2009年11月29日日曜日

日本の「安心」はなぜ消えたのか。

 日本の「安心」はなぜ消えたのか。
-社会心理学から見た現在日本の問題点-(山岸俊男)を読む。
この本は、個々の人間は合理的に行動するとの前提に立ち、そのような個人の行動を社会として集計するとどうなるかを分析した本である。個人の行動の積み上げが社会を形成するという経済学でいうところの方法論としての個人主義をベースとするが、社会と独立して個々人が行動するのではなく、個人の感情・心理が社会に影響し、その社会がまた個人の感情・心理・行動を規定するという方法論に基づいている。個人の行動的合理性ではなく、個人の認識的合理性に基づくことにより、社会が個人を規定する関係も分析している。
分かりやすく言うと、「情けは人のためならず」つまり利他的に行動すると、結局はまわりまわって自分に利益が戻ってくると個人が認識するすることにより、利他的行動をするという考え方である。認識論・心理を入れた進化ゲームで、経済、経営、社会さらには法学の分析に適用できると思う。
この方法論で、日本において、村を中心とした閉鎖的で相互監視が効いた「安心社会」が崩壊したととく。精神論で安心社会を取り戻すのではなく、オープンで他人を「信頼できる社会」の仕組みを整備すべきと説く。論理的で切り口の斬新さがうかがえる名著である。


 心の中にある「人間性」の本質が分かれば分かるほど、その性質をうまく利用することによって社会の中にあるさまざまな問題が解決することが可能になるという基本的アプローチをとる。
 このアプローチは、「心の教育」や精神論では問題は解決できず、それを許さない社会の仕組み(許されないと認識する仕組み)を作ることが必要と説く。
 例えば、「いじめ」も、「いじめをさせない」ことにあるのではなく、「いじめを許さない」環境を作ることが重要と説く。具体的には以下の分析を行っていく。
 日本人は、なぜ会社人間か。
日本のサラリーマンが、会社に忠誠を示すのは、そうやって振舞うほうが日本の社会においてもっとも適した行動であるからに他ならない。つまり会社に対して忠誠心を示したほうが何かと得をするからそうしているに過ぎない。
具体的な実験で、日本人のメンタリティを分析していく。
4本の同じPENと1本だけ違うペンの合計5本からPENを1本選ぶ実験をしたところ、日本人は、目の前に他人がいると一本きりのPENを選んだ人は23%しかいなかったのに対し、目の前に他人がいないと選ぶ率は35%に跳ね上がる。つまり、日本人の場合「自分の選択によって他人に迷惑をかける可能性がある」という前提で行動するのがデフォルト戦略になっている。一方アメリカ人は、「自分の選択はだれに迷惑をかけるわけではない」という前提で行動するのがデフォルト戦略になっているとの仮説を提示する。
 「他人は集団主義だけれども、自分は個人主義だ」という集団主義のパラドクスがある。これは、
人が見ているときは集団主義的に振舞っているので、その態度から推定した結果「私とは違って
周りの人たちは集団主義的なこころの持ち主だ」と思ってしまうという話である。
このように「他の人たちは個人主義者に批判的だろうと思い込んでしまうことで、実際にはそうは思っていなくても、個人主義者が批判されてしまう現実が生まれてしまう。そして、いったんこうした現実が作られてしまうと、みんなが心ならずもそれに合わせて行動しなくてはならなくなってしまう。
また違うアンケートでは、たいていの人は信頼できる答える比率がアメリカ人と日本人では大きく子異なるようだ。これに対する回答は、アメリカ人:47%、日本人:26%である。
これより、日本は、人々の結びつきのつよい集団主義が根底に流れていると説く。
つまり、以下のメカニズムである。人々の結びつきの強い集団主義社会(例:農村)では、メンバーがお互いを監視し、何かあった時に制裁を加えるメカニズムが社内の中にしっかりと作られている。つまりこのメカニズムこそがメンバーたちに「安心」を保障しているのであって、個々のメンバーは他の仲間たちを「信頼」しているわけではない。農村のような集団主義的社会とは本質的に「信頼」を必要としない社会であり、逆に都会のようないわば個人主義的な社会とは本質的に「信頼」を必要とする社会である。日本人の強調的な行動は、あくまで相手が「身内」であるときに限られ、未知の相手、「よそ者」と一緒に作業をすることはリスクが高いということに現れていると説く。
日本人が正直で誠実であったから約束を守ったということではなく、日本という集団主義社会の仕組みが、契約書に変わって「安心」を保障してくれていたとのことである。
しかしながら、日本経済は、集団主義の特性を最大限に生かす形で発展してきたが、現在は集団主義な要素は否定されてきた。
安心社会は、実は「正直ものである」や「約束を守る」といった美徳を必要としない社会であった。
その中に暮らしている限りは、相手が信頼できるかどうかを考える必要がない。
したがって日本では「旅の恥はかき捨て」は一般的となる。
信頼社会で生き延びていくためには、他人を信頼するこころの傾向をもったほうが有利なので、
他者に対する信頼感が高くなっていく。それに対し、安心社会では、相手が信頼できるかどうかといった「査定」そのものが必要なく、だれと付き合うことがもっとも安心をもたらしてくれるかという関係性検知能力が求められる。また集団内部の力関係、人間関係を正確に読み取ることが重要であり、集団内部の秩序や安定性が揺らぐことには否定的になる。
社会には、「どうせ自分ひとりがルールをまもったところで他の人は守らないので意味がない」という社会的デイレンマが生じる。これを防ぐには、個々人の行動や意識の変革によって解決しようとするのではなく、社会そのものが行動を監視して「抜け駆け」を許さないようにすることが必要である。
ある比率を超えると協力行動の安定状態になるが、その比率を超えないと非協力行動の安定状態になってしまうという臨海質量という概念に注目する。この現象より以下のことが言える。
①社会的ジレンマを解決し、人々の間の協力関係を作り出すには、
 最初から全員に働きかける必要はない。
②初期状態が臨海質量に達していなかったら非協力の安定状態達し
 てしまう。これを安定状態まで転換するのはなかなか大変である。
 今の日本では、安心社会の枠組みが崩壊しつつあるので、本来ならば、他人との協力関係を
構築していく信頼社会へ移行しなくてはならない。
つまり正直者が得をする社会を作っていくことが必要であり、そためには、「制度」「法律」を作っていくことが不可欠であると説く。つまり「信頼社会」の構築においては、社会制度の充実ことに法制度の整備がカギになる。そのような考えでネット社会を見てみると、ネット社会での「評判の力」が制度・法律と同様の効果を及ぼすと説く。ネットでのネガティブ評価は別名で再参入できるが、ポジティブ評価は地道に取引実績を上げていくしかないので、ポジティブ評価を活用していくべきという。
最後に、精神論の武士道とルールの商人道を、以下のように定義ウし、商人道の重要性を説いている。
メンバー同士の相互監視や制裁という仕掛けを通じて、人間同士の結びつきの不確実さを解消していくのが安心社会であり、これは武士道のモラル体系に近い。つまり規律遵守。位階尊重。忠実たれ。伝統堅持の社会である。それに対して、社会が提供する「安心」に頼るのではなく、自らの責任でリスクを覚悟で他者と人間関係を積極的に結んでいく信頼社会が、これは商人道のモラル体系に近い。この商人道はオープンでありルール重視なので、今後グロ-バル化する日本には必要なモラル体系と説く。商人のモラル体系のよさを再認識する論理であった。
この主張は、「市場の倫理 統治の倫理」ジェイコブズに基づいているとのことで、別途読んでみることとしたい。

Val IT 入門

Val IT (Enterprise Value:Governance of IT Investments 、The Val IT Framework)は、米国ITガナンス協会が作成したIT投資管理のフレームワークである。
ITガバナンス協会といえば、IT全般統制のよりどころとなるCOBITが有名である。
このVal ITは、その姉妹編として策定したものである。IT投資の観点では、COBITが「投資の実行プロセス」に焦点を合わせる、つまりいったん決めた投資を着実に行うことに注力するのに対し、Val ITは、投資を決める前の評価、すなわち「投資の意志決定プロセス」と「投資実行後の評価プロセス」に焦点をあわせたものともいえる。

価値を生むIT投資管理のポイントは以下の3つに整理できる。
①三位一体運営:経営者、事業部門、IT部門が、共同責任体制で
           IT投資と運営を行う。
②戦略適合性:実現すべき経営目標と整合性を持ってIT投資方針
          を策定する。
③ポ-トフォリオ管理:効果、不確実性、リソースの制約を考慮して、
           複数の案件の間でIT投資額をバランスよく配分する。
④IT投資のライフサイクル管理:IT投資を計画~構築~導入~利用の
                    ライフサイクルを通じて管理する。
 システムを使った業務改革活動とシステム開発・活用をひとまとめ
にして案件(プログラム)と捉え、それに掛かった費用と効果の全体を
管理することが必要。

Val ITは3段階の管理プロセスから構成される。
①価値ガバナンス
②ポートフォリオ管理
③インヴェストメントマネジメント(個別プログラム管理)
各管理プロセス構成する「重点管理プラクティス」について
経営者、事業部門、IT部門の誰が実行責任を持ち、誰が説明
責任を持つかを明確にする。これが三位一体のIT運営である。

(1)価値ガバナンスの具体例
  経営ビジョン、目標を、BSC:「学習効果」「業務プロセス」「顧客」
  「財務」にブレイクダウンし、それをどのシステムで実現していくか
  経費、投資効果はどうかをIT戦略MAPに展開していく。

(2)ポートフォリオ管理の具体例
  IT投資を以下の4つに分類。(MITのWEIL教授)
  ①業務効率化投資:業務効率化、コスト削減、生産性向上
               スループット増加
  ②情報活用投資 :社員、顧客の情報活用力、品質、スピードアップ
              管理力、統合力効果
  ③戦略的投資  :事業創造、大規模業改、競争力強化、ビジネス革新
  ④IT基盤投資  :ビジネス統合、連携強化、ITコスト削減、システム化スピード


(3)個別プログラム投資管理の具体例
  PMO(プログラム・マネジメント・オフィス)により評価。
  ①事前評価:開始しようとする案件の投資対効果、投資見積額の
          妥当性、リスクの大きさと対処方法、ポートフォリオ全体
          のバランスについて評価する。
  ②途上評価:実行中の案件について、定期的なたな卸し、個々の
          案件の大きな節目ごとに、起案当初からのリスク・
          リターンの想定の変化を確認し、対応策の検討、
          ポ-トフォリオ全体としての資源の再配分を行う。
  ③事後評価:構築が完了し稼動しているシステムについて、
          定期的に効果創出度合いと掛かっているコスト
          の妥当性を評価し、状況に合った対策を実施
           していく。
2006年の日本の企業(約500社)のIT投資比率は以下のとおり。
IT基盤投資:49%    (46%)
業務効率化投資:27% (25%)
情報活用投資:14%  (18%)
戦略的投資:10%    (11%)
( )は欧米企業625社2006年度MITのWEIL教授調査。
昨年の秋にMITのWEIL教授にお会いしたが、大変温厚な方で、
私の主張に耳を傾けていただいたことが大変印象に残っている。
このような地道な研究は大変重要と思う。
あとMITで印象に残るのはintangible assetのErik Brynjolfsson教授
である。ITの投資効果を経済理論をベースにして実証分析されたいた
話には迫力を感じた。

