2012年10月3日水曜日

「北京大学中国経済講義」

経済学の本はたまには読むが、ゲーム論や組織論を中心としたもので、現在の 実際の経済を知

るというよりも、経営に役立つ体系的な新しい視点を 得るためであることが多い。

今回は、発展中の中国経済についてその政策を最新の経済理論を使って 分析し、さらには政策

の実際の効果を検証してきた大変興味深い本を 読んだ。 中国経済のポテンシャリティや今後の

課題を体系的に理解できるだけで なく、経済学が現実の経済を理解し、改革するのに効果的であ

ることを 理解できた。

また経済学に基づく政策の違いが、国家のパフォーマンス に大きな影響を与えることも理解でき

た。
 「北京大学中国経済講義」 林毅夫(Justin Yifu Lin) 内容は、北京大学で1994年から2008年

まで「中国経済特論」として 講義されたものがベースとなっており、歴史から理論までバランスよく

書かれており、中国経済を体系的に理解するための最良の書籍といえる。
 
この本では、以下の5つの質問に答えていく。

問1:なぜ、産業革命前に世界でもっとも大きく高度な文明を持っていた 中国はその後欧米諸国

       に大きく引き離されてしまったのか。

問2:なぜ、1970年代末に始まった改革開放以前の中国経済のパフォーマンス が悪く、改革

       以降に奇跡的な発展を遂げたのか。

問3:なぜ、改革開放の過程で、中国は景気変動、金融システムの脆弱性、 国有企業改革の難し

       さ、地域間所得格差の拡大、そして所得分配の 公平さに悩まされてきたのか。

 問4:21世紀における経済の急速かつ健全な発展を維持するために、 中国経済のどのような側

        面が改革されるべきか。

問5:中国の経済成長は真実なのか。為替レートはどのような方向に 進めるべきか。

1.何故産業革命が起きなかったのか。

まずは、「なぜ、科学革命と産業革命が中国で起きなかったのか。」の問いを 立て、以下のように

回答する。問1への回答である。 「発明が主に農民や職人の経験に基づいて行われていた前近代

においては 中国は人口の多さゆえに、優位性を持っていたが、西洋の産業革命と共に 優位性は

失われた。 産業革命には「数学」と経験ベースの試行錯誤から実験ベースでの試行錯誤 (「対照

実験」)とを特徴とする科学革命が必要であった。  

中国では、科挙制度で有能な人間に四書五経を勉強させ、数学や対照実験を  学ばせる時間を

作らせなかったが故に、科学革命を起こせなかった。」

2.何故社会主義革命が起きたのか。

 次に、中国で何故社会主義革命が起きたかを「近代の屈辱と社会主義革命」という 章で説明す

る。 1840年のアヘン戦争で英国に敗北しその後フランス、日本、8カ国連合軍に 破れ、超大国

の主権は屈辱的な方法で侵害された。 これに対し、中国知識人は、洋務運動で救国を果たそうと

した。 洋務運動のスローガンは「中学為体、洋学為用」(中国の形而上学を中心におき、 西洋の

形而下学をそのために利用する)であり、それは儒教に基づく古い社会制度 や倫理的価値をその

ままにして、西洋文明の器具や製品を利用するというもので あった。しかし、日清戦争に負けたこ

とにより、社会制度をそのままでは駄目と 考え、日本の事例に倣って科挙制度を廃止し、立憲君

主制を確立しなければなら ないという動きとなった。 帝国主義と封建主義に反対する五四運動の

スローガンは、「民主」と「科学」で あった。 中国人の間には西洋恐怖があり、これを克服するた

め、一つのグループは西洋化を 提唱し、もう一つのグループは社会主義を提唱した。1921年に

中国共産党が 設立された。つまり西欧列強に対応するために社会主義に移行した。 中国共産党

は、多くの運動と暴動を実施したが、初めは、すべて失敗に終わった。

ロシアと中国では、異なる条件下で労働者の暴動は起きたので、全く異なる結果と なった。 ロシア

では産業は都市に集中しており、その資本は主として貴族が所有していた。 労働者の暴動が起き

るとツアー皇帝が軍隊を派遣して暴動を鎮圧した。 これは、皇帝は大衆の支持と政権の正当性を

失った。 一方、中国では、産業は天津、上海、武漢、福州などの都市にある外国の租界に 集中し

ていた。労働者の暴動が起きると、租界を持つ外国政府が軍隊を派遣して 鎮圧した。これは中国

の支配政党の人気を高めるという反対の結果を招いた。 中国では、都市での暴動ではなく、毛沢

東の「農村から都市を包囲する」戦略 によって初めて革命が成功した。

 中国農村部では、総人口の5%の地主が耕地の26%を所有し、総人口の68% の貧しい農民は

耕地の22%しか所有していない(1950年代)という大きな 貧富の差がある。

この状況なので、地主から土地を没収し、農民に与える中国 共産党の決定は農民から大きな支

持を得た。また都市では多数の小さな商工業 者は民族資本により所有され、疎開にある工場は

一握りの官僚資本である蒋、 宋、孔、陳が所有しており、毛沢東はこの四大家族を革命の対象と

したので、 大衆の支持を得ることができた。

3.発展途上国からの経済発展

中国人は、長い間、強力な国防がなければ、外国に打ち負かされると考えており、 強力な国防を

持つためには、強力な軍需産業と重工業が必要であると考え、 1952から大規模な国家建設プロジ

ェクトを立ち上げた。
重工業優先する発展戦略は、

① 建設期間は5年から10年と非常に長い。

② 重工業のための機械設備を輸入しなければならない。

③ 重工業の初期投資は巨額に上る。

が必要である。

それに対し、遅れた貧しい途上国は

① ほとんどの労働者は農民で、資本蓄積が少ない。希少な資本は高い資本 コストに繋がる。

②輸出は最小限に抑えられており、外貨は大変貴重である。

③農業地域は広く、貯蓄が分散されているため、投資のための資金集めは きわめて困難である。

 銀行へ預金しない。 という現状である。

 つまり、重工業の特徴と途上国の現実とは大きく矛盾している。

 第1に発展途上国は建設期間の長いプロジェクトに伴う高い金利コストを支払う余裕がない。

 第2に限られた外貨準備や高価な外国為替の下で、高価な設備や機械を輸入することは非常に

 難しい。

 第3に余剰清の少ない農業国では重工業を発展させるための資本調達が極めて困難である。

 しかしながら、途上国では、経済の要素賦存に基づく比較優位に反したキャッチアップ 戦略がとら

れることが多く、成長が持続できないことが多い。

4比較優位に基づく発展戦略  

著者は、上記のような経済の論理に基づかない成長戦略を否定し、経済論理に基づいた 成長戦

略を推奨する。そのために、まずは概念の定義を行う。  著者の理論のポイントでもある。

(1)概念の定義  企業の「自生能力」と「要素賦存」  「企業の自生能力」とは開放的で自由で競

  争的な市場の中で、正常に経営されている企業が、 外部の支援と保護がなくても、社会的に

  許容される正常な利潤を得る能力のこと。  

 開放的で競争的な市場では、企業が選択する技術は資本と労働の相対価格を示す等費用曲線

に依存する。 要素賦存構造によって蹴ってされる比較優位に合わない選択は、政府の保護と補助

金が 必要となり、企業の自生能力をなくしてしまう。

(2)比較優位に伴う発展戦略 -著者の理論のポイント-   

人為的に産業と技術の構造を高度化すると、既存の要素賦存構造によって決定される 比較優位

に反することになり、価格のゆがみと低効率をもたらしてしまう。 したがって産業構造と技術構造を

