2010年10月24日日曜日

経営は実行。(EXECUTION)

英語版『EXECUTION』を、以前に購入し読み始めたが、ボシディとチャランの
コメントが入ってきてそのニュアンスがよく分からないので、興味を失くして積読
となっていた。
久しぶりに本屋でこの本を見つけ、2010年に改定版が出版されたとのことで今度
は日本語版を買って読んでみた。
経営者の立場で戦略を実行する、させるにはどうすればよいかについて的確に
書かれている。
 理論書ではないので、経営に近い経験がないとこの本の本当のところは理解
出来ないかも知れない。以前の自分も英語版ということだけでなく、経営に対する
経験不足ということもあるかもしれない。
以下ポイントを書き留めておく。


成功する企業と低迷あるいは破綻する企業を分けるのは、戦略や目標を実行
する体系である。人材、戦略、業務という3つのプロセスが、優れた実行の核で
あることには変わりない。
今回の改訂版ではそれぞれに以下の改訂が必要であると説く。

1. 戦略プロセス
 業界の競争分析だけを基に戦略を立てていては不充分である。環境変化が
 激しいので、世界の金融・経済環境を分析し、理解しておくことが必須である。
 成長率が鈍化し、競争が激化し、消費行動が変わり、政府の規制が強化され
 るといったことを考慮する必要がある。
2.人材プロセス
 高成長環境では数多くの罪を覆い隠すことができるが、低成長時代になると、
 事業に携わる人々すべて、特にリーダの欠点がことごとく明るみに出てくる。
 厳しい環境の中で、実行力を発揮でくるだけの鋭さと不屈の精神、粘り強さを
 持ち合わせた地力のあるリーダが必要となる。
3.業務プロセス
 優れた実行の体系には、説明責任と明確な目標、パフォーマンスを測る精緻な
 手法、そして成果をあげた者への正当な報酬が必要である。だが現在、リーダ
 にはこれまで以上に柔軟な業務計画をたてることが求められている。
 戦略は一度立てたら、絶対に変えてはならないものではなくなった。
 事業環境の変化に応じて絶えず見直し、修正を加えていくのが優れた戦略だ。
 在庫の調整であれ、価格の見直しであれ、広告やマーケッテイングの見直しで
 あれ、年に何度も変更が必要になる。迅速に資源を再配置することによって、
 業務計画がこの変更に適応できるようにしておかなければならない。
 リーダは変化のための変化を追い求めるのではなく、変化が必要な状況になっ
  たとき、自分自身だけでなく社員全員が素早く変われる準備をしておくべきだ。
4.リーダがとるべき7つの基本行動
(1)人を知り、仕事を知る。
 現実がよく見えていて、障害をものともせず、どんな困難があっても戦略を実行
 する気概を持っているのが誰か分かるようにする。そして組織として嵐を切り抜
    け、好機に備えるために必要な抜本的な変革をできる能力があるかどうかも
 見極められるようになる。
 リーダとして試練のときに何より大切なのは、話しやすいリーダであること、若
 干の懸念はあるものの自信があるとの見方を示すこと、できるだけ率直でふる
 いにかけていない情報を提供すること、そして毅然とした行動をとることである。
(2)現場主義を徹底すること。
 問題を覆い隠そうとするのではなく、あくまで現実的であろうとすべきである。
 ただし不確実性とともに生きるとは、身を縮めていることではない。
 状況の変化に応じて戦略も変わると自覚した上で、戦略に基づいた行動をとる
 べきだ。実際に市場で消費者の行動を観察するなど、「現場」に出て実地に情
 報を集めることだ。
(3)明確な目標と優先順位を見極める。
 世界が様変わりしたことで、明確な目標と優先順位を見極める能力が試されて
 いる。現実をよく見ること、業務と人材を知ることが、まず必要である。目標選択
 を誤れば悲惨な結果になりかねない。
 社員の能力を現実的に評価できないために目標選択を誤る場合が多すぎる。
 適切な目標を打ち出すことは第一歩であり、目標が決まれば組織全体で実行
 に移る。優先順位を決め、ベンチマークを行う。
(4)フォロースルー
 誰が何に責任を持つのかを決め、成果の進捗度合いを測る具体的な目安を決
 めて、会話を終える。こうした仕上げをしなければ、決定や戦略を実行すべき
 人間が自分の役割を明確化できない。先行きが見えにくく、世の中がめまぐる
 しく移り変わる中で、フォロースルーはこれまでよりもはるかに厳しいプロセス
 となっている。
 遅れが出ないようにこまめにチエックする必要があるし、全員が戦略の進捗を
 把握できるように、より詳細な情報を素早く流さなければならない。
(5)成果を上げたものに報いる。
 「成果」をあげるということを正確に定義しなければならない。成果をあげた者
 とは物事をやりとげた者である。成果を上げるとは、目標を達成することである。
 今までは短期的な成果を過大視しすぎる傾向があり、間違った行動を帰結した。
 中長期的視点が重要。
(6)社員の能力を伸ばす。
 やる気や勇気、正直さ、高潔さ、忍耐力など、混乱した状況でモノをいう資質
 をもつ人材を探し、育てるべきである。悪い状況もいい方向に変えていける人間
 が必要。
(7)己を知る。
 人は頂点にたったとき、成長するか慢心するかどちらかだ。自分の盲点や弱点
 を克服するには、社内外の知恵を集めるとともに、幅広い見方を教え、悪いニュ
 ースも進んで知らせてくれる人たちとのパイプが必要だ。
 何より肝要なのは、自分が問題の一部だと気づけるようにしておくことだ。
(8)最後に
 第一に、自分を取り巻く世界について圧倒的な知識を持っている。
 第二に、学ぶことをやめない。
 第三に、驚くほどの柔軟性があり、状況が変化すれば素早く適応する。
 何よりも大切なのは、自分についてくる者たちが元気になれるように前向きに
 指導し、自信を与える資質である。
5.実行
 ・実行とは体系的なプロセスであり、戦略に不可欠である。
 ・ 実行とはリーダの仕事である。
 ・ 実行は、企業文化の中核であるべきである。
(1) 実行とは、何をどうすべきか厳密に議論し、質問し、絶えずフォローし、責任を
  求める体系的なプロセスだ。
  経営環境を想定し、自社の能力を評価し、戦略を業務や、戦略を実行する人事
  と結びつけ、さまざまな職種の人々が協調できるようにし、報酬と成果と関連つ
  けることである。
(2) リーダが組織にどっぷり浸ってこそ、その組織は実行力を発揮できる。  
(3) 事業に深く関与するリーダだけが、十分な知識をもって全体を見通し、決定的
  な質問ができる。
(4) 優れた実行力を持つリーダは、いかに実行の中身に関与し、重要なときに細か
  い点にまでかかわっているかが分かるはずだ。
(5) 実行力のある経営者は、業務計画の検討段階で、目標が現実的であるかどう
  か知ろうとする。
(6) 戦略計画を策定する際に、結果に責任を負う関係者全員を巻き込む。
(7) どうやって実行できるを明確化する。
(8) 担当者に厳密な責任を求め、中間目標を作って計画の進捗状況を把握する。
(9) 予想外の事態、外部環境の変化に対処するための不測事態対応計画を策定
  する。
(10) 自分に忠実だと信頼できる人間で周りを固め、新しいアイデアで自分を脅かし
   そうな人間を排除するものだ。こうした精神的な弱さがリーダ自信を、そして
   企業を破滅させる。
(11) 利己心を絶えず抑制し、行動に責任を持ち、変化に適応し、新たなアイデアを
   取り入れ、どんな状況においても高潔さと正直さという己の基準を守る。
(12) 公式・非公式の会議、評価制度、報酬制度等の社会的ソフトが企業の文化を
   決定する。企業の上級幹部が集まるレビュー会議は重要である。
(13) 活発な対話つまりオープンで率直でざっくばらんま議論によって現実を浮き
   彫りにしなければ、実行の文化は生まれない。
(14) 求めているのは、勝ちにこだわる人間だ。勝ちにこだわる人間は、物事を成し
  遂げることから満足感を得る。成し遂げたことが多くなるほど能力は高まる。
(15) 目標達成の方法も重視すべきだ。組織や部下の能力を強化する形で達成し
  たのか、それとも弱体化させる形で達成したのかは重要。
6.人材プロセス
 (1)各人を正確に深く評価する。
 (2)幹部となる人材を見極め、育成する枠組みを作る。
 (3)強力な後継計画の基礎となるリーダシップ・パイプラインを確保する。
  過去に目を向け、現在のポストでの仕事を評価するのではなく、明日の仕事
  ができるかどうかが重要。
  コンピテンシーを整理し、その言葉で客観的に評価すべき。すべてがよいと
  いう人材などいない。
 業務スキル、ビジネススキル、マネジメントスキル、リーダシップスキル。
7.戦略プロセス
 (1)事業環境(市場成長、市場シエア)(既存のお客や市場の理解。購入の意思
  決定者はだれか?)
 (2)競争相手(強み、弱み)
 (3)ある事業で一部の企業の成功が目立っているのはなぜか。 
 (4)自社に戦略を実行できる能力があるか。
 中間目標が必須。
 戦略検討の中で、事業チーム全体が、新製品を自分達のものだと考えるように
 する仕組みが必要。
 戦略レビューをどう進めるか。
 戦略レビューで取り上げるべき質問
 ① 競争相手についてどの程度知っているか。
 ② 組織の戦略実行能力はどの程度強いか。
 ③ 戦略計画の焦点がぼやけていないか。
 ④ 適切な戦略計画を選んでいるか。
 ⑤ 人材と業務の関係は明確になっているか。
戦略レビューについて評価と宿題を出す。
8.業務プロセス
 戦略と人材プロセスを連動させる。
 業務計画とは、すべてに責任を負うものだ。
 人材、戦略、業務を結びつけ、1年間の目標を明らかにし、課題に落とし込む。
 業務計画は、現実的な想定に基づき、目標を達成する方法に基づいて立て
 られていることが必要。
 業務レビューは、最高のコーチングの場である。重要性の高いものはどれか。
 相互の関係はどうなっているか。
 好結果を出すのに何よりも重要なのは、三つのコア・プロセスを自らが主導す
 ることだ。これらはビジネスの核心であり、文化を変革したり強化したりする際
 のテコになるものだ。
 
実行力のある企業とそうでない企業の最大に、そして唯一の違いは、
リーダがこれらのプロセスを厳格に、精力的に追求しているかどうかだ。

2010年9月19日日曜日

流れを経営する。

久しぶりにきちっと本を読んだ。野中教授の最新の著作で、今までの
SECIモデルを始めとした知識経営論を現象学等の哲学的知見も動員
し、集大成した知識経営論である。今後の思考の参考とするため、
ノートとしてサマリーを書く。




まず始めに、この書籍の狙いを以下のように述べる。
企業がどのような環境との相互作用の中で組織的に知識を創造し、活用
していくのかという複雑でダイナミックなプロセスを説明する知識ベース企
業の動態理論を確立することを狙う。より具体的には、
世界やすべてのものを「継続する流れ」と捉えるプロセス哲学の視点を取
り入れ、現実をどう捕らえて解釈し、社内外と関係しているのか、さらに多様
な主観的な解釈を集合的・組織的な知識、さらには知恵へと総合し、企業の
普遍的な知識資産へと客観化しているかを説明できる新しい企業経営理論
を確立することを目的とする。

1.知識について
「知識」は「個人の信念が真実へと正当化されるダイナミックな社会的プロ
セス」と定義する。知識の重要な特性はその絶対的「真実性」よりむしろ
対話と実践を通して「信念を正当化する」点にあるとの考えに基づく。
世界は「モノ」ではなく、生成消滅する「コト」すなわち「出来事」によって構
成されている。変化する態様を「動詞」、一定の形に固定化された場合を
「名詞」と表現するならば、動詞的知識を製品として「名詞化」し、さらに
ユーザにより名詞が動詞化されるという「名詞(モノ)→動詞(コト)」相互変
換される。
われわれは環境との関係の中で自身を規定し、環境を再定義し、再生
する能動的な存在である。
ハイデッガーは、人が真に生きるということは「未来」によって覚悟を定
め、過去の体験を反復し未来を捉えなおし、その実現に向かって現在を
直視する根源的時間で生きることであるとしている。すなわち過去が未
来を決定するのではなく、どのような未来を描くかによって過去と現在が
どのような意味を持つのかが決定される。

企業組織とは、場を積極的に作り出し、その中での幅広い経験から学び、
知識として蓄積し、それを用いて社会的な価値生成を持続的に行う重
層的な場と捉えることができる。

2.知識創造の理論 
暗黙知と形式知は互いに独立して存在するわけではなく、むしろ氷山
の水面下の部分と水面からでた部分の ように、連続体である。
知識の根本には、ダイナミックに動いている「動詞的」な暗黙知があり、
それを具体的な形として「名詞化」 (固定化)したのが形式知といえる。
知識を伝えて共有化するには、動いている流れである「動詞」の状態を
いったん「名詞」として捕らえることにより、伝達や取り扱いを容易にし、
名詞となった知識を受け取った側がそれを解釈することにより、再び
動詞に戻すという過程がある。人は意識無意識を問わず、その変換
を行っている。
すでに有名となった野中氏の知識経営のベースのモデルである、
SECIモデル
S(Socialization:共同化)、
E(Externalization:表出化)、
C(Combination:連結化)、
I(Intenalization:内面化)
について書いておくと
①     共同化:暗黙知から暗黙知に変換する第一の段階。この段階で
は日々の社会的相互関係の形成によって得られる経験の共有が
基盤となる。自然環境との相互作用や他人と共通の時間・空間を過
ごす体験を通じ、個人の暗黙知が複数人の間で共有され、さらに異
質な暗黙知が相互作用する中から新たな暗黙知が創発されていく。
方法論は「共感」
②     表出化:共同化の段階で個人の内部に集積された暗黙知は、蓄
えられた暗黙的知識を言語やイメージ、モデルなど何らかの表現手
段を媒介にして具体的な形にする「表出化」により形式知として表現
される。共同化は、直接体験を共有する人々の間での限定された
知の生成であるが、表出化は個人知である暗黙知を形式知にする
ことにより、集団の知として発展させていくプロセスである。方法論と
しては「対話による本質追求」。
個人の暗黙知は対話によってその本質が言語化され、さらに磨かれ
て概念化されていく。
変換手段として「メタファー」(ある物事を他の物事に関連させて理解し
たり経験したりすること)が有効。
③     連結化:表出化によって集団の知となった言語や概念が具現化さ
れるためには、概念と概念を関係づけてモデル化したり、概念を操作
化・細分化するなどして、組織レベルの形式知に体系化する必要があ
る。形式知からより高次の形式知へ変換を行う。
方法論としては「論理分析によるシステム化」。
合理的・科学的な方法論を活用。 
問題は、何を目的として連結化を行うか。
④     内面化:共有化されて知識は、再度個人に取り込まれ、暗黙知化
されて、もともと持っていた知識と結びついて新たな知となり、その
個人の中に蓄積されていく。内面化はただ実践することではなく、自
覚的・意識的に行われる実践である。 自分の行為と行為によって
得られたものが、自分にとってどのような意味を持つのかを考える
という内省を実践と同時に行いながら、形式知を暗黙知化するのが
内面化である。「行為の只中の熟慮」「動きながら考える」がポイント。
⑤     スパイラル:共同化・表出化・連結化・内面化の知識創造プロセス
は、スパイラル(らせん)状に展開されていく。