ITソリューションの導入を「IT投資」と呼び、ITを活用した業務改革を
行うなど、単にITソリューションの導入にとまらない広義のITに関する
投資を「情報化投資(IT-enabled(business) investment)と呼び、区別する。
以下、Val IT で,何が規定されているのか見て行く。
1.価値ガバナンス(VG)
 VG1:情報を与えられ、積極的に参加するリーダシップを確保する。
     ⇒ITに関する経営者の役割および基本原則を決める。
 VG2:プロセスを定義し、実施する。
     ⇒情報化投資に関する適切な管理プロセスを定める。
 VG3:役割と実行責任を定義する。
     ⇒情報化投資に関する役員および従業員役割と実行責任を
       定める。
 VG4:適切で承認された説明責任を留保する。
     ⇒情報化投資に関するコントロール(統制)の仕組みを定める。
 VG5:情報の要件を定義する。
     ⇒情報化投資の成果の測定および点検に必要な情報を
      定める。
 VG6:報告の要件を定義する。
     ⇒情報化投資の成果の報告の仕方を定める。
 VG7:組織の構成を確立する。
     ⇒情報化投資の管理のための会議体や組織の構成を定
      める。
 VG8:戦略の方向性を確立する。
     ⇒事業戦略と情報化投資が整合していることを確かめる。
 VG9:投資のカテゴリーを定義する。
     ⇒情報化投資の配分を決めるための投資の分類方法を
       定める。(必須、継続または維持、任意)
 VG10:目標とするポートフォリオの構成を決定する。
     ⇒情報化投資配分の目標とする構成比を定める。
 VG11:カテゴリー毎に評価基準を定義する。
     ⇒情報化投資の分類別に、投資評価の基準を定める。

2.ポートフォリオ管理(PM)
 PM1:人的資源の目録を維持する。
     ⇒現在のIT人材の能力、稼動状況を調べる。
 PM2:資源の要件を特定する。
     ⇒今後求められるIT人材の能力や経験などの特性を把握
      する。(IT資源:アプリケーション,情報、インフラ、要員)
 PM3:ギャップ分析を行う。
     ⇒IT人材の現状と将来像を比べ、不足する人材を特定する。
 PM4:資源提供計画を作成する。
     ⇒不足するIT人材を確保するための方策を考え、計画を
       作る。
 PM5:資源の要件と使用状況をモニタリングする。
     ⇒IT人材の過不足の状況を確認し、組織間で調整する。
 PM6:投資の閾値を確立する。
     ⇒情報化投資の予算管理の仕組みを導入する。
 PM7:初期プログラムのコンセプトビジネス・ケースを評価する。
     ⇒コンセプトレベルで情報化投資を評価し、選り分ける。
 PM8:プログラムのビジネス・ケースを評価し、相対的スコアを
     つける。
     ⇒情報化投資案件を詳細に評価し、投資の優先順位を
      決める。
 PM9:ポートフォリオ的視点全体を作成する。
     ⇒新たな情報化投資案件を追加することによる、情報化
       投資の配分全体への影響を評価する。
 PM10:投資決定を下し、それを伝達する。
     ⇒情報化投資案件について、実行するか、保留するか、
      却下するかを決める。
 PM11:選択したプログラムをステージゲート(および資金を
      提供)する。
      ⇒実行が決まった情報化投資案件に関して、工程ごとに
        先に進めてよいか判断し、予算を割り当てる。
 PM12:ポートフォリオの成果を最大化する。
      ⇒情報化投資案件相互の関連性をうまく利用することで、
       成果を高め、リスクを軽減する機会がないか、見直す。
 PM13:ポートフォリオの優先順位を見直す。
      ⇒社内外の状況変化に応じて、情報化投資案件相互の
       優先順位を見直す。
 PM14:ポートフォリオの成果をモニタリングおよび報告する。
      ⇒情報化投資全体としての成果を経営者に報告する。

3.投資管理(IM)
 IM1:投資機会について、コンセプチャルな定義を作成する。
     ⇒情報化投資案件を発案し、適切に分類し、期待される成果、
      必要な取り組みを整理する。 
 IM2:最初のプログラムのコンセプトのビジネス・ケースを作成する。
     ⇒候補となる情報化投資案件に関して、コンセプトレベルで
       実施内容を取りまとめ、経済価値分析を行う。
 IM3:候補となる投資プログラムの明確な理解を養う。
     ⇒候補となる情報化投資案件を、関係者とともに具体化し、
      関係者間で理解を深める。 
 IM4:代替分析を行う。
     ⇒候補となる情報化投資案件の代替案を比較検討し、
       最良の案を選ぶ。
 IM5:プログラム計画を作成する。
     ⇒情報化投資案件の実行計画を作る。
 IM6:利益実現計画を策定する。
     ⇒情報化投資案件の目標、成果実現の見通し、評価基準、
       リスクを明らかにする。
 IM7:ライフサイクル全体のコストと利益を算定する。
     ⇒情報化投資案件のライフサイクル全体を見通した予算を
      作る。
 IM8:詳細なプログラムのビジネスケースを作成する。
     ⇒情報化投資案件の実施内容および経済価値分析を詳細
       化し、実行責任者の承認を得る。
 IM9:説明責任と所有権を明確にする。
     ⇒情報化投資案件について、誰が実行権限を持ち、説明責任
       を果たすかを決める。
 IM10:プログラムを着想し、計画し、立ち上げる。
     ⇒情報化投資案件に、必要な資源を割り当て、計画を実行
      する。
 IM11:プログラムを管理する。
     ⇒情報化投資案件の進捗を管理し、計画との差異を分析し
       是正する。
 IM12:利益を管理/追跡する。
     ⇒情報化投資案件の成果を確認し、計画との差異を分析し
       是正する。
 IM13:ビジネス・ケースを更新する。
     ⇒情報化投資案件の実施内容および経済価値分析を、
      直近の状態に更新する。
 IM14:プログラムの成果をモニタリングし報告する。
     ⇒情報化投資案件の成果を経営者に報告する。
 IM15:プログラムを終了する。
     ⇒情報化投資案件を終了し、得られた知見や成果を継承
       する。
各重点管理プラクティス毎に、RACIチャート欄に、経営陣(Exec)、
事業部門(Bus)、IT部門(IT)の中で
実行責任者(Responsible)、説明責任者(Accountable)、協議先(Consulted)
報告先(Informed)を明記する。

どうもVal Iそのものは、確立途上であるからか、なかなかしっくりこない。
網羅的であることは分かるが、ポイントと論理の組み立ては今後の課題と
思う。

2009年11月23日月曜日

失敗しない外部設計(発注者ビューガイドラインに学ぶ)

 システムプロジェクトは、システムを利用する発注者とシステムを開発する開発者との距離があり、意識があっていないときは、必ず失敗する。
 発注者のシステムに対する要求・要件を、開発者が的確に把握し、システムの設計に反映できていないことが原因である。
 それを防ぐには開発者は、発注者の考えをすべてコピーすればよいのかというとそうではない。発注者自身は、システムに対する要求・仕様を網羅的に理解しているわけではない。発注者は、日常実施している業務についてはほぼ理解しているが、異常系の処理やシステムも含めた運用全体からみた要件については十分理解しているわけではない。故に開発者は、発注者からのヒリアング結果を要件定義書に落とし、このようなケースの場合はどうするのかと発注者へ投げかけ、発注者に検討依頼する必要がある。このように発注者と開発者とのシステムの仕様を最終的に合意にするための検討の枠組み(フレームワーク)について大手Sier9社で作成したのが「発注者ビューガイドライン」である。
 このガイドは、外部設計のコツを「画面」、「システム振舞い」、「データモデル」に分けて説明している。分かりやすくまとまっており、システムコンサルタント、上級SEには必須の書籍である。



 外部設計での発注者と開発者の認識を合意するときの留意点として以下があげられる。
  ① 発注者が日頃使っていることばや用語、図表を使わなければ
    伝わらない。
  ② 発注者の価値観や要求と合致すれば理解され合意されやす
    くなるが、合致しなければ受け入れられないか、抵抗される。
  ③ 発注者は期待することしか見ないし、聞かない。
  ④ ルールもなく、設計書をただ見せただけでは受け入れてもらえ
    ない。
 外部設計のコツを(1)システムの振舞い編、(2)画面編、(3)データモデル編に分けて説明している。外部設計とガイドラインの関係は以下のとおりである。
  ◆画面遷移・定義       ⇒ガイドライン画面編
  ◆業務ロジック         ⇒ガイドライン画面編+システム振舞い編
  ◆システム化した業務の流れ⇒システムの振舞い編
  ◆データベースの仕様    ⇒データモデル編
 また、外部設計を、要件定義を詳細化し、内部設計へつないで行くための工程と位置づけ、外部設計を以下の3つの段階に分けている。
 ① 仕掛期:発注者の要求を開発者がもれなく聞きだし理解する。
 ② 充実期:工程成果物の品質を高める。
 ③ 完成期:承認に向け、発注者が適切な判断を与える。

(1) システム振舞い編
以下の作業ステップで、
  ① システム化業務一覧、
  ② システム化業務フロー、
  ③ システム化業務説明書を作成していく。

STEP1:主要なシステム化業務を洗い出す。⇒システム化業務一覧。
STEP2:システム化業務の流れを作成する。⇒システム化業務フロー。
STEP3:システム化業務の内容を仕様化する。⇒システム化業務説明書。
STEP4:工程成果物間の整合性を確認する。

システム化業務一覧を書くためのコツ。
 コツ1:階層構造に分けて記述する。
     大機能(発注業務)⇒中機能(発注書作成)
                          ⇒小機能(発注書変更)
 コツ2:システム利用作業に対応する利用者を記述。

システム化業務フローを書くためのコツ。
 コツ1:人手の作業、システム化業務(システム利用作業、機能)に
     分類して記述。
    システム利用作業=人とシステムとのやり取りにかかわる業務。
    機能=システムによって自動化される業務。
 コツ2:詳細を隠蔽して大きな流れを記述。
     システム化業務フローを階層化して書く。

システム化業務説明書の作成のコツ。
 コツ1:基本・代替・例外の3つのシナリオを考える。
     基本=正常処理
     代替=条件によって使い分ける場合。
     例外=業務上の例外的なシナリオ(特定の日だけの特別な
          顧客処理)
 コツ2:シナリオを利用者とシステムに分けて記述。
    基本・代替・例外それぞれに対し、利用者の操作とシステムの
    処理を分ける。 
    基本(利用者:受注入力画面を立ち上げる。システム処理:受注
    入力画面を返す。)

工程間の整合性を確認する場合のコツ。
 コツ1:システム化業務一覧とシステム化業務フローで、システム利用
      作業の利用者の観点が合っているかを確認する。
      利用する立場でシミュレーションすることにより利用範囲、仕
      様の不整合を発見することができる。

(2) 画面編
 画面に関する6つの成果物を作成する。
  ① 画面一覧
  ② 画面レイアウト
  ③ 画面遷移図
  ④ アクション明細
  ⑤ 入出力項目
  ⑥ 画面遷移・レイアウト共通ルール

