2012年5月6日日曜日

5つのマネジメントプロセス

マネジメントの現場で役立つ本に出会った。
書籍等で読んだトヨタの組織力・人材育成力や、一時期一緒に仕事を
することにより垣間見た住友銀行の人材育成の仕組みも、体系化すれ
ば、こうなのだろうと思える本であった。大変内容が濃いと思う。
マネジャーには大変役立つ本であることは言うまでもないが、
経営の現場での地味な実践がどのようなものであるかを知るために
も、コンサルタントや経営学者等もぜひ読むべき本であると思う。
著者の略歴を見ると、上記2社について関わりもあるようである。
私自身、マネジメントにおいて実施しつつあることが、体系的に
書いてある感じで、自分の頭を整理するためにも大変役立った。
『5つのマネジメント・プロセス』 二宮靖志著 である。


1.基本的考え方
「人は困難な仕事を経験しないと成長できない」
「実践の場や機会があってこそ真の実力(つまり成長)に繋がる。」
と厳しい仕事を成功させることにより人材は育つとの基本的認識から
スタートする。
企業が成長し、人ジアが成長するためには「仕事の変革」を続ける
仕組みと、「仕事の問題解決を通した人材育成」を継続する仕組み
を確立することが必要である。
マネジャーは、「一緒に取り組み、成功させる。成功するまで指導
を続ける。」ことが求められており、その中で「アサイン」は、
「どのような仕事」で「どのような経験を積んでもらうか。」
メンバーの「成長機会」に対するマネジャーの重要な意思決定で
ある。
会社の成長戦略とチームの目標達成、それに人の成長と育成ビジョン
を重ね合わせて考えることが必要と説く。
そのためには、「チームワークやモチベーション」以上に「競争と
格差の環境つくり」が必要と述べている。まったく同感である。
住友銀行やトヨタのようなしっかりした企業の特徴でもあるように
思う。

1.成長する組織を作るのに必要なこと
 マネジャーは現場最前線の経営者である、つまり「業績の構想」
「業績を上げる具体策を考えなければならない。
そのためには、業績の構造図(売上、購入価値、付加価値、人件費、
企業活動費、営業利益)をまず把握する。
業績の認識なくして、仕事の構造改革も仕事を通した人材育成も成立
しない。

10年先の人材を今から育てることに取り組むべきであり、その枠組み
がライバル会社に水をあける強みになり、会社成長の原動力になる。

マネジメントは、「目標達成」のために「経営資源を効果的、効率的
に活用することであるから、マネジャーは、
「仕事の構造化(構造転換)」と「人材育成(人が育つ環境つくり)」
に責任を持つことが必要である。

マネジャーは、行動要件として以下が求められる。
①目標を決める。
②期待を伝える。
③自ら動き、メンバーを動かす。
④仕事を通して人を育てる。
⑤ほめる、認める、報いる。

この5つのマネジメントプロセスをきちっと回すことが成長する組織、
強い組織を作ることといく。
個別論を順次見ていく。

2.5つのマネジメントプロセスの改革個別論

(1)マネジメント・プロセス改革1:変革を生み出し目標設定
①業績の傾向をつかみ、仕事の変革を考える
未来軸で業績向上を考える。仕事の変革をチームの目標とする。
②自分で考えなければ経営計画は理解できない。
マネジャーが会社方針を自問自答
③経営計画を「逆読み」する。
経営層が作成する経営計画を熟読し、なぜこの計画なのか、
その背景には何があるのか、さらにはその先には何が実現した
いのかを考える。
④現状、到達目標、プロセスと時間軸で考える。
3年後の到達点、1年後の到達点
⑤目標設定は「定性が先、定量が後」
言葉で「死後のありたい姿」その上で定量目標を設定する。