3.プロセスモデルの構成要素 
①     知識創造動態モデル
SECIに方向性を与え、SECIを回す力の源泉となる「知識ビジョン」、
「駆動目標」、「対話」と「実践」で表されたSECIプロセス、現実にSE
CIプロセスが行われる実存空間としての「場」、SECIプロセスのイン
プットでありアウトプットである「知識資産」、場の境界を規定する制度
を含む知の生態系としての「環境」という七つの構成概念よりなる。
②     知識ビジョン
「かく成りたい」という未来を描き、そこから現在「何をすべきか」を規定
する。組織が生み出す知識の質を評価し、正当化するための一貫性の
ある価値体系が「知識ビジョン」である。
③     駆動目標
ビジョンと対話・実践の知識創造プロセスを連動させ、組織がどのよう
な価値を提供するか、あるいはどのように提供するかについての具体
的かつ挑戦的な概念、数値目標、行動規範を「駆動目標」と呼ぶ。
④     対話と実践
知識ビジョンに導かれ、駆動目標によりエネルギーを与えられた組織
成員は、主観と客観の相互作用の中で矛盾を総合し、知識を創造する。
この矛盾解消プロセスは、具体的には対話と実践を通しての弁証法
的方法によってなされる。弁証法的な対話は、そのままでは言語化が
困難な暗黙知を形式知に変換する表出化やさまざまな形式知を結び
つけ、深め、洗練して新たな形式知を作り出す連結化において有効
な方法である。実践は、共体験により暗黙知を共有する共同化の基礎
を作り、形式知を特定の文脈に再結合し、新たな暗黙知として身体化
し内面化するための方法論である。実践は、世界との関係性を踏まえ
た上で、自己がいかに「ある」あるいは「成る」べきかを考えた上での
行為のことである。
「行為の只中の熟慮」は、仮説を立てて行動し、その結果を見つつ
行動が正しかったのか間違っていたのかを徹底的に考える。
内向きのプロセスである内省を含みつつ、対象との相互作用の中で
その本質を究めるという創造を志向する思考活動である。
⑤     場
場の実体は空間ではなく、そこで行われる多元的な相互作用である。
知識創造の基盤であり、知識が共有され、活用される共有された動
的文脈と定義される。知識は真空の状態では想像されえず、知識創
造にかかわる人間の間で情報を解釈し意味づける文脈が共有される
ことを必要とする。場に参加するということは、他者との関係の中で
個人の主観の限界を超越することである。つまり他の人、物事、
あるいは状況に意図的に自己関与することであり、主客分離を超
越して「いま・ここ」を他者との共感の中で直接的に経験することである。
現象学でいう「相互主観性」である。場において人は、他人との関係を
形成しつつ自己を認識し、他の視点や価値を自らに包含して、自分と
は異なる主観的な見方を理解し共有することができる。
これまでの経営学においては、組織はつまるところ、契約や資源の
集合体であると見られてきたが、知識創造理論においては組織は互
いに重なりあう多種多様な場の有機的配置と捉える。組織を系統図
ではなく知の流れによって把握することが可能となる。
⑥     知識資産
「価値に変換できる知識」を知識資産という。知識創造の4プロセス
に対応し4つの知識資産に分類。
・ 「感覚知識資産」⇔共同化
プロセス組織の内外で共体験を通じて生成される暗黙知であり、
個人のスキルやノウハウ、信頼、安心感、コミットメントといった感情
知や場におけるエネルギーなどを含む。 
・ 「コンセプト知識資産」⇔表出化プロセス感覚知識資産は、表出化の
プロセスを通じてコンセプト知識資産に変化する。イメージ、シンボル、
言語などを通して文節化された形式知であり、製品コンセプト、デザイ
ン、ブランドなどが含まれる。
・ 「システム知識資産」⇔連結化
形式知や他の形式知と連結され、システム化・パッケージ化されるこ
とにより、ドキュメント、マニュアル、スペック、特許などのシステム知識
資産が生成される。
・「ルーティン知識資産」⇔内面化実践の中に埋め込まれて組織に共有・
伝承されている暗黙知であり、日常業務でのノウハウ、組織ルーティン、
組織文化などが含まれる。ルーティン資産を変えることは困難である。
変化した環境に合わない組織文化など、ルーティン資産がかえって知
識創造を阻害することがある。

⑦     型
状況の文脈を読み、統合し、判断し、行為につなげるために、個人や組
織が持っている思考・行動様式のエッセンスであり、膨大な経験とそこか
ら生まれた暗黙知を背景として生み出される。企業の進化プロセスの効
率性を維持・強化する「ルーティン」を重視する考え(ネルソン & ウイ
ンタ)もあるが、知識創造理論では、創造性と効率性を維持して知識創造
を可能にする「クリエイティブ・ルーティン」としての型に注目する。
現実からのフィードバックによる自己革新のプロセスが組み込まれている
点が、単なるルーティンとはことなる。
欧米的なマネジメント・システムは、逸脱や撹乱を許さない標準化された
ルーティンやマニュアルを生み出すが、「型」は、無限の自己革新が組
み込まれているため、自由度の高い創造の原型としての機能を果たす。
「型」は、「守・破・離」の3段階を経て学びとられ、発展するとされている。
伝統的な欧米式マネジメントにおいては、非効率を見つけ出し、修正す
る専門の監督官が必要となる。「型」の存在は、組織のすべての階層に
おいてそうした修正を即時に自律的に行うことを可能にすることで、企業
活動のパフォーマンスを改善し、効率的な組織運営を保証する。
⑧     環境―知の生態系知識は、組織の内部だけでなく、顧客や供給
業者や競争相手など組織を取り巻くさまざまな存在の中に埋め込まれ
ている。環境とは、組織成員が現実としいてかかわる「生活世界」である。
近年高度なネットワークにより結び付けられた社会では、いかなる企業
も孤立しては存在しえず、価値もイノベーションも、多くの主体間の協力
によって創出されている。戦略の分析単位は、単一の企業から、事業
グループ、さらには中心となる企業と、その企業を支援する取引企業か
らなる「拡張型企業」と呼ばれる企業体へと変化している。」
その企業体のコンピタンスは、「システム全体で利用可能なように集積
された知が果たす機能」である。

4.知識ベース企業のリーダシップ
リーダとフォロワーの役割と関係が固定化した管理統制型リーダシップ
ではなく、文脈毎に臨機応変にリーダが決まるより柔軟な 「自律分散
型リーダシップ」が基本である。 「ミドル・アップ・ダウン」が他のプロセ
スでは、ミドルがトップに向かって目標を確認し、ビジョンや駆動目標を
ブレイクダウンして具体的な言語あるいは行動指針とし、場を設定して
対話と実践に結びつける。内外に偏在する良質な知を総動員し、多層
にわたって如何に知の質を高め、それをさらにいかに総合していくかが、
知識経営を支えるリーダシップの課題である。
①     リーダシップの役割
知識ビジョンを設定し、場を創設・結合・活性化し、SECIプロセスを促進
し方向づけし、知識資産の開発と再定義を行うことが役割である。
普遍的な共通善を志向しつつ、現在における行為の只中で判断を行い、
そしてその判断を実行するという実践を含んだ活躍が期待される。
これは、アリストテレスのいうところの「フロネシス」の概念に近い。
②     フロネシス
個別具体の場面の中で、全体の善(共通善)のために最善の振る舞いを
見出す能力のことをフロネシスという。テクネが車をうまく作るための知
識だとすれば、フロネシスはよい車とは何であり(価値判断)、それをど
のように作るか(価値の実現)という知識である。
フロネティックなリーダは、企業においてさまざまな関係性が絡み合い、
多くの制約条件を持つ抽象的問題を、「いま・ここ」の文脈の中で直感
的感性を発揮することで具体的課題として明示化し、解決可能性を見
出して対処しうる効果的な計画を策定する。具体的能力としては、
以下のとおり。
・     善悪の判断基準を持つ能力
・     場をタイムリーに創発させる能力
・     個別の本質を洞察する能力
・     本質を表現する能力
・     本質を共通善に向かって実現する政治力
・     賢慮を育成する能力
賢慮とは、流れゆく瞬間に積み重ねられていく経験と、「いま・ここ」の
状況において、タイムリーに決断し行動できる実践的知恵であり、この
能力が知識創造を促進するリーダに求められる。
ホンダ「買う喜び」「売る喜び」「創る喜び」の「三つの喜び」を企業理念
としている。

以上大変長いサマリとなったが、知識経営論の理論編である。

2010年9月18日土曜日

IFRS対応会計情報システムの作り方

IFRSに関する書籍は沢山でているが、制度の説明に終始したものが
多く、具体的にどのように対応すればよいのかについて書かれた書籍は
少ない。これはIFRS対応が、情報システムにどのようなインパクトがある
かについて書かれた本であり、具体的かつ体系的で大変分かりやすい。
IFRSに対応していく企業の経理部や情報システム部の方には大変
役立つ本であると思う。





本の内容のポイントを以下に整理する。

1.      タイミング
2015年3月末強制適用とすると2013年4月開始時点
の財政状態計算書に表示する開始残高の設定が課題
IFRSの財務諸表には必ず2期分を比較表示しなければ
ならない。
つまり2013年4月から2014年3月までの財務諸表
をIFRS方式で作成しなければならないということである。

以下に各サブシステムがどのような対応が必要になるか
整理していく。

2.      一般会計
(1)     名称変更
現在P/L、B/Sと言っているものが、以下のような名称変更に
なる。
B/S⇒SFP
P/L⇒SCI

財政状態計算書(SFP)(statement of financial position)
包括利益計算書(SCI)(statement of comprehensive income)

(2)     表示項目:以下のような変更が必要となる。
①      損益を継続事業と非継続事業(処分したか売却予定の事業)に分ける。
②      包括利益を示すために、「その他包括利益」というセクションの増加。
③      費用の表示を費用機能法と費用性質法のいずれかで行う。
費用機能法で集計し、その内訳を費用性質法で表示。
費用機能法:売上・売上原価、製造・製造費用、販売・販売費、管理・管理費
費用性質法:製品および仕掛かり増減、人件費、減価償却費、
→勘定科目コードに影響

「財務諸表の表示に関する予備的見解」では
財政状態計算書と包括利益計算書は、キャッシュフロー計算書と同様に
「事業(営業と投資に分割)」、「財務」、「法人税」、「非継続事業」に分割して表示


(3)     会計情報データベース
複数帳簿対応が必要。
①IFRS基準:連結財務諸表
会社法、金融商品取引法、税法対応の個別財務諸表は、国内基準で作成
②会計上の変更および誤謬に関する会計基準
遡及処理が実行可能なもっとも古い決算期まで遡って開始残高を計算し、
その会計期間から再計算を行う。 
③海外子会社は機能通過で取引計上し、決算日に表示通貨(連結決算書表示)
の対応が必要。取引明細レコードを保管。

(4)     セグメント情報
①      従来の日本基準のセグメント:事業の種類別、所在地別、海外売上
②      IFRSマネジメント・アプローチ:

3.      資金会計システム
2011に公表予定の「財務諸表の表示に関する予備的見解」では直接法のみ。
(1)     間接法:期首と期末の財政状態計算書の科目残高を比較してその差額から計算
(2)     直接法:仕訳の相手が現預金か否かで取引を分類。
キャッシュフロー計算書の分類で集計
①      顧客からの現金収入
②      商品のための現金支出
③      販売活動のための現金支出
④      投資に関する現金収支
⑤      財務に関する現金収支

(3)     システム対応の課題
①      複合仕訳 預金、手数料/売掛金
②      分類にあった勘定科目をインプット
③      包括利益計算書の数値との関係を示した調整表の作成
→一般会計システムの勘定科目コードとは別に、キャッシュ・フロー計算書の
集計単位を示すキャッシュフロー科目コードを新規に設定し、仕訳データを
対応表を使ってキャッシュフロー計算書用データベースを更新する取引明細
レコードを作成する。

4.      販売管理システム
(1)     売上計上基準
①      計上するには、販売する物品の所有権と危険負担を企業が保有していること。
→百貨店の委託販売は売上として計上するのではなく、販売手数料として計上。
②      物品の所有権が完全に買い手に移転しなければならないこと。
→出荷基準ではなく、着荷基準か検収基準で売上計上 
③      収益の額とそれに対応するコストを信頼できる形で測定できること。
→信頼できる形で測定できないと工事進行基準での収益計上は認められない。
(2)     着荷基準への対応
①      原則法:「商品」→「移送品」→「売上原価」→「売掛金/売上」
②      簡便法:「出荷日+通常配送に必要な日数」で売り上げを計上しておき、決算時に
物品受領書と決算日近くの出荷済のものとつき合わせ、未着のものについて
修正仕訳を作成し、計上した売上と売掛金から減額
移送中の棚卸し在庫は、出荷時点で「移送品」扱いにして個別管理。

(3)     ポイント制度
商品の販売時にポイントを顧客に与えた場合、将来無償で商品または特典を提供
することを約束したことになる。
①      売上金額の一部を「特典クレジット」として切り分け、将来、ポイントが使われた
時に計上する売り上げとして繰延処理する。
②      ポイントの分を見積もりコストとして引き当てる。

(4)     棚卸資産の評価は原価か正味実現可能価額
個々の製品や商品別に正味実現可能価額と原価の比較を行う必要あり。
見積もり販売費用も個々の製品や商品別に計算。
予想売価は以下を含む。
①      販売コミッション
②      ロイヤルティ
③      販売直接経費(物流費)
④      営業部門の販売間接費の配賦額
*正味実現可能価額=予想売価から販売に要する見積もり費用を差し引いた金額
5.      購買管理システム
「購入原価には購入代価に加えて輸入関税その他税金、運送、保管などその商品や原材料、役務の
調達に必要なコストを含める。値引き、リベート、その他これに類似するものは購入原価から削除する。」
→商品や原材料の単価に反映させる必要あり。
仕入諸掛を品目別に加算。配賦処理が必要。
仕入諸掛は購入品の納品伝票とは別々に計上されるので、仕入諸掛の机上伝票と購入品目を結びつける
ルールを確定する必要あり。

