2011年2月6日日曜日

第6の波-環境・資源ビジネス革命と次なる大市場-

環境問題は、どちらかと言えば倫理的側面で捉えがちである。
私自身も、現在の環境熱は一過性のものかもしれない、いつまで
続くのかと少し懐疑的であった。以下の本を読んで経済の問題と
して環境問題を理解できるようになった。
経済学者とジャーナリストの共著ということで、最新の事例を
理論的に分析し今後の方向性をそれなり一貫した論理で提示する
のに成功していると思う。


1.イノベーションの波
「第6の波-環境・資源ビジネス革命と次なる大市場-」
でオーストラリアの経済学者とジャーナリストが、今後の経済の
動きの原理を提示している。
まずは、経済発展の原動力はイノベーションであるとし、イノベーション
プロセスは、技術と市場と制度のいずれかで変化がおこれば、開始される
という。コンドラチェフの波に基づき今までのイノベーションの歴史を以下
のように整理する。
 第1の波(綿・鉄・水力の時代):1780年代~1815年
 第2の波(鉄道・蒸気機関・機械化の時代):1846年~1873年
 第3の波(重工業・電化の時代):1895年~1918年
 第4の波(石油・自動車・大量生産の時代):1941年~1973年
 第5の波(情報通信技術の時代):1980年~2001年
第6の波は、2001年ごろから始まっており、この特徴は、環境・資源
の最適化であると説く。
第5の波の本質は、情報通信技術の波ではなく、情報技術を活用した
“取引コスト”の削減であり、これが、企業の規模と中核事業を規定して
きた。
2.第6の波の特徴
 第6の波は、資源効率性がキーワードであり、大きな市場機会が期待で
きる。具体的には“売れ残りの製品を限りなくゼロに近づける”もしくは
逆に“売れ残りの製品から利益を得る新しい手法を見つける”ことがポイ
ントとなる。そのためには、今まで所有権がなかった自然等に対して所有
権や受給権を適切に導入してやれば、所有する資源を守るために投資を行
うインセティブが生まれるようになる。
水に所有権を設定すれべ、資源から価値を得られる者と、資源を所有して
いる者との間では、取引が開始され、資源の価値は取引を通じて明らかに
なっていく。このような動きの一つとして、世界各国の政府による外部性
の内部化というトレンドも見られる。
天然資源を守るため、そして今まで価格がなかったもの-水や土や生物
多様性-に価格をつけるため、様々な制度が構築されるつつある。
著者は、
「次なるイノベーションの波は、資源効率の向上によって突き動かせられ、
 天然資源と廃棄物の値付けによって実行性があたえられ、クリーンテッ
 クによってターボ加速される。」
と説く。
この時代のイノベーションの特徴は、以下のように表せる。
第一のコンセプト:廃棄物=チャンス。
         廃棄物が多ければ多いほどチャンスは大きくなる。
第二のコンセプト:商品でなくサービスを売れ。
         資源消費なしに価値を創出する方法はサービスである。
第三のコンセプト:デジタル界と自然界は融合。
         あらゆる天然資源には測定と監視が行われるように
         なる。
第四のコンセプト:原子は地元に、ビットは世界に。
         効率性を追求すればするほど、天然資源にかかわる
         全ての活動は、どんどん地元で行われるようになる。
         他方インターネットは国際的性質を持つため、情報
         にかかわる全ての活動は、国境をまたいで行われる
         ようになる。
         エネルギー生産は分散化と地域化が進み、資源は生
         産地に可能な限り近い場所でリサイクルされる。