(2)マネジメント・プロセス改革2:成長課題を一人ひとりに
                 展開する。
①成長の期待を組織図に書き込む
組織図の裏側にはミッションがある。一段高い課題を伝える。
②仕事の理由は現場にある。
現場を歩く感覚はマネジャーの必須条件。社外の顧客ニーズ
を拾って歩く。マネジャーは部門連携の要。
③ロジックツリーで会社の成長と個人の目標をシンクロさせる。
業績向上と組織能力向上を連携させる。
原因追求ロジックツリー、方策立案ロジックツリー
行動変革のイメージ作りが必要で、そのためにマネジャー自身
は、事前に会社成長の構想を練り、優先順位をつけた重点施策
のイメージを持つ。
ロジカルな連鎖の中で課題を発見する。
意見を対流させ、ロジックツリー検討会を充実させる。
④業績向上に対する厳しい認識の上に立つ
 会社の成長を基準とするマネジャーの判断
 定性的課題は将来の業績向上が見えなければ×判定する。
 チームと会社をシンクロさせるマネジャーの責任
(3)マネジメント・プロセス改革:実行徹底のためのPDCA
                の仕組み
①PDCAは続けてこそ意義がある、
特にCAの部分において、マネジャーがメンバーとコミュニ
ケーションをとりながら仕事の成功に向けて指導する
部下発信の「報・連・相」、上司発信の「PDCA」
②PDCAの仕組みと勘どころ
 ・方針の解釈
  会社の方針を経営者のスタンスで再考する。
 ・目標を決める
  現状に対する課題認識を持ち、ゴールを決める。
 ・期待を伝える
  討議を重ね、目標に対する理解を深める。
 ・四半期計画
  時間を区切り、具体策を計画する。
 ・月次計画
  計画を実行に移す執着心を引き出す。
 ・スケジュール帳
  仕事の着手日、納期等を書き込む。
 ・2週間レビュー
  行き詰まっている悩みや、一人では解決でき
  ない問題点を吸い上げ、解決策をともに考える。
 ・月次レビュー
  取り組みの結果を自己判定する。
 ・四半期レビュー
  成果にこだわり、仕事を振り返る。
 ・年間レビュー 
  メンバーが主体的に、自分の仕事を振り返り、
  成功と失敗の理由を考え、翌年の活動計画に
  反映する。

  一対一面談だけでなくチーム討議を充実させる

(4)マネジメント・プロセス改革:チームで人を育てる。
①人の強みで業績を上げる、業績を上げる仕事で人を
 育てる
 人の判定ではなく、人の成長をひたすら追う。
 人の強みと弱みを知る。
②過去形の評価から未来形の育成へ
 人材育成会議の効果
 キャリア形成を重視、マネジャー同士が検証し学習
 する場、上司が決めたアサインも検証
 上司が部下の評価をプレゼン(仕事、指導、取り組み、
 成果)
 会議体で評価ランク、フィードバック内容を確定
 成長課題(新しい経験、開発能力の討議)

(5)マネジメント・プロセス改革:成長のカンフル剤
 褒めて、認めて、報いる仕組みが必要。
 昇格にも競争原理を入れる。これは組織活力の源泉
 マネジャーの目線で見る人事制度とは人の活用を考え、
 仕事に対する人の
 意識を切り替えるためのマネジメントツールと考える。
 評価は指導そのものであり、毎日の部下との接点に
 仕事に対する指導の積み重ねがあってこそ、評価は
 成り立つ。


きちっとした会社、職場ではできていることだと思うが、
ここまで体系化されたものは今までにないのではないの
ではないだろうか。
学術的でもなく、現場のハウツーでもない、実際に会社を
経営していく、職場を運営していくためが読むべき書籍だ
と思う。経営の厳しさを体感されたこのようなコンサル
タントがおられることにも驚いた。


             以上

2012年5月4日金曜日

模倣の経営学

ビジネスモデルのイノベーションに関心をもっていたところ、
わかりやすく、面白い本に出会ったので、読書ノートを書く。
ビジネスモデルのイノベーションについて考えるためには
わかりやすく本質を考えるために大変有益な本である。



