、きわめて恣意的で
ある。最初に「もの」が客観的に実在して、そうした「物」の「世界」を可能
な限り正確に「表象」するように言語記号が発明されたわけではない。
むしろ逆に、各ラングごとの言語記号によって「概念」に対応する「もの」
が「我々」の目の前に現れてくるのである。
 我々の目の前にある「もの」を成り立たしめている「記号」の具体的な
特性の分析を通じて「我々」を現時点で支配している言語フェティシズム
を解体しよとしているようである。

丸山氏の「身分け構造」「言分け構造」は、情報の意味を考える
考え方と大変よく似ているので、参考として以下に記しておく、

「身分け構造」という概念を提起し、生物は、自分にとって有益なものと
有害なものを分別しながら、自らの生に適するように、自らを作り上げ
ている。動物はそうした「身分け構造」によって、自らの周囲の「環境
世界」に対応している。
しかし人間は、さらにコトバによって「記憶」や「表象」を一義的に定着
させさまざまな「(~である)こと」を切り分け構造化する「言分け構造」
を行っている。

                    

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