高度化し、効率を最大化するためには、その原因で ある要素賦存構造を変えなければならない。

 そのためには、各生産期間における余剰を増やし、資本として蓄積される余剰の割合を 高めるこ

とが必要である。また資本蓄積の割合が高ければ、要素賦存の高度化が早くなる。 超越戦略で

は、非常に短い期間に驚くべきスピードで投資資金を動員することができるが、 その反面、蓄積さ

れた資本は常に比較優位のない産業に投下されてしまう。 その結果経済は非効率的になり、長期

にわたって停滞する可能性がある。 重工業は都市に多くの雇用をもたらさないため、政府が都市

部における高い失業を さけるため、労働移動を制限し都市化が遅れるか、あるいは多くの途上国

の都市に 見られるような多量のスラムが現れる。 比較優位戦略が実施された場合、労働集約型

産業が推奨され、より多くの雇用を都市 住民だけでなく、農村からの出稼ぎ労働者にも提供するこ

とができる。


5.著者理論による中国分析事例

(1)農村改革と三農問題

土地改革は1949年から1952年の間に実施されたが、農業合作運動は1953年に始まった。

1959年~1961年までの3年間における農業危機の後、生産隊を採算単位とする新しいシステ

ムが1962年に始まり、1978年まで続いた。

1978年での農業発展の問題の総括を行い、これらを解決する政策を取った。

① 人為的に低く設定された買い付け価格は農民たちの労働意欲を低下させた。


② 農産物市場が廃止された後、農村部では自給自足の経済に逆戻りした。


③ 生産隊の規模は過大で、人々のやる気を損なった。


④ 専門的分業が欠如し、農業は大変非効率的であった。


(2)都市改革と残された問題

 1978年以降の改革は、放権譲利益(権限委譲、利益譲渡)局面と財産権明確化

 局面において、企業の経営自主権拡大から始め、労働者の働くインセンティブを高め、最終的

 には生産性を改善しようとした。企業は毎年国に一定額の利潤を上納し、超過部分については、

 国と企業の間で一定の比率で分配する請負制を導入した。

しかしこの請負制は一部の工場長や総経理に一見合法的な手段で個人的な利益を追求するよう

に誘導した。親戚や家族方法外な値段で原材料を調達する。

この漸進的な改革は大きな成果を上げてきた。

 第1に国有部門の総要素生産性は2.4%、非国有部門5.6%と比べて低いが、以前の0.5%よ

 りは上昇した。

 第2に工業における国有企業の割合は急速に低下した。1978年には3/4であったが、2000

 年には1/4に低下した。

 第3に、経済は開放された。1978年には外国貿易はGDPの9.9%であったが、2009年に

 は44.7%となった。1979年から2009年までの平均成長率は9.9%を達成した。


6.著者の提言

 (1) 金融改革

 80%の銀行融資が国有企業に行き、中小企業が融資難に陥っている。1983年に国が国有企

 業に対する財政資金の投入を中止したため、国有企業は補充金を得るため金融市場に依存

 し始めた。現在の発展段階において、中国の金融システムの効率性を向上させるために、比較

優位を持つ労働集約型産業、資金需要の少ない中小企業、有能でモラルハザードのない企業

家に資金を配分すべきである。これらの企業が最も必要なのが、中小の地方銀行や金融機関か

らの資金調達である。

以上ポイントを整理した。


中国経済は、要素賦存の比較優位に基づき、外部の技術を比較的安く取得しながら徐々に資本

型経済に成長発展してきていると説く。


2012年9月29日の週刊『東洋経済』では、著者は技術革新のため投資をすればあと20年は

8%成長が可能と書いており、また政府の役割を重視したこのモデルを「中国モデル」ではなく

日本、韓国を含めた「東アジアモデル」だとと述べている。

すべて結論が正しいとは思わないが、経済運営に直接役立つ経済学の息遣いのようなものが

感じられる書籍であった。







2012年5月6日日曜日

5つのマネジメントプロセス

マネジメントの現場で役立つ本に出会った。
書籍等で読んだトヨタの組織力・人材育成力や、一時期一緒に仕事を
することにより垣間見た住友銀行の人材育成の仕組みも、体系化すれ
ば、こうなのだろうと思える本であった。大変内容が濃いと思う。
マネジャーには大変役立つ本であることは言うまでもないが、
経営の現場での地味な実践がどのようなものであるかを知るために
も、コンサルタントや経営学者等もぜひ読むべき本であると思う。
著者の略歴を見ると、上記2社について関わりもあるようである。
私自身、マネジメントにおいて実施しつつあることが、体系的に
書いてある感じで、自分の頭を整理するためにも大変役立った。
『5つのマネジメント・プロセス』 二宮靖志著 である。


1.基本的考え方
「人は困難な仕事を経験しないと成長できない」
「実践の場や機会があってこそ真の実力(つまり成長)に繋がる。」
と厳しい仕事を成功させることにより人材は育つとの基本的認識から
スタートする。
企業が成長し、人ジアが成長するためには「仕事の変革」を続ける
仕組みと、「仕事の問題解決を通した人材育成」を継続する仕組み
を確立することが必要である。
マネジャーは、「一緒に取り組み、成功させる。成功するまで指導
を続ける。」ことが求められており、その中で「アサイン」は、
「どのような仕事」で「どのような経験を積んでもらうか。」
メンバーの「成長機会」に対するマネジャーの重要な意思決定で
ある。
会社の成長戦略とチームの目標達成、それに人の成長と育成ビジョン
を重ね合わせて考えることが必要と説く。
そのためには、「チームワークやモチベーション」以上に「競争と
格差の環境つくり」が必要と述べている。まったく同感である。
住友銀行やトヨタのようなしっかりした企業の特徴でもあるように
思う。

1.成長する組織を作るのに必要なこと
 マネジャーは現場最前線の経営者である、つまり「業績の構想」
「業績を上げる具体策を考えなければならない。
そのためには、業績の構造図(売上、購入価値、付加価値、人件費、
企業活動費、営業利益)をまず把握する。
業績の認識なくして、仕事の構造改革も仕事を通した人材育成も成立
しない。

10年先の人材を今から育てることに取り組むべきであり、その枠組み
がライバル会社に水をあける強みになり、会社成長の原動力になる。

マネジメントは、「目標達成」のために「経営資源を効果的、効率的
に活用することであるから、マネジャーは、
「仕事の構造化(構造転換)」と「人材育成(人が育つ環境つくり)」
に責任を持つことが必要である。

マネジャーは、行動要件として以下が求められる。
①目標を決める。
②期待を伝える。
③自ら動き、メンバーを動かす。
④仕事を通して人を育てる。
⑤ほめる、認める、報いる。

この5つのマネジメントプロセスをきちっと回すことが成長する組織、
強い組織を作ることといく。
個別論を順次見ていく。

2.5つのマネジメントプロセスの改革個別論

(1)マネジメント・プロセス改革1:変革を生み出し目標設定
①業績の傾向をつかみ、仕事の変革を考える
未来軸で業績向上を考える。仕事の変革をチームの目標とする。
②自分で考えなければ経営計画は理解できない。
マネジャーが会社方針を自問自答
③経営計画を「逆読み」する。
経営層が作成する経営計画を熟読し、なぜこの計画なのか、
その背景には何があるのか、さらにはその先には何が実現した
いのかを考える。
④現状、到達目標、プロセスと時間軸で考える。
3年後の到達点、1年後の到達点
⑤目標設定は「定性が先、定量が後」
言葉で「死後のありたい姿」その上で定量目標を設定する。