この著者は、以前『収益エンジンの論理』という本を書かれて
おり、興味深く読んだ記憶がある。



まず、成功した企業の影には、仕組み・ビジネスモデルを他社
から模倣していることがあると説く。
クロネコヤマトは、メニューを絞り込むことを吉野屋から、
配送密度・方式をUPSから、サービスの標準化・商品化を
ジャルパックから、それぞれ模倣し独自のビジネス モデルを
創造した。
スターバックスは、ヨーロッパのカフェから「くつろぎと交流
の場」を提供することを 模倣したが、文化の違いからイタリア
の音楽やバリスタは途中で変更し、従業員との信頼関係
( パータタイマーへの社会保険の適用、教育 ) をベースとし
た直営展開のビジネスモデルを展開した。
それに対し、ドトールコーフィーは、同じようにヨーロッパの
カフェーを模倣したが、「健康的で明るく老若男女とみに楽し
める店」のコンセプトで「低価格・高回転」のビジネスモデル
を展開した。

1 . 模倣するための枠組み
模倣するために、ビジネスモデルを以下の枠組み ( P-VAR )
で分析・整理する。
①ポジションのとり方 ( Position )
競合ポジション、顧客セグメント
②提供している顧客価値 ( Value )
価値提案 ( 顧客が評価するもの )
③課金の仕組み
④主要業務の活動 ( Activity )
鍵となる活動、成長エンジン、収益エンジン
⑤鍵となる経営資源 ( Resource )
鍵となる経営資源、チャネル、顧客との関係性、パートナーシップ

2 . 事業創造・変革の5ステップ
P-VARの枠組みを活用し、以下のステップで模倣し、新しい事業
モデルへ発展させる。
①自社の現状を分析する。
②参照モデルを選ぶ。
③あるべき姿の青写真を描く。
④現状とのギャップを逆算する。
⑤変革を実行する。

3 . 「守・破・離」
(1) 学ぶべき対象
①社外の成功 ( 単純模倣 )
ラインエアはサウスウエスト航空のLCCモデルを模倣。
②社外の失敗 ( 反面教師 )
グラミング銀行は大手銀行の一度に相応の額を貸付、
まとまった形で返済させるモデルを反面教師とし、
女性を対象に一回一回の返済額を小額にしたビジネスモデル
を創出した。
③社内の成功 ( 横展開 )
ジョンソン&ジョンソンは、医療用器具の使い捨てモデルから、
使い捨てモデルのコンタクト ( アキュビュー ) のビジネス
モデルを展開。
③社内の失敗 ( 自己否定 )
オークランドアスレチックは、「貧すれば窮す」の状態から
「安く勝利する」ための方法を考えた。
具体的には、けが人や年齢が高いというワケありの選手、
見栄えがパットしない選手でもデータの裏づけが あれば採用し、
実績を上げた。

(2) 守・破・離
まず徹底的に倣い、その上で「お手本」の教えを破り、しかる後
に自らのモデルを 確立する。

4.創造的模倣の手法
模倣の目的によって作法は異なる。
この本での主張は仕組みレベルでのイノベーションの必要性である
が、参考のため、 製品・サービスレベルでの模倣についてまずは
以下に述べる。
(1)製品・サービスの模倣
競争への対応を目的にする模倣であり、同業で成功した企業の動き
をそのまま模倣する。攻めの姿勢で競争相手を模倣する迅速追随模
倣と他社の成功や失敗を見届けた 上で、圧倒的な経営資源で先行者
を追い越す後発優位模倣とがある。 さらに、相手を優位に立たせて
はならない「負けないための模倣」同質化がある。
(2)イノベーションのための模倣の作法
①大きな潮流を見極めて対象を選ぶ。 ( 業界 )
②対象に棲みこむことで模倣する部分が分かる。 ( 対象 )
③経験を積み、常に意識していれば、一部をみて全体が分かる。 ( 自分 )

組織認識論

久しぶりにきちっとした本を読んだ。
神戸大学の経営学部 (出身含む) の先生が書かれた本に最近よく
出くわす。
特にモチべーションや個人と組織の関係、ビジネスモデルの領域で
神戸大学経営学の先生方が独創性 ある研究をされているように思う。

