2009年11月14日土曜日

EXTREME TOYOTA

この1年自動車産業は、GM倒産に代表されるように激変に直面している。トヨタも例外ではないが、その激変前に、日本の経営学者が、トヨタは、なぜこれほどまでに成功したのか、経営のどこが優れているのかについて、世界の読者に向けて書いたのが、表題の『EXTREME TOYOTA』である。
 トヨタは、世界一の自動車メーカーで、規模もさることながら、営業利益率でも同業他社が4%前後なのに対し、その2倍の9%前後を達成している超エクセレントカンパニーだった。
売上構成は、北米31.8%、ヨーロッパ11.4%、日本26.4%、中国3.2%、その他27.2%となっており、正に世界的に名前を知られたグローバルカンパニ-である。
この本では、“トヨタは、成功している他の大企業に共通するといわれる多くの特徴を備えておらず、また、それがゆえに成功している”

と書いている。





具体的には、
 ① グローバルで成功している企業の経営陣は、様々な国の出身者
   から構成されることが多いが、トヨタの経営陣は全員が日本人男
   性で、三河地方の田舎企業であることを誇りにしている。
 ② 成功している企業は選択と集中を徹底していると云われるが、ト
   ヨタには明確な戦略フォーカスがなく、自動車業界で先頭に立つ
   ために何でも試してみて、その全てにおいて優れた成績を出そう
   とする。
 ③ 「UP OR OUT」(昇進か退職か)ではなく、「UP AND IN」
   (昇進せずとも会社に残れる)ということで、社員の10%を定期的に
   解雇するGEとは対極である。
トヨタ成功の理由として
トヨタには、意図的に矛盾や対立を組織の中に作り出し、それを消極的に解消することを良しとせず、妥協せずにトコトン議論し、考え抜き、決めたことについて段々と目標を上げながら組織としてやり抜く力とその力を絶えずアップさせる仕組みや仕掛けがあり、その原動力として、新たなチャレンジや更なる多様性、複雑性へ導く「拡張力」と多様になった経験や知見を組織に取り込ませ、定着させ、企業を一つにまとめる「結合力」が必要と述べられており、トヨタの成功の原動力は、以下の3つの「拡張力」と3つの「結合力」であると結論付けている。
<3つの「拡張力」>
 ①不可能な目標 : ほとんどの人が達成不可能だと思うゴールを設定
  する。
 ②実験主義 : 納得がいくまで実験し、失敗から学ぶことを推奨する。
 ③現地顧客対応 : それぞれの市場の先進性や多様性を取り入れなが
  ら、製品やオペレーションを現地顧客に対応させる。生産は統一する
  が、営業は現地に合わせる。
<3つの「結合力」>
 ①創業者の哲学: 創業者の語録は「トヨタウェイ2001」と名付けられ、
   核となる価値観として社員全員が共有・実践する。
 ②神経システム: 縦横に張りめぐらされたコミュニケーションネットワ
   ークで知識や経験を交換する。
 ③アップ アンド イン: 社員は学習と改善を通じて個人の創造性を
  常に高めていく。

トヨタでは組織的課題解決能力を強化するため、入社10年目までに、問題解決のスキル習得を目的として、企画や施策をA3文書一枚にまとめる訓練を行い、上司は課題の深掘りの仕方、文言のチエックをOJTで徹底して教える。このA3文書というのは、企画等を行うときの説明資料のことで、「問題の定義と背景」、「要因分析」、「実行スケジュール」、「結論」、「今後の課題」等企画に必要な項目を書くもので、どのような大きな企画でも、このA3文書一枚にまとめ上げることを徹底しているようだ。
また、トヨタ・ビジネス・プラクティクス(TBP)として、レクサスやサイオンの展開でも活かされた、トヨタの新製品や新しいビジネスモデル展開時に留意していることとして、以下の話がでている。
 ① 「目標の目標」を考える。
 ② 大きく複雑な問題を、もっと小さな或いは具体的な問題に分解
  する。
 ③ 小さく始めて、ゆっくり進める。
 ④ たとえ失敗しても実験をくり返す。
 ⑤ 成功した仕事のやり方を制度化する。
 ⑥ 基準を上げつづける。
特に③、④は、新規サービスを立ち上げる時、⑤、⑥は、事業としてある程度軌道に乗ってきたときの考え方として参考になる。

トヨタが今後どのように復活してくるか分からないが、経営力、成果を出す組織能力において抜群であることはよく分かる。
成功企業の類似を抽出した経営に関する書籍とは異なり、実際の調査をベースにトヨタの強さを分析的に解明しようとした優れた本である。理論的にどこまで解明できているかには課題はあると思うが。

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