(2)マネジメント・プロセス改革2:成長課題を一人ひとりに
                 展開する。
①成長の期待を組織図に書き込む
組織図の裏側にはミッションがある。一段高い課題を伝える。
②仕事の理由は現場にある。
現場を歩く感覚はマネジャーの必須条件。社外の顧客ニーズ
を拾って歩く。マネジャーは部門連携の要。
③ロジックツリーで会社の成長と個人の目標をシンクロさせる。
業績向上と組織能力向上を連携させる。
原因追求ロジックツリー、方策立案ロジックツリー
行動変革のイメージ作りが必要で、そのためにマネジャー自身
は、事前に会社成長の構想を練り、優先順位をつけた重点施策
のイメージを持つ。
ロジカルな連鎖の中で課題を発見する。
意見を対流させ、ロジックツリー検討会を充実させる。
④業績向上に対する厳しい認識の上に立つ
 会社の成長を基準とするマネジャーの判断
 定性的課題は将来の業績向上が見えなければ×判定する。
 チームと会社をシンクロさせるマネジャーの責任
(3)マネジメント・プロセス改革:実行徹底のためのPDCA
                の仕組み
①PDCAは続けてこそ意義がある、
特にCAの部分において、マネジャーがメンバーとコミュニ
ケーションをとりながら仕事の成功に向けて指導する
部下発信の「報・連・相」、上司発信の「PDCA」
②PDCAの仕組みと勘どころ
 ・方針の解釈
  会社の方針を経営者のスタンスで再考する。
 ・目標を決める
  現状に対する課題認識を持ち、ゴールを決める。
 ・期待を伝える
  討議を重ね、目標に対する理解を深める。
 ・四半期計画
  時間を区切り、具体策を計画する。
 ・月次計画
  計画を実行に移す執着心を引き出す。
 ・スケジュール帳
  仕事の着手日、納期等を書き込む。
 ・2週間レビュー
  行き詰まっている悩みや、一人では解決でき
  ない問題点を吸い上げ、解決策をともに考える。
 ・月次レビュー
  取り組みの結果を自己判定する。
 ・四半期レビュー
  成果にこだわり、仕事を振り返る。
 ・年間レビュー 
  メンバーが主体的に、自分の仕事を振り返り、
  成功と失敗の理由を考え、翌年の活動計画に
  反映する。

  一対一面談だけでなくチーム討議を充実させる

(4)マネジメント・プロセス改革:チームで人を育てる。
①人の強みで業績を上げる、業績を上げる仕事で人を
 育てる
 人の判定ではなく、人の成長をひたすら追う。
 人の強みと弱みを知る。
②過去形の評価から未来形の育成へ
 人材育成会議の効果
 キャリア形成を重視、マネジャー同士が検証し学習
 する場、上司が決めたアサインも検証
 上司が部下の評価をプレゼン(仕事、指導、取り組み、
 成果)
 会議体で評価ランク、フィードバック内容を確定
 成長課題(新しい経験、開発能力の討議)

(5)マネジメント・プロセス改革:成長のカンフル剤
 褒めて、認めて、報いる仕組みが必要。
 昇格にも競争原理を入れる。これは組織活力の源泉
 マネジャーの目線で見る人事制度とは人の活用を考え、
 仕事に対する人の
 意識を切り替えるためのマネジメントツールと考える。
 評価は指導そのものであり、毎日の部下との接点に
 仕事に対する指導の積み重ねがあってこそ、評価は
 成り立つ。


きちっとした会社、職場ではできていることだと思うが、
ここまで体系化されたものは今までにないのではないの
ではないだろうか。
学術的でもなく、現場のハウツーでもない、実際に会社を
経営していく、職場を運営していくためが読むべき書籍だ
と思う。経営の厳しさを体感されたこのようなコンサル
タントがおられることにも驚いた。


             以上

2012年5月4日金曜日

模倣の経営学

ビジネスモデルのイノベーションに関心をもっていたところ、
わかりやすく、面白い本に出会ったので、読書ノートを書く。
ビジネスモデルのイノベーションについて考えるためには
わかりやすく本質を考えるために大変有益な本である。



この著者は、以前『収益エンジンの論理』という本を書かれて
おり、興味深く読んだ記憶がある。



まず、成功した企業の影には、仕組み・ビジネスモデルを他社
から模倣していることがあると説く。
クロネコヤマトは、メニューを絞り込むことを吉野屋から、
配送密度・方式をUPSから、サービスの標準化・商品化を
ジャルパックから、それぞれ模倣し独自のビジネス モデルを
創造した。
スターバックスは、ヨーロッパのカフェから「くつろぎと交流
の場」を提供することを 模倣したが、文化の違いからイタリア
の音楽やバリスタは途中で変更し、従業員との信頼関係
( パータタイマーへの社会保険の適用、教育 ) をベースとし
た直営展開のビジネスモデルを展開した。
それに対し、ドトールコーフィーは、同じようにヨーロッパの
カフェーを模倣したが、「健康的で明るく老若男女とみに楽し
める店」のコンセプトで「低価格・高回転」のビジネスモデル
を展開した。

1 . 模倣するための枠組み
模倣するために、ビジネスモデルを以下の枠組み ( P-VAR )
で分析・整理する。
①ポジションのとり方 ( Position )
競合ポジション、顧客セグメント
②提供している顧客価値 ( Value )
価値提案 ( 顧客が評価するもの )
③課金の仕組み
④主要業務の活動 ( Activity )
鍵となる活動、成長エンジン、収益エンジン
⑤鍵となる経営資源 ( Resource )
鍵となる経営資源、チャネル、顧客との関係性、パートナーシップ

2 . 事業創造・変革の5ステップ
P-VARの枠組みを活用し、以下のステップで模倣し、新しい事業
モデルへ発展させる。
①自社の現状を分析する。
②参照モデルを選ぶ。
③あるべき姿の青写真を描く。
④現状とのギャップを逆算する。
⑤変革を実行する。

3 . 「守・破・離」
(1) 学ぶべき対象
①社外の成功 ( 単純模倣 )
ラインエアはサウスウエスト航空のLCCモデルを模倣。
②社外の失敗 ( 反面教師 )
グラミング銀行は大手銀行の一度に相応の額を貸付、
まとまった形で返済させるモデルを反面教師とし、
女性を対象に一回一回の返済額を小額にしたビジネスモデル
を創出した。
③社内の成功 ( 横展開 )
ジョンソン&ジョンソンは、医療用器具の使い捨てモデルから、
使い捨てモデルのコンタクト ( アキュビュー ) のビジネス
モデルを展開。
③社内の失敗 ( 自己否定 )
オークランドアスレチックは、「貧すれば窮す」の状態から
「安く勝利する」ための方法を考えた。
具体的には、けが人や年齢が高いというワケありの選手、
見栄えがパットしない選手でもデータの裏づけが あれば採用し、
実績を上げた。

(2) 守・破・離
まず徹底的に倣い、その上で「お手本」の教えを破り、しかる後
に自らのモデルを 確立する。

4.創造的模倣の手法
模倣の目的によって作法は異なる。
この本での主張は仕組みレベルでのイノベーションの必要性である
が、参考のため、 製品・サービスレベルでの模倣についてまずは
以下に述べる。
(1)製品・サービスの模倣
競争への対応を目的にする模倣であり、同業で成功した企業の動き
をそのまま模倣する。攻めの姿勢で競争相手を模倣する迅速追随模
倣と他社の成功や失敗を見届けた 上で、圧倒的な経営資源で先行者
を追い越す後発優位模倣とがある。 さらに、相手を優位に立たせて
はならない「負けないための模倣」同質化がある。
(2)イノベーションのための模倣の作法
①大きな潮流を見極めて対象を選ぶ。 ( 業界 )
②対象に棲みこむことで模倣する部分が分かる。 ( 対象 )
③経験を積み、常に意識していれば、一部をみて全体が分かる。 ( 自分 )