6.      債権・債務、有価証券、貸付金、借入金管理システム
①期日が1年以上の売掛債権や仕入債権については、計上金額を割り引いて金利分を別計上する。
②期日が1年以上の有価証券、貸付金、借入金等の金融商品で実際の入手金と決済の金額に差がある
場合は、償却原価法で金利を期間に配分する。
③      為替予約については、現在の日本基準の振当処理という簡便法は認められず、決算期ごとに評価損益を
計上する。

7.      在庫管理システム
棚卸資産の価額は個別法、先入先出法、加重平均法のいずれかで計算した原価の金額と正味実現可能価額とを
比較し、いずれか低い方の金額を棚卸金額として決算に使用する。
評価減を計上して次期に棚卸資産を繰り越すとき、在庫金額は評価減前の金額に戻し、翌期初に反対仕訳を作成
する。そのため評価減前の棚卸金額と評価減後の棚卸金額(または評価減の金額)を在庫マスター上に保有する。

8.      原価計算システム
・加工品としての棚卸資産の原価を計算するときに、固定的な労務費と製造間接費を期間費用として処理する直接原価
計算は否定されている。IFRSでは、製品、仕掛品とみに材料費、直接労務費、変動製造間接費、固定製造間接費を 
含んだ全部原価計算で棚卸資産の価額を求めなければならない。
・標準原価で計算した棚卸し資産価額を決算委使用している企業は見直しが必要。
・仕掛品の正味実現可能価額=製品の正味実現可能価額-完成までに要する見積原価
・包括利益計算書の費用性質法での表示に対応できるように、部門共通費や補助部門費の配賦は、費用機能法と
費用性質法での集計ができるようにしておく。

以上

2010年4月28日水曜日

中国人の心理と行動-行動文法- 

 中国語の勉強を始めて3ヶ月経った。読みがなかなか難しいが、少し慣れてきた。言語だけでなく中国人についてより詳しく知りたいと思っている。しかしながら中国は、22の省と4直市、5民族自治区より構成されているので、統一的概念で理解できないようだ。民族的には漢族と55の少数民族があるとのことで中国人全体の行動原理を一般化して理解することはできないのだろう。
そうは言いながら、中国人について知るためによい本はないかといろいろと探してみた。日本人との違いを面白おかしく書いたお手軽本か、古代思想、歴史を中心にした学術書が大半であり、なかなか求めている本は見つからなかった。
 その中で少し古いが(2001年出版)社会学アプローチで中国人の行動文法を分析した本が見つかったので、以下にサマリーを書く。この本では、中国人の行動を以下のキーワードで特徴付けている。
 ①面子(mianzi)ミエンツ)
 ②関係(guanzi)グアンシ)
 ③人情(renqing)(レンチン)
さらにこれらの特徴は、中国における家族や親族の構造に起因しているとして、家族構造


についても説明している

1.面子
 中国人は、自尊心が強いと言われる。言い換えれば、「自分は周囲に高く評価されているという意識が強い。」ということである。日本人、中国人を対象としたアンケートでもそのような結果となっている。中国人が面子を重んじる例として、宴会での特徴を述べている。
 宴会では、ホストは客人が食べきれないだけの料理を出し、客人はホストに感謝しつつも多くを食  べ残す。こうしたルールを守ることがホストの面子を保つこととなっていると言う。
 ホストは参加者の面子を保つためにできるだけ参加者を平等に取り扱い、個々に乾杯の理由を見つけるという。中国人は、できるだけ平等な処遇を受けることが、それぞれの顔を立てあうことになると考えており、ある人間が成功することに対する嫉妬・やっかみが多いと言う。この嫉妬・やっかみを「紅眼病」と言う。
 中国人は、自尊心が強く、自己中心的な性格なので、当然自己主張は強いが、自己責任の意識は弱いという。自分を中心に物事を考えるのであれば、自らの責任の範囲をはっきり意識した上で、権利ー義務関係を明確にしそうだが、そうなっていないと言う。
 つまり、中国人は、自分と相手が、それぞれの面子を媒介にして人間関係を形成しており、それがお互いの面子を支えるものであるかどうかによって、自らの行動を大きく変える点に特徴があり、状況依存的な性格を持っているとも言える。
2.関係
 中国語では、ある特定の目的のために人間関係を利用することを「拉関係」と言い、関係のネットワークを「関係網」と言うらしい。この関係こそ、中国で生活する上で必要不可欠な処世術であり、中国的な人間関係の根本であるようだ。以下のような特徴が見られるという。
 ①関係を通じて流れる資源の量が日本に比べて圧倒的に多い。
 ②個人間の関係は物資的な基盤によって支えられている。抽象
  的な理念や友情を共有するだけでなく、具体的な物質ー食事
  や贈り物、バック・マージンのやり取りによって関係は発見され
  維持されていく。
  贈り物も、また関係を支える重要なツールである。
 ③日本人に比べ、関係をもつ者の間には、強い親密感が生じて
   いる。これは、逆に関係を持たない同士には相互的な感覚ど
   ころか、時には敵対的な感情が支配することを意味している。
 ④個人を中心に広がっており、伸縮自在である分、だれとだれの
   間に関係が存在しているか外部から分かりにくくなっている。
   それに対し、日本人の人間関係は場を中心に広がっている。
 これらの特徴は、「合股」という中国特有の組合組織から生まれ
 てきたという研究もあるようだ。
 「合股」は、「相互に熟知し、信頼しあっている地縁・血縁・知友関係者が出資して、等額に分割された株を一定額ずつ持ち合い、一定年限の下に事業を営む、法人格を持たない組合組織」のことのようで、以下の特徴が、上記の中国人の関係主義に対応すると言う。  
  ◆信用を媒介にして合股となる。
  ◆さまざまな経路を通じて合股になるため、融通無碍である。
  ◆個は合股(集団)に対して利益の配分を要求できる。
  ◆つまり「私」が「公」に対して私的関与分を主張できる。

3.人情
 誰の面子を立て、誰の面子をたてないのか。誰との関係を重視し、誰との関係を軽視するのか。こうした決定に人情が果たす役割は大きい。人情を、「自己からの距離(親疎の度合い)によって他者を位置づけ、その距離に応じてみずからの行為を決定しようとする心理的メカニズム」と定義付けしている。特にこの「親」と「疎」を分けるものとして、姓の持つ意味は大きい。中国語では名前を聞く質問だけでなく 姓のみを聞く言葉がある。(「你貴姓?」(あなたの姓は?)。 姓のもつ意味は大きく、「同姓不婚、異姓不養」らしい。中国では、血縁関係を非常に重視し、結婚しても女性は姓を変えない。つまり結婚後も妻と夫は別の血縁集団に属しているということらしい。
 こうした血統主義の強さは、血縁関係の有無によって親疎が決定的に違うことを意味している。
4.家族構造
 今まで見てきたように、中国人の行動文法は、①面子、②関係、③人情を特徴とする。これは中国人の家族構造と深く関係するとのことである。
 中国の家族は、以下の特徴を持つ。
 ① 血縁主義が強い。養子も血族を重視。
 ② 血縁者による資産共有化の概念が強い。
 ③ 遺産継承は、均等配分。(日本は長子相続が原則)
 日本では「本家」に対する「分家」であるが、中国では、分家は、文字通り家を物理的に分割しすることを意味する。中国の場合、父親と血が繋がっている男の子が、親の資産を均等に継承するに値する十分な権利をもっている。

5.行動文法としての関係主義
 中国を代表する社会学者であり人類学者である費孝通は、「なぜ中国には公共道徳が欠けているのか」と問い、中国人の人間関係が同心円状に広がっており外と内とで異なる行動をすることにその原因を求める。これを「差序格局」(格差と序列によるモデル)と呼んだ。
 また、黄光國という中国の社会学者の以下の分析を行っている。大変興味深い。
 中国社会において個人から拡がる関係の親疎によって三つの類型を作っている。
 ① 家人 :「情緒的関係」が成り立っており、「欲求原則」が支配。
 ② 熟人 :「中間的関係」が成り立っており、「人情原則」が支配。
 ③ 外人 :「道具的関係」が成り立っており、「公平原則」が支配。
 特定の資源を必要としている者と、これを所有している者という二人の行為者を想定しそこで見られる交換関係を分析する。まず資源を必要とするものは、みずからの面子の及ぶ範囲内でこれを所有するものを見つけようとする。これが「面子功夫」と呼ばれる行動である。そして資源を所有する者とわたりをつけてあり(拉関係)、結びつきを強化しよう(加強関係)とする。資源を所有するものは、これを必要とするものとの関係を判断しなければならない。みずからの面子が守られるかどうかが、相手との関係に大きく依存している。もし相手が、家人であれば-つまり相手との関係が情緒的であれば-その要請に対して無条件に対応する。もちろん長期的にはその見返りを期待している。)。もし相手が外人ならば-つまり相手との関係が道具的であれば-その要請に対しては公平原則を持って対応する。ところが相手が熟人で、相手との関係が中間的であれば「人情のデイレンマ」に悩み、最終的には「回報」の原理に支えられた、人情原則に依拠した形で判断されることとなる。収支計算を考えて判断することとなる。
6.権力構造
 本来形式合理性を備えているはずの官僚制が、中国では顔を持った存在として機能していたり、中国でのビジネスがだれと結びつくかによって成功したり失敗したりするするのは、関係主義が「権力ゲーム」的要素をもっているからである。
 中国の権力構造の特徴の一つは、巨大な権力を持つ「ストロングマン」を抱いてきたことである。関係主義の横行は集団内部の対立を惹起する。個々の成員はそれxぞれに強い自己中心性を備えており、資源の分配方法を誤る指導者に「リーダ失格」の烙印を押そうとする。こうした不満を回避・解消するため、指導者は下位者を公平・平等に扱わなければならず、それだけの人徳を備えていなければならない。権力者は、「関係の消失点」(そこから全ての関係が発生していると思われる架空の存在)として立ち現れることになり、そこに大きな権威と権力が付与されることになる。
 中国の指導者は、規則を破ったものに対して罰則主義的に振舞おうとするが、お目こぼしばかりしていると、民衆が「特定の人たちと個別な関係もっているに違いない。」と不信の目でみるようになり、正当性を失いかねない。権力者が権力者たりうるのは、個別の関係を超越していながらも、人々に施しを与えるだけの力を備えているからなのだが、これは一種のジレンマである。このデイレンマを解決するため、中国の権力者は、以下のスタイルを作り上げてきたと言う。
 ① 具体的な行動ではなく、自らの存在を正当化するイデオロギーを鼓吹
 ② 一般的な原則と実質的な判断を使い分け
 ③ 政策の結果に対して責任を負わない。

 中国人の行動文法を分かり易く説明しており、大変興味深く読んだ。ただここに書かれている中国人の行動文法をゲーム理論を用いて分析できるのではないかと思っている。日本の田舎においてもこのような傾向は多かれ少なかれ見られるし、「ヤクザ」の世界はまさにこの関係主義により成り立っているようにも思える。置かれた環境(資源の状況や情報の共有状況)により、このような行動文法がゲームの最適解になるのではないかと思う。以下の本を参考にに、少し検討してみることとしたい。

2010年3月23日火曜日

IFRS時代のレポーティング戦略 -XBRLで進化するビジネスの仕組み-

  仕事柄、システム技術の動向そのものやシステム技術が社会に与えるインパクトについて情報収集したり、考えたりすることが多い。今回は、技術的には新しさにはやや欠けるが、著者の経験に基づく深い洞察力と構想力に基づき、今後の社会にどのようなインパクトを与えるかについて説得力あふれる書籍を読んだので、サマリーを書く。著者の世界観のようなものが感じられる本だった。
ポイントとなるシステムの技術は、XBRL(eXtensible Business Reporting Language)であり、これが今後ビジネスをどのように進化させるかについて分かりやすい事例で説明している。
 XBRLを分かり易く言うと、データにタグと呼ばれる特定の文字列を附加し、そのデータの意味や構造、装飾などを埋め込んでいく技術(XML)をベースとし、、特に各種財務報告用の情報を作成・流通・利用できるように標準化された言語である。これが企業内システム、企業間システムにどのようなインパクトを与えるかについて、各国の先進事例を紹介しながら、将来展望の仮説を述べている。
 XBRLの発明者である米国公認会計士と日本の金融システムのインフラ構築の長く携ってきたIT企業の技術者兼経営者により書かれており、これ以上の著者は望めないとも言える。
 まず、企業情報の報告は、近代資本主義発展をリードしてきた株式会社を支えるものであるとの世界観から始まる。またサービス化や情報化されたビジネスが主流となっている現在においては、事業の内容やプロセスはどんどん目に見えぬくなっており、自分のビジネスの価値を適切に説明すること、すなわち「報告」の重要性が増してきている。
  XBRLが、報告を作る人、報告を受け取る人、報告を活用する人との情報連鎖を変えていく。より透明度の高い情報が労力かけずに、作成・保管され、リアルタイムで「見える」未来がやってくるという。特に以下の事例は、XBRLのメリットが具体的によく理解できる。

 ◆「XBRLがあって初めてIFRSが機能する」
  IFRSは、会計処理を細かく規定した細則主義でなく、基本的
  考え方を示した原則主義を採用しており、個々の企業はその
  会計処理の妥当性を説明する責任が増す。
  そのためには背景となっている非財務情報も開示する必要が
  ある。その非財務情報を投資家に活用してもらうためには、
  XBRLで開示する必要性が増す。
 ◆「投資信託の投資先把握によるリスク分析」



投資信託商品でその貸出先が一万件であった場合、その投資先
情報をさかのぼって個々の個々のリスク情報を読み取ることは
人間ではできないが、コンピュータでは可能となる。
ある投資信託は、個々のカリスマベンチューに依存した1万社
に江者。1万人が同時に健康上のトラブルに
に投資。もう一方の投資信託は、住宅価格に業績が連動して企業
1万社に投資。この場合、1万人のカリスマ経営者が同時に病気に
なる可能性は低いので、リスクが低いことがわかる。
投資先の1万社のデータがXBRL化されていれば、定性情報も
含めてコンピュータで簡単に分析できるので、このようなことが
可能となる。


