Val IT (Enterprise Value:Governance of IT Investments 、The Val IT Framework)は、米国ITガナンス協会が作成したIT投資管理のフレームワークである。
ITガバナンス協会といえば、IT全般統制のよりどころとなるCOBITが有名である。
このVal ITは、その姉妹編として策定したものである。IT投資の観点では、COBITが「投資の実行プロセス」に焦点を合わせる、つまりいったん決めた投資を着実に行うことに注力するのに対し、Val ITは、投資を決める前の評価、すなわち「投資の意志決定プロセス」と「投資実行後の評価プロセス」に焦点をあわせたものともいえる。
価値を生むIT投資管理のポイントは以下の3つに整理できる。
①三位一体運営:経営者、事業部門、IT部門が、共同責任体制で
IT投資と運営を行う。
②戦略適合性:実現すべき経営目標と整合性を持ってIT投資方針
を策定する。
③ポ-トフォリオ管理:効果、不確実性、リソースの制約を考慮して、
複数の案件の間でIT投資額をバランスよく配分する。
④IT投資のライフサイクル管理:IT投資を計画~構築~導入~利用の
ライフサイクルを通じて管理する。
システムを使った業務改革活動とシステム開発・活用をひとまとめ
にして案件(プログラム)と捉え、それに掛かった費用と効果の全体を
管理することが必要。
Val ITは3段階の管理プロセスから構成される。
①価値ガバナンス
②ポートフォリオ管理
③インヴェストメントマネジメント(個別プログラム管理)
各管理プロセス構成する「重点管理プラクティス」について
経営者、事業部門、IT部門の誰が実行責任を持ち、誰が説明
責任を持つかを明確にする。これが三位一体のIT運営である。
(1)価値ガバナンスの具体例
経営ビジョン、目標を、BSC:「学習効果」「業務プロセス」「顧客」
「財務」にブレイクダウンし、それをどのシステムで実現していくか
経費、投資効果はどうかをIT戦略MAPに展開していく。
(2)ポートフォリオ管理の具体例
IT投資を以下の4つに分類。(MITのWEIL教授)
①業務効率化投資:業務効率化、コスト削減、生産性向上
スループット増加
②情報活用投資 :社員、顧客の情報活用力、品質、スピードアップ
管理力、統合力効果
③戦略的投資 :事業創造、大規模業改、競争力強化、ビジネス革新
④IT基盤投資 :ビジネス統合、連携強化、ITコスト削減、システム化スピード
(3)個別プログラム投資管理の具体例
PMO(プログラム・マネジメント・オフィス)により評価。
①事前評価:開始しようとする案件の投資対効果、投資見積額の
妥当性、リスクの大きさと対処方法、ポートフォリオ全体
のバランスについて評価する。
②途上評価:実行中の案件について、定期的なたな卸し、個々の
案件の大きな節目ごとに、起案当初からのリスク・
リターンの想定の変化を確認し、対応策の検討、
ポ-トフォリオ全体としての資源の再配分を行う。
③事後評価:構築が完了し稼動しているシステムについて、
定期的に効果創出度合いと掛かっているコスト
の妥当性を評価し、状況に合った対策を実施
していく。
2006年の日本の企業(約500社)のIT投資比率は以下のとおり。
IT基盤投資:49% (46%)
業務効率化投資:27% (25%)
情報活用投資:14% (18%)
戦略的投資:10% (11%)
( )は欧米企業625社2006年度MITのWEIL教授調査。
昨年の秋にMITのWEIL教授にお会いしたが、大変温厚な方で、
私の主張に耳を傾けていただいたことが大変印象に残っている。
このような地道な研究は大変重要と思う。
あとMITで印象に残るのはintangible assetのErik Brynjolfsson教授
である。ITの投資効果を経済理論をベースにして実証分析されたいた
話には迫力を感じた。
ITソリューションの導入を「IT投資」と呼び、ITを活用した業務改革を
行うなど、単にITソリューションの導入にとまらない広義のITに関する
投資を「情報化投資(IT-enabled(business) investment)と呼び、区別する。
以下、Val IT で,何が規定されているのか見て行く。
1.価値ガバナンス(VG)
VG1:情報を与えられ、積極的に参加するリーダシップを確保する。
⇒ITに関する経営者の役割および基本原則を決める。
VG2:プロセスを定義し、実施する。
⇒情報化投資に関する適切な管理プロセスを定める。
VG3:役割と実行責任を定義する。
⇒情報化投資に関する役員および従業員役割と実行責任を
定める。
VG4:適切で承認された説明責任を留保する。
⇒情報化投資に関するコントロール(統制)の仕組みを定める。
VG5:情報の要件を定義する。
⇒情報化投資の成果の測定および点検に必要な情報を
定める。
VG6:報告の要件を定義する。
⇒情報化投資の成果の報告の仕方を定める。
VG7:組織の構成を確立する。
⇒情報化投資の管理のための会議体や組織の構成を定
める。