今日は加護野忠男教授の『組織認識論』
(企業における創造と革新の研究)を読んだので、それの読書
ノートを書く。1988年に出版された本だが、今読んでも内容
的には全く古くない。
1988年は加護野さんが教授になられた年でもあるようなので、
加護野教授の主要な著作の一つでもあると推察される。




この著作のテーマは以下のように要約できる。
現実の組織を経営する際に行われる決定や判断、経営の実践を
支えている知識の体系を「日常の理論」と定義し、この
「日常の理論」が組織のなかでどのような役割を果たしている
か、それが経営の実践といかに 結びついているか、
「日常の理論」がいかにして変化し発展するのかを 解明する
ことである。

1.組織論に関する他の学説
(1)コンティンジェンシー理論
組織を、物質・エネルギー・情報などの外界からのインプットを、
一定の技術を元に、有用な材あるいはサービスなどのアウトプット
に変換する変換システムと捕らえる。
コンティンジェンシーの理論は以下の特徴を持つ。
①相対主義
環境、技術、規模など、条件が変われば、最適な組織構造は異なる。
②機能主義と客観的な結果の重視
ある組織構造や組織過程がどのような意図で生み出されたかでは
なく、それらが、重要な機能をどの程度果たすことが できるか
という側面を重視。
③全体論的な視点
組織には、個人や集団のレベルには存在しない全体としての組織の
レベルに固有の法則が存在する。
④静学的な比較分析
組織の変動はあくまで諸力の変化に対応した受動的なものと認識し、
環境が変わった場合、どのような組織編制に変わるかを比較する
ことを重視した。
⑤中範囲の理論と実証主義
壮大な一般理論ではなく、中範囲の命題の蓄積によって、より豊
かな理論が築けることを志向した。

(2)ポスト・コンティンジェンシー理論
コンティンジェンシー理論で見過ごされている以下のことを
再発見した。
①組織の慣性力
環境の変化、戦略の変化に対応して変わるはずの組織行動
が変わらずに旧来の行動パターンが継続される。

(3)社会学の観点
○行為は社会的現実を規定する意味から派生する。
○意味は人々によって社会に対して与えられるものである。
○人間行為理解のためには、関与者が行為に対して付与した
意味を理解しなければならない。

(4)心理学の観点
○個人の行動、小集団の鼓動、集団間の行動という重要な
構成要素についての分析を欠いた組織全体になりたつ創発
的な法則は無意味である。

(5)社会学・心理学からの観点の意義と限界
(1)意味の重要性
人々は情報に対して反応するのではなく、情報から引き
出される意味に基づいて 行為し、自らの行為自体に意味
を付与する。
(2)「日常の理論」が学習を通じてあるいは相互作用を
通じて発展
(3)「日常の理論」が人々の間で共有される。
これらの理論の限界は、「日常の理論」つまり人々の体
系化された実践的知識が組織の中で占める本当の重要性
に気付かなかったことである。

2 組織認識論の全体
組織認識論は、組織における人々の知識の利用と獲得の
プロセスに焦点を合わせ、組織現象を照射 する。
①認識の概念
「知識の利用と獲得過程としての認識」と定義する。
②意味の決定
情報の解釈つまり意味決定は、受け取られた情報
(フローの情報) を取捨選択し、それを記憶の中に蓄積
された情報 (ストックの情報) と結びつけることによっ
て行われる。