組織認識論

久しぶりにきちっとした本を読んだ。
神戸大学の経営学部 (出身含む) の先生が書かれた本に最近よく
出くわす。
特にモチべーションや個人と組織の関係、ビジネスモデルの領域で
神戸大学経営学の先生方が独創性 ある研究をされているように思う。

今日は加護野忠男教授の『組織認識論』
(企業における創造と革新の研究)を読んだので、それの読書
ノートを書く。1988年に出版された本だが、今読んでも内容
的には全く古くない。
1988年は加護野さんが教授になられた年でもあるようなので、
加護野教授の主要な著作の一つでもあると推察される。




この著作のテーマは以下のように要約できる。
現実の組織を経営する際に行われる決定や判断、経営の実践を
支えている知識の体系を「日常の理論」と定義し、この
「日常の理論」が組織のなかでどのような役割を果たしている
か、それが経営の実践といかに 結びついているか、
「日常の理論」がいかにして変化し発展するのかを 解明する
ことである。

1.組織論に関する他の学説
(1)コンティンジェンシー理論
組織を、物質・エネルギー・情報などの外界からのインプットを、
一定の技術を元に、有用な材あるいはサービスなどのアウトプット
に変換する変換システムと捕らえる。
コンティンジェンシーの理論は以下の特徴を持つ。
①相対主義
環境、技術、規模など、条件が変われば、最適な組織構造は異なる。
②機能主義と客観的な結果の重視
ある組織構造や組織過程がどのような意図で生み出されたかでは
なく、それらが、重要な機能をどの程度果たすことが できるか
という側面を重視。
③全体論的な視点
組織には、個人や集団のレベルには存在しない全体としての組織の
レベルに固有の法則が存在する。
④静学的な比較分析
組織の変動はあくまで諸力の変化に対応した受動的なものと認識し、
環境が変わった場合、どのような組織編制に変わるかを比較する
ことを重視した。
⑤中範囲の理論と実証主義
壮大な一般理論ではなく、中範囲の命題の蓄積によって、より豊
かな理論が築けることを志向した。

(2)ポスト・コンティンジェンシー理論
コンティンジェンシー理論で見過ごされている以下のことを
再発見した。
①組織の慣性力
環境の変化、戦略の変化に対応して変わるはずの組織行動
が変わらずに旧来の行動パターンが継続される。

(3)社会学の観点
○行為は社会的現実を規定する意味から派生する。
○意味は人々によって社会に対して与えられるものである。
○人間行為理解のためには、関与者が行為に対して付与した
意味を理解しなければならない。

(4)心理学の観点
○個人の行動、小集団の鼓動、集団間の行動という重要な
構成要素についての分析を欠いた組織全体になりたつ創発
的な法則は無意味である。

(5)社会学・心理学からの観点の意義と限界
(1)意味の重要性
人々は情報に対して反応するのではなく、情報から引き
出される意味に基づいて 行為し、自らの行為自体に意味
を付与する。
(2)「日常の理論」が学習を通じてあるいは相互作用を
通じて発展
(3)「日常の理論」が人々の間で共有される。
これらの理論の限界は、「日常の理論」つまり人々の体
系化された実践的知識が組織の中で占める本当の重要性
に気付かなかったことである。

2 組織認識論の全体
組織認識論は、組織における人々の知識の利用と獲得の
プロセスに焦点を合わせ、組織現象を照射 する。
①認識の概念
「知識の利用と獲得過程としての認識」と定義する。
②意味の決定
情報の解釈つまり意味決定は、受け取られた情報
(フローの情報) を取捨選択し、それを記憶の中に蓄積
された情報 (ストックの情報) と結びつけることによっ
て行われる。

組織認識論のまとめ
◇人間は、情報ではなく、意味に反応。
◇意味の決定は、取り入れられた情報と記憶の中にある
素材情報を選択的に連結することに よって行われる。
◇人間は外界を理解するためにスキーマをもっている。
スキーマは緩やかに体制化されており、その集合体が
「日常の理論」である。
◇人間の中に蓄積された情報は、連結の素材としての
情報 (素材) とそれを連結するための情報 ( 連結 )
の2種類に分類される。
◇意味決定は、受け取られた除法と記憶された素材情報
と連結情報を元に行われる。スキーマは連結情報である。
◇人間は情報の受動的な受け手ではなく、情報の能動的
な探索者である。情報の探索は、スキーマに よって影響
される。
◇スキーマは情報処理の負荷を軽減する。注意の焦点を
絞り、推論や問題解決を促進する。 社会についての予測
可能性を高めるなどの機能をもつが、他方では、過度の
単純化、新しい情報の取り込みを阻害する等の逆機能を
もつ。
◇社会集団のなかで、スキーマの共有が起こる。
◇社会的な現実は人々の知識を通じて作り出されるが、
人々はそれを、物理的な現象と同じような 客観的現実
とみなす。
◇社会的な現実はひとびとの相互作用によって維持される。
◇ひとびとは、行為を通じて意味を表現するが、行為は
意図された意味の伝達以上の情報を含んでいる。
情報→意味→行為は緩やかに結びついている。
◇人々の問題解決は、コンピュータに見られる形式論理
からは系統的に逸脱する。
人間の問題解決は文脈 と集団の雰囲気に影響される。
個人の中に蓄積された連結情報 (スキーマ) は、変化
に抵抗するという頑強性をもっている。既存のスキーマ
に合致した学習よりも、スキーマの変革を伴うような
学習のほうが難しい。

( 私的コメント )
個々人の認識・意味付与の集合体である組織の認識・
意味付与が、個人から離れて自己増殖し、逆に個人の
認識・意味付与を逆に規定するダイナミズは大変面白い。

3.組織における認識とパラダイム (1)
(1)日常の理論、スキーマ、パラダイムの関係
体系化された実践的知識としての日常の理論は、スキーマ
の集合体。
組織のパラダイムとは、日常の理論の適用を助け、その
発展を促す地の方法としてのメタファーの集合体。
パラダイムは、日常の理論の中に具体化され、日常の理論
によってその妥当性が確証される。日常の理論はパラダ
イムによって正当化され、パラダイムにしたがって発展
する。 パラダイムは、見本例と組み合わされることに
よって、ひとびとの意味の発見と伝達、問題の発見と解決、
新たな日常の累積的な発展を可能とする。
パラダイムは、日常の理論の利用を促進する「知の編成原理」
その発展をもたらす「知の方法」としての性質をもっている。
日常の理論は、パラダイムに従って体制化され、それに基
づいて発展する。

(2)パラダイムと組織の動学
パラダイムは、環境あるいは、条件が変化したにも関わらず、
企業の行動が変わらず、不適応を起こす。これを組織の慣性
とも言われてきた。
パラダイムの頑強性は、以下の理由により現れる。
①情報のフィルター
予見の変化を示唆する情報が無視される。パラダイムと合致
する都合のよい情報だけを取り入れたり、仮に適切な情報が
取り入れられたとしても、そこから適切な意味が引き出され
ない事態が起こる。
②共約不可能性
パラダイムは、不確定な信念である日常の理論を正当化する
という機能を果たしている。 しかし、その機能は、他面では、
既存のパラダイムに対する盲目的な確信を作る出すことがある。
とりわけ、パラダイムがもたらした過去の成功が大きければ大
きいほど、パラダイムに対する確信も強まる。パラダイムを越
えた対話は難しく ( 共約不可能性 ) 、パラダイム間のデータ
による論理的な説得が通用しないということは、政治的プロセ
スが付きまとうことを意味している。
③発展性
パラダイムの頑強さは、パラダイムがもつ発展性それ自体から
生み出される。
既存のパラダイムの枠内 でも、日常の理論は発展しつづける。
パラダイムは問題解決の能力を持ち続けるが、代替パラダイム
の下で得られた解決策よりも劣るがゆえに、問題をもたらし、
問題を大きくしてしまう。
パラダイムの 発展性そのものが、発展性を阻害する。