画面レイアウトを合意するときのコツ
 コツ1:画面上の情報配置を統一する。
    「共通の画面部品を表示するエリア」「情報を表示するエリア」
    「説明文を配置するエリア」「操作ボタンを配置するエリア」など
    に分割。
 コツ2:表の枠が固定か可変かに注意する。
    検索結果表示が3列の場合、検索結果が1列の場合の表示、
    4列の場合の表示をどうするかを明記する。
 コツ3:入出力データは画面を見ながら仕様をつめる。
     「どのデータの入力が必須か」「入力の条件は何か」
     「データをどう出力するか」
 コツ4:ボタンはボタンらしく記述する。
     ボタンとテキストボックスの区別がつきにくい。ボタンには
     影をつける。
 コツ5:表示する文字列の役割を明確にする。

画面遷移図を合意するときのコツ
 コツ1:画面遷移は上から下へ、左から右に遷移するように配置する。
 コツ2:一つの画面で一つの処理が完結しない場合の面名は、業務
     的に意味のある識別名にする。
    そうでないと画面遷移上で実際の画面が想起しづらい。
 コツ3:例外や条件分岐の書き方としては、業務のコトバで条件分岐
      をきちっとかく。(内部変数等を書かない。)

あいまいさを取り除くレビューするときのコツ
 コツ1:画面遷移、画面レイアウト、入出力項目の資料をレビューの
     際に同時に参照できる別々の冊子として用意する。
 コツ2:業務の流れ、画面遷移のレビューを実施してから画面レイ
     アウトのレビューを実施する。
 コツ3:レビューの際にエラー表示を具体的に説明し、表示の妥当性
     判断に役立てる。

(3)データモデル編
  データモデルで作成する成果物は以下の4つ。
  ①ER図
  ②エンティティ定義書 エンティティ名、属性名、型、長さ、制度、
                必須、主キー、説明
  ③エンティティ一覧  エンティティ名」、エンティティ種別(リソース
               /イベント)、定義
  ④CRUD図(エンティティのインスタンス)と機能 
                 CREATE、READ、UPDATE、DELETE
  
・システム振る舞い編と画面編では打ち合わせごとに工程成果物の詳細度が高まる。
・開発者はデータモデル編でもレビューで工程成果物の詳細化を期待する。
・発注者はいきなりデータモデルをレビューすることに抵抗がある。

レビューを5回に分けて行う。
一回目:①エンティティ・属性の抽出、②データモデルの概要説明、
     ⑦業務量の確認
 コツ1:データモデルの概要を業務や大きな機能レベルでまとめて、
     エンティティの候補を確認する。
 コツ2:扱うエンティティをグルーピング(イベント系、リソース系)した
     資料を作成して確認する。
     担当者をアサイン。業務間の連携を確認。
二回目:①エンティティ・属性の抽出、②データモデルの概要説明、
     ⑤業務とデータの関係の確認
 コツ1:システムが扱う情報を俯瞰できる資料を作成し、システムが
     扱う情報の範囲を確認する。業務フロー図利用
三回目:③データモデルの詳細説明、④データの変化の確認、
     ⑤業務とデータの関係の確認
 コツ1:画面レイアウトとER図を対応づけて確認する。
四回目:③データモデルの詳細説明、⑥他システムとやりとりする
     データの確認、⑦業務量の確認
 コツ1:エンティティをリソース系とイベント系にタイプわけして、色付け
     をする。
 コツ2:イベント系エンティティをデータの発生順序でソートして記述。
     システム化業務フローに沿ったデータの発生順が理解しやす
     くなる。
 コツ3:発注者への確認事項をER図にコメントとして直接記述し、
     議論のポイントを明らかにする。

五回目:CRUD図を合意 ③データモデルの詳細説明、⑦業務量の
     確認
 コツ1:エンティティの作成、参照、更新と削除タイミングを確認ポイント
     に絞って表で説明する。
     確認したいサブシステムやエンティティなどを絞って、タイミングを
     横軸に、エンティティ名とその作成、参照、更新と削除タイミングを
     縦軸に表現する。   
   
代表的なコツのみを上げてきたが、本の巻末に187個のコツの一覧
が出ている。
大変有益なノウハウなので、組織として使い込んでいくようにしたい。







 

経営戦略の論理

『経営線戦略の論理』伊丹敬之を読む。
読んだときは、経営を静的に捕らえず動的に捕らえる視点
に大変感動したが、読書ノートにまとめてみれば、きわめて
基本的なことを述べているのに気づく。
事例が、プレジデントや日経ビジネスからの引用であること
より、なぜか迫力に欠ける。

ポイントは以下のとおり。
経営戦略の中核的な枠組みは以下のとおりと述べている。
以下が定義されていないのは、経営戦略といわないのかも
知れない。
①製品・市場ポートフォーリオ:「何をだれに売るのか。」
②業務活動分野:「売るために、自分はどんな仕事をするのか。」
③経営資源ポートフォーリオ:「その仕事のために、どんな能力と特性をもつか。」
経営戦略には、それぞれと適合していることが必要である。
市場競争に勝ち、顧客の需要を自社に獲得するために、企業は顧客に対して供給をきちんとするためのビジネスシステム(開発から生産・販売までの体制)を作る。あるいは、そのビジネスシステムをきちんと動かすための技術を蓄積・開発している。つまりビジネスシステムと技術は、企業が内部の資源と組織を使って働きかけるインタフェースの役割を果たしている。

(1)市場との適合:①顧客適合、②競争適合
  市場の状況に適合したような戦略の内容になっているか、という判断
  基準。
(2)インタフェース適合:③ビジネスシステム適合、④技術適合
  戦略がビジネスシステムや技術を適切に使っているのか、という判断
  基準。
(3)内部適合:⑤資源適合、⑥組織適合
  企業内部状況に適合したような戦略のないようになっているか、という
  判断基準。
「適合」の三つのレベル
・第一レベル:適合すべき相手方の現状や障壁を所与として、それに合
 わせる適合。
  ⇒受動的適合
・第二レベル:その要因の自律的な変化へ対応していき、さらには能動
 的に望ましい方向へ変化させていく、あるいは障壁を克服して行く戦略
 を持つという意味での適合。
  ⇒能動的適合
・第三レベル:その要因の本質や変化を逆手にとってテコとして利用する
 戦略を持つレベル。きわめて効率的に成果を上げられるテコの作用を
 使った適合。
  ⇒テコ的適合
戦略の顧客適合1
顧客のニーズは束であるが、束の全体をどう攻めるか。
①訴求ポイントの核を明確化する。
②ニーズの束全体へのバランスの取れた目配りをする。
③ニーズへのネックに適切な手を打つ。
戦略の顧客適合2
①ユニークな細分化を考える。
②ターゲットを絞る。
③細分化のデメリットへの解決策を用意する。
ニーズは変化していく
顧客を、収益性のお客、成長性のお客、見えざる資産のお客に分類し、ポートフォリオ管理

競争適合1
①競走上の優位性を作る出す。
②相手の反撃への対抗策をもつ。
③競争相手を実際の敵にしない。
競争相手
・同一製品の生産者
・直接的な機能上の代替製品の生産者
・購入者の購入目的の同一な、しかし全く異なった製品の生産者

差別化
①製品差別化
②価格差別化
③サービス差別化
④ブランド差別化

戦略のビジネスシステム適合
ビジネスシステムでもっとも重要な決定は、以下であり、第一レベル:有効性、第二レベル:効率性
第三レベル:将来への波及効果(能力蓄積、企業ブランドの形成)により決定する。
・自分で行う仕事(業務活動)は」何とするか。
・他の企業に任せる仕事をどうコントロールするか。


戦略の技術適合
技術の実体は、知識であり、ノウハウである。何かをこうすればできるという知識である。
技術とは、具体的な企業活動の実行のための知識基盤である。
①戦略が技術蓄積を効果的に利用する。ある既存の技術蓄積を所与として、戦略が活用。
②戦略が効率的に技術を育てる。戦略が示す企業活動の方向性が技術を育む。
③技術が戦略を有効にドライブする。ある技術への「現在」のコミットメントが、その企業の「将来」
に向けての戦略構想を組織全体で創発させる。

既存製品をベースに、材料技術と設計技術を進化させて、汎用性のある次世代製品へ横展開する
考えがなければ、技術の核にこだわるという戦略は、さらなる発展への戦略としては不十分である。

見えざる資産
企業の内部条件として戦略との関連で重要なのは、企業の持つ経営資源と企業に働く人々の人間集団という二つの要因である。
見えざる資産はなぜ重要か
・競争優位の源泉として
・変化対応力の源泉として
・事業活動が生み出すものとして
つまり見えざる資産は、それが現在の事業活動を成功させるために必要であるために、現時点での利用をうまく考えることの重要性と、将来のための蓄積がその事業活動から生まれてくるという重要性と、二つある。
見えざる資産の性質
・カネを出しても買えないことが多い。
・作るのに時間がかかる。
・複数の製品や分野で同時多重利用ができる。
見えざる資産の蓄積の鍵は、いかに情報の流れを自社がコントロールするかである。
ほしい情報が豊かに流れるのはどこかの見極め
そこをどのように自らのコントロールに置くか

戦略の資源適合
戦略の内容は、企業も持つ資源に合ったものでなければ、有効な成果は生み出せない。
戦略の資源適合の三つのレベル。
①戦略が資源を有効利用する。
②戦略が資源を効率的に蓄積させる。
③戦略と資源の不均衡ダイナミズムを生み出す。
資源を超えた戦略を策定し、その不足という不均衡がバネとなって、ダイナミズムが生み出される。
不均衡が新たな資源蓄積のバネとなる。
効率的な資源蓄積のためにはドメインを設定する必要がある。
ドメイン設定によって、人々の「自発的な」蓄積活動を活発にする。
効率的な資源蓄積を考える戦略は、必然的に現在の戦略と将来の戦略(新しい蓄積をさらに
利用する戦略)をセットで考えたものになる。
資源を生み出す戦略とその資源を使う戦略との組み合わせの妙を考える。
ダイナミックシナジーとは、現在の戦略から生み出される資産を将来の戦略が使うという効果である。見えざる資産は、情報的資源であるからこそ、現在の戦略も使い、将来の戦略も同時に使うこができる。このダイナミックシナジーこそが、企業成長のエッセンスである。
なぜならば、絶えず変化していく企業環境へ企業が能動的に適応していくための能力の源泉が、事業活動が生み出す見えざる資産にあるからである。その資産を効率的に蓄積し、ダイナミックに有効活用していくダイナミックシナジーは、企業の環境適応力の核となる。ダイナミックシナジーのある二つの事業分野の間ではライフサイクルの違いによってキャッシュフローのパターンがうまく違っていることがよくあるからである。
基本戦略を策定する場合、製品・市場分野の選択だけに偏らず、資源蓄積への波及効果の業務分野戦略や実行戦略を考える必要がある。

戦略の組織適合
戦略は組織のためにある。戦略の成果としての企業の業績は、組織に働く人たちの小さな努力や
活動の積み重ねとしてのみ生まれてくる。戦略の内容は、日常の活動をする人々の心情や利害、
人間的な強さや弱さをよく考えた上で彼らを動かせるように練り上げられなければならない。
実行する人々に浸透し、本当に自らの活動の指針となれなければだめである。
組織適合の3つのレベル
①一本化の焦点:組織の人々の意識と努力の方向を一本化させるのに有効か。
②組織の勢い:人々が「積極的」に努力するような状態か。
③創造的緊張:組織の人々に創造的な緊張感を作り出すことに成功しているかどうか。
「ほどほどの戦略を全員でキチンと徹底して実行している方が、すばらしい戦略を中途半端に
実行するより、よほど成果が大きい。」