XBRLを採用することにより、報告者、受理者、利用者に以下のメリットをもたらす。 
  ①報告者(例:企業の財務担当者)
   報告形式の標準化によって、内部の情報処理の効率化、作成時
   間の短縮をもたらす。
  ②受理者(例:証券取引所)
人手を介さずに報告情報を受理することで、情報の漏れや誤りを
発見する作業が劇的に削減される。
  ③利用者(投資家)
   報告形式が標準化されるため、開示情報の他社との比較や過去と
   の比較、分析など、利用力が劇的に向上する。
XBRLは、日本が先進的に採用し、普及させてきているようで、
以下のように早い段階から採用してきているようだ。
  ◆2003年 決算短信の一ページ目、すなわち適時開示情報
の提出フォーマットがXBRL化  東京証券取引所
◆2004年 国税庁への電子申告に際して財務諸表部分をXBRL化
◆2006年 日本銀行への銀行・信用金庫の月次報告がXBRL化。
◆2008年 有価証券報告書の電子開示システムEDINETに採用
XBRLが切り開く七つの未来として以下を挙げている。

① XBRLがIFRSの変革エンジン
原則主義によるため、合理的判断根拠の非財務情報も必要。
② 非財務情報処理革命
③ 投資判断のリアルタイム化
④ 資本市場の国際化の更なる進展
⑤ 報告情報連鎖参加者の提供価値の見直し
⑥ レポーティングの双方向化
監査法人、投資家などによる付加情報が追加され
⑦ eガバメント、eガバナンス 

さらに今までは取引をしてはいけないブラックリストが重要であったが今後は
積極的に取引をすべき対象者のリストであるホワイトリストの重要性が高まるという。
つまりよい経営をしていれば、XBRLにより情報が流通し、安くお金を調達できるようになるようなことを想定している。
システム的には、データベースが閉鎖系のシステムから開放系のシステムに変わり、利用者がアクセスできるデータは全てデータベースとなり、利用者がその利用方法を設計できるようになると言う。つまり、日々生まれる大量の報告情報が、流通や活用、再利用が容易な状態でデータベース化されることにより企業内部の統制が従来よりずっと進化する。さらに経営においては、大量の報告情報を整理・抽出し、大きな意思決定行うための情報を新しい形で統合可能となるという。

XBRLがビジネスにどのようなインパクトを与えるか具体的事例で分かりやすく書いてあり、大変参考になった。特にIFRSの普及によXBRLの重要性が高まることがよく理解できた。
IFRS時代におけるXBRLを活用した企業会計システムのあるべき姿を考えることが私の課題である。


2010年3月15日月曜日

マネジメント改革の工程表

ここ数ヶ月は、新書やハウツー本を読むことが多くなっており、本格的な本はあまり読んでいない。今日はハウツー本ではあるが、読んでみるとなかなか面白いので、サマリーを作ることとする。TOC(制約理論)のプロジェクトマネジメント理論であるCCPM(クリティカルチェーン)の応用について書かれた本である。理論の説明だけでなく、実際の経営改革プロジェクトで著者が経験したノウハウが書かれており、面白い。
まず、プロジェクトの定義からはじまっている。
プロジェクトマネジメントの知識体系(P2M)の定義によると、「プロジェクトとは、特定使命を受けて、初めと終わりのある特定期間に、資源、状況など特定の制約条件のもとで達成を目指す将来に向けた価値事業である。」とのことである。
経営改革から研究開発、新規事業さらにはシステム導入等企業には多数のプロジェクトが走っており、経営はプロジェクトの集まりともいえる。、
しかし、このプロジェクトが必ずしも成功するわけではなく、以下のような問題がよく発生する。
① プロジェクトをなぜやるのか目標がはっきりしない。
② 「手段」がプロジェクトの「目的」となってしまっている。
③ プロジェクトの最中に他の部署の協力が得られずチームワーク
ができない。
プロジェクトが失敗しだすと以下のような悪循環に入っていく。
プロジェクトの失敗を防ぐために管理を強化
⇒現場に詳細な進捗報告を要求。
⇒現場は報告作業が増えて、肝心のプロジェクト作業に手が
回らない。
⇒失敗プロジェクトが多発。
⇒現場にさらに詳細な進捗報告を要求。
⇒肝心のプロジェクトの手が回らなくなる。
この悪循環に陥らないようにプロジェクトをマネジメントしていくことが
求められる。
プロジェクトの成功の必要条件(必ずしも十分条件ではないが)は
納期であり、その納期にかかわるプロジェクトの余裕(サバ)のマネ
ジメントがポイントとなる。




(1)サバと責任感
責任が重い人ほど、信用が重要である。その信用を守るためは、
安全余裕、つまりサバが必要となってくる。以下の理由でサバを
取ることとなる。
・仕事の余裕がなくなる。
・万が一、問題があったら対応する余裕がない。
・余裕がないからほかのプロジェクトが窮地に陥ったときにも助
けられない。
しかしこのサバを各組織、各チームでとり始めると、サバはネズミ算式
に増えていくとなる。サバがあれば、余裕があると思い、当初はゆっくり
と始めてしまい、最後に切羽つまって初めて本気を出すということになり
がちである。さらにサバを持ったら使い切る。つまり
「与えられた予算と時間をあるだけ使ってしまう」というのが人間の性で
もある。しかし仕事のできる人はサバの使い方を知っている。
仕事のできる人は、
①厳しい納期要求により、
・ 部下は自己流のやり方では間に合わないと自覚している。
・ 部下をやり方を他の人から学ぶようになる。
②進行中にもサバを活用
・ 厳しい納期でサバがないので、作業中の小さな問題でも、それ
が大きな問題に発展する前に早めに報告を上司に上げるように
なる。
・ 早めの報告がきたら、上司はその問題の深刻さに合わせて、自
分の持っているサバの中で吸収するか、それとも自ら入り、部下
を助けるか判断し、部下を支援できる。
・ 部下がはやめ、はやめの報・連・相を実施し、上司は手遅れに
なるまえに手を打つ先手管理ができるので上司と部下の信頼関
係が」が増す。
を可能とする。これにより、
◆ 現場で起きる追加案件を早めに報告してもらうメカニズムが
働くようになり、
◆ 現場だけの個別最適の視点から、全体最適の視点でみんなで
意志決定するようになる。
という好循環に入る。
しかしこのサバつまりバッファーどこに持つのがよいのだろうか。
バッファーを個人で持てば個人プレイ、各作業チーム内で共有すれば、
各作業チーム内でのチームワークの源泉となる。そしてプロジェクト全
体で共有すれば、プロジェクト内でのチームワークの源泉となる。
従ってできるだけ、上位のマネジメント単位で持つのがよい。
それではさらにバッファーをどのくらいの量もつべきなのか
結論としては、各チームが個々のバッファを使い切る確率が50%なら、
それらのバッファーを集計したプロジェクト全体のバッファは、全体の
50%でよいので、集計したバッファーの半分をプロジェクトのバッファー
として持つのがよいとのこと。

(2)クリティカルチェーン
チームのバッファをなくして、チームがぎりぎりの納期を目標とした
全体のスケジュール(クリティカルチエーン)上で集中管理すると
ともに全体のバッファの消費量を管理すれば、的確な納期管理が
行える。
納期遅れの可能性が、実際に納期に遅れるはるか前にバッファの
消費量というアラートで示すことができる。
バッファの消費量によって納期遅れが実際に起こるはるか前に危険
予知が可能となり、先手管理の対策を打つことができる。

(3)「あと何日」の進捗管理
進捗管理は、今まで何をしたか、何を完了させたか管理するの
ではなく、「あと何日で終わるか」を管理したほうがよい。この方法
だと
・ 簡単で分かりやすい報告で作業担当者報告の負担が軽減される。
・ 何をしたかではなく、これから何をするか未来形で議論するので
作業担当者の納期に対する意識が向上する。
・ 予定までの進み具合が実感できるので、作業担当者の達成感が
高まる。
・ 作業が進むとともに完成までの見通しがきくようになり、納期を守
れる可能性があがる。
・ 作業進行中も常に見積もりを訓練することになり、作業担当者の
見積もり能力が上がる。
のような効果をあげることができる。
さらに付け加えると、「あと何日」と報告してもらうとともに「問題あると
したら何がある?」と聞くことも重要で、これによりリスクを事前に予測
することができる。
著者は」、マネジメントスタイルを、
横軸:監視・監督⇔コミュニケーション、
縦軸:やさしい⇔複雑
で象限わけをし、COMMAND&CONTROL :「監視・監督」が強く、
「複雑」が強い象限のマネジメントではなく、COMMUNICATION&
COLLABORATIONが今後ますます重要になってくるとのこと。

(4)ODSCで目標のすり合わせ
プロジェクト目標はメンバで議論し、共有化することが必要である。
そのときに以下のフレームワークで考えればよい。
①「O」Objective(目的)
②「D」deliverables(成果物)
③「SC」Success Criteria(成功基準)

「O」(目的)を議論することにより以下を実現できる。
  ・ それぞれ異なった思惑をもった関係者の間で、目的をするあ
     わせし、共有できる。
  ・ いろんな意見が網羅的に出たかを確認するために、財務の
    視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、成長と育成の視点、
    経営理念、経営スローガンの視点でチエックすることも必要。

「D」(成果物)を議論することにより以下を実現できる。
・目的を議論したあとで、プロジェクトの成果物、つまりこの
プロジェクトで何を作るかを議論する。成果物が目的ではなく、
目的を達成する手段であることが分かる。

「SC」(成功基準)を議論することにより以下を実現できる。
・O(目的)で議論した項目の一つ一つを成功基準として明確
にする。測定できるものにすることが必要。

ODSCを以下のチエックリストでチエックし、より確かなものにする
ことが必要である。
・ 企業や組織の理念に合致しているか。
・ 経営目標やプロジェクトの本来の目標と合致したものであるか。
・ 参加メンバーが熱意をもってこのプロジェクトに参加し、そして
・メンバーが成長するために、積極的でありながら、達成可能な
内容となっているか。
・ 社会に貢献できる視点が入っているか。

(4)工程表を作成するための手順
プロジェクトを成功させるためには、目標を達成するために前もって
先手を打って準備することが必要である。そのためには、ODSCから
出発し、その直前にすることは何か、本当にそれだけでよいかを繰り
返し、プロジェクトの最初(スタート)の部分まで戻っていく手順がよい。
その後、プロジェクトの始まりから、先ほどとは逆方向に時系列の順
番で成果物をつくる観点から見直していく。
タスクは必ず「○○する」という動詞で表現しておく。
リスクの高いタスクは、前に押し出されてくる。リスクの大きい工程は
先に行う。そのタスクについうては、メンバーからまえもってこうしたほ
うがよいという意見も出てくる。
作成した工程表に人と期限を割り当てていく。これはプロジェクトの
最初の工程から行っていくのがよい。


(5)サバ取りを行う手順
まず、タスク工程表の一番長いチエーンをつなぎ合わせクリティカル
チェーンを作成する。このクリティカルチェーンを短くすることで工程
の納期が短縮されないか検討する。つまりクリティカルチェーン上の
各作業タスクにサバが潜んでいないかを検証していく。
ポイントは、クリティカルチェーン上の長いものつまり制約の大きいも
のから順番に、でみんなで短くする方法がないか議論する。
以下を実施していく。
① タスクそのものの期間を短縮する。
長いものから優先的に検討して行く。
② タスクを分ける。
長すぎるタスクは分解する。平行化できないか、短縮できないか、
事前に切り分けられるものはないか。
③ タスクをまとめる。
一緒にまとめたほうが質のよい仕事ができたり、効果が上がった
りすることもある。
④ タスクの順番を見直す。
順番を見直すことにより納期短縮に効果を発揮する。
その議論の中でタスクの優先、つまり段取りが極めて重要で
あることがメンバーに理解される。

サバを見つけるためには、各タスクでやれるかやれない五分五分の
期間を明確にしていく。これをサバを読まない期間として設定していく。
報告では、「あと何日かかる?」を明確化することを基本とし、同時に
「うまくいかない可能性があるとしたら何がある?」と失敗する可能性
のある懸念事項を必ず議論するようにする。

上記基づいた工程管理を行えば、プロジェクトでよく発生する以下の
問題を防げると説いている。
<プロジェクトでよく発生する問題>
・ 予算が足りない
・ 人が足りない
・ 客先やマネジメントの判断が遅れる
・ 情報がタイムリーに共有されない
・ 調達品の納期が遅れる
・ 要求がころころ変わる
・ 周囲が助けてくれない
・ マネジメントの助けが得られない

プロジェクトを成功させるためのノウハウとして分かりやすくよくまとまって
いる。経営改革プロジェクト、システム構築プロジェクト等それぞれプロジェクトの特徴に対応したノウハウは書かれていないが、共通事項として参考になるところが多い。

2010年3月9日火曜日

グローバル製造業の未来(MAKE OR BREAK)

最近中国の存在感が増してきた事を実感する。私も中国語の勉強を始めてしまった。中国語は思うよりとっつき易い。テレサテンの歌を中国語で歌える日も近い(?)。

今回は、中国等の新興国の製造業の追い上げに、欧米の製造業、日本の製造業が如何に対抗して行くかについて書かれた本である。米国の経営戦略コンサルテイングファームであるブーズ・アンド・カンパニーの米国スタッフで欧米企業向けに書いたものに、東京オフィスの製造業チームのスタッフが、大幅に加筆したものとのことである。

 先進国の製造業は、現在の世界不況が回復したとしても、中国を初めとする新興国メーカの大量参入により、新たな課題、構造的問題に直面するという。先進国の市場は、ウオルマートのような大手小売が低価格戦略で市場を押さえており、この流通業に採用されれば、新興国製造業は独力で販路を開拓する必要はない。このように新興国の製造業は、組み立て、加工などのオペレーションのみに参加することにより、連携することにより全体のバリュチェーンを作ることができるようになってきた。さらにデジタル化が進展した業界においては、基幹部品を外部から調達することも容易であり、組み立て機能をコスト効率よく担当できれば、容易に参入できる。
 このような背景で、グローバル製造業においては過当競争が起きており、先進国の製造業は構造的課題に直面しているという。
欧米の製造業は、不得意分野からの撤退、アウトソーシングという「戦略」に逃げ込んでおり、これの克服のため「ものづくり」力を強化すべしと説き、それに対して日本の製造業は、低収益のままの「ものづくり」に逃げ込んでおり、これを克服するため事業撤退、製品絞込みの「戦略」を強化すべしと説く。それぞれの製造業を取り巻く環境や制度を考慮した構造的なアプローチを行っており、今後の産業構造を考えるのにも参考になる。