パラダイムの頑強性がもたらすマイナスの結果は、パラダイム
のプラス機能の裏返しでもある。 情報のフィルターとして組織
が情報過多に陥るのを防ぐというパラダイムの機能が組織を盲目
にし、日常の理論やそれを元に策定される戦略に正当性と納得性
を与えるという機能が盲信という結果を生み出し、日常の理論の
累積的な発展を可能にするという機能が企業の発展を阻害する
のである。とりわけ過去の成功が 大きく、それゆえパラダイム
に対する確信が大きい企業ほど、この傾向は顕著になる。

4.パラダイムの創造
スカイラーク、ファルマ、ワールド、アート引越しセンター
を事例として取り上げ、事業開拓のパラダイム創造の特徴を
述べる。
◇パラダイム創造は、行為→情報→意味のサイクルの反復
からなる連続的なプロセスである。
◇パラダイム創造の過程では、通常は固定しがちなサイ
クルが流動化する。
◇パラダイム創造は非線形的な試行錯誤的過程であり、
そこで行われる能動的な行為が、サイクルの開放化に
貢献する。
◇理論の新しい連結は、通常の連結では解消できない
問題に直面したときに起こる。
◇新しい連結が連続して起こるには、きっかけとなる
連結が存在し、それが他の連結を促進する。
このような 連結をレバレッジ・ポイントという。
◇新しい連結の過程は不安定であり、その状態を
乗り来るには、高度の心理的エネルギーが必要である。

企業家的な創造プロセスは、認識サイクルの流動化
のプロセスであり、それを実現するためには、以下が必要。
①能動的な行為:行為→情報の結びつきを流動化させる。
②テンション:情報→意味の結びつきを流動化させる。

5.パラダイムの革新
パラダイム転換は、以下の理由により困難となる。
①意味の固定化
情報を取り入れるプロセスでのフィルターとこれらの
情報を連結・分離し、意味を引き出すプロセスでの
フィルターの機能が働く。
②内面化
パラダイムが人々の内部に内面化される。
パラダイムは、概念化できない
知識、暗黙知によって支えられている。教育や訓練
だけでは変えることができず、暗黙知の源泉となって
いる日常の仕事や行為そのものの革新が必要。
③代替パラダイムの困難性
リスクへの調整の必要性を説くだけでなく、リスク
への挑戦が実際に成果を生むということを分からせる
具体的な成功例が必要だが、容易ではない。
④共約不可能性
古いパラダイムが通用しなくなったということを人々
に説得するにはデータだけでは不十分である。たとえ
新しいパラダイムが提示されたとしても、
異なったパラダイム間の対話は困難である。
(共約不可能性)
⑤集団圧力
集団の中には、その集団の規範やそれを支える
パラダイムを維持し、そこからの逸脱を抑制しよう
という 圧力が働く。
(6)政治的プロセス
パラダイムは共約不可能性の特徴を持っているので、
どのパラダイムが支配的なものになるかは、組織
内部の政治プロセスに依存している。

6.企業革新の3つのモデルとパラダイム転換
(1)3つのモデル
①戦略的企業革新:トップ主導で意識革新、企業
革新を進めていくモデル。
②進化論モデル :ミドルの双発的な変化を取り
込み、それを累積することにより意識改革と
企業改革を行うモデル。
③組織開発 :チェンジ・エージエントによる
介入を通じて、人々の態度を変容させるモデル

パラダイム展開は、上記の3つでは難しい。
成功事例として、シャープ、住友銀行の事例を
取り上げ、成功モデル を抽出する。
①トップは、新しいパラダイムの創造には、
直接関与しない。
②トップは、その権力を用いて、新しいパラ
ダイムの創造者を発掘・育成し、
その活動を組織内の政治過程から 防衛隔離し、
その活動に正当性を与える役割を果たしている。
③トップは、ミドル・レベルの創造的な活動が、
パラダイム転換を促進する条件づくりも行って
いる。
④実際のパラダイム創造の中心はミドルの管理職
が担っている。

大変長い読書ノートとなってしまったが、かなり
正確にノート化した。
後半の著者独自のモデルに行動経済学等の観点が
取り入れられればと思う。
私自身は、そちらの発展に関して関心を持っている。

2012年4月3日火曜日

意思決定のバイアス

組織の意思決定に関心をもっている。
『組織認識論』加護野忠男著をやっと読み終えた。
この書籍の読書ノートは別途作成する。
組織認識をパラダイム論で述べており、認識のバイアス、
情報から意味解釈のバイアスを作るのがパラダイムと
言っている。またこのパラダイムがあるので、認識を効率的に
行え、意味抽出が効率的に行えるともいう。
大変参考になった書籍なのできちっと読書ノートを作りたい。
『活動行動意思決定論』(ベイザーマン/ムーア著)を読み始めた。
その前に行動経済学の意思決定のバイアスの例を整理しようと
WEBを見ていたら大変よくまとまったものが見つかったので、
ノートとさせていただく。著者が分からないが、勝手に引用
させて頂く。

0.われわれは、直観や経験則といった判断のための近道
(ヒューリスティックス)を用いて意思決定していることが多い。
 無意識に用いていることが多いヒューリスティックスを改めて
 意識し、それがどのような副作用(バイアス=歪み)をもたら
 す可能性をもっているかを検討する。

1.利用可能性ヒューリスティックス
 思い出しやすい事例を参照して判断しようとするヒューリ
 スティックス
  
 思い出しやすい事例のあるものごとの方が、事例が思い出し
 にくいものごとよりも より多く(大きく)判断される


2.ヒューリスティックスの妥当性
 発生頻度が高かった⇒記憶に残りやすい
              ↓
 利用可能性ヒューリスティックスはそれなりに妥当性をもつ
 だが、人間の記憶は過去の発生頻度以外のものにも影響される
  →バイアスとしてはたらく可能性

3.利用可能性への影響要因
(a)近接性・近時性・具体性に基づくインパクトの強さ
  =想起可能性

(b)情報の検索しやすさ、捉えやすさ
  =検索可能性

4.アンカリング・ヒューリスティックス
 最初に入手した情報を基点(アンカー)にして、それに
 修正を行うことで判断しようとするヒューリスティックス

 パーフェクトな情報収集ができないのだから、何らかの情報
 を基準(アンカー)としながら 判断するのは自然

5.ヒューリスティックスの危険性
 修正の範囲が限定される傾向が強い
 ⇒最初に基準とした情報(アンカー)の正確性や妥当性に
  よって、判断が左右される

  知識をもたない領域や不慣れな事柄では、アンカリング・
  ヒューリスティックスがバイアスを生み出す危険が高い

6.代表性ヒューリスティックス
 AがBに属しているかどうかを考えるときに、Aの特徴が
 Bの典型的な特徴をどの程度反映したものであるかによって
 判断しようとするヒューリスティックス

 AがBに属しているなら、Bの典型的な特徴を備えている
 ことも多い
  →正しく機能することも多い

7.ヒューリスティックスの危険性
 ステレオタイプへの類似にばかり注目すると、落とし穴
 にはまることもある

 (a)ベースレート(基準率)の軽視
 (b)サンプルサイズの軽視
 (c)連言錯誤

8.連言錯誤
 制約条件の少ない方が、制約の多い方(連言事象)よりも
 起こりうる確率が高いにもかかわらず、制約条件の組み合
 わせのなかにストーリー性(因果的説明)を見いだすことで、
 前者よりも後者の起こる確率を高く見積もってしまうこと