いい戦略が満たしている7つのキーワード
①差別化
②集中
③タイミング
④波及効果
⑤組織の勢い
⑥アンバランス
⑦組み合わせの妙

戦略的発想のためのものの見方
①日常的情報に宝がある。
②動的に見る。相対的に見る。
③常識のすぐ横を見る。

戦略とは
「企業や事業の将来のあるべき姿とそこに至るまでの変革のシナリオ」
3つのべからず
「スローガンと掛け声だけで戦略になると思うべからず」
「戦略の作成を現場、特に最前線に任せべからず」
「変革への第一歩の踏み出しを、成り行き任せにするべからず」

「日本の経営」を創る。三枝匡×伊丹敬之

「日本の経営を創る」を読む。経営学者伊丹教授とコンサルテイング会社で経営コンサルを行ったあと実際の経営に携っている三枝匡氏との対談である。机上の空論ではなく、実際の経営に造詣が深い二人の対談だけあって、参考になるところは多い。三枝氏は、「創って、作って、売る」の商売の基本サイクルを一気通貫でワンセットになっている組織を作ることが経営の基本と言っている。それ自身は極めて分かりやすい。


参考になる言葉等を以下整理していく。
 社長は、以下のような観点で、ビジネスプランにかかわるようにと説く。

「戦略とは何か」「何を考えたら戦略を考えたことになるのか」の考え方を幹部や社員に徹底させる。
「戦略とはこういう手法でくみたてるんだ」「あなたの戦略にはこういう要素や考え方がもれている」
「事業のストーリーが複雑すぎるから、絞ってもっとシンプルにしたほうがよい」「逆に考えていることが単純すぎて、このままやったらしっぱいするぞ」という感じでビジネスプランをたたく。
 「経営者人材というのは、経営的な打ち手としてどのボタンを押したら、どんなことが起きるかっていう経営の「因果律」みたいなものを頭の中にたくさんためることが大切だ」と言う。これは名言だと思う。実際の経験がないとこの因果律は創れない。
 以下も名言である。
「経営者人材が育つプロセスというのは、理屈で考えた、そこから導いた仮説を現場で実際にやってみた、ダメだった、また理屈で考えた、それでもダメだった、もう一度理屈で考えた、今度はうまく行った、そんな行ったりきたりの中で、因果律データベースを豊かにしていくこと。」

三枝氏の主な主張は以下のとおり。
「創って、作って、売る」の商売の基本サイクルであり、「研究」⇒「創る(開発)」⇒「作る(生産)」⇒「売る(販売)」が基本のサイクルである。
そのためには、会社の商品やサービスを買って下さるお客様を何らかの基準で、セグメント化し、それぞれのセグメントに供給する商品やサービスの「創って、作って、売る」が一気通貫でワンセットになっている組織ユニットを作る。そのユニットの責任者を明確にする。
しかしながら、「創って、作って、売る」のワンセット化にも課題がある。
①細分化による非効率化が起きる可能性がある。
②チマチマ病になる可能性がある。
③組織やノウハウの分断
具体的経験知として、一つの機能部門を事業ユニット別所属に分けるにしても、物理的には同じフロアに置いたままにしておくことがよいと説く。
顧客視点から始まる「創って、作って、売る」のスピードが重視されており、その事業ストーリーには
顧客セグメンテーションを含む戦略的考え方が軸にすべきである。そうすれば、事業へのコミットメント、自律性が大きな意味を生んで、それによって社員の目の輝きが違ってくる。この小さな組織が、「濃密な情報的相互作用の容れもの」として機能し始める。鮮明な戦略ストーリーで組織内の「戦略連鎖」をつないでみたら、その影響で機能組織をまたぐ「情報連鎖」や「時間連鎖」まで強烈にスピードアップし、その結果みんなが熱くなっていき、目が輝き「マインド連鎖」が出来上がって、それが大変な事業成果として表れ、その成功体験によって「組織カルチャーのキンク」が生まれてくる。ポイントは、自分たちでやれるというストーリーを創れること。そのためには、その大きさまで問題を分解しておくことが必要である。
事業の成功には、人の熱き心を刺激するような、論理的であると同時にシンプルで分かりやすい説明が不可欠であると説く。
主観として、事業再生は、入り口では戦略八割、終わってみれば人間関係八割と人間関係の重要さも説く。
 事業再生の成功要因は以下のように整理できる。
  ①改革コンセプトへのこだわり
  ②存在価値のない事業をすてる覚悟
  ③戦略的思考と経営手法の創意工夫
  ④実行者による計画作り
  ⑤実行フォローへの緻密な落とし込み
  ⑥経営トップの後押し
  ⑦時間軸の明示
  ⑧オープンで分かりやすい説明
  ⑨気骨の人事
  ⑩じっかりしかる
  ⑪ハンズオンによる実行

経営には、人間系が重要という経営の成果を求められ、成果を出して
きた人間にしか分からないことが多く述べられている。
経営は、スポーツで勝てるチームを創ること、また実際の試合で勝つこと
にかなり近いと最近は感じている。

2009年11月22日日曜日

現代思想の「起源」--記号的世界と物象化-

現代思想の「起源」 情況出版社-記号的世界と物象化-
丸山圭三郎と廣松渉の対談を読む。
この本は、1983年~1990年までぐらいに岩波の「思想」に掲載され
た対談を単行本化したもののようだ。
この時代は、私にとって学生時代および若手社員時代で、よく分から
ないながらも「構造主義」や「ポスト構造主義」に関する本を読んだ覚
えがある。
特に廣松渉氏は、マッハ等の科学者の認識論についても詳しく、マル
クス系の思想家に留まらず幅広い学の領域で活躍されていた記憶が
ある。今でも[物象化論」の構図」「事的世界観」「もの・こと・ことば」
の本は所蔵している。
なぜか、20年ぶりに関心が呼び覚まされ、分からないところもあるが、
興味深く読んだ。対談形式であるので、廣松氏の難しい漢語が分かり
やすく語られている。
仲正昌樹氏の解説がきわめてよくまとまっているので、それを参考に
したまとめとする。この解説により私の理解は格段に高まった。


 廣松氏は、後期フッサールにおける「間主観性」とマルクスの「物象化」
を接合してマルクス主義的現象学を確立した哲学者であり
 丸山氏は、言語を「差異の体系」と見るソシュール言語学と現象学・
構造主義以降のフランス思想の関係を明らかにした言語学者である。
 二人の仕事は「主/客の境界線の不確定性」と「言語に内在する他
者性」を軸に展開しているようで、具体的には以下の点で一致している
ようだ。
 ・ 実体主義的な「主体/客体」の二項対立図式から「実体なき関係
  主義」への転換を図る
 ・「物象化(廣松)もしくは「フェティシズム」(丸山)と呼ばれる社会的
  な関係性の実体化傾向を批判し、解体する。
 ・「世界」を客観的に実在している「もの」の集積体としてではなく、言語
  記号を介した意味作用による「こと」的連関として理解する。
 廣松氏と言えば「共同主観性=四肢構造」が有名である。概略以下の
ような主張のようである。
 各「主体」はお互いから全く独立に、外界に存在する「もの」を認識した
り、働きかけているわけではなく、「私と客体」のかかわりの内に不可避
的に「他の私(=他者)のまなざしが」入りこんでいる。つまり私が何かを
認識するとき、他者も同様に「認識」するはずだと前提している。
「主体」としての「私」は、他者」たちが認識するように「客体」を認識」し、
「他者」たちが扱うように「客体」を扱っているのである。
 さらにこれを社会哲学に発展させていく。
上記の「共同主観性」の考えを、等価性の原理に基づく「交換」関係の
中で「主体」のまなざしや振る舞いが制限される。
特に資本主義社会では、貨幣を媒介にした値段によってどれも同じ
「客体」として認識することとなる。そのように「客体」としての「もの」の
画一化に対応して、主体としての「我々」の認識や欲望、行動パターン
も、また「もの」のように画一化してしまう。これが「物象化」である。
 我々の認識の「客体」となっている「もの」というのは、実のところ、
客観的に実在する「物それ自体」ではなく、我々の間で共同主観的に
成立している「こと」の意味連関に過ぎない。
この「物象化」から抜け出すために、従来の「物的世界観」つまり「物象
化された世界観」から、そうした「事的世界観」へのパラダイム転換を図
ることによって、共同主観性の中に潜んでいる社会的・経済的力関係を
明るみに出していこうと提言する。

 丸山は、概念(意味されるもの)相互の区別は、「我々」がどういう
「ラング」をもった文化に生まれたかに依拠しており、きわめて恣意的で
ある。最初に「もの」が客観的に実在して、そうした「物」の「世界」を可能
な限り正確に「表象」するように言語記号が発明されたわけではない。
むしろ逆に、各ラングごとの言語記号によって「概念」に対応する「もの」
が「我々」の目の前に現れてくるのである。
 我々の目の前にある「もの」を成り立たしめている「記号」の具体的な
特性の分析を通じて「我々」を現時点で支配している言語フェティシズム
を解体しよとしているようである。

丸山氏の「身分け構造」「言分け構造」は、情報の意味を考える
考え方と大変よく似ているので、参考として以下に記しておく、

「身分け構造」という概念を提起し、生物は、自分にとって有益なものと
有害なものを分別しながら、自らの生に適するように、自らを作り上げ
ている。動物はそうした「身分け構造」によって、自らの周囲の「環境
世界」に対応している。
しかし人間は、さらにコトバによって「記憶」や「表象」を一義的に定着
させさまざまな「(~である)こと」を切り分け構造化する「言分け構造」
を行っている。

                    

2009年11月14日土曜日

THE FIRST 90DAYS(最初の90日で成果を出す技術) by Michael Watkins

 新しいポジションに任命されたとき、最初の90日間で何をすればそのポジションで成功をおさめることができるかについて、具体的に書いた書籍。
 今年から新たにI経営に携ることとなった自分にとっては活動計画を策定したり、進捗状況を判断したりするときの参考書であった。
 着任してから数ヶ月は、まさに無防備であり、直面する課題に立ち向かう準備がまったくできておらず、どうすればうまく乗り越えられるかも分からない。さらに親身にアドバイスしてくれる人脈もない。
 この時期に、部下からやる気を引き出し、目標に向かう士気を高められないとその後の在任期間中ずっと苦労することとなる。信頼を勝ち取り何らかの成果をあげておくことは長期的成功につながる第一歩だとは分かっている。しかし、それなら何をすればよいのかについては体系的に分からない。体系的かつ具体的に教えてくれるのがこの書籍である。




まずは、以下のステップで取り組んでいくことを説く。
1.スイッチを切り替える。
2.謙虚に効率よく学習する。
3.状況を診断し戦略をたてる。
4.緒戦で勝利を目指す。
5.上司といい関係を築く。
6.組織をデザインする。
7.人事を固める。
8.ネットワークを作る。
9.上手にバランスをとる。
10.全社的なサポート体制を整える。