以下具体的に、欧米の製造業が現在の状態となった背景、日本の製造業が現在の状態となった背景について述べている。
1.欧米の製造業の課題と処方箋
(1)現状の課題
  -不得意分野からの撤退、アウトソーシングという
        「戦略」に逃げ込む欧米企業-
欧米メーカは、過当競争が定着している「製造」事業を展開することは得策でないと考え、優位性のない製造機能をアウトソーシングしようとしてきた。生産管理に強固なノウハウを持っておらず、ノウハウ流出の懸念もあまりないため、社外への生産委託の判断に傾きやすい。また、製造ラインに良質な人材を確保できず、高いモラルを期待できなかったという背景もあり、製造で競争優位を獲得するという考えはもってこなかった。したがって、不得意な分野を克服すると努力をするつまり自社工場でコストダウンに努めるよりは、複数の製造委託企業に競わせてコストダウンを実現しようと考えてきた傾向が強い。

 (2)弱体化した理由
  欧米の多くの企業はリーン生産方式取り入れようとしたが、
 どれも失敗し、「製造」という業務の価値にさえ疑問を持つ
 ようになった。さらに企業の業績を測定する指標としての
 経済付加価値(EVA)指数の流行、採用がその考えを
 さらに後押しした。EVAでは、生産背設備は資本コスト
 を大きくするものであり、極力小さくするのがよいとされ、
 その結果、かなりの数の企業が工場に投資すること自体に
 難色を示すようになってしまった。
  さらに新興国の経済成長により様々な原料が不足し、
 原材料価格は値上げ圧力にさらされ製品価格は過当競争に
 より値下げ圧力にさらされるという両側のプレッシャに挟
 まれ、製造ビジネスの魅力をますます低下させてしまった。
 利益が出ないので、賃金も上げることもできず、よい人材
 を採用できず、熟練工からの技術伝承も行えなくなっている。
  短期的利益を重視した経営を行う場合、高利益率の既存顧
 客を重視した戦略を取ることとなり、成長する新興市場の
 顧客は軽視しがちとなる。

  欧米の製造業もようやく生産する地域が問題ではなく、技能
 と意欲のある人材を育てることが唯一かつ最大の競争力になる
 ことに気づき始めた。
 「いかに組合を封じ込めるかではなく、重要なのは、会社の
 明暗を決める労働力の意欲を如何に支援するか」であると。
 (3)欧米製造業への処方箋
  ①     プロセスイノベーーションへの投資
生産技術の重要性を理解し、全社のプロセス改善をで
きる組織を立ち上げ、産業機械メーカに丸なげしてい
た生産技術の改良を自社に取り戻すべき。
     製造ネットワークの充実
原材料や部品サプライヤーとの関係も「価格ベースで
の調達」から「知識ベースでの調達」へ転換すること
が重要。
     製造施設内の改革
企業カルチャに結びつけたリーン生産方式を定着させ
ることが必要。リーン生産方式の導入により、製品投
入への信頼性と製品配送期日の信頼性を工場させるこ
とができる。不完全なリーン生産方式の改革では、
標準化の重要性が無視されている。
     労働者の近代化
欧米の労働者のうち、会社の業績に連動して報酬を受
け取っているのは全従業員のわずか20%で75%以上
の従業員は、厳しい給与制度の下、敷くない基本給を補
うために残業の機会を意図的に作っていてほしい。


2.日本の製造業の課題と処方箋


  (1)現状の課題
.  -低収益のままの「ものづくり」に逃げ込む日本の製造業-
日本の製造業は、売上が伸びず利益も低迷するとその事業
から撤退するのではなく、より売上が伸びそうな新製品分野
に参入し、国内市場の停滞に対しては海外市場へ参入するこ
とで全体としての成長を継続させようとしてきた。
「ものづくり」の実質的な意味は、生産現場主導のボトム
アップ思考にあるといえる。
現場の職人の知恵に基づく改善活動こそが、地道なコスト
ダウン、製品改良、品質の向上の原動力であった。この改善
活動の積み重ねが、度重なる不況を乗り越え、低収益に耐え
うるうえで大きな力となってきた。
 これを具体的に示すのが、以下の数値である。
1960年当時は、営業利益率が平均で10%を超えていた
が2000年には4%を下回るところまできている。
事業構造の転換についても、以下の数値がよく表している。
GEは、エネルギーインフラ、航空、ヘルスケア・テクノロ
ジーインフラという事業セグメントを大きく伸ばし、
2000年で売上構成比51%であったものを75%まで
事業構造の転換を図っている。シーメンスについても同様に
2000年に存在していた事業の42%を売却し、インダス
トリー、エネルギー、医療の分野に事業を集中させそれらの
比率を90%とするという事業構造の展開を図っている。
これらに対し、日立は2000年から2009年でほぼ事業
の構成を変化させていない。

 (2)戦略的経営行わなかった理由
 日本の製造業は、短期的な利益を犠牲にしても、売上・
シエア拡大を重視してきたといわれている。
それは、長期的には利益確保に繋がったという合理的な理
由が存在した。つまり、累積生産量が二倍になれば生産
コストがX%低下する経験曲線効果が存在した。しかしポ
イントは規模の経済が効いたという単純なことではなく、
1960年代の製造においては、生産における不良品の
比率が多く、これを減らすことが生産コストのい低減につ
ながりやすいという技術的理由もあった。
累積生産量の多さ⇒生産不良率の低さ⇒生産コストの低さ
という因果関係が作用していたのである。
それに対し、現在は、生産不良の問題はほぼ解決済みで
あり、いわば経験効果のカーブをくだりきった状態とな
っている。
さらに最近では技術の世代交代も起きてきており、第一
世代の技術で経験効果を蓄積した工場よりも、第二世代
技術を採用した、累積生産量が少ない工場の方が低コス
トという逆の原理が働き始めてもいる。
 市場が黎明期にある場合は(生産初期の不良率の差が
大きいために経験効果が効くことと、市場がまだ成長す
るためには)、売上・シエア第一主義は機能するが、
成熟した市場においては利益低下という副作用のみを
もたらす。
 製品開発が比較的容易に行えるようになったことも
あり、コストをあまりかけずに、顧客ニーズの多様化
に対処するため品目数は増すことができた。
 つまり「選択と集中」の必要性があまりなかった。
そのため、低コスト、高品質を武器に米国への輸出で
地歩を築くことに成功し、欧州、アジア、新興国へと
次々に海外市場を拡張し続けた。
これにより売上もシエアも利益も増えていったので
ある。しかしながらコスト構造的には、トヨタに代表
されるように変動費(原材料費)のコスト管理は厳し
いが、固定費についてはあまり厳しい管理を行ってこ
なかった。2000年以降の世界需要の大幅な伸びを
期待し、巨大な生産設備の投資を行ったこともあり、
損益分岐点は非常に高くなっていた。
さらに、株式よりも銀行融資が主流であった日本では、
株価を気にする必要はなく、黒字であれば問題ないと
されていた。株価低迷によって買収されるリスクも日
本ではまだ高くない。

日本の製造業が戦略をあまり意識せず事業展開した背景
をまとめると以下のとおりとなる。
 ①     売上・シエア第一主義、
 ②事業・製品拡張主義、
 ③海外市場拡張主義
という「右肩上がり」の志向が強く、そのために利益
には目をつぶることになるが、
それを容認してきたのが
 ④非効率な資本市場であった。
「右肩上がり」の成長は「結果オーライ」を生みやすい
ため、
 ⑤意思決定の先送りが奏功することが多く、
トップダウンの「戦略」がなくても
 ⑥する合わせ能力の高さと
 ⑦ものづくり信仰によって、ボトムアップの工夫で
競争をしのぐことができた。

(3)日本の製造業への処方箋
     製品レベルでの「間引き」
 製品数を増すことによって「複雑性のコスト」は累
積的に上昇する。この「複雑性のコスト」を「見える
化」して、どの製品を「間引き」することでトータル
のコスト構造が改善するかを理解することが必要で
ある。
     事業レベルでの間引き
 不採算事業からの撤退が必要であるが、施設閉鎖・
従業員解雇だけでなく事業売却という手段もある。
     製造機能のアウトソーシング
 新興国のメーカと競争しながら、巨大な新興市場で
 勝ち残ろうとするなら、「意図的に」品質を下げて
 価格を下げるという方針も必要になる。
 自社および完全子会社で内製化すべき分野、提携先
 や合弁企業に委託すべき事業モデル、外部サプライ
 ヤーから調達すべき分野に切り分けて事業モデルを
 見直す必要がある。
④儲かる製品分野にシフトする。
 長期的に儲かる製品分野、すなわち参入障壁の高い分
 野を見極めてシフトする。自動車は今まで高度なする
 あわせを必要とする製品であったが、電池とモータで
 制御できる電機自動車になるとすり合わせの必要な領
 域が狭まってしまうため、新興国メーカでも参入しや
 すくなってしまう。
製造機能以外で収益力を強化する。
 プリンター本体は破格の安値でもインクやトナーに参
 入障壁があるならばインクの側で儲かればよい。
 インクの販売量は、今年の販売台数ではなく設置台数
 によって決まるので、新規参入メーカは先発メーカに
 追いつくのは簡単でない。
 産業機械などの生産財の場合は、機会を作って売るだ
 けでなく、保守でもうけるビジネスモデルもあれば、
 中古でもうけることも、リースやレンタルでもうける
 ことも可能である。

欧米の製造業、日本の製造業の現状の課題と処方製について整理した。
中身的には特に新しいことはないともいえるが、各国の製造業が現状に
至った背景や環境、それとグローバルの展開の中の必要な戦略をうまく
まとめているところがこの本の特徴と思われる。
特に企業行動を、環境の中での合理的行動と位置づけ、構造的に分析
しているところがよい。

2010年1月30日土曜日

FREE 

デジタル時代の経済メカニズムを分析した「FREE(只、無料)」の英語版を読む。英語版のため少し時間がかかってしまった。著者は、「THE LONG TAIL」で有名な、CHRIS ANDERSONである。CHRISは前著で、今までの実際の小売店では在庫の制限などで売上の上位20%に当たる品目を揃え、その他(80%)の品目は軽視されることが多かった。しかし、インターネットの普及でオンライン小売店は在庫や物流にかかるコストが従来の小売店と比べて遥かに少ないのでこの軽視されていたその他(80%)の品目をビジネス上に組み込むことが可能になり、そこからの売り上げを集積することが可能となった。このことを「ロングテール効果」として、インターネット時代における新しい経済現象として分析した。今回は、一歩進め、現在のように財がデジタル化され、ネットでデリバリーされる経済で「FREE(只、無料)」がどのようなメカニズムを作り出しているのかを分析した本である。現象を捉えているだけでなく、経済のメカニズムを深く理解して、分析していることがよく分かる。


全体を貫く命題は、「希少な(SCARCE)財は価格が上昇し、余分(豊富)(ABUNDANT)な財は価格がゼロに近づく」ということであり、「インターネット上の情報、知識は、限界費用をほとんどかけずに複製・デリバリーが可能なので、ABUNDANTになり、価格がゼロになる」ということである。
ただしFREEだけでは、経済は成立しないので、FREEを活用した以下のようなビジネスモデルが
可能となると述べている。
1.「FREE」を活用したビジネスモデル
 ①DIRECT CROSS-SUBSIDIES(直接的な(販売者、購買者同一)
  関連する派生財の販売
  ◇只にするもの:何か他のものを購入させたいと思わせるもの。
  ◆只にする相手:何か他のものを最終的に購入する人。
  携帯電話の端末を只にして、通話料で回収するモデルが該当し、これ
  を「FREE」とするかどうかは、それ単独のコストによって決まるのでは
  なく、購買者に対する心理効果によって決定する。 
  <例>
   ・ハードを売るためソフトを無料(IBM、HPのLinux)
   ・ショ-を売るためドリンクを無料(カジノ等)
   ・一つ買えば、一つ無料(スーパマーケット)
   ・中に只の商品(お菓子に只の玩具人形)
   ・只でのトアイアル(雑誌購入の初期期間只) 
 ②THE THREE-PARTY MARKET(消費者、広告社、販売者) 
  ◇只にするもの:コンテンツやサービス、ソフトウエア等
  ◆只にする相手:上記を利用する全ての人。
  広告モデルがこれに該当する。最終的には、消費者が、財購入時
  にマーケッテイング費用(只の部分)を間接的に負担することとなる
  が、財を売ろうとする企業、広告会社、消費者でそれぞれ取引を行う。
 <例>

   ・聴衆のアクセスを得るための無料コンテンツ提供(広告メデイア)
   ・利用者への手数料なしのクレジットカード(取り扱い企業から徴収)
   ・文書リーダへは無料。文書ライタから徴収。(Adobe)
   ・物件リストは無料。成約時に徴収。(不動産販売)
   ・コンテンツは無料。アクセスした消費者に関する情報を優良販売。
 ③FREEMIUM (FREE 財 とPUREMIUM財との組み合わせ)
  ◇只にするもの:上級品等に対してプレミアム価格が払ってもらえる
            基本品。
  ◆只にする相手:基本品を購入する人。
  ソフトウエアなどの提供でよく行われるもので、FREE VERSION
  は機能を限定し、プロ仕様(豊富な機能)の商品はプレミアム価格
  を設定する。この言葉は、ベンチャキャピタリストのFred Wilson
  がつけたもの。試供品モデルと似ているが、試供品と上級品を購入
  する比率が逆である。デジタル財では、5%の人のみがプレミアム
  価格を支払っている。FREE財の限界コストがほぼゼロに近いため
  可能となる。
 <例>

  ・一般的な経営アドバイスは無料。個別のアドバイスは優良。(マッキインゼイ)
  ・連邦税計算ソフトは無料。州税計算ソフトは優良。(Turbo Tax)
  ・一般のオンラインゲームは無料。それ以上の利用は優良。(Club Penguin)
  ・コンピュータ間通信は無料。携帯とコンピュータ通信は優良。(Skype)
  ・ある規模内の写真の共有は無料。一定以上は優良。(Flicker)
 ④NONMONETARY MARKETS (貨幣以外での報酬)
  ◇只にするもの:支払いを期待せず人々が与えることを選ぶもの。
  ◆只にする相手:全ての人。
  Wikipediaに代表されるような活動、お金が目的に活動するのでは
  なく、ATTTENTION(注目されること)とREPUTATION(よい評判を
  得ること)を目的に活動する。  