組織認識論のまとめ
◇人間は、情報ではなく、意味に反応。
◇意味の決定は、取り入れられた情報と記憶の中にある
素材情報を選択的に連結することに よって行われる。
◇人間は外界を理解するためにスキーマをもっている。
スキーマは緩やかに体制化されており、その集合体が
「日常の理論」である。
◇人間の中に蓄積された情報は、連結の素材としての
情報 (素材) とそれを連結するための情報 ( 連結 )
の2種類に分類される。
◇意味決定は、受け取られた除法と記憶された素材情報
と連結情報を元に行われる。スキーマは連結情報である。
◇人間は情報の受動的な受け手ではなく、情報の能動的
な探索者である。情報の探索は、スキーマに よって影響
される。
◇スキーマは情報処理の負荷を軽減する。注意の焦点を
絞り、推論や問題解決を促進する。 社会についての予測
可能性を高めるなどの機能をもつが、他方では、過度の
単純化、新しい情報の取り込みを阻害する等の逆機能を
もつ。
◇社会集団のなかで、スキーマの共有が起こる。
◇社会的な現実は人々の知識を通じて作り出されるが、
人々はそれを、物理的な現象と同じような 客観的現実
とみなす。
◇社会的な現実はひとびとの相互作用によって維持される。
◇ひとびとは、行為を通じて意味を表現するが、行為は
意図された意味の伝達以上の情報を含んでいる。
情報→意味→行為は緩やかに結びついている。
◇人々の問題解決は、コンピュータに見られる形式論理
からは系統的に逸脱する。
人間の問題解決は文脈 と集団の雰囲気に影響される。
個人の中に蓄積された連結情報 (スキーマ) は、変化
に抵抗するという頑強性をもっている。既存のスキーマ
に合致した学習よりも、スキーマの変革を伴うような
学習のほうが難しい。

( 私的コメント )
個々人の認識・意味付与の集合体である組織の認識・
意味付与が、個人から離れて自己増殖し、逆に個人の
認識・意味付与を逆に規定するダイナミズは大変面白い。

3.組織における認識とパラダイム (1)
(1)日常の理論、スキーマ、パラダイムの関係
体系化された実践的知識としての日常の理論は、スキーマ
の集合体。
組織のパラダイムとは、日常の理論の適用を助け、その
発展を促す地の方法としてのメタファーの集合体。
パラダイムは、日常の理論の中に具体化され、日常の理論
によってその妥当性が確証される。日常の理論はパラダ
イムによって正当化され、パラダイムにしたがって発展
する。 パラダイムは、見本例と組み合わされることに
よって、ひとびとの意味の発見と伝達、問題の発見と解決、
新たな日常の累積的な発展を可能とする。
パラダイムは、日常の理論の利用を促進する「知の編成原理」
その発展をもたらす「知の方法」としての性質をもっている。
日常の理論は、パラダイムに従って体制化され、それに基
づいて発展する。

(2)パラダイムと組織の動学
パラダイムは、環境あるいは、条件が変化したにも関わらず、
企業の行動が変わらず、不適応を起こす。これを組織の慣性
とも言われてきた。
パラダイムの頑強性は、以下の理由により現れる。
①情報のフィルター
予見の変化を示唆する情報が無視される。パラダイムと合致
する都合のよい情報だけを取り入れたり、仮に適切な情報が
取り入れられたとしても、そこから適切な意味が引き出され
ない事態が起こる。
②共約不可能性
パラダイムは、不確定な信念である日常の理論を正当化する
という機能を果たしている。 しかし、その機能は、他面では、
既存のパラダイムに対する盲目的な確信を作る出すことがある。
とりわけ、パラダイムがもたらした過去の成功が大きければ大
きいほど、パラダイムに対する確信も強まる。パラダイムを越
えた対話は難しく ( 共約不可能性 ) 、パラダイム間のデータ
による論理的な説得が通用しないということは、政治的プロセ
スが付きまとうことを意味している。
③発展性
パラダイムの頑強さは、パラダイムがもつ発展性それ自体から
生み出される。
既存のパラダイムの枠内 でも、日常の理論は発展しつづける。
パラダイムは問題解決の能力を持ち続けるが、代替パラダイム
の下で得られた解決策よりも劣るがゆえに、問題をもたらし、
問題を大きくしてしまう。
パラダイムの 発展性そのものが、発展性を阻害する。