各ステップでの具体的実施内容や留意点を以下に示している。
具体的で大変分かりやすい。
1.スイッチを切り替える。
 -前の仕事を意識的に切り捨て、新しい仕事に没頭する-
 新旧の違いをはっきりわきまえ、考え方や行動の仕方をどう切り替え
 たらいいか考えておく。
 ・新しい職場で成功するために欠かせない要素は何か、
 ・関心や意欲がなかったものはどれか。どうして克服するか。 
2.謙虚に効率よく学習する。
 -会社(部署)の状況を、的確に把握する-
 まず以下の内容について、「学習計画、質問集を作成する。
 ・過去(業績、原因、改革)
 ・現在(ビジョン戦略、人材、プロセス潜在的な問題、緒戦の勝利)
 ・未来(課題と機会、阻害要因と経営資源、文化)
各部門、各階層、顧客、販売店、サプライヤー、アナリストへヒアリング
をし、
 情報収集→分析→重要情報の抽出→仮説構築→仮説の検証
 →理解の進化を図る。
 同時に、組織文化(権力の所在と価値観)(正規の権限をもって決定
 を下すのは誰で、陰の実力者はだれか、ほめられるのはどんな行動
  で、非難されるのはどんな行動か。を把握するように努める。
3.状況を診断し戦略をたてる
  各事業や部門の状況を以下の分類で判断していく。
  ①離陸:人ものかねを結集し、新事業、新製品をうまくスタートさせる。
   →アプローチ(攻め×行動)
    適切な人員でチームを編成し、戦略を絞り込む。手を出すべきで
    ないことを決め、横道にそれないようにする。
  ②方向転換:不振に陥った事業やトラブルに見舞われたチームを立
   ち直らせ、正しい方向に進ませる
   →アプローチ(守り×行動)
    死守すべきコア事業や製品を見極める。枝葉を切り落として身軽
    に前進する体制を整える。
  ③針路修正:停滞の兆しが見えてきた事業やプロジェクトに再び活を
   いれ、トラブルが予想される製品やプロセスを手直しする。
   →アプローチ(攻め×学習)
    改革の必要性を気付かせ思い腰を上げさせる。
  ④高度維持:好業績をあげている事業のペースを保ち、さらに発展さ
   せる。
   →アプローチ(守り×学習)
    成功や業績の主要因を知り、それに対する理解を示す。

4.緒戦で勝利を目指す。
 成功をおさめるためには、緒戦で勝利を目指し、これを横展開する。
 以下の陥りやすい罠を避ける。
  ・ 的を絞りきれない。
   ⇒有望なフィールドを見極め、そこで得点を上げるべく全力を尽
     くす。
  ・ 置かれた状況を考えない。
   ⇒誠実に耳を傾け学ぶ姿勢を示すべき状況なのか、それとも差
     し迫った問題を解決すべく機敏に指導力を発揮すべき局面か。
     を見極める。
  ・組織文化に順応できない。
   ⇒自分なりの方針が固まってしまっていることが多いが、まずは
    新しい職場では何が尊ばれるのかをまず知るべき。
 改革は波のイメージで新職場のことが分かってきたら、改革の波を起こす。やがて波のペースはゆっくりににあり、調和や学習の進化が進み、穏やかな凪の時期に入る。最後は小さな波で仕上げをし、組織の能力を最大化する。
  在任中に何をしたいか。一つは仕事上の目標(業績目標)、もう一つは望ましい行動や価値観(意識・行動改革)の要素から組みたてる。
  早く効果を出せそうな分野はどれか、有望分野を選び、緒戦の勝利をバネに改革を進める戦略を立てる。
 進取の気性に富み、計画に手を貸してくれるような意欲的な協力者を見つけてパイロットプロジェクトを立ち上げる。このパイロットプロジェクトを今後の意識・行動改革の突破口にする。

5.上司といい関係を築く
  ・嫌な上司に近づいていく。
  ・何か異常事態に気づいたら、とりあえず上司に一報を入れる。
   他のルートから上司の耳に入るのは最悪。
  ・上司を変えようと思うべからず。
  ・上司とうまくやるのは100%部下の仕事と心得るべし。
  ・早い時期にお互いの期待をはっきりさせるべし。
   小さな約束、大きな成果が望ましい。
  ・緒戦の勝利は上司が重視する分野で目指すべし。
  ・上司が信頼する人に好感をもってもらうべし。

6.組織をデザインする
  4つのSとひとつのCをデザインする。
  ・STRATEGY(戦略):目標達成までのグランドデザイン
  ・ STRACTURE(組織構造):人材配置と業務分担
  ・ SYSTEM(システム):業務プロセスの集合体
  ・ SKILL(スキル):個人やチームの能力
  ・ CULTURE(文化):価値観、規範、信念
 不協和音になりそうな要素を探り出し、それを正す設計図を引く。
 ・評価基準は、戦略とリンクしており、日々の意思決定に生かされているか。
 ・管理職の行動は戦略と矛盾していないか。
組織に関して、以下のことはしてはならない。
 ・ 深刻な問題を抱えているときに組織再編を試みる。
 ・ 組織構造をむやみに複雑化する。
  責任分担はできるかぎり明確に一本の線でつなぐ。
 ・ 業務処理を自動化する。
 ・ 改革のための改革に走る。何か実績を作ろうと焦るあまり、よ
  く事情もしらないまま戦略や組織に手をつけやすい。
 ・ 変化にすぐ順応できると高をくくる。口でいうのは容易だが組織が
  それに対応するのは決して容易ではない。

7.人事を固める
 ・不適切な人物を長いこと抱え込まない。90日の終わりには判断
  すべき。
 ・ 必要な手直しを先送りしない。
 ・ 組織戦略と人事は同時に行う。
 前任者から引継いだ部下を以下の評価軸で評価する。
 ・ 業務遂行能力
 ・ 判断力
 ・ エネルギー
 ・ 集中力
 ・ 対人関係
 ・ 誠実さ

状況を判断し、意志決定方法(リーダシップ方式とコンセンサス方式)を
使い分ける。

8.ネットワークを作る
 自分を支持してくれる人とのつながりを強固にすると同時に必要な
 能力や人脈など経営資源を備えた人たちと新たな関係を育てていく
 ことが大切。
 はじめに呼びかける相手を誰にするのか、順序に注意してよい連鎖
 を引き起こすことが必要。
 築いた関係をさび付かせないために、情報交換や話し合いを怠らない。
 状況が変化したとき、味方の反応に注意が必要。新しい試みを後押し
 してもらえるようにしていくことが必要。

9.上手にバランスをとる
  自分の今の状態を知る。重要な仕事をする時間は確保できているか、職場で孤立していないか。影響力は出せているか。重要な判断を先送りしていないか。
特に以下に留意する。
 ・ 計画を立てる時間を計画的に取る。
 ・ 困難な仕事のための時間を作る。
 ・ 厄介な問題を抱えている場合、感情的にならず、距離をおく。
 ・実行において部下がついてこない場合、意志決定の仕方に気を配る。
 ・状況によっては撤退も視野に入れる。
以下のようなアドバイザーのネットワークを作る。
 ・専門分野(技術、市場、戦略)
 ・組織文化(慣習、業務慣行)
 ・人間関係(裏事情)

10.全社的なサポート体制を整える

最後に、
① 移行期にうまくやれるかどうかは、状況を診断する力、その状況に伴う
  機会を発見し課題を見極める能力にかかっている。そうすれば何が足
  りないか分かり、適切な対策を講じることができる。
② 失敗の可能性を減らし、ブレイクイーブンポイントに早く到達するための
  体系的方法は、この本で述べている
   ・気持ちを切り替える。
   ・状況を診断し戦略を立てる。
   ・効率よく学習する。
   ・緒戦で勝つ。
   ・ネットワークを作る。
③ 移行期で何よりも大切なのは、高い目標に向かって走り出す好循環を
  生み出すことであり信用を失うような悪循環を絶対に起こさないことで
  ある。
  リーダ一は一人の人間に過ぎず、一人の人間にできることは限られて
  いる。だが信頼され評価されているリーダは、テコになれる。
④ 移行期は、リーダ育成のまたとない機会であり、このことを肝に銘じて
  昇進したばかりの人材を育てるべきである。
⑤ 移行期をスムーズに乗り切るための標準的なノウハウを備えておくこ
  とは企業にとってもメリットがある。

図解で磨くプロマネ技術(実践マニュアル)

システム構築の成否は、プロジェクトマネジメントにかかっていると言っても過言でない。
プロジェクトマネジメントのノウハウは、現場の経験・ノウハウがベースであり、かっこよい理論とはほど遠い。この現場のノウハウを読み物としてまとめた書籍が「図解で磨くプロマネ技術(実践マニュアル)」である。著者は、住友生命の情報システム子会社で、システム構築に長年携わってこられたベテランである。
プロマネ技術を、1.プロジェクト計画(成否を決める計画立案)、2.プロジェクト遂行(危機を防ぐプロジェクト遂行)、3.評価、報告、フィードバック、4.フェース別開発ドキュメントに分けて、具体的ドキュメントを活用しながら、改善点を示している。
経験に裏打ちされ、心構え論に終わらない実践的なITプロジェクトマネジメント本である。



具体的には、以下の内容となっている。
1.プロジェクト計画
 プロジェクト計画は、成否を分ける重要なものでありスタート時点で以下に注意せよと説く。
 ①キックオフでは、利用者も参加し、思いを語るべし。
   なぜならば、
   ・プロジェクトの目標、制約事項、意思決定の方法
   ・課題の優先順位の決定、要件確認、仕様の確定、納期調整、
    稼動可否判断
   は、利用者の決定事項である。利用者の参画・責任感がプロ
   ジェクトの成否を決める。
 ②マスタースケジュールには、フェーズ、アクティビテイ、成果物の
   完成時期や納期だけでなく、プロセスを管理する方法、品質管
   理、資源管理、コミュニケーション計画も書くべき。
   ・プロジェクトは、単線的に進行するのではなく、どのように品質
    目標を定め、どのようなテストやレビューによって品質を確保
    するか、コミュニケーションの食い違いをどうやって食い止め
    るか、手戻りや仕様の膨張をどう防止するか。がポイントで
    あり、それらを入れた立体的計画にする必要がある。
 ③作り手だけでの計画ではなく、レビュー、レビュー後の修正、再
   レビューも入れる。
 ④コミュニケーション計画でも進捗会議を意味のあるものにしよう
  とすると事前準備、会議後のフォローが必要。
 ⑤リスク管理で既におきてしまったこと(発現)は課題であって、
   リスクではない。
   ・リスク管理表には「発現可能性」(確率)、「発現した場合の
    インパクト」(影響度、重要度)を書いてプライオリティ付けす
    べし。定期的にトラッキングを行っていくことが不可欠。
 ⑥体制図では実質的なメンバーが必要、役割定義表には部門間
   調整、要件・優先順位の決定、品質コスト納期についての判断
   等を忘れずに書く。会議体一覧では下位の会議から上位の会
   議に課題をエスカレーションしやすいようにする。