2.「FREE」のルール(Abundance シンキングの10の原理)
 ①デジタル財なら、遅かれ早かれ「只」になる。
  競争市場では、価格は限界費用に近づく。インタネーット上の市場は
  今まで世界が経験したこともない競争市場である。
  処理、広帯域NW、ストレージの限界費用が限りなくゼロに近づくの
  で、デジタル財の価格はゼロに近づく。只になることは選択の余地
  はなく、不可避な現象である。Bitsは、只になりたがっている。
 ②ATOM財(物理的な財)も「只」になるかもしれないが、デジタル財
  ほど性急ではないであろう。
  エアラインから自動車産業まで、自分たちの産業の定義を拡張し
  他の何かを売ることにより自分たちのコア製品を只で売る方法を
  見つけようとしている。
 ③FREEとなる動きは止められない。
  デジタル財の領域にぽいては、この動きは止められない。
  止めるための唯一の方法は、secret code を埋め込むか、
  恐ろしい警告を出すかだが、いつかは破られる。
 ④FREEからお金を作り出すことができる。
  人々は、時間を節約するため、リスクを低減するため、ステイタス
  のためにお金を支払う。お金を作り出す方法は無数にあるので
  それを考えるべきである。FREEで新しい顧客に門戸を開き、
  その顧客からお金をもらうことを考えるべきである。
 ⑤マーケットを再定義すべし。
  エアラインは、自社の事業を旅行業と定義し、座席を易く販売し、
  旅行にまつわる周辺(レンターカービジネス等)でお金をもうけ
  ることを考えるべし。
 ⑥早く実行すべし。(round down)
  只にするのは、するかどうかの問題ではなく、いつ実行するかの
  問題である。それならば早く実行することを考えるべきである。
  只にするために、今日何ができるかを考えるべし。
 ⑦遅かれ早かれFREEと競争することとなる。
  あなたが有料としているものに対して誰かが只にできる方法
  を考える。それに対抗するためにそれの価格は只にせざるを
  得ず、他の何かを売ることを考えなければならない。
  品質の差は、価格の差を克服できる。
 ⑧無駄を容認する。
  ある商品の価格が、図るコストにくれば易い場合は、図ることは
  やめたほうがよい。只にしてしまったほうがよい。
 ⑨只は、他のものの価値をより向上させる。
  全ての豊富は、新しい希少性を作り出す。100年前は娯楽は
  希少であり、時間が十分」あった。現在は逆である。
  このようにある製品やサービスが只になると、価値は次のより
  高い階層に移動する。
 ⑩希少性ではなく、豊富(abundance)に向けてマネジメントすべし。
  リソースが希少のとき、それらは高い。それらを使うとき、失敗
  しないように注意しなければならない。今までのトップダウンマネ
  ジメントは、高い失敗を避けるためのマネジメントを行ってきた。
  リソースが豊富な環境下では、同じマネジメントを行うべきでは
  ない。ビジネス機能がデジタルになるので、失敗を恐れること
  はあまり重要でなくなる。企業文化は、失敗をするな(DON’T 
  SCREW UP)から失敗する場合は早くせよ。(FAIL FAST)
  へシフトすることもありえる。

考えがしっかりしているだけでなく、豊富な事例に基づいているため、
デジタル経済の特徴を理解するために大変有益な書籍である。
このような書籍が出てくる米国はやはりすごい感じがする。

 

2010年1月23日土曜日

現在思想の冒険者たち                  ハーバーマス-「コミュニケ-ション行為」の社会学者ー

第二次大戦後に活躍したドイツの哲学者であり社会学者であるハーバーマスの思想、人物について書かれた本である。現在思想の冒険者たちシリーズの一冊として出版されている。ハ-バーマスの思想の特徴は、社会を「コミュニケーション行為」という概念で分析し、強制や支配のないコミュニケーションによって生み出される合意こそが真に生産的な力であると主張する。彼によると、近代社会は、人間が初めて宗教や因習などの非理性的な力を脱し、民主的な原理が独り立ちした時代であるが、同時に新しい制度や広義のシステムの力も強大となり、計算・支配する思考、そこから生じる人間疎外も強固になっている。人間疎外を克服した新しい社会秩序を生み出すためは、相互の平等な対話によって支えられた合理性の実現(コミュニケーション的理性)が何よりも重要と説く。
私個人として、このインターネットの普及によるネットワーク社会を分析・理解できる思想を整理したいと思っており、現代社会を対象とした社会科学者であること、「コミュニケーション行為」という現在情報社会のキー概念を含んだ思想であること、双方の理由から関心をもって読んだ。現代情報社会は、18世紀、19世紀の時代と大きく異なり、その当時の社会思想で分析するには状況が大きく変わり過ぎたと感じている。たとえば経済学では、18世紀は、農作物を作る土地が希少財であり、これを中心とした分析・思考が、また19世紀は工業製品を作る工場設備が希少財でありこれを中心とした分析・思考が、テーマであった。現在社会の分析に農地の価格決定や分配の理論は、参考になることは合っても、問題意識としてはなじまない。


ハーバーマスのコミュニケーション行為論について、エッセンスを以下に整理する。
ハーバーマスは、資本主義と結びつく道具主義的ないしシステム的合理性が近代の特徴ではあるが、それだけでなく、生活世界の中には近代の成果としてコミュニケーション的理性も育っていることも認める。近代社会が生んだ病理現象たる「生活世界の植民地化」(生活世界も全てシステム的合理性に支配されてしまうこと)に対応するため、そのコミュニケーション的理性の力を支援すべしと説く。
ハーバーマスは全体社会を二つに分けて考える。一方では、文化的な意味や価値の再生産を務めとするコミュニケーション的合理性の領域があり、他方では、社会の物質的再生産に貢献するシステム合理性の領域があり、これは機能的なサブシステム(行政や経済)を基盤として、社会の「システム統合」を志向する。社会においてコンフリクトを避けるためには、人と人との間で「行為調整」を図る必要があるが、コミュニケーション的合理性の領域ではそれは言葉を介した了解・意思疎通によるのに対し、システム的合理性の領域では制御メデイア(権力やお金)がものを言う。
コミュニケ-ション行為は、以下の三つの点で、社会生活にとって不可欠な役割を果たす。
第一に、コミュニケーション行為は、了解を可能とすることにより、文化的伝統を受け継いだり更新したりする。第二に、コミュニケ-ション行為は、言葉による行為調整に従事し、人々の社会的連帯を作り出す。第三に、コミュニケーション行為は、個々の人間が社会の中で成長し、自分なりの人格同一性を達成するために、すなわち「社会化」のために、中心的な役割を演じる。
コミュニケーション行為の概念は、文化的再生産-社会統合ー生活世界-了解による行為調整という線に沿って有効なのであり、もう一方の、物質的再生産-システム統合ーサブシステム-制御メデイアによる行為調整という線に対しては、無力であるという。

その他、いろいろと参考になるところもあるが、社会学の本は読んでいるときには分かったような気持ちになるが、それを起点に論理を展開しよとすると役立たないことが多いので、これ以上の詳述は行わないとことする。社会学は理論ではなく、分類学なので、その思想の中では論理展開できるが、他の背景の中での展開は難しい。

2010年1月16日土曜日

現在企業の組織デザイン-戦略経営の経済学-

  経済学者として著名なJohn Robertsが書いた企業組織論である。この本は2004年度のエコノミスト誌のBEST経営書に選ばれた本とのことである。John Robertsは、Paul Milgromと「組織の経済学」というこの領域のスタンダードとなる本を書いている。
  本書は、市場がコーデイネーション問題やモチベーション問題に対して 最適な解をもたらさない場合、コーデイネーションや動機付けを実現する上で他のメカニズムが必要になると説き、それが企業組織であると、企業の存在を理由つけている。つまり企業は、人々の経済活動に対するタスクを効率的にコーディネートするためと人々を適切に動機付けを実現するための仕組みと位置づけている。
企業組織のメインテーマである、「組織デザイン問題」を、「環境変化を勘案しながら、相互に適合した戦略と組織を創造することで 高業績を実現すること」と定義し、戦略経営論、組織経済学そして比較制度分析などの経済学の分析概念を使って、ケース・スタ ディによる説明を試みている。
組織デザインにおいては、市場分析の経済学で前提している、◇ 実行可能な選択集合の凸性や ◇選択と業績の関係の凹性が、満たされないこともあり、最適解が一意に決まらないという特性を持つ。このような前提の下で、経営者は、目標を設定し、自社で実施するアクティビティの範囲、競争優位の構造を決定していく。そのために、PARC(人々、アーキテクチュア、ルーティン、文化)の要素をを整合的に組み合わせていく必要がある。具体的には、以下の意思決定をしなければならないと説く。
①組織デザインのタイプ:現場の自由裁量に任せるルースカップリン
                                  グタイプにするか、標準化・中央集権化の
                                  タイトカップリングタイプにするか。
②モチベーション     :組織メンバーが互いに協力しながら共通
                                   目的にそって行動する協調性と個人の目
                                   標を追求する利己心とのバランス。
③発掘と探索       :既存の機会を有効に掘り下げるという深
                                   堀型事業と、新しい機会を探り当てる新規
                                  展開事業とのバランス。
  しかし現実の世界では、戦略が対応しなければならない環境は素早く変化し、その変化に対応する必要性はあまり時間をかけずに認識できるが、実際に組織を変えていくのは容易ではない。なぜならば、成功した組織は、成功体験ゆえになかなか変革できないと説明している。
この組織デザインとその組織の実現が、企業の盛衰を決定すると主張し、特に個人のモチベーションや組織のインセンティブが働く組織構造をつくることの重要性を強調している。個別の成功事例から共通点を抽出する経営学者とは異なる経済学者らしいアプローチである。 



詳細な議論は、以下のとおり。
かなり抽象的になるが、まずは、経済学者らしく経済学の概念からスタートする。企業組織は、経済学が市場分析の前提とする前提を満たさず、逆に以下の前提を満たすと言う。
◇ 選択変数間の補完性(Complementarity)
任意の対 をなす2つの選択変数について、その一方を(より多く)実行
することによ って他方を(より多く)実行することから生ずる収獲が増加
する場合、こ れらの変数は,補完的であると言う。    
例えば、高品質であるという事実によって、需要が価格の昇に対し
て敏感に反応しなくなる」(つまり弾力的でなくなる)場合,製品の価格と
品質とは、補完的だと言う。補完性は、システム効果を生み出す。
全体は、部分の総和以上のものとなることを意味する。
実際、変数の間に補完性が存在する場合、任意の変散を1つだけ
変化させることによって、業績が悪化してしまう。これに対して、全て
の変数を同時に変化させることによって、業績が実質的に高まると
いうことが考えられる。
◇ 実行可能な選択集合の非凸性(Non-convexity)
選択集合の非凸性である。凸性の場合は、2つのオプションが存在し
ている場合、あらゆる中間的な選択が可能となることを意味するが、
実際の選択肢は2者択一であったりして、不可分となっており、実際
は非凸となる。たとえばある製品開発投資を10億円する選択Aがあり、
開発投資を全くしない戦略Bがあった場合、その間の2億円や5億円
が必ずしも実行可能でないことを意味する。その投資の機器が最低で
も3億円かかる場合、2億円の投資は実行可能ではない。

◇ 選択と業績の関係の非凹性(Non-concavity)
目的関数の非凹性であり,ある所与の環境における選択と業績の関係
を扱ったものである。凹性は、2つの選択水準によってそれぞれ同一の
業績水準がもたらされる場合に、これらの中間的な選択水準で選択を
行った場合の業績水準がつねに高位になるということを示すが、
非凹の場合、最適値が不連続に複数存在することを表す。
つまり組織は、規模に対する収穫逓増、学習効果、そして不可分性を
備えており、目的関数の凹性との間に不整合をきたす。

このような経済空間の中で、経営者は、目標を設定し、実施するアクティビティの範囲、競争優位の構造つまり、PARC(人々、アーキテクチュア、ルーティン、文化)の要素をを整合的に組み合わせ、
それを実現していかなければならない。そのためには、経営者はリーダシップを発揮して変化を生み出していく必要がある。
①戦略的認識:最も根本的な問題は、変化の必要性や機会を認識する
ことである。
②ビジョン策定:それは,大まかな輪郭だけでもよいからより優れたパター
ンを発見するのに必要とされる。
③コミュニケーション:変化を生み出すために従業員等に働きかける能力
が必要である。すなわち、,新しい仕方を説明するだけ
でなく、それを実現するためのプロセスにかんする説明
を行ことである。
④実現への努力:困難な目標の実現に向けて努力することに加えて、変化
そのものが容易ではな、く、業績が悪化してもあきらめな
い勇気が必要である。

特に組織デザインにおいて重要と思われる、①組織デザイン諸相の結びつき度合い、②モチベーションの仕組み、③階層について述べていく。

①結びつき度合い(タイト・カップリング(密結合)/
ルース・カップリング(疎結合)
経済活動を組織化する費用、すなわちコーディネーション費用やモチ
べ―ション費用が存在しており、こうした取引費用の節約という原理
によって組織パターンが決定される。特に、距離を置いた市場契約に
依存した取引をやめて、,それを企業内で組織化する方が低い費用で
実現できる場合、企業の内部組織に依存して取引を行う。  

②モチベーション
モチベーション問題が生じるのは、諸個人の利己心に任せているだけ
では、組織が望むような方向へと導けないためである。
このような利害の衝突が生じるのは、個々のメンバーが組織内で自分
が選択する行動や意思決定にと もなう便益と費用にたいして、すべて
の責任を負うわけではないからである.。
経済学で、プリンシパル・エージエント問題といわれるものである。。
組織デザインの視点からすると,モチベーシヨン問題というのは、組織の利害とそのメンバーの利  害とを一致させることによって、メンバーが行う選択の整合性を高められるような組織-アーキテ クチャ、ルーティン、文化を形づくることにほかならない。
一般的には以下のことが言える。
努力度合いも増すごとに便益が大きくなる環境では、最適な努力水準も大きくなるので,インセンテイブが大きい制度がよい。つまり業績測定を正確かつ適時に把握困難なタスクについては、明示的な業績インセンティブを制度が望ましい。逆に業績測定が正確にまたタイムリーに行えないタスクについては、インセンティブが強い制度は望ましくない。この問題は、ある人や組織にマルチタスクの仕事をアサインする場合に重要となる。現在の業績を維持すると同時に,新規事業の開拓を使命とするケースでは、.前者の業績評価は,比較的明確であるが、後者の業績評価は明確でなく、向けられる努力の質に関する情報は,かなり把握しずらいばかりではなく成果がでるのに時間がかかってしまう。マルチタスクでそれぞれ期待する成果を出していかなければならない場合には、双方のタスクに注意を向けさせ、それぞれのタスクの努力水準を増やすことで得られる利得の大きさ を,均等化しなければならない。 マルチタスクが必要とされる場合には,双方のアクティビテ イにたいして,相対的に弱いインセンティブを提供するのがベストである。なぜならば、インセンティブを強くすると、個人にとっては、現在の業績を維持することに注力することが合理的となるからである。