9.典型的ヒューリスティックスの まとめ
 (a)利用可能性ヒューリスティックス
  =想起可能性などを頼りにした判断
 (b)アンカリング・ヒューリスティックス
  =初期情報をアンカーとした判断
 (c)代表性ヒューリスティックス
  =ステレオタイプを頼りにした判断
 どのヒューリスティックスもそれなりに妥当性をもち、
 スピーディな意思決定の実現に寄与している。
 しかし、いずれも誤った判断に導く可能性がある。
  ⇒よりより意思決定を行うためには、それぞれのヒューリ
   スティックスの落とし穴をよく自覚することが重要となる。

以上
大変よくまとまっており、組織の意思決定のバイアスを理解する
定理のようなものの感じである。
組織に属する個々人が上記のようなバイアスを持った時に、
影響力のある組織上位者を含めた組織としての意思決定がどう
なるかに大変関心をもっている。

2012年3月30日金曜日

ユーザエクスペリエンスバリュー

ゲーミフィケーションを題材にあるコラムを書こうとして、
論理展開していたら、今のITに求められているのは、
ITを使っている時の楽しさ、その時間の価値を高く
することではないかとの結論に達した。

そのコラムは、一般向けには面白くないだろうとのことで
没にしたので、その論拠を少し参考のために残しておく。

1.論理1:「クラウド」⇒「BYOD」⇒「ユーザエクスペリエンスバリュー」

クラウドが進展すると、データ等はDCにあるので、利用者は一つの端末
からいろんな処理を行いたくなる。セキュリティの問題さえ解決できれば
私物のタブレッット、スマホからそこにアクセスしたくなる。
このBYOD「Bring Your Own Device」は自然
の流れだと思う。
利用者は、プライベートで使っているコンシューマ向けのシステム
(たとえばGoogle、Facebook)と同様の使い勝手を、
会社の業務システム(はじめはワークフロー・BIからスタートするが
徐々にCRM、販売管理等へも発展)にも同等の高い操作性を要求するように
なる。
既に製薬企業のMRが使うシステムは、操作性が勝負となっている。

今後求められる操作性は、業務個別の流れではなく、利用する場面で
どのように情報を取得活用できるか、さらにはシステムを使って個人
がどれだけの効用(快適性、有用性等)(ユーザエクシペリエンスバリュー)
を得られるかが重要になってくる。
「ITを活用した業務」を設計する場合には、このような観点が今後
必須になると思う。

2.論理2: 「GAMIFICATION」
           ⊂「ユーザエクスペリエンスバリュー」
この「ユーザエクスペリエンスバリュー」という言葉は、マーケッティング
で活用される「経験価値」と同じ概念で、商品やサービスそのものの価値で
はなく、実際に顧客がそれらを利用した経験によって得られる価値、すな
わち満足や効用を表す。システムを操作(利用)することによって効用(ユーザエ
クスペリエンスバリュー)を得るということを実現するには、操作して得られる
情報が有益で楽しいだけでなく、操作することに何か楽しさが必要ではないか
と思う。その操作することに楽しさを作る出すのが、GAMIFICATION
の考え方ではないだろうか。
GAMIFICATIONからの知見で、はまるゲームは以下の特徴を持つという。

①徐々に鍵を開ける(アンロック)感じのように難易度を徐々に上
 げて、ほどよい挑戦の感覚を作る。
②達成度合いのフィードバックを短く、明示的にする。フィード
 バックに音楽や映像を活用する。
③達成度合いに応じて認定する。バッジ等を与える。
④やや難しい状況とやや簡単な状況を交互に繰り返すルーティン
 を入れる。
⑤競争相手の状況や競争状況(ランキング等)をタイムリーにフィ
 ードバックする。
学習やマネジメントにもかなり適用できる考えで、なるほどと思う。

ユーザエクスペリエンスバリューを上げるためには、具体的には
上記のような考えを取り入れていくことが大変有用と思う。

コンシューマが利用するシステムでは、大変わかりやすいが、今後の
ビジネスシステムにも求められる考えである。ビジネスシステムの
場合、BIですでに一部提供されているように、見るべき情報を
本人の解明向上心を刺激しながらコンテンツをナビゲートしていく
ことようなことが考えられる。

人間の意思決定の領域がバーチャルの世界で大きくなってきており、
人間の心理に対する知見が今後ますます求めれるものと思う。
また、ログが残るのでBIG DATAで定量的な検証も容易に
できるようになる。
その参考書として以下を利用している。

2012年3月16日金曜日

ゲーミフィケーション

人は何を求めて行動するのか、その前提となる意思決定の
メカニズムはどうなっているのかについて最近関心を持っ
ている。経済学では行動経済学や経済心理学といわれる
領域である。
現在の情報社会においては、多くの人は、リアル空間
での行動だけでなく、サイバー空間での行動・意思決定
が多くなってきている。そのサイバー空間で行動・意思
決定の傾向性がよく出るものがゲーム、最近は特にソーシ
アルゲームであり、人間を引き込む知見も蓄積されてきて
いる。
企業情報システムにおいても、スマートホン・タブレット
の普及により、利用場面が日とがるとともに、定型的な
システム利用だけでなく、営業系の情報システムと情報系
の情報システムに画像を多量に活用したインタラクティブ
なユーザエクスペリエンスが求められるようになってきている。
2011年8月に、ITの調査会社であるガートナー社が、
今後注目すべき技術として「ゲーミフケーション」を挙げた。
ゲーミフケーションとは「ゲームの考え方はデザイン・メカ
ニクスなどの要素を、ゲーム以外の社会的な活動やサービス
に利用することと定義している。

上記の背景で、
『ゲーミフィケーション「ゲームがビジネスを変える」』
を読んだ。

まずは参考になるところのみ読書ノートとして残しておく。
今後ゲーミフィケーションの人を引き込むTIPSを、行動
経済学のフレームワークで整理して行きたいと思っている。

1. ゲーミフィケーションの実戦
(STEP1):着想
着想をする観点は、以下の2つの場合に分けられる。
① すでに存在している顧客等の行動に、関係性の強化のため
  ゲーミフィケーションの視点を追加する。
② ゲーミフィケーションの視点で顧客等を引き込む仕組みを
  考え、それを活用した新しいビジネスモデルを考える。

前者である①で考えていく場合、以下に留意する。
◇顧客との関係性強化、サービスの継続性をあげるにはどうするか。
◇フィードバックバックをより明示的にできる活動があるか。
 またそのフィードバックはコンピュータによって自動的に応答
 を帰すことができるか。
 定量的に計測することが可能な仕組みはあるか。


◇ハマル行動の分析
 顧客とのインタラクションのプロセスを分解し、お客様がハマル
 行動を分析する。

後者である②で考えていく場合、以下に留意する。
ゲーミフィケーションを活用した新しいビジネスモデルとして、
バッジヴィル社やフォースクエアなどの企業がある。
バッジヴィル社や位置情報サービスのフォースクエア社がる。
◇技術の変化:センサの低コスト化、スマートフォンの性能向上に
 着目する。
◇ルールを改良する:
◇ルールを融合する
◇ビジネスモデルから考える