2.プロジェクト遂行
  プロジェクトが実際にスタートすると、以下のことに注意すべし説く。
 ①課題管理表では、責任者を明確にし、解決期限も入れる。
 ②変更管理理表には、影響や優先度、代替策、コストを記載し、
  権限者が判断を下す。
    ・インパクト分析→対応分析→可否判断
 ③問題管理表で仕様ミス、コーデイングミスを管理。
    ・解決へのアクション→横展開と再発防止→確実に対応
 ④定例会議のアジエンダとしては、前回の議事録確認、今回
   の結論、課題解決期限、担当者の確認、次回の日程、
   テーマ確認が不可欠である。
 ⑤作業環境を軽視するとメンバーの信頼が得られないので、
   作業環境をきちっと準備する。
3.評価、報告、フィードバック
  プロジェクトが進捗しているときに評価、報告等のマネジメント
  として以下の心得を説いている。
 ①中日程表、進捗管理表において、管理する作業のメッシュを
  統一する。
  ブレイクダウンする作業期間の粒度は「管理サイクルの半分
  以下」。月次管理なら管理するアクティビィティは2週間以内。
 ②スケジュールには、成果物の顧客承認や検収、受発注の契
   約手続き、フェーズイン、フェーズアウトの判定、成果物の
   品質評価や次工程計画の策定、見直し、要員のアサインと
   リリース 、作業場所や開発リソースの準備を考慮する必要
   ある。開発だけでなく関連するイベントを考慮する必要性を
   説く。
 ③品質評価報告書はケースの充足性や不具合の検出状況を
  客観的に評価するものであり、「問題なし」の結論を無理に作
  ることではない。統計は対策につながることを目的に取得する。
 ④リカバリー計画書は、内部で現状把握して方針を検討するた
  めの初動版、顧客と合意するための合意版、計画を実行する
  ための実行版を必要に応じて作成すべし。
  リカバリー計画は変更できないので、妥当性検証と綿密なモニ
  タリングが必要。

4.フェーズ別開発ドキュメント
 ①提案時のプレ要件定義にも注意し、付帯条件を明確にしておく
  こと。この場合は、対象外であることを明記したほうがよい。
  ・「移行データの作成および移行、移行後の検証については
   対象外とします。」等
  ・スケジュールやシステム化範囲について要件定義後に見直
   すことも合意しておく。
   現行システムの機能を踏襲する場合、注意が必要。
  ②要件定義では、相手の説明を無条件で信頼せず、矛盾をついて
   現状をあぶリ出すことが必要。
   例外や数字(データ量、業務量、作業回数、頻度)を把握。
   重要度、代替案、対応コストを作り「要望を絞る仕掛け」を分析表
   に埋め込む。
 ③設計書の記述は、作り手の視点になりがち。既存システムのコード
  設計も無条件の流用は危険。
   「ユーザビュー・外部設計のこつ」を参考に。
  機能ばかりではなく、性能、バックアップや障害時の対応も設計対象
  にする。
  コード内に事業部、部、課、係などの意味を持ち込まないようにする。
  持ち込むとソートや条件判定が複雑になる。
 ④要件定義の段階から移行方針を検討する。現行データを過信せず、
  移行結果の検証、現行データ整備、一部を手作業で移行等につい
  て計画を立てておくべき。

以上箇条書き的に書いたところもあるが、システム構築プロジェクトの
マネジメントのノウハウとして、大変よくまとまっている。

EXTREME TOYOTA

この1年自動車産業は、GM倒産に代表されるように激変に直面している。トヨタも例外ではないが、その激変前に、日本の経営学者が、トヨタは、なぜこれほどまでに成功したのか、経営のどこが優れているのかについて、世界の読者に向けて書いたのが、表題の『EXTREME TOYOTA』である。
 トヨタは、世界一の自動車メーカーで、規模もさることながら、営業利益率でも同業他社が4%前後なのに対し、その2倍の9%前後を達成している超エクセレントカンパニーだった。
売上構成は、北米31.8%、ヨーロッパ11.4%、日本26.4%、中国3.2%、その他27.2%となっており、正に世界的に名前を知られたグローバルカンパニ-である。
この本では、“トヨタは、成功している他の大企業に共通するといわれる多くの特徴を備えておらず、また、それがゆえに成功している”

と書いている。





具体的には、
 ① グローバルで成功している企業の経営陣は、様々な国の出身者
   から構成されることが多いが、トヨタの経営陣は全員が日本人男
   性で、三河地方の田舎企業であることを誇りにしている。
 ② 成功している企業は選択と集中を徹底していると云われるが、ト
   ヨタには明確な戦略フォーカスがなく、自動車業界で先頭に立つ
   ために何でも試してみて、その全てにおいて優れた成績を出そう
   とする。
 ③ 「UP OR OUT」(昇進か退職か)ではなく、「UP AND IN」
   (昇進せずとも会社に残れる)ということで、社員の10%を定期的に
   解雇するGEとは対極である。
トヨタ成功の理由として
トヨタには、意図的に矛盾や対立を組織の中に作り出し、それを消極的に解消することを良しとせず、妥協せずにトコトン議論し、考え抜き、決めたことについて段々と目標を上げながら組織としてやり抜く力とその力を絶えずアップさせる仕組みや仕掛けがあり、その原動力として、新たなチャレンジや更なる多様性、複雑性へ導く「拡張力」と多様になった経験や知見を組織に取り込ませ、定着させ、企業を一つにまとめる「結合力」が必要と述べられており、トヨタの成功の原動力は、以下の3つの「拡張力」と3つの「結合力」であると結論付けている。
<3つの「拡張力」>
 ①不可能な目標 : ほとんどの人が達成不可能だと思うゴールを設定
  する。
 ②実験主義 : 納得がいくまで実験し、失敗から学ぶことを推奨する。
 ③現地顧客対応 : それぞれの市場の先進性や多様性を取り入れなが
  ら、製品やオペレーションを現地顧客に対応させる。生産は統一する
  が、営業は現地に合わせる。
<3つの「結合力」>
 ①創業者の哲学: 創業者の語録は「トヨタウェイ2001」と名付けられ、
   核となる価値観として社員全員が共有・実践する。
 ②神経システム: 縦横に張りめぐらされたコミュニケーションネットワ
   ークで知識や経験を交換する。
 ③アップ アンド イン: 社員は学習と改善を通じて個人の創造性を
  常に高めていく。

トヨタでは組織的課題解決能力を強化するため、入社10年目までに、問題解決のスキル習得を目的として、企画や施策をA3文書一枚にまとめる訓練を行い、上司は課題の深掘りの仕方、文言のチエックをOJTで徹底して教える。このA3文書というのは、企画等を行うときの説明資料のことで、「問題の定義と背景」、「要因分析」、「実行スケジュール」、「結論」、「今後の課題」等企画に必要な項目を書くもので、どのような大きな企画でも、このA3文書一枚にまとめ上げることを徹底しているようだ。
また、トヨタ・ビジネス・プラクティクス(TBP)として、レクサスやサイオンの展開でも活かされた、トヨタの新製品や新しいビジネスモデル展開時に留意していることとして、以下の話がでている。
 ① 「目標の目標」を考える。
 ② 大きく複雑な問題を、もっと小さな或いは具体的な問題に分解
  する。
 ③ 小さく始めて、ゆっくり進める。
 ④ たとえ失敗しても実験をくり返す。
 ⑤ 成功した仕事のやり方を制度化する。
 ⑥ 基準を上げつづける。
特に③、④は、新規サービスを立ち上げる時、⑤、⑥は、事業としてある程度軌道に乗ってきたときの考え方として参考になる。

トヨタが今後どのように復活してくるか分からないが、経営力、成果を出す組織能力において抜群であることはよく分かる。
成功企業の類似を抽出した経営に関する書籍とは異なり、実際の調査をベースにトヨタの強さを分析的に解明しようとした優れた本である。理論的にどこまで解明できているかには課題はあると思うが。

2009年11月9日月曜日

経営者になる。経営者を育てる。

先日は経営学者が書いた「よき経営者の姿」の読書ノートを作成したが、今日は、BCGのコンサルタントが書いた「経営者になる。経営者を育てる。」について読書ノートを作る。どちらの本もかなり以前に読んだが、その当時は経営の実際の現場から遠かったので、知識としてのみ理解したに過ぎなかった。現在は少し、自分の経験に基づき物事を考えられるようにはなった。
この本では、あるべき経営者として出井さん、稲盛さん、金川さん、酒井さん、鈴木さん、高原さん、柳井さんを上げている。「よき経営者の姿」は、小倉さんがメインなので、あるべき姿として想定している経営者は世代的に異なっている。結論的には、求められるスキルとしては同じような感じだが、これは上記の経営者の言葉を多く引用し、それらの共通項を出す帰納法的アプローチだが、「よき経営者の姿」は、経営とは何から必要な姿(スキルにかかわらない)を導出する演繹型アプローチとも言える。




1. 経営者に必要なスキルセット
(1) 経営者が実行すべきこと。
  特別変わった内容ではないが、経営者は以下のことを実行する必
  要があると説く。
  ① 自社の置かれている市場環境を正しく認識する。
  ② 目標を決める。
  ③ 目標と現状のギャップを正確に認識する。
  ④ ギャップを埋めて、目標を達成するための戦略・実行プランを
    立案する。
  ⑤ 社員に対して、目標、戦略・実行プラン、なぜそれをやり遂げな
    ければならないかを正しく伝え、目標に向けて動機付けする。
  ⑥ 組織として、戦略・実行プランを実行する。
  ⑦ プランの進捗状況・結果をモニターする。
  ⑧ 結果を解析し、必要に応じて軌道修正する。

  経営のスキルを、科学系のスキルとアート系のスキルに分類し述べ
  るが、特にアート系のスキルが重要と説いている。

(2) 科学系スキル
  ① マネジメント知識(戦略、マーケッティング、経済学、会計、オペ
    レーション等)
  ② 論理的思考(論理的に個別要素に分解、要素間の関係を理解、
    定量的に理解、個別要素を積み上げて統合する力)

(3) アート系スキル
  ① 強烈な意志
    ・ 事業において何が何でも結果を出すという意志が必須。この
     源泉は「高志」と「責任感」
  ② 勇気
    ・ トレードオフを理解したうえで、どちらかを捨てる勇気。
    ・ 不完全な情報下でも必要なタイミングで決断する勇気。
    ・ やめる勇気。変える勇気。
    ・ 必要ならば情を捨てて人を切る勇気。
     そのためには、リスクを管理できること、無私な倫理観を持っ
     ていることが必要。
  ③ インサイト
    ・ 洞察力、発想、ひらめきであり、事業の本質を見抜いたり、
     経営課題を見る視点を大きく変化させ、競合他社が思いつか
     ない新たな戦略を構築する。
     日ごろから、以下のクセをつけておく必要がある。
      ◆ 一歩引いて本質を見る。
      ◆ 二極性で発想する。
      ◆ 自分が「何にハマッているか」を客観視した上で、あえて
        自分のハマッている思考パターンの反対側/外側に振
        ってみる。
      ◆ 定石は必ず壊して進化させる。
      ◆ 他人の頭を使う。
  ④ しつこさ
    ・ 「考えるしつこさ」と「実行するしつこさ」が必要。斬新な発想は、
     どれだけ「しつこく考えるか」の関数。
    ・ 実行するしつこさで事業の成否に差がつく。
     地味に、地道に実行する。派手で奇抜なプランは短期的成功
     を生むかもしれないが、長期的には持続性はない。長く継続
     する。10年かけて構築した優位性は、競合他社が追いつくた
     めには10年以上かかるほどの確固たるものとなる。
  ⑤ ソフトな統率力
    ・ 強制的に指揮命令するのではなく、経営者の掲げる「夢」の魅
     力の強さ、人間的魅力で構成員を魅了し、組織として結果が出
     せるように仕向ける力。
     ◆「夢」を掲げる能力:「志」の高さと「清さ」
     ◆「夢」を共有する能力:受け手が共感する。やわらかな人的
       ネットワーク
     ◆経営者の人間的魅力:「志」の高さ、ひたむきな徹底、
                     ねあか