③階層
現在のように環境変化が激しく、規模の経済が必ずしも求められない状況では、以下のことを重視した組織デザインが求められる。
◇戦略や企業政策を透明にする。
◇相対的に小規模の独立した組織ユニットとする。
◇組織ユニットのリーダに対して,オペレーションや戦略にかかわる
多くの権限を委譲するとともに結果に対する厳格な責任を負わせる。
◇ディレイヤリングのプロセス置いて,ヒエラルキーの階層の数を滅ら
していく
◇中央スタッフの職位数を減らしていく.。
◇全社的な業績に連動した報酬の増加と合わせて、組織ユニットと
個人の業績にたいして提供するインセンティブを強化する
◇経営者のトレーニングと開発に投入する資源を増やす.
◇ヒエラルキーのトップからロワーに至る全体的なコミュニケーション
というよりも、むしろマネジヤ]とスタッフとの間の水平的な結びつきや
コミュニケ」ションを促す。
◇適切な業績評価を促すとともに,組織ユニット間,ならびに上下間の
コミュニケーションを促進できるように情報システムを改善する.。

期待して読んだ割りには、論理の展開、結論とも注目に値するものは
なかった。分かりやすくしようとしたためか、モデルや数式を説明せす、
文書でだらだらと平凡な結論のみを書いているように見えるところが
かなりあった。平凡な結論でも経済学的なモデル分析から導出された
ものなら、その前提を変えたら結論はどうなるかと思考をめぐらすこと
ができるのだが。
企業組織を経済学的に分析することを整理するため、
別途「経済システムの比較制度分析」の読書ノートを作ることとしたい。
その論理過程が面白いと

2010年1月11日月曜日

科学的管理法(新訳)-マネジメントの原点-

この本の前書きに書いてあるが、加護野教授や野中教授が、経営学の古典的名著を復刻させようとされており、その中の一冊として出版されたとのことである。テイラーの「科学的管理法」といえば、「動作・時間研究」で有名で、労働者を機械のようにもっとも効率的に働かせるのにはどうすればよいかについて書いた本というイメージがある。Gary Hameは、「The Future of Management 」で、今後の経営管理のあり方を書いたが、その中で、今日までの官僚型組織を中心とする効率中心の経営管理のパラダイムを克服すべきと書き、その起源をテイラーに求めている。Hamelは、テイラーの科学的管理法について、以下のように書いている。
ほとんどの歴史家が、フレデリック・ウインスロー・テイラーを近代経営管理の起源の近くに位置づけて、20世紀のもっとも影響力のあった経営管理のイノベ-タとみなしている。テイラーは、作業の構成に対する経験的なデ-タ主導のアプローチが、生産性の大幅な向上をもたらすと考えていた。
・・・・・経営管理は、「明確に定義された法則とルールと原理に依拠する真の科学」にできると、彼は信じていた。実際の話、テイラーがいかにも彼らしい秩序だった天界から、下界を見下ろして、彼の教えを広め続けているシックスシグマの実践者たちにやさしく微笑みかけるのが目に浮かぶようだ。・・・この生産性向上に伴って、官僚主義化も進行した。労働者を機械のように動かすというテイラ-の目標を達成するためには、標準化されたルーティン作業、厳密に記された職務マニュアル、トップから指示される目標、階層的な報告体系に支えれた官僚型組織を築く以外に方法はなかったのだ。
この中の、「労働者を機械のように動かす」、「トップから指示される目標」、「官僚型組織」のイメージが一般的である。しかし、実際にこの本を読んで、テイラーの科学的管理法がそうばかりでもないことを知った。まず初めに、テイラーは、マネジメントの目的を、雇用主に「限りない繁栄」もたらし、併せて働き手に「最大限の豊かさ」を届けることだと宣言している。働き手に配慮し、働き手からの提案を評価し、全社展開すべしとも言っており、働き手を機械のように捉えていた訳ではない。日本で一般的なQCサークルによる改善活動に近い考え方をしていた面があると思う。



1.科学的管理法の原則
今までのマネジメントは、一人一人の働き手が全力を尽くし、持てる 識や技能を総動員し、創意工夫や善意を十分に発揮するよう、お膳立てをするのがマネャーの仕事であった(これを「「自主性とインセンティブを柱としたマネジメント」と言っている。)。一方、科学的マネジメントは、 マネジャーが作業の中身まで深く踏み込み、これまで、現場の労働者に任せ切りにしてきた仕事の多くを、マネジャーが引き取り、自分たちでこなさなくてはいけないということである。マナジャーは、部下たちを助け導いていくほか、通例とは比べものにならないほど大きな結果責任を果たす必要がある。
このように、働き手とマネジャーが、定量的にPDCAを回しながら改善活動を行っていくという日本的経営と極めて近いことを100年も前に言っていたのには驚く。
本の中では、「銑鉄の運搬作業における取り組み」、「シャベルすくい作業研究」、「レンガ積における検証」「ベアリング用ボールの検品に対する考察」等事例研究が述べられている。
事例から共通に言えるのは、科学的手法の普及のためには、各働き手の判断に代えて、数多くの決まり、規則、定石などを設けなくてはならず、しかもそれらを体系的に記録していつでも参照できるようにすることである。さらに、一人ひとりが一日にどのような仕事をどれだけ なすべきかをマネジャーが十分に理解し、一人ひとり 人材を吟味、指導、育成していくことが必要である。

 
2.科学的な管理法の実践
  科学的な管理を実践していくためには、以下のステップが必要である。
  ①分析対象の作業に非常に長けた人材を、10人~15人程度選り抜く。
  ②各人が作業の中でどのような操作や動作をするか、基本的なものを
    押さえるとともに使用ツールについても把握する。
  ③各基本動作に要する時聞をストップウォッチで計測し、各動作もっと
   も短時間でこなすための方法を選ぶ。
  ④適切でない動作、時間がかかりすぎる動作などをすべて取りやめる。
  ⑤不必要な必要な動作を全て取り除いたあと、最も要領のよい、最適
   な動作だけをつなぎ合わせて、最善のツールを用意する。
  もっとも重要な法則は、「課題」を軸とした発想が働き手の効率に及ぼす影響だという。まねじゃーは、働き手は一定の課題を決まった時間内にこなすように指示をし、働き手はその指示(基準)に基づいて自分の一日の進捗を測り、目標を達成したかどうかを見る。
最後に、科学的管理法のポイントを以下のように列挙する。
 ◇経験則ではなく科学、
 ◇不協和音ではなく、調和、単独
 ◇独作業ではなく協力 
 ◇はどほどでよしとするのではなく、最大慢の出来高

3.テイラーの世界観
  テイラーは、この本の最後で以下のように書いている。「動作・時間」研究の背景にこのような世界観もっていたことが分かり、大変興味深い。
 一人ひとりの仕事の効率アップムと豊かさの追求字的管理法を幅広く採用すれば、モノ作りに携る人々の生産性はごく短期間に2倍に跳ね上がるだろう。それが国全体にとってどのような意味を持つか考えていただきたい。生活必需品と奢侈品がともに増えて国中に行き渡るほか、時短が望ましい場合にはそれが実現する可能性が生じ、教育、文化、娯楽などの機会が広がるのだ。

最近、会社の施策として「ソフトウエア開発力強化」に取り組もうとしており、その意味で、テイラーのこの本は、工場の現場を、ソフトウエア開発の現場と考えると大変身近なものと感じることができた。ソフトウエアの開発現場では、個々人の能力差が激しいこともあり、定量化がなかなかできておらず、施策の効果も定量的に捉えられていない。テイラーのいうところの現場マネジャーとして、メンバーを抽出しベンチマークを行っていく手法等踏み込んだ検討等、前向きに現場に入っていくマインドの準備できた感じがする。

      

2010年1月6日水曜日

制度と文化-組織を動かす見えない力-

個々人の動きが組織行動としてどうなるか、逆に組織は個々人の意識・行動をどう規定するのかに相変わらず関心を持っている。特にこの本には、組織が個人の意識をどう規定するのか、経済的な利得だけでなく、行動を動機つけまた行動の善悪を把握する個人の「意識」についての分析を期待した。社会学により「企業組織と個人」の分析を行っている書籍とも言える。
まずは、企業文化が個人の意識を一方的に規定する考えとして、1980年代にBEST SELLERとなった「セオリーZ」、「エクセレントカンパニー」、さらには「シンボリック・マネジャー」を取り上げる。共通する考えは、「共通の理念や価値観あるいは信念のもとに組織全体として統合されており、それによって従業員が全社的に結束し、優れた経営業績をあげている企業の話」である。
2000年ごろ、この本で取り上げられた「エクセレントカンパニー」でそのままエクセレントカンパニーで残っているところが少ないとの話があったが、企業文化が経営業績を規定するとの考えでエクセレントカンパニーを選定していたなら、十分ありえる話ではある。




1.組織文化と組織アイデンティティ
組織文化をエドガー・シャインは「組織文化とリーダシップ」の中で以下のように規定している。
[外的適応]①使命と戦略、②目標、③手段、④測定、⑤修正
[内的適応]①共通言語と概念カテゴリー、②集団境界と包摂、
排除の基準、③権力と地位、④親密さ・友情・愛
⑤賞罰、⑥イデオロギーと宗教
つまり組織文化は、一方では、組織の価値や目標や活動を明確に
定めることを通じて、その組織を取り巻く環境への外的機能を果た
し、他方では、その組織における成員たちを結束させ協働行為を
活性化する事を通じ、内的統合を図ることによって、組織の存在
(生成・維持・変容)を根本から基礎付けていく。
組織のユニークさを作り上げているのがこの組織文化(共有価値観、
共通言語)であるとの考えが主流であったが、これに対し、
「集団的なまとまりや集合的なアイデンティティの基礎となっている
のは、内集団と外集団とを区別する成員性の認知(自分が特定の
集団メンバーであって、他の集団メンバーではないという点に関する
自己認識)それ自体であって、その他の諸要因(共有価値・目標や
機能的な相互依存性や相互の魅力など)は本質的なところでは
大した意味を持たない。」というラディカルな主張が、社会心理学者
のヘンリー・タイフェルによってなされたとのこと。
この主張は、個人と組織をつなぐ大変面白い味方だと思う。
つまり、人々が価値を共有したり、相互に魅力を感じていなくても
、成員性の認知という条件さえ満たされていれば、集団が形成され、
またその反対に成員性の認知が存在しなければ、共有価値が相互
の魅力があったとしても、集団は形成されないことを言っている。
成員性の認知が集団存在の必要十分条件である。
さらに面白い実験結果が紹介されている。
以下の4つの実験条件が用意され、各条件で集団への同一視の
程度と生産性の関係を分析した。集団顕在性の条件として、集団
には特定の名前をつけ、制服を与えるということを行った。
以下の4つの実験条件で一番生産性があがったのはどこか。
①集団顕在性(高)×集団間競争(あり)
②集団顕在性(低)×集団間競争(あり)
③集団顕在性(低)×集団間競争(なし)
④集団顕在性(高)×集団間競争(なし)
集団への同一性意識も高く、生産性も高いのは、①の場合であり、
不思議なことに、集団への同一性意識と生産性がもっとも低かった
のは、④の場合のようです。集団間での競争関係が成立していない
ところでむやみに集団を強調すると、この強調が全く意味のないこと
ととられてしまい、そのためにかえって作業を行ううえでの士気の低下
が生じてしまったと解釈できる。

2.組織理論-効率性モデルVS環境・認知モデル
「組織は戦略に従う」という考え方は、チャンドラーが「経営戦略と組織」で提唱した考えであり、
原材料の調達と工業製品の販売機能を社内に取り込んでそれらを一貫しして行う垂直統合戦略に対しては、意思決定は中央集権で、その下に製造や販売の職能別に分かれた「集権的職能別組織」が採用され、事業分野を拡大していくことにより会社を成長させていく多角化戦略には、事業部制組織が採用されるという考え方です。例として、デュポン社を取り上げ、第一次大戦中に無煙火薬の生産と販売に集中して垂直統合方式によって事業を拡大したが、この組織で多角化を行ったところ大幅な赤字という事態を迎えた。それを克服するため1921年に分権的事業部制組織を採用し、この危機を乗り切った事例等を挙げている。大変分かりやすい理論であるが、これに対して「組織は勝者の世界観に従う」という説を展開したのが、「企業コントロールの転換」を著したフリグスタインである。国家による規制や企業の内部体制、業界等の企業間関係等に代表される制度的プレッシャーにより、その時代時代で、以下の観点・レンズをもつ人材が社内で影響力を持ち、その方向で組織を再編成するという考えだ。この本ではこの考え方を「組織は流行に従う」と書いている。
◇生産性の観点を重視する「製造によるコントロール」
◇新たな市場の開拓や製品の差別化を重視しする「販売とマー
ケッティングを通したコントロール」、
◇業内容よりも財務数値を重視した「財務によるコントロール」

3.各組織論を位置つける企業分析フレームワーク
文化や制度という視点から組織現象を理解しようとするときに、「組織(メゾ)⇒個人(ミクロ)」、「制度(マクロ)⇒組織(メゾ)という方向で作用する影響関係の内容と因果関係のメカニズムを明らかにしていく一方で、「個人(ミクロ)⇒組織(メゾ)」、「組織(メゾ)⇒制度(マクロ)という逆方向の影響関係の内容と因果関係のメカニズムを明らかにしていく必要がある。
この文化の枠組みや自分が置かれている社会的文脈からの影響度合いについて、影響をすごく受ける事を「社会化過剰」といい、影響を受けないきおとを「社会化過少」と定義している。
このようなフレームワークで、それぞれの組織論を整理すると以下のようになる。
◇企業文化論(「エクセレントカンパニ」等):社会化過剰の人間観
+社会化過少の組織観
個人は組織に強く影響されるが、組織は制度(環境)
にあまり影響されないとの考え。
◇効率性モデル(「組織は戦略に従う」等):社会化過少の組織観
+社会化過少の人間観
組織は、制度(環境)にあまり影響されず、個人も
組織にあまり影響されない。
◇組織アイデンティティ論(ヘンリー・タイフル):マクロ・メゾ・ミクロ関係
の解明
◇新制度派組織論(「企業コントロールの転換]等):社会化過剰の