パラダイムの頑強性がもたらすマイナスの結果は、パラダイム
のプラス機能の裏返しでもある。 情報のフィルターとして組織
が情報過多に陥るのを防ぐというパラダイムの機能が組織を盲目
にし、日常の理論やそれを元に策定される戦略に正当性と納得性
を与えるという機能が盲信という結果を生み出し、日常の理論の
累積的な発展を可能にするという機能が企業の発展を阻害する
のである。とりわけ過去の成功が 大きく、それゆえパラダイム
に対する確信が大きい企業ほど、この傾向は顕著になる。

4.パラダイムの創造
スカイラーク、ファルマ、ワールド、アート引越しセンター
を事例として取り上げ、事業開拓のパラダイム創造の特徴を
述べる。
◇パラダイム創造は、行為→情報→意味のサイクルの反復
からなる連続的なプロセスである。
◇パラダイム創造の過程では、通常は固定しがちなサイ
クルが流動化する。
◇パラダイム創造は非線形的な試行錯誤的過程であり、
そこで行われる能動的な行為が、サイクルの開放化に
貢献する。
◇理論の新しい連結は、通常の連結では解消できない
問題に直面したときに起こる。
◇新しい連結が連続して起こるには、きっかけとなる
連結が存在し、それが他の連結を促進する。
このような 連結をレバレッジ・ポイントという。
◇新しい連結の過程は不安定であり、その状態を
乗り来るには、高度の心理的エネルギーが必要である。

企業家的な創造プロセスは、認識サイクルの流動化
のプロセスであり、それを実現するためには、以下が必要。
①能動的な行為:行為→情報の結びつきを流動化させる。
②テンション:情報→意味の結びつきを流動化させる。

5.パラダイムの革新
パラダイム転換は、以下の理由により困難となる。
①意味の固定化
情報を取り入れるプロセスでのフィルターとこれらの
情報を連結・分離し、意味を引き出すプロセスでの
フィルターの機能が働く。
②内面化
パラダイムが人々の内部に内面化される。
パラダイムは、概念化できない
知識、暗黙知によって支えられている。教育や訓練
だけでは変えることができず、暗黙知の源泉となって
いる日常の仕事や行為そのものの革新が必要。
③代替パラダイムの困難性
リスクへの調整の必要性を説くだけでなく、リスク
への挑戦が実際に成果を生むということを分からせる
具体的な成功例が必要だが、容易ではない。
④共約不可能性
古いパラダイムが通用しなくなったということを人々
に説得するにはデータだけでは不十分である。たとえ
新しいパラダイムが提示されたとしても、
異なったパラダイム間の対話は困難である。
(共約不可能性)
⑤集団圧力
集団の中には、その集団の規範やそれを支える
パラダイムを維持し、そこからの逸脱を抑制しよう
という 圧力が働く。
(6)政治的プロセス
パラダイムは共約不可能性の特徴を持っているので、
どのパラダイムが支配的なものになるかは、組織
内部の政治プロセスに依存している。

6.企業革新の3つのモデルとパラダイム転換
(1)3つのモデル
①戦略的企業革新:トップ主導で意識革新、企業
革新を進めていくモデル。
②進化論モデル :ミドルの双発的な変化を取り
込み、それを累積することにより意識改革と
企業改革を行うモデル。
③組織開発 :チェンジ・エージエントによる
介入を通じて、人々の態度を変容させるモデル

パラダイム展開は、上記の3つでは難しい。
成功事例として、シャープ、住友銀行の事例を
取り上げ、成功モデル を抽出する。
①トップは、新しいパラダイムの創造には、
直接関与しない。
②トップは、その権力を用いて、新しいパラ
ダイムの創造者を発掘・育成し、
その活動を組織内の政治過程から 防衛隔離し、
その活動に正当性を与える役割を果たしている。
③トップは、ミドル・レベルの創造的な活動が、
パラダイム転換を促進する条件づくりも行って
いる。
④実際のパラダイム創造の中心はミドルの管理職
が担っている。

大変長い読書ノートとなってしまったが、かなり
正確にノート化した。
後半の著者独自のモデルに行動経済学等の観点が
取り入れられればと思う。
私自身は、そちらの発展に関して関心を持っている。