(4) スキル習得
  ① 特定のスキルを習得したいという強い意志を持ち、目標を定める。
  ② 集中する。一時期に一つのスキル習得に専念する。
  ③ スキル習得の訓練法を編み出す。
  ④ スキル取得のアクションを愚直に、何回もしつこく繰り返し実行する。
  ⑤ 習得状況を書き留めてモニターする。
  ⑥ スキルを習慣化させる。

(5)実体験でのポイント
   ①若いころ
   ②事業を構成する一機能ではなく、全体を統括する体験をすること。
   ③修羅場や背水の陣の状況を体験すること。
   ④失敗しても立ち直れることができるようにダウンサイドリスクを小さくしておく。

(6) 企業の成長とそれに対応するアプローチ
   ① 企業の成長
    ・ 創造ステージ
    ・ 成長ステージ
    ・ 優位性ステージ
    ・ 効率ステージ
   ② アプローチ
    ・ 戦略型アプローチ:長期的、包括的な戦略の立案・検証・実行が
     必要なとき。
     ⇒CEOが前面に出て実行。80%の時間をかける。
    ・ 人材型アプローチ:顧客に近い事業部に任せたほうがよいとき。
     ⇒CEOは幹部人材の育成や配置に注力。幹部での価値観共有。
    ・ 競合優位型アプローチ:自社の趨勢がある特定の競合優位性に
     大きく依存するとき。
     ⇒CEOはたとえばR&D、営業等重点領域に注力。
    ・ フレーム型アプローチ:製品・サービスを安定して高品質で提供す
     ることが重要な場合。
     ⇒CEOはフレームつくりとモニタリング異常値対応。
    ・ 変革型アプローチ:今までのやりかたと決別し、大きく変革しなけ
     ればならないとき。
     ⇒CEOは従業員に必要性を認識させるために、スピーチ、ミーテ
       ィング等のコミュニケ-ションに注力すべき。

経営の魂のようなものは感じられないが、体系的によくまとまっている。
このノートには、書いていないが、各経営者の「生の言葉」をうまく編集し、
使っており、読み物として読みやすい。しかし出井さんを名経営者とみるかどうか等評価がまだ定まっていない経営者も登場している。

2009年11月8日日曜日

ユニチャームSAPS経営の原点

経営戦略は実行されなければ意味はない。現在関係している企業は、以前は毎年りっぱな計画を作ってはいたようだが、実行の管理はあまりしてこなかったようだ。時間を掛けて経営計画や経営戦略立てて、それで戦略経営実行していると勘違いしている経営者もいる。実行しないのは従業員の意識・能力が低いからと思っているのか知れない。戦略の実行は言うより難しい。
以前、『EXECUTION』(Bossidy、Charan)『The Knouwing -Doing Gap』(Pfeffer、Sutton)を読んで、実行の重要性は理解していたが、経営に携わると具体的方法に関する情報がほしくなった。
Execution: The Discipline of Getting Things Done
The Knowing-Doing Gap: How Smart Companies Turn Knowledge into Action
ユニ・チャームは、1961年に四国・愛媛の建材メーカとして創業され、創業48年で、売上3478億円、営業利益率10%、従業員7000人に成長した。そのユニチャームのマネジメントについて書かれた本が『ユニチャームSASPS経営の原点』である。難しいことは書いていないが、戦略・方針を徹底・実行するにはどうしたらよいかを知るのに少なからぬヒントがある。


SAPSは
・S:Schedule:「思考」と「行動」のスケジュール立てること。
・A:Action:計画通り実行すること。
・P:Performance:効果を測定し、反省点・改善点を抽出すること。
・S:Schedule:今週の反省を生かして次週の計画を立てること。
の略で、
①最優先課題に集中する。
②真因を突き止める。
③自己流を排除する。
④実行の仕組みを定着させる。
を特徴とする。

端的に言えば、トヨタ生産方式を法人営業領域に適用したような感じである。
トヨタ生産方式、P&G、BCGに学び、自社は完璧でなく日々成長していかなければならないという謙虚さをもった「すごい企業」という感じがする。

 SAPSの説明として、まず、ユニ・チャーム・ペットケアの建て直しの実話から始まる。
営業の現場では、売上目標を達成するため、押し込み営業、そのための販促費ということで営業部門は荒廃し、疲弊していた。売上計上は出荷時、販売促進費計上は支払い時という月次決算マジックの下で、当月目標達成率のみが営業の目的と化していたようだ。
 この状態に対し、売上という販売目標を捨てて、行動目標(訪問件数等)によるマネジメントに変えていった。この行動目標によるマネジメントは特徴の一つである。
 通常自己革新を行うには、意識革新⇒行動革新⇒能力革新⇒習慣革新のステップで行うが、SAPSでは、行動革新⇒意識革新⇒能力革新⇒習慣革新と行動革新を重視する。行動を変えることがすべての始まりと考えるようだ。そのために行動を管理する行動基準を作り、自己流を排除して「定石」で調整し、全員で達成感を共有することを実践している。
 行動基準には、○、×でできばえを判定できることを求めており、数量的な基準があればなよい。
SAPSの方法論からはずれるが、経営マネジメントの観点から需要な点として、利益を最大化するためには、受注・生産の平準化の重視性を説く。それを管理するためのツールとして、日々の累積売上を45度線管理をあげている。
経営者は、「うぬぼれ」「おごり」「甘え」「マンネリ」に対して注意すべしと説く。

変化への対応スピードを重視し、それを以下のOODAループとして整理している。
・O:observe:情報を収集する。
・O:orientation:収集した情報の意味を考える。
・D:decision:これからどうやって戦うのかを決める。
・A:action:実際の行動に移す。
O(状況判断)とD(意思決定)の速さにより、対応スピードに差がつく。
業績を出すには、上位20%、60%、下位20%のうちの上位20%のパフォーマンスをあげることを考えるのではなく、下位20%のお荷物社員のやる気を引き上げることが必要と説く。
少し違和感もあるが、SAPSの標準化は下位20%を対象にしているように分かりやすく標準化にもい適している。
 経営者は、最優先課題(1P)を見出し、社員が納得するまで情報発信しつづけ、全社員のベクトルを決定付けることが必要でとのこと。
 マネジメントの仕組みについても、作ることよりも定着させることのほうが重要と実行性重視であrる。仕組みが定着したという言葉を使っている間はまだまだで、「この仕組みが定着したから業績が伸びた。」までいけと言っている。
 SAPSマネジメントモデルは、以下の4つのツールを活用する。
 ①OGISM:Objective Goal Issues Strategies Measures
         緊急性と重要性で課題の優先順位付けを行う。
         主題の現状分析⇒環境変化予測⇒リスクトチャ
         ンス⇒達成目標の明示
         達成目標の日程化⇒解決すべき宿題の明示⇒
         課題解決のための推奨戦略⇒判定基準の明示
 ②1Pローリング表:最優先事項行動表 
         OGISMに記述した「課題」を解決するための行
         動計画のこと。
         半期の重点を今月の重点に落としこみ、それを
         1Pローリングで今週の重点に落としこみ、さら
         にそれを「SAPS週報」で日々の実行計画に落
         とし込んでいく。
          (1)問題の発見と形成:先週の問題の明確化⇒
            問題の証拠を挙げる
          (2)原因分析:できなかった原因を探る⇒核心
            的原因を突き止める
          (3)意思決定:対策の目的の明確化⇒代替案
            検討⇒今月対策の選択
          (4)実行:今週の対策の実施⇒結果を確かめる
    *できたことは書かない。営業日報は「できたこと」ばかり
      書く傾向がある。できなかったことを書き、できるように
      するための対策を考える。
  五面等価の原則」:権限・義務・責任+能力・評価
 ③SAP週報:1Pローリング表で導き出された「今週の重点」に
         ついて今週のアクション計画を書く。
         行動スケジュールに落とし込まれ、売るべき商品、
         訪問すべき営業先が書かれていることが不可欠。
 ④週次SASPS営業会議:今週の活動結果を確認し、次週の
   重点を周りの人たちと共有し、徹底するための場。
   各人のパフォーマンスを全員でチエックする。

私は、最近失敗事例の原因分析にエネルギーを掛けるよりも、成功事例の横展開にエネルギーをかけたほうがよいと感じ始めている。同じ考えは「ソリュ-ション フォーカス」とも言うようである。
それに関して、この本では以下の理由で同じ結論を言っている。
初心者やローレベルの人にとっては、失敗の原因は無数にあって、とても特定できず、また直さなければならないことも無数にある。それならば、成功体験を学んで展開したほうが、次の成功につながりやすい。

SAPS導入で実施してはいけないこととして以下をあげている。
①以前のしくみに足し算ではなく、以前の仕組みを廃止する。
②行動基準のない行動管理をしては駄目。
③実行の仕組みなしにプランだけ書かせるのは駄目。
④コミュニケーション不足のまま週次SAPS会議を実施しては駄目。

下位20%の社員徹底できることを狙っているだけあり、SAPSの中身は具体的であり、
実行徹底に大変有効なものと思う。
現在読んでいる『TOYOTA KATA』とも共通なものがある。

よき経営者の姿

経営にかかわりながら、よき経営者とはどのような人なのかと考える。
他社の経営者の方にお会いし、その人はどのような経営観を持っているのかと思う。

よき経営者とは、どのような人を言うのか、よき経営者は何ができなければならないか
を考えているときに、『よき経営者の姿』伊丹敬之を読む。
よき経営者を、(1)顔つき、(2)仕事、(3)資質、(4)育ち方、(5)失敗、
(6)退き際に分けて論じている。

(1) 顔つき 
    ① 深い素朴さ:地に足のついた考えをしており、とらわれないものの見方
                              ができる。かっこをつけたり、斜めに構えたりしない。
  ② やわらかい強さ:ものごとの自分なりの筋を一本持っている強さであ
    り、失敗にめげない強さ、不安にぶれない強さ。強さは硬さであって
    はいけない。硬さは人を遠ざける。強さを背後に秘めややわらかさ
    で人を魅了する。
  ③ 大きな透明感:責任意識とはこうせねばならないという思いである。
    覚悟とは何にかをなした後の結果について自分ですべてを引き取ると
    いう思いである。その覚悟を決めると人の顔は透明になる。濁りがな
    くなる。

この3つの特徴をもつ顔を育む思考と決断のプロセスは以下の特徴を持っている。

  ◆「正」(正しい方向)と「悪」(達成の障害の除去)を両睨みで考える。
  ◆三つの目(詳細を見る虫の目、高く広く鳥の目、流れの先を読む魚
    の目)をもって現実に沈潜して、考える。
  ◆繊細なる鈍感さで決断する。あきらめと覚悟の同居が跳躍。
    敏感に考え、時に決断する勇気。

(2) 仕事(役割)
  ① リーダ:集団を率いていくことが求められる。そのためには、人格的
         な魅力が必要だが、その背後には人格的な温かさが信頼
         感につながる。
         ひとつの筋を通してぶれないからこそ信頼感を持つ。
  ② 代表者:社会に対しての企業の責任をすべて一身に負う存在で、判
         断を仰ぐ人が他にいない孤独な立場。
         総合判断の結果責任をすべて負う。