組織観+社会化過剰の人間観
組織は、制度(環境)に強く影響され、個人も組織に
影響される。
新制度派組織論は、新しい視点を提供してこいたが、①制度の生成や変化についての分析
が甘い。②個人の認知プロセスについての理論化の不備、③組織や個人の利害関心と主体的な行為能力の欠如等の問題点を持っている。

4.複合戦略モデル
著者は、新制度派組織論の問題を解決するモデルとして「複合戦略モデル」を提唱する。「道具箱としての文化」「行為戦略」「制度固有のロジック」という3つのアイデアを織り込んだモデルとのことである。「道具としての文化」とは、人間が文化特定の要素を生活上の道具として能動的かつ主体的に選んで「使って」いくことの意味であるようで、また「行為戦略」とは、様々な文化的要素ののレパートリーの中から、現実の生活を送る上でもっとも役に立つと思われるものをとって行為を組織化することの意味のようである。「制度固有のロジック」とは家族制度、政治制度、国家制度、市場制度などそれぞれの社会領域に基本的な構成原理で、追求すべき目標、価値、評価の基準等のことを言っている。
著者は、この複合戦略モデルでは、制度的・文化的プレッシャーが、最終的な経営戦略に反映されるまでに間に、次の2つのプロセスが介在するという。
①制度的・文化的要請が個人ないし集団の行為戦略のフィルターを介して経営戦略案に選択的に取り込まれるプロセス。つまり個人・集団レベルにおける行為戦略と経営戦略案の間の複合性
②個人・集団レベルで構想された複数の経営戦略案が、組織内の政治プロセスを経て最終的な
経営戦略へと絞りこまれていくプロセス。つまり組織レベルにおける複数の経営戦略案の間の複合性。
  複合戦略モデルが解決しようとした課題については、まさに同感であるが、解決のための具体的モデルがどうも十分でないように思う。十分でないというよりほとんど提示されていない。
いろんな組織論の背景および概念モデルについての情報を得るにはよい本であるが、複合戦略モデルの具体論がないので、貴重な時間を割いて読む必要はないかもしれない。

2010年1月4日月曜日

大型商談を成約に導く「SPIN」営業術

法人向けの営業は、実際に経験した者でないと、実感として理解できないと思う。自分自身はここ数年、直接お客様へ営業をする機会が少なくなっていたが、以前の経験を思い出しポイントを整理するとともに、IT業界における営業のありかたを考えるために「大型商談を成功に導く「SPIN」営業術」を読む。35000件を超える商談の分析にもとづいているというだけあり、特定の成功体験に基づくノウハウ本ではなく、小型商談と大型商談の特徴を踏まえた法人営業のあり方を考えるのに示唆に富む本だと思う。まず大型商談(IT、設備機器の商談等)と小型商談(事務用品の商談等)の違いを以下のように整理し、小型商談の成功ノウハウが大型商談においては、障害となることがあると説く。
自分自身の経験でそうだと思うことが、多数の商談の調査・分析によって明確にされており、小気味よささえ感じるところがある。
 <顧客>◇大型:既に取引がある。⇔小型:一度だけの取引
 <購買リスク>◇大型:組織全体に影響⇔小型:個人的リスク
 <意志決定>◇大型:複数ステイクホルダ⇔小型:購買者個人
 <時間>◇大型:3ヶ月以上⇔小型:即決または数回


1.商談の四段階
   商談を以下の四段階に分けて、小型商談、大型商談それぞれにおける成功ポイントを整理していく。
 (1)予備段階
   自己紹介や話の切り出しの段階である。
 (2)調査段階
   見込み客のニーズを探るための段階である。大型商談では
   特に重要。この段階の質問を、
   S(Situation question)、
   P(Problem question)、
   I(Implication question)、
   N(Need-payoff question)
   に整理している。
   この本のエッセンスはここにあるので、詳細は後述する。
 (3)解決能力を示す段階
   見込み客に提案している商品は買うに値するものだと必要が
   ある。そのために提案している商品が、見込み客の問題解決
   に大きく貢献できることを示す段階である。
 (4)約束を取り付ける段階
   小型商談では商品の購入であり、大型商談では受注に至るま
   での数々の約束を取り付ける段階である。
 大型商談では、上記の段階においても時間がかかり、それぞれの段階で、何ができれば成功なのか、失敗なのかを明確にする必要があり、以下の定義を行っている。
 成功は「受注」、「進展」の場合のみであり、「継続」は失敗と定義つける。「進展」は、「さらに上位の意志決定者と会える」や「デモ参加、トライアル」等商談を前進させるアクションを含んでいる。それに対し、「継続」は、「なかなかよかったです。必要があればまた連絡します。」等商談は続くものの、前進させるような約束はなかった」場合と定義している。自分自身が実際営業していた時には「継続」でも成功と認識していた甘さがあったように思う。
 また、商談の目標を設定すること、さらにその目標が達成できたかどうかのチエックをすることの重要性を説いている。これも言うは安しだが、実行はなかなか難しい。しかし成否を分けるポイントである。大型商談の場合、見込み客のニーズをつかむといっても以下のような特徴があり、なかなか難しい。
 ◇ニーズが育つのに時間がかかる。
 ◇複数の意見や考え、影響がニーズに影響してくる。
 ◇ニーズは理性的に判断される。
 ◇購買した商品がなんらか問題ある場合、その決定をした人物
  の責任問題になる可能性が高い。
 さらに見込み客のニーズを以下のように「潜在ニーズ」と「顕在ニーズ」に分ける。
 □潜在ニーズ:見込み客が口にした問題や不満のことで
  「現行のシステムはスループットが悪い」、「今のスピードに満足
   していない」等
 □顕在ニーズ:見込み客が口にした欲求や欲望のことで
  「もっとスピードの速いシステムが必要だ」「バックアップ機能が
  ほしい」等
実際の事例を分析することにより、以下の結論を導く。
小型商談では潜在ニーズを多く見つければ、商談成立の確率が高まる。それに対して、大型商談では、どれだけ多くの潜在ニーズを見つけるかは、商談の成否にはそれほど影響せず、大型商談で必要なのは、ニーズを発見したあとにそれをどう料理するかがポイントと説く。成功のカギは、潜在ニーズをどう育て、どのような質問の仕方をすることで潜在ニーズを顕在ニーズに変えていけるかである。

2.潜在ニーズを探る質問方法
 質問には、以下の二つのタイプがある。
  ①「発見のための質問」:見込み客から問題点、つまり潜在ニーズを聞き出す。
  ②「発展のための質問」:潜在ニーズを顕在ニーズへ発展させる。
 (1)状況質問(Situation question)
   見込み客の現状に関する事実を見つけ出す質問で、具体的には
   「今はどんな設備をお使いですか」、「これを使い始めて何年ですか」「購買決定プロセスはど  
   うなっていますか」等であるが、調査によると、大型商談では失敗例で多く聞かれることや経験      
   の浅いセールスパーソンが多用するようだ。またこれを連発すると、見込み客は、商談に飽き  
   てイライラし始める。これも経験済みなのでよく分かる。
 (2)問題質問(Problem question)
   見込み客の問題点、支障、不満を探り出すもので、見込み客に潜在ニーズを語らせる質問で具体的には
 「今の機械は使いにくくないですか」、「品質上の問題はないで
 すか」等
 であるが、調査によると小型商談での成功例で、多く使われていたことや経験豊富なセールスパーソンほうが使う」傾向が高いとの結果がでている。小型商談では効果絶大だが、大型商談では問題質問は潜在ニーズを浮き彫りにするが、大型商談では、潜在ニーズは成功の指標となっていない。問題質問力を向上させるために、以下を推奨している。
 ①商談の前に、見込み客が抱えているかも知れず、提案する
  商品やサービスで解決可能な潜在的な問題を考えて少なくと
  も三つは書き出してみる。
 ②その仮定した潜在的な問題を浮き彫りにするために、商談で
  使う「問題質問」をいくつか書き出してみる。

3.調査段階での進め方-SPINの効用と活用-
 大型商談における成否を分けている一番のポイントは、潜在ニーズを顕在ニーズへうまく変えることであるが、しかし「どうやって?」が問題である。この発展させるための質問法が「SPIN」であり、特に問題の深刻さを浮き彫りにする「示唆質問」、解決策や価値を明確化する「解決質問」が重要である。
 大型商談では以下のような質問をしていくことが必要である。

               《状況質問》
                   ↓
  《問題質問(問題点や不満などの質問による潜在ニーズ把握)》
                   ↓
         《示唆質問(問題の深刻さを浮き彫り》
                   ↓ 
《解決質問(解決策の望ましさに関する質問により顕在ニーズ把握
                   ↓
         《解決策や解決能力の提案》

示唆質問の目的は、まさに見込み客が大したことはないと思っている問題を、アクションを起こすに足る大きな問題だと認識させることであり、具体的には、以下のような質問をすることである。
  「それは生産高にどんな影響を及ぼしていますか」、
  「そのせいでコストが高くなっていますか」
  「そのことで計画されている事業拡大が遅れませんか」
 示唆質問は、調査に「よると、大型商談での成功に大きな関係がある。見込み客が価値を認識できるようにする。「状況質問」や「問題質問」よりも質問しにくい。という特徴を持っている。
押し付けがましくせず問題点が及ぼす影響を一緒にかんがえようとしてくれる人のほうが、お門違いの解決策をせっかちに押し付けてくる人よりも安心され、長く付き合おうと思ってもらえる。

 解決質問は、見込み客から提案された解決策の価値や効用に関する質問のことで、具体的には以下のような質問である。
  「たとえばどんな利点があるでしょうか」、
  「それがどう役に立つでしょうか」、
  「この問題を解決することがどうして重要なのですか」等
調査によるとこの「解決質問」は、大型商談での成功に強く結びついている。解決策が見込み客に受け入れられやすくなる。とくに商談の意思決定者に影響力をもつ人物相手に対して効果がある。という特徴を持っている。また解決質問は、見込み客の「内部プレゼン」の練習になる。

4.解決能力を示す段階-「利点」ではなく「利益」を語れ-
 解決能力を示す段階で、アピールすべきは「利益」であり、提案している商品の「特徴」や「利点」でないと説く。特に「利益」と「利点」を以下のように定義し、異なる概念であることを示す。
 ◇利点:製品やサービスがどのように使えるか、どのように見込み
   客の役に立つかを説明するもので、具体的には以下のような
   質問をすることである。
  「ライバル社の機械よりも静かです」、
  「自動供給装置で時間が節約できます」、
  「コストが低く抑えられるということです」
 調査によると、利点の強調は、小型商談では効果的だが、大型商談ではほとんど効果がない。という特徴を持つ。
 ◇利益:見込み客が口にした「顕在」ニ-ズに製品やサービスが
  どのように応えられるかを説明するもので、具体的には以下の
  ような質問することである。
  「これならお客様の希望速度以上のスピードが可能です」、
  「すぐの納品がご希望ですね。在庫はございます」、
  「コストダウンをお求めとのことですが、この電力低減型なら
  経済的です」
 調査によると、セールスの規模にかかわらず、非常に高い効果がある。大型商談ではもっとも威力のある言葉の一つである。

5.反論への正しい対処法-基本は反論を惹起しないことが必要ー
 売り手が、以下の行動をとったときに、見込み客のもっとも確率の高い反応は以下のとおりである。
  <売り手の行動>        <見込み客の反応>
   ・特徴の説明      ⇒     価格の心配
   ・利点の説明      ⇒     反論
   ・利益の説明      ⇒     支持・賛成
つまり、営業マントレーニングでは、特徴や利点をアピールすることを教えており、つまり反論を作り出すことを教えてしまっているということである。さらに不用意に作り出した反論への対処法を教えているということで、マッチポンプのようなものである。

6.クロージング
 商談で、受注を獲得するための直前の行動をクロージングするという。クロージングとは、見込み客を何らかの約束をする立場に立たせる売り手の行動のことであり、テクニック的には、見込み客が商品の購入に合意する前から取引が成立したかのように「納入日はいつにしましょうか」等で見込み客にプレッシャーをかける方法等がある。
 クロージングは、低額商品では商談の成功率を伸ばす一方、高額商品では成功率をさげてしまう。決めるのが小さいことなら、プレッシャーはプラスに働くが、決めねばならないことが大きくなればなるほど、プレッシャーをかけると否定的な反応になる。
 しかし一般的にクロージングテクニックは効果的だと勘違いされている。それは、セールス行動の中で、注文によって直接的な結果が得られる唯一の行動だからである。受注の直前の行動なので、これが受注に効果があったと思ってしまう。
 大型商談でクロージングで成功するためには、以下の4つの効果的な行動をとることが必要である。
  ①「調査段階」と「解決能力を示す段階」に注目する。
  ②主な懸念事項に対応したかをチエックする。
  ③「利益」をまとめる。  
  ④次の約束を提案する。
   具体的には、「見込み客の上司に会う」、「商品の使用に同意
   してもらう」、「調査を引き受ける」等商談を進めるアクション
   である。

7.理論を実践に移すコツ
 上記のように、大型商談の理論について、整理してきたが、実践
 に移して成果をださなければ意味はない。理論を実践に移すコツ
 として以下を挙げる。  
  ①練習は「一度に一つ」
  ②少なくとも3回は試してみる。
  ③質よりも量
  ④練習は安全な状況で

そして、最後に、実践で成果を出していくための心構えとして、
以下のような「計画」、「実行」、「見直し」の必要性を説く。
「進展」をどのように獲得するかを考えることが重要であり、「情報の収集」や「関係を絶たない」などと言った「継続」の目標では満足してはいけない。しかし同時に非現実的なほど高い目標はたててはいけない。重要なのは商談を先に進めることである。計画に基づき行動したら以下を考える。
  ・今回の商談の目標は達成できたか。
  ・またこの商談ができるとしたら、どこを変えるか。
  ・この見込み客との先々の商談によい影響を与えるようなことを
   何か得たか。
  ・ほかの見込み客との商談にも役立つことを何か学べたか。

さらに補足の章で、著者は、「数値に表すことができないのなら、その知識は貧弱な、粗末なものである」との認識強くもっていることもあり、 「SPIN」は本当に効くのか。売上向上をもたらすのかについて、いろんな実験で検証しようとしている。
特定の成功体験に基づく営業のノウハウではなく、あくまでも科学的に、実証的にアプローチしようとしている。SPINを中心としてノウハウはもちろん参考になるが、属人性が高く秘伝的ノウハウが多いといわれている法人営業を科学するアプローチ、マインドに新鮮さを感じた。