(STEP2):作り上げる
以下の手順で作り上げる。
①プレイヤが、ゲームを楽しむ順序の設計をする。以下に留意。
◇アンロック:かけられた鍵をひとつづつ開錠していく。
       順序を追ってできることや情報が提示されること
       により、プレイヤーは何をすればいいかを迷うこと
       なくゲームを楽しむことができる。
       しかも「義務」ではなく「獲得」として演出する
       ことにより、プレイヤーは徐々に自分が強くなって
       いったかのような感覚を持つ。
◇ レベルデザイン:プレイヤーの自発性を損なわずにゲームの
       難易度を上げていく。
    ・ゲームのメカニクスを設計する。
     MDA(メカニクス、ダイナミクス、エスセテッィクス)
    ・ランキングの導入
    ランキングは、その表示する範囲を狭めたり、広めたり
    することで大きく役割を変える。
    ・ お金の力を持ち込む。
    ・クイズを出題する。
    ・強制する。

ゲーミフィケーションの様々な手法を整理すると以下のとおり。
<1>ほどよい挑戦の感覚を作るしくみ
  ◇アンロック、◇レベルデザイン、◇難易度の自動調整
<2>フィードバックをより強く演出する仕組み
  ◇フィードバックを短くする、◇フィードバックの明示化、
  ◇錯覚的演出
<3>フィードバックのバリエーション
  ◇緩急効果:やや難しい状況とやや簡単な状況を交互に繰
   り返す仕組み
  ◇音楽や映像のバリエーションの追加
<4>イベントの開催
  ◇定期的に時期限定イベントの開催
<5>メカニクスの調整
  ◇「ズル」の応用、「ズル」の阻止

<STEP3> 洗練


以上

社会の仕組みやマネジメントの中にゲーミフィケーションの考えを
取り込んでいけば、いやいややることに面白みを追加できるように
思う。
行動経済学の考え方にゲーミフィケーションの考え方をミックスすれば
本当に現実的なマネジメントの仕組みを作ることができるように思う。

2012年2月12日日曜日

モバイルパワーの衝撃

IT業界にいると、スマートホン、タブレットが企業の情報シス
テムに今後大きな影響を与えることを肌で感じる。
固定利用でのクラウドは初期コストと運用コストしかメリットは
なかったが、モバイル端末での利用によってユビキタス性のメリット
が明確になる、利用者もサービスの利便性を享受できるようになった。
今後は、キャリアが、スマートホンやタブレットを提供していくこと
となり、通信サービスの提供だけでなく、ITサービスの提供者に
なっていく。
その状況をタイムリーに整理した以下の書籍が出版された。
『モバイルパワーの衝撃』(スマートフォン時代の事業モデル革命)


1.モバイルが持つ五つの特性
  ①本人性
  ②常時性
   常に保有していること。
  ③位置の特定性
  ④ネットワーク性
  ⑤リアルへの拡張性
   リアルへの拡張性は、携帯電話を通じてインターネットの世界
   とリアルの世界がつながることを言っており、電子マネーや電子
   クーポン、乗車券への活用のことを言っている。

2.モバイルパワー
  モバイルが持つ上記の五つの特性の特性により、ビジネスに以下
  のパワーが発揮出るという。
  ①個客の見える化
   携帯電話の本人性、常磁性、位置の特定性により、商品・サービ
   スの消費者は誰なのかを把握するコストが飛躍的に低下し、個を
   特定した新しい事業モデルが可能となった。
   (例)マクドナルドの携帯電話で受け取るクーポンサービス。
    日本マクドナルドの原田社長によると、携帯電話のクーポンに
    より、リアルタイム・ビジネストラッキイング/ナビゲーション
    が可能になったとのこと。紙のクーポンに比べ、対象顧客の明
    確化、タイムリーな割引対象商品の決定、デリバリスピードの
    向上、印刷コストの削減が可能となった。
    さらに、接客のスピードアップは、売上貢献が大きい。
  ②個客ニーズの顕在化
   携帯電話の本人性、常時性、ネットワーク性を利用することに
   よって、顧客が何を欲しがっているかを把握するコストが飛躍的
   に低下した。
    (例)クックパッドのハイパーコミュニティ
     レシピを公開・共有することで、日々の献立に役立てる。
     (月額294円)だけでなく、メーカにも情報を公開。
     モバイル・タブレット活用により、より現場で近い情報や
     写真がアップされるようになった。 
  ③商品・サービスのマイクロ化
   携帯の本人性、常時性、ネットワーク性により、モノやサービス
   を販売する固定費、流通費が縮小され、その結果、商品・サービス
   を小分けして提供することが可能となった。消費者が欲する最適な
   単位でモノを売ることができる。   
    (例)保険業界のマイクロ化商品「ドコモワンタイム保険」
       ゴルフや海外旅行時にその前に入会する。
       GPS機能により、ゴルフ場のクラブハウスに近づくと
       案内メールが送られてくる。また支払いは、ケータイの
       毎月の請求と一緒に落とされる。
      東京海上日動火災保険の家中副社長(当時)によると、
      少額の保険は手続きの面、保険料徴収の麺から難しかったが、
      携帯からの申し込み、携帯電話料金と一緒に保険料を徴収と
      いうことによりその問題を解決できたとのこと。
 
  ④商品・サービス提供の適時化
   携帯電話の本人性、常時性、位置の特定性により、サービス提供者
   が提供する商品・サービスに関する情報提供コストが下がり、タイ
   ミングに対する自由度が大幅に向上した。商品・サービスの訴求を
   最適なタイミングで実施し、そのまま購買につなげることが可能と
   なる。
    (例)iコンシェル、ローソンのデジタルサイネージ
      「今割引をしています」「いまパンが焼きあがりました」、
      「今なら席が空いています」というような「旬な情報を旬な
       タイミングで提供」
     ローソンの新浪社長によると、クーポンの活用や店舗のメデイア
     化で携帯電話が、CRMのツールになると言う。コンビニが店舗
     で売るものは、将来的に、携帯で買えないもの、生鮮食料品に
     なっていくという。 
     イオンマーケッテイングの小賀社長によると、携帯を利用して
     ワントーワンのCRMを実現していき、ネットビジネスへの展開
     も計画しているとのこと。 

  ⑤商品・サービス提供チャネルのポータブル化
   決済や送金などの購入プロセスをモバイルでできる(ユビキタス)
   ようになった。 
    (例)モバイルSUICA
     SUICAの基本機能である自動改札のタッチ&ゴーやショッ
     ピング機能に加えて、新幹線のチケットレスサービスが使える。
     利用履歴の参照も可能。
     ANAのスキップサービスでは、携帯から予約するとチエック
     インカウンタに並ぶことなく、リーダライターにケータイを
     タッチするだけで、チエックインが完了する。
     みずほ銀行との協業による「ドコモケータイ送金」がある。
     ドコモのユーザ同士であれば携帯電話の番号で送金が可能と
     なる。送った金額は送金者の携帯料金と一緒に請求される。
     受け取る側は、銀行口座に振り込むか、携帯料金に充当
     するか選択することができる。
     JR東日本の椎橋副本部長によると、SUICA利用の拡大
     により、自動改札機のメンテナンスコストの削減をはじめと
     した効果は増大している。
     モバイルSUICAにより、表示機能とチャージ、定期券購入
     が可能となり、さらにGPSと連動して位置情報を把握し、
     降車駅の改札を出たら、周辺の飲食店情報やおすすめ情報を
     携帯へ送る「SUICAマーケッテイング」も可能になると
     言う。
     みずほ銀行の斉藤常務によると、携帯は、店舗窓口、ATM、
     インターネットバンキングと並ぶ「第四のチャネル」と位置
     付けられるとのこと。