  ③ 設計者:企業全体の方向性を決める。資源の配分の基本枠を決め
         る。組織の構造と管理の仕組みの基本を決める。その仕
         事の仕組みの中での人の配置を考える。

経営とは、他人を通して事をなすことである。そのためには、経営理念を策定し、伝道していくことが求められる。人々の間のさまざまな分配(賃金、権力、名誉、時間)の決定者であり、働く人々の能力を育成する教育者であり、事業活動の意味を考え、働く人々の仕事の意味を考える哲学者でもある。

(3) 資質
  ① エネルギー:難所で踏ん張るエネルギー、難しい総合判断を考え抜くエネ
           ルギ―の水準が高い。土光敏夫さんの定義。
                バイタリティ=知力×(意力+体力+速力)  
  ② 決断力:判断力+跳躍力と表せる。判断力の源泉は、知力と現場情
         報への沈潜。
         跳躍力の源泉は、広い意味での哲学あるいは倫理観。
         「自分よりはるかに大きなものに受け入れられる感覚」
  ③ 情と理:理に情を添える。カネの流れの動き方と蓄積・利用のメカニ
         ズム、情報の流れの動き方と蓄積利用のメカニズムは、論
         理が支配する世界であり、「理」で理解する必要がある。
         情報の流れの中で働いているのは人間であり、感情を持っ
         た存在である。

経営の状況によって、求められる資質が異なり、それぞれ以下のように整理できる。
   ◆事を興す人:「構想力」
   ◆事を正す人:「切断力」
   ◆事を進める人:「包容力」

また、経営者に向かない人の特性として以下を挙げている。
   ◆ 私心が強い人。
   ◆ 人の心の襞が分からない。泣いて馬しょくを切ることは必要。
   ◆ 情緒的にものを考える人。
   ◆ 責任を回避する人。
   ◆ 細かいことに出しゃばる人。 
さすが経営者といわれる人には、上記特性を持つ人は少ないが、会社の
部長、事業部長クラスには思い当たる人もいる。
「よき経営者は偉大なる常識人」が結論とも書いている。

(4)育ち方
 ①高い志
  高い志を持ったものは、低次元に現状満足しない。自己修練の契機
  を作り出していく。その高さゆえ多くの人をひきつける。
 ②仕事の場の大きさ
  大きな仕事の場は、大きなスケールでものを考えざるを得ない状況に
  し、深い悩みとぎりぎり決断を迫る状況が生まれる。
  若いころに経験するのがよい。
 ③ 思索の場の深さ
  読書を通じて、対話を通じて、内政のプロセスから物事の道理を自分
  で発見していく。経営、人間行動、社会の動きについて自分なりの考
  えをもつようになる。

(4) 失敗
経営者の失敗の背後には、以下のような要因がある。
 ① 状況認識の誤り。
   環境に関して知的判断力の低下。現実を直視しない心理。
 ② 人物鑑定の誤り。
   人物に関して知的判断力の低下。現実を直視しない心理
 ③人格的ゆるみの誤り。
   厳しい自己抑制や自己規律のあった人が何らかの理由で甘えが出
   て抑制が効かなくなる。

上記の原因は、加齢、成功そのもの(成功体験の呪縛。自信が過信へ)、組織への過剰密着(客観的に自分の組織を見れなくなる。組織の内部事情を外部の状況より優先してしまう。)

以下のような傾向がでれば、それは失敗の予兆である。
  ◆自分勝手な論理で考え始める。
  ◆派手な行動好む。
  ◆決断のタイミングがずれる。
また、いい人たち宦官が失敗を加速するとも説く。

(5) 退き際
  後継者をきちんと確保した上で、惜しまれて「自ら」退くことが必要
  であり、またタイミングが重要とも説く。
  自分が当事者になれば、タイミングをなかなか判断できないもの
  なのだろう。

理論でスパッと整理した感じではなく、事例を丹念に調べ、また経営
とは何かを思考した中で出てきた結論であるように思う。
じっくり考えながら読むに値する本であった。
  

2009年11月3日火曜日

経営戦略の思考法

 会社の中期の経営戦略を考える中で、考慮すべき点等を整理したいと思い、最近出版された『経営戦略の思考法』(時間展開・相互作用・ダイナミクス)沼上幹著(日本経済新聞出版社)を読んだ。
自分の頭で考えることの重要性を再認識できた名著だった。コンサルタントが書いた経営戦略の関する書籍とは思考の深さが違う。
特に、第三部の「戦略思考の実践」は、日々の経営の中で実感する組織力学が的確に書かれており、大変参考になる。お勧め書籍



 まずは、この本の概要を整理すると以下のとおり。
 第一部で、Ansoffに代表される経営計画学派、Mintzbergに代表される創発戦略学派、Porterに代表されるポジショニング・ビュー学派、伊丹に代表されるリソ-ス・ベースド・ビュー、Nalebuffに代表されるゲーム論的アプローチを概説するとともに、それぞれの学派を

X軸:経営資源⇔環境の機会と脅威、

Y軸:事前の合理的計画(トップダウン)⇔事後の創発重視(ボトムアップ)

Z軸:時間展開・相互作用・ダイナミクス志向⇔安定構造志向

の空間に位置づけた上で、実際に経営戦略を策定するときどのように考えていくかをシミュレーションし、それぞれの学派の視点を複合的に活用して行っているかを述べている。特にゲーム論的視点を継承した時間展開・相互作用・ダイナミクス志向については、この本の後半に書かれている本論へのつなぎとなっている。

 第二部では、時間展開・相互作用・ダイナミクス志向を実践していくときの経営戦略の思考法としてメカニズム解明法について述べている。著者は思考法は以下の3つに分類している。

①カテゴリー適用法 (例:デバイズ事業は儲かるからデバイズ中心の会社
                にするというような思考法。)

②要因列挙法    (競合商品等と比較して「強み」・「弱み」の要因を列挙
              し、「弱み」を補強する等の戦略を考える思考法。)
                                                                    
③メカニズム解明法 (時間軸を考慮し、要因・結果を明らかにした上で、
              要因に対し施策を打っていく思考法。
              例:独自技術⇒ユニークな商品⇒顧客のブランド
              忠実度向上⇒・・・・・)

経営戦略書でも、①や②のみの分析で書かれているものがかなりある。著者は、この①、②を思考停止状態として限界を指摘し、時間軸・因果関係を明確化し、さらに因果関係間にプレイヤーの意図や行為、さらに関係するプレイヤーの反作用に関する読みを盛り込んだメカニズム解明法の必要性を説く。
 著者は、具体的には以下のステップで思考していくことを推奨している。

 ①ある時点、あるセグメントでのリアルな「こびと」(企業、個人等の
  プレイヤー)を思い浮かべる。

 ②「こびと」の相対的位置関係を明らかにして構造を描く。
  ①、②は、重要な要素やプレイヤーを空間的に配置するイメージ。

 ③時間展開時(ダイナミック)の「こびと」の変化をトレースする。
  つまり、これらの要素やプレイヤーが時間的に変化していく様を思い浮
  かべるイメージ。

 ④「こびと」たちからなるシステムの挙動を構想する=メカニズム解明
  これは時間的変化の中で多様な要素やプレイヤーたちが相互作用する
  プロセスを展開するイメージ。

 第三部では、第二部で説明した「メカニズム解明法」を活用して、経営戦略と組織の相互作用の事例を分析しています。具体的には、①顧客、②競争、③シナジー、④選択と集中、⑤組織暴走を取り上げている。それぞれのトッピクスの中で、私は以下の話を興味深く読んだ。

 ①「顧客」に関するトピクスでは、顧客は時間とともに変化していくので、
   現在の優良顧客の声のみを聞いていくことの危険性を、イノベーシ
   ョンのジレンマの例で説明している。

 ②「競争」に関するトピクスでは、チャレンジャーがリーダに「差別化」
   戦略で勝つためには、チャレンジャーの「差別化」ばかりで決まる
   のではなく、リーダの「同質化」の遅れも必要と説く。
   具体的事例としてはコクヨが既存チャネル資産を配慮したが故に
   アスクルに対し「同質化」が遅れまた対応も不十分あったことが示
   されている。
 さらに「競争」に関するトッピクスとして先手必勝の戦略についても分析
 を行い、
 「ネットワーク外部性の比重が大きな製品」については、以下の論理で
 先手必勝の可能性が高いことを述べている。

 多数の顧客⇒ネットワーク外部性⇒製品価値向上⇒デファクトスタンダード

それに対し、
 「ネットワーク外部性の比重が少ない製品」においては、一回だけ先手を打
 つのではなく、先手を打ち続けて、競合を受身に回らせ、徐々に追随タイム
 ラグを長くしてその累積によって競争優位を確立して行く「差別化の連鎖」
 が必要と述べている。

 ③「シナジー」に関するトピクスについては、セットメーカにおけるデバイス
   内製化が矛盾を来たす過程を説明し、最終的にデバイス部門が外販
   に乗り出し、シナジーの喪失、会社として整合性のないプロダクトポー
   トフォリオになっていく可能性を分析している。

 ④組織暴走に関するトピクスでは、後から振り返ったり、周囲で客観的に
   見ている人々からは「失敗」であると「分かって」いるプロジェクトに、
   組織として中止を決断できずに長期間にわたって経営資源が投入さ
   れ続ける組織の暴走についてその原因を分析している。
  ○組織的要因、○心理的要因、○競争企業間の相互作用、○英断と
   暴走の判別の難しさに分けて説明しているが、特に心理的要因
   について共感できるところがある。
 ◆人間は「ゲイン」で表現される問題では結果の確定した選択肢を選び、
   「ロス」で」「表現される問題ではリスクをとる傾向がある。
 ◆埋没費用を計算に入れてしまうので、失敗し続けているプロジェクトに
   かえって投資を増やしていく可能性すら存在する。
 ◆自分が行った投資意思決定を正当化するバイアスがかかるので、マイ
  ナスのフィードバック情報に対して、かえってコミットメントを高める傾向
  がある。
 ◆会社組織において、部下は、思考と行動が一貫しているリーダを尊敬
  する傾向があり、リーダの行動がそちらに傾く傾向がある。

 上記のような要因列挙法レベルで語られる「勝ちパターン」を、要因結果
 までブレイクダウンして分析し、要素間の時系列の相互作用を分析する
 ことにより、「なぜ」に答えてくれる。

この本に書かれている経営戦略思考法は、経営の現場で戦略を考えるために大変役立つものと思われるが、私自身経営現場では、以下のような簡便法を活用していく。

営業利益=売上(数量×単価)-直接原価-間接原価-販売費-管理費

売上(数量×単価)、直接原価、間接原価、販売費、(管理費)それぞれに
関連する要素、関連プレイヤを
外部の機会、外部の脅威、内部の強み、内部の弱みの観点より抽出し、
それぞれの要素の関連(自己強ループ、バランスループ)、相関係数を整理
しもっとも利益に影響する要因に対して対策のシミュレーション行っていく。

日本のあるグループの経営学者は、米国のビジネススクールの理論の受け
売りでなく、独自の理論や実証分析に基づいて、経営現場にいる人間の腹に
ストンと落ちるような研究をしているように感じる。
学生時代には、米国ビジネススクールの理論の方が論理的で、日本の経営
学者が書いた本は論理が明確でないように感じていたが、最近経験をつむ
ことにより、日本経営学のよさが少しわかるようになった気がする。

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