3.第6のイノベーション特徴と内容
 (1)廃棄物はチャンスである。
  資源効率が競争優位の源になっている世界では、廃棄物を減らす
  技術もしくは廃棄物をゼロにする技術者は、高い確率で成功を手に
  することができる。しかしそうは分かっていながら、エネルギー効
  率の向上に対するビジネススピードは上がっていない。
  なぜアメリカでエネルギー効率性の向上が進まないのかについて、
  マッキンゼー社は調査報告で、以下の理由を上げている。
  ①エネルギー効率の向上には先行投資をしなければならないが、投
   資回収のほうは、導入した省エネ装置の寿命が尽きるまでの期間
   に、もしくは導入した省エネ装置が終了するまでの間に少しづつ
   行われることとなる。
   つまりエネルギー効率に対して投資する場合、手っ取り早い儲け
   はできない。
  ②エネルギー効率の向上から生まれる利益は、数え切れないほどの機
   器、場所、場面に振り分けられるため、ひとつひとつのサイズが極
   めて小さくなる。だから単純明快な省エネ策はなかなか見つからな
   いし、唯一無二で万能の省エネ策というものも存在しない。
 (2)商品ではなくサービスを売る「シエアリング」
  生産者と消費者の目的の不一致が、大量の廃棄物を生み出している。
  消費者は、購入した商品が可能なかぎり長く保ってくれることを期待
  するが、生産者のインセンティブは、異なる方向に働く。
  生産者としては、商品は妥当な期間だけ保ってくれればよく、それ以上
  の耐久力は望まない。
  当該商品の耐久力が長続きしすぎれば、当該商品の市場が縮小してしま
  う。つまり、計画的陳腐化の考え方により商品設計は行われている。
  生産者が商品に関するあらゆる責任を新しいオーナー(消費者)に押し
  付けず、商品寿命が尽きるまで所有権を持ち続けるなら、耐用年数を過
  ぎたあとに商品がどうなるかを考えなければならなくなる。
  なぜなら最終的に無価値な廃棄物や、有毒な廃棄物、再利用不可能な
  廃棄物を大量に背負い込んだ場合、企業のバランスシートの見栄えが
  相当に悪化してしまう。それを避けるために、企業は商品を簡単に分解
  する方法や、再生産のために最大限の資源を回収する方法を設計段階
  から考えるようになる。そのようなインセンチィブを持つようになる。
  サービスは、集約して行えば経済的効果がある(提供可能となるまたは
  コストが下がる)場合に成立する。
  サービスを提供する際の重大要素は、サービス利用状況を追跡する能力
  と、サービスによって消費される資源を追跡する能力。
(3) デジタル界と自然界は融合しつつある。
  自然界との相互作用、ツールや機器を通じた相互作用は、すべて測定・
  跡されるようになる。
  このインタフェースの3大特徴は、
           機能付与、インテリジエント化、相互接続。
(4) 原子は地元に、ビットは世界に
  分散化は、規模の経済に由来する効率性向上と“原子”の輸送量削減
  に由来する効率性向上とはトレードオフの関係にあり、最適的で決定
  される。
  情報を世界中に運搬してもほとんどコストはかからないため、テクノ
  スフィアで事業を展開する企業-情報やサービスなどのビットを扱う
  企業-は、世界中のニッチ市場に接触する機会を与えられる。

私なりに整理すると以下のようになる。

今後の第6の波は、”売れ残りの製品を限りなくゼロに近づける”もしくは逆に“売れ残りの製品から利益を得る新しい手法を見つける”ことがポイントとなる。そのためには、今まで所有権がなかった自然等に対して所有権や受給権を適切に設定する制度の必要性を説く。
「次なるイノベーションの波は、資源効率の向上によって突き動かせられ、天然資源と廃棄物の値付けによって実行性があたえられ、クリーンテックによってターボ加速される。」とも説く。
上記の「天然資源と廃棄物に値付け」が行われた世界を前提に、著者の経済学的論理を私の推測も入れて、展開すると以下のようになる。
1.廃棄物および処理に価格(負の価格含む)が付くことにより、「廃棄物=チャンス」となる。
2.'A生産者が、商品寿命後の処理の費用を負担しなくてよい制度においては、商品売り切りが生産者にとって合理的(消費者には非合理的)であるが、生産者が商品寿命後の処理の費用負担をしなければならない制度においては、「商品ではなくサービスを売るシエアリング」が社会的に効率的となる。
3.自然という有限の資源を経済効率的に管理活用するために、「デジタル界と自然界との癒合」、
 つまりデジタルツールを使って自然の状況を追跡監視必要性が高まると説く。
4.規模の経済に由来する効率性向上と“原子”の輸送量削減に由来する効率性向上とはトレードオフの関係にあり、双方がバランスする最適な的で分散化の度合いは決定される。”原子”(物理的物)の世界においては、資源効率性の重要性が増すことより今まで以上に輸送量削減が重視され、生産と消費が同一地域で行われる傾向が増す。しかし情報(ビット)は、世界中に運搬してもほとんどコストはかからないため世界に流通するようになる。「原子は地元に、ビットは世界に」
このようになんとなく潮流となっていること(シエアドエコノミーやM2M等)に対し、「資源効率性」の観点から必然性を説明しているところはユニークであり論理的なので大変評価できる。
環境問題等を経済学の論理できちっと考えてみたい方には大変参考になる本だと思う。