VG8:戦略の方向性を確立する。
⇒事業戦略と情報化投資が整合していることを確かめる。
VG9:投資のカテゴリーを定義する。
⇒情報化投資の配分を決めるための投資の分類方法を
定める。(必須、継続または維持、任意)
VG10:目標とするポートフォリオの構成を決定する。
⇒情報化投資配分の目標とする構成比を定める。
VG11:カテゴリー毎に評価基準を定義する。
⇒情報化投資の分類別に、投資評価の基準を定める。
2.ポートフォリオ管理(PM)
PM1:人的資源の目録を維持する。
⇒現在のIT人材の能力、稼動状況を調べる。
PM2:資源の要件を特定する。
⇒今後求められるIT人材の能力や経験などの特性を把握
する。(IT資源:アプリケーション,情報、インフラ、要員)
PM3:ギャップ分析を行う。
⇒IT人材の現状と将来像を比べ、不足する人材を特定する。
PM4:資源提供計画を作成する。
⇒不足するIT人材を確保するための方策を考え、計画を
作る。
PM5:資源の要件と使用状況をモニタリングする。
⇒IT人材の過不足の状況を確認し、組織間で調整する。
PM6:投資の閾値を確立する。
⇒情報化投資の予算管理の仕組みを導入する。
PM7:初期プログラムのコンセプトビジネス・ケースを評価する。
⇒コンセプトレベルで情報化投資を評価し、選り分ける。
PM8:プログラムのビジネス・ケースを評価し、相対的スコアを
つける。
⇒情報化投資案件を詳細に評価し、投資の優先順位を
決める。
PM9:ポートフォリオ的視点全体を作成する。
⇒新たな情報化投資案件を追加することによる、情報化
投資の配分全体への影響を評価する。
PM10:投資決定を下し、それを伝達する。
⇒情報化投資案件について、実行するか、保留するか、
却下するかを決める。
PM11:選択したプログラムをステージゲート(および資金を
提供)する。
⇒実行が決まった情報化投資案件に関して、工程ごとに
先に進めてよいか判断し、予算を割り当てる。
PM12:ポートフォリオの成果を最大化する。
⇒情報化投資案件相互の関連性をうまく利用することで、
成果を高め、リスクを軽減する機会がないか、見直す。
PM13:ポートフォリオの優先順位を見直す。
⇒社内外の状況変化に応じて、情報化投資案件相互の
優先順位を見直す。
PM14:ポートフォリオの成果をモニタリングおよび報告する。
⇒情報化投資全体としての成果を経営者に報告する。
3.投資管理(IM)
IM1:投資機会について、コンセプチャルな定義を作成する。
⇒情報化投資案件を発案し、適切に分類し、期待される成果、
必要な取り組みを整理する。
IM2:最初のプログラムのコンセプトのビジネス・ケースを作成する。
⇒候補となる情報化投資案件に関して、コンセプトレベルで
実施内容を取りまとめ、経済価値分析を行う。
IM3:候補となる投資プログラムの明確な理解を養う。
⇒候補となる情報化投資案件を、関係者とともに具体化し、
関係者間で理解を深める。
IM4:代替分析を行う。
⇒候補となる情報化投資案件の代替案を比較検討し、
最良の案を選ぶ。
IM5:プログラム計画を作成する。
⇒情報化投資案件の実行計画を作る。
IM6:利益実現計画を策定する。
⇒情報化投資案件の目標、成果実現の見通し、評価基準、
リスクを明らかにする。
IM7:ライフサイクル全体のコストと利益を算定する。
⇒情報化投資案件のライフサイクル全体を見通した予算を
作る。
IM8:詳細なプログラムのビジネスケースを作成する。
⇒情報化投資案件の実施内容および経済価値分析を詳細
化し、実行責任者の承認を得る。
IM9:説明責任と所有権を明確にする。
⇒情報化投資案件について、誰が実行権限を持ち、説明責任
を果たすかを決める。
IM10:プログラムを着想し、計画し、立ち上げる。
⇒情報化投資案件に、必要な資源を割り当て、計画を実行
する。
IM11:プログラムを管理する。
⇒情報化投資案件の進捗を管理し、計画との差異を分析し
是正する。
IM12:利益を管理/追跡する。
⇒情報化投資案件の成果を確認し、計画との差異を分析し
是正する。
IM13:ビジネス・ケースを更新する。
⇒情報化投資案件の実施内容および経済価値分析を、
直近の状態に更新する。
IM14:プログラムの成果をモニタリングし報告する。
⇒情報化投資案件の成果を経営者に報告する。
IM15:プログラムを終了する。
⇒情報化投資案件を終了し、得られた知見や成果を継承
する。
各重点管理プラクティス毎に、RACIチャート欄に、経営陣(Exec)、
事業部門(Bus)、IT部門(IT)の中で
実行責任者(Responsible)、説明責任者(Accountable)、協議先(Consulted)
報告先(Informed)を明記する。
どうもVal Iそのものは、確立途上であるからか、なかなかしっくりこない。
網羅的であることは分かるが、ポイントと論理の組み立ては今後の課題と
思う。
2009年11月29日日曜日
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