2012年2月5日日曜日

認められたい人間 =ホモ-リスペクタス

最近組織理論に関心を持っている。
市場では、価格が供給のインセンテイブとして働く。
つまり、価格が高くなれば多く供給する。
組織において、メンバーは、何によってモチベーションを上げる
のか、何を目的に働いているのかについて少し整理できればと
思っていた。つまり組織の力学、組織内メンバーの活動が組織と
してどのような結果に結実していくのかについてモデルができれば
と思っている。
30年近くも大きな組織の中でビジネスをしていると自分なりに
漠然とした考えは持っているが、理論にはなっていない。
実際組織を運営していくためには、上司、部下、同僚からの承認・
合意は必要で、階層化して上司の承認ループは、ある目的を達成
していく組織行動には不可欠であることを実感している。
事業方針、事業計画のプレゼンテーション、業績評価の説明
は、まさに会社(経営陣でる上司)の承認を正式に求める場で
もある。
この承認要求をキーコンセプトに経営や組織を分析している
経営学者の書籍に出会った。
神戸大学経営学部出身の太田肇氏の書籍である。
他の書籍も多くあるが、すぐに手に入った『認められたい!』
をベースにポイントを書く。


日頃思っているところの根源が整理・分析されている。

一言で言えば、「人は認めてもらうために働いている。」
ということである。
勤労意識のアンケート調査 (2000 年野村総研 ) でも「自分の
能力や専門性を高めることで社会的に認められたい」が74%と
高くなっており、承認欲求が強いことを表している。
しかし、日本では、なかなか「自己実現」や「社会貢献」が上位
にならび、「認められたい」ということが表に表れないとのことで
ある。しかし「自己実現」「社会貢献」も自己満足ではなく、
「認められてこそ」でもある。
また日本では、平等主義の下、「人格的評価」に結びつきやすい
「認める」ことは肯定されないとも、以下の例を挙げながら述べ
ている。
小学校では、スポーツの出来る子、習字や絵で入選した子は称え
られるが、知能指数が高い子供や、勉強がよくできて有名私立
中学に進学する子に対しては、先生も周囲の子の視線も冷たい。
それは知能指数が高いこと、勉強がよくできることのほうが将来
の人格的評価「偉くなる」ことにつながりやすいと分かっている
からだと説く。
また人に認められる機会が少ないとモチベーションが上がらない
例として、在宅勤務がうまく行かない例を挙げる。
なるほどと思う。
太田氏は、承認のレベルを以下のように分類している。
第一レベルの承認欲求
日常の中で自分の仕事ぶりや個性を認められることによって満
たされる 承認欲求のこと。
第二レベルの承認欲求
組織の中での地位や肩書きによって満たされる承認欲求
 さらに以下のように分類する。
 ○より威信の高い会社に入るための競争によって得られる承
 認「メンバーとしての承認」
 ○企業社会の中で地位や肩書きを得るための競争によって得
 られる承認「ポストによる承認」
第三レベルの承認欲求
 組織内での地位や肩書きだけでは満たされない社会的な名誉
 や名声、あるいは尊敬を求める欲求

しかしこの第三レベルの承認は、少し厄介な問題を引き起こす。
つまり、「私は名誉欲が強い。」「尊敬されたい。」と公言する
ことは、「私はあなたたちよりも偉くなりたい。」 と言ってい
るのと同じで、人格の優劣をかけた闘いを宣言していることを
意味する。
「万人の万人に対する闘争」ホッブズの状況を認めることと
なる。名誉や尊敬に付随する上下・優劣の関係と人間はみな
平等であるというタテマエとは本質的に相容れず、公言でき
ないものとなる。

承認というものはいろいろな意味で他社依存的であり、他人と
の調和や 周囲への貢献があって初めて手に入れることができる。
ある人が承認欲求で動機付けていること自体が、その人に対す
る信頼や 責任感を担保し、利己主義的な行動を抑制できる。
名誉や尊敬には、個人主義的な側面と集団主義的な側面が統合
されている。
上場している会社は、株主からの株価を通した承認・評価が
必要なため、ワンマン経営による暴走が比較的少ないという
のも、私が常日頃感じている例である。

「万人の万人に対する闘争」を防ぐために、「うぬぼれ」
「自分のほうが偉いと思い込む」の余地を残しておくことや
「偉さ」を測る複数の尺度が存在する、あるいは正確な比較
が困難な、 よい意味での無秩序状態を残しておくことの
必要性も説く。各自がある程度好きなようにうぬぼれることが
できるので、階級闘争のような深刻な対立や 不遇がもたらす
ルサンチマンを防止もしくは緩和できる。

なぜ「成果主義」は失敗するのか。 の説明は、大変注目に値する。

モチベーションの理論としては、期待理論で説明するのがよい
とのことで、モチベーションは、「報酬の魅力」×「努力が報酬
に繋がる期待」で決まる。
この「成果主義」が誤ったシグナルを送ることにより、うまく
機能しないと説く。
つまり、成果主義の下では報酬の金額によって承認欲求が満た
されるはずであるが、現実には、原資総額が決定されており、
相対評価によって配分する方法では 成果が報酬に直結しない。
さらに成果の評価は、上司の判断や人事部による 調整に委ね
られ、主観や裁量、好き嫌い等の不合理な要素も入り込む。
本来の成果主義は、
「仕事の成果」⇒「評価 ( 承認 ) 」⇒「報酬」
となるべきだが 金銭的報酬にばかり関心が奪われ、それを
操作することで動機付けしようとした。その結果、
「仕事の成果」⇒「報酬」⇒「評価 ( 承認 ) 」という、
先に報酬や処遇があって それに社会的な地位や評価がついて
くるという倒錯した現象を起こしている。
成果に直結しない「報酬」という評価・承認によってモチベー
ションが決まってしまうこととなる。
年功制なら、給与やポストが低くても業績や能力が劣るとみな
されない。むしろ業績や能力の 優れた人は、給与が周りの人と
変わらないにも関わらず会社に大きな貢献をしているので、
一種のヒーロ扱いをされる。承認欲求を満たす。
報酬の前に、きちんとした評価・承認を行う必要性を表している。
評価・承認は、原資のように有限な資源ではないので、うまく
活用すべきと再認識する。
また分かりやすい例として、日本の企業は、相撲型から野球型へ
展開すべきと説く。相撲型は、番付がすべての一元的な承認
ゲームであるが、野球は、それぞれのポジションがあり、絶対
序列がない。さらに球団も移動可能である。

企業内での出世競争、つまり承認を求める努力や競争をゲームと
してとらえこともできる。
本論とは直接関係ないが、最近個人的に、企業マネジメントに
ゲーム的に要素を入れたほうが効果的と考えており、丁度、
ゲームの条件が整理してあったので、参考に書いておく。
ゲームの条件
条件1:参加と離脱の自由があること。
条件2:衣食住をはじめ生活と関わる提示欲求が充足されている。
条件3:暗黙の掟もしくは明記されたルールが存在する。
条件4:途中で逆転が可能なこと。
条件5:それに投入できるだけの魅力が備わっていること。

企業マネジメントにゲーム的要素を取り入れたほうが効果的と
いう背景も、個々人のパーフォマンスをフィードバックできる
ことがポイントと考えており、承認欲求と根底では通じている。

この承認欲求という人間の本姓に基づいたものが市場交換
取引ではないかと考え始めた。
お客様に感謝されないと、商品売買や、サービスの取引は成立
しない。お客様に承認してもらうように、工夫するというのが
市場交換取引経済の本質ではないかと思う。
社会主義経済での無愛想な販売員の態度を考えればより納得がいく。
マルクス経済学で、資本家は労働者を搾取するという観点のみで
資本主義を分析しているが、消費者に認められるように工夫する
供給者という視点が欠落しているのではないか。
承認されるように、供給者は工夫し、より承認されるために競争
する、またその承認行為は金銭交換だけでなく、前向きなコミュ
ニケーションの場であるというのが、市場経済の本質であるように
思う。