経済学者として著名なJohn Robertsが書いた企業組織論である。この本は2004年度のエコノミスト誌のBEST経営書に選ばれた本とのことである。John Robertsは、Paul Milgromと「組織の経済学」というこの領域のスタンダードとなる本を書いている。
本書は、市場がコーデイネーション問題やモチベーション問題に対して 最適な解をもたらさない場合、コーデイネーションや動機付けを実現する上で他のメカニズムが必要になると説き、それが企業組織であると、企業の存在を理由つけている。つまり企業は、人々の経済活動に対するタスクを効率的にコーディネートするためと人々を適切に動機付けを実現するための仕組みと位置づけている。
企業組織のメインテーマである、「組織デザイン問題」を、「環境変化を勘案しながら、相互に適合した戦略と組織を創造することで 高業績を実現すること」と定義し、戦略経営論、組織経済学そして比較制度分析などの経済学の分析概念を使って、ケース・スタ ディによる説明を試みている。
組織デザインにおいては、市場分析の経済学で前提している、◇ 実行可能な選択集合の凸性や ◇選択と業績の関係の凹性が、満たされないこともあり、最適解が一意に決まらないという特性を持つ。このような前提の下で、経営者は、目標を設定し、自社で実施するアクティビティの範囲、競争優位の構造を決定していく。そのために、PARC(人々、アーキテクチュア、ルーティン、文化)の要素をを整合的に組み合わせていく必要がある。具体的には、以下の意思決定をしなければならないと説く。
①組織デザインのタイプ:現場の自由裁量に任せるルースカップリン
グタイプにするか、標準化・中央集権化の
タイトカップリングタイプにするか。
②モチベーション :組織メンバーが互いに協力しながら共通
目的にそって行動する協調性と個人の目
標を追求する利己心とのバランス。
③発掘と探索 :既存の機会を有効に掘り下げるという深
堀型事業と、新しい機会を探り当てる新規
展開事業とのバランス。
しかし現実の世界では、戦略が対応しなければならない環境は素早く変化し、その変化に対応する必要性はあまり時間をかけずに認識できるが、実際に組織を変えていくのは容易ではない。なぜならば、成功した組織は、成功体験ゆえになかなか変革できないと説明している。
この組織デザインとその組織の実現が、企業の盛衰を決定すると主張し、特に個人のモチベーションや組織のインセンティブが働く組織構造をつくることの重要性を強調している。個別の成功事例から共通点を抽出する経営学者とは異なる経済学者らしいアプローチである。
詳細な議論は、以下のとおり。
かなり抽象的になるが、まずは、経済学者らしく経済学の概念からスタートする。企業組織は、経済学が市場分析の前提とする前提を満たさず、逆に以下の前提を満たすと言う。
◇ 選択変数間の補完性(Complementarity)
任意の対 をなす2つの選択変数について、その一方を(より多く)実行
することによ って他方を(より多く)実行することから生ずる収獲が増加
する場合、こ れらの変数は,補完的であると言う。
例えば、高品質であるという事実によって、需要が価格の昇に対し
て敏感に反応しなくなる」(つまり弾力的でなくなる)場合,製品の価格と
品質とは、補完的だと言う。補完性は、システム効果を生み出す。
全体は、部分の総和以上のものとなることを意味する。
実際、変数の間に補完性が存在する場合、任意の変散を1つだけ
変化させることによって、業績が悪化してしまう。これに対して、全て
の変数を同時に変化させることによって、業績が実質的に高まると
いうことが考えられる。
◇ 実行可能な選択集合の非凸性(Non-convexity)
選択集合の非凸性である。凸性の場合は、2つのオプションが存在し
ている場合、あらゆる中間的な選択が可能となることを意味するが、
実際の選択肢は2者択一であったりして、不可分となっており、実際
は非凸となる。たとえばある製品開発投資を10億円する選択Aがあり、
開発投資を全くしない戦略Bがあった場合、その間の2億円や5億円
が必ずしも実行可能でないことを意味する。その投資の機器が最低で
も3億円かかる場合、2億円の投資は実行可能ではない。
◇ 選択と業績の関係の非凹性(Non-concavity)
目的関数の非凹性であり,ある所与の環境における選択と業績の関係
を扱ったものである。凹性は、2つの選択水準によってそれぞれ同一の
業績水準がもたらされる場合に、これらの中間的な選択水準で選択を
行った場合の業績水準がつねに高位になるということを示すが、
非凹の場合、最適値が不連続に複数存在することを表す。
つまり組織は、規模に対する収穫逓増、学習効果、そして不可分性を
備えており、目的関数の凹性との間に不整合をきたす。
このような経済空間の中で、経営者は、目標を設定し、実施するアクティビティの範囲、競争優位の構造つまり、PARC(人々、アーキテクチュア、ルーティン、文化)の要素をを整合的に組み合わせ、
それを実現していかなければならない。そのためには、経営者はリーダシップを発揮して変化を生み出していく必要がある。
①戦略的認識:最も根本的な問題は、変化の必要性や機会を認識する
ことである。
②ビジョン策定:それは,大まかな輪郭だけでもよいからより優れたパター
ンを発見するのに必要とされる。
③コミュニケーション:変化を生み出すために従業員等に働きかける能力
が必要である。すなわち、,新しい仕方を説明するだけ
でなく、それを実現するためのプロセスにかんする説明
を行ことである。
④実現への努力:困難な目標の実現に向けて努力することに加えて、変化
そのものが容易ではな、く、業績が悪化してもあきらめな
い勇気が必要である。
特に組織デザインにおいて重要と思われる、①組織デザイン諸相の結びつき度合い、②モチベーションの仕組み、③階層について述べていく。
①結びつき度合い(タイト・カップリング(密結合)/
ルース・カップリング(疎結合)
経済活動を組織化する費用、すなわちコーディネーション費用やモチ
べ―ション費用が存在しており、こうした取引費用の節約という原理
によって組織パターンが決定される。特に、距離を置いた市場契約に
依存した取引をやめて、,それを企業内で組織化する方が低い費用で
実現できる場合、企業の内部組織に依存して取引を行う。
②モチベーション
モチベーション問題が生じるのは、諸個人の利己心に任せているだけ
では、組織が望むような方向へと導けないためである。
このような利害の衝突が生じるのは、個々のメンバーが組織内で自分
が選択する行動や意思決定にと もなう便益と費用にたいして、すべて
の責任を負うわけではないからである.。
経済学で、プリンシパル・エージエント問題といわれるものである。。
組織デザインの視点からすると,モチベーシヨン問題というのは、組織の利害とそのメンバーの利 害とを一致させることによって、メンバーが行う選択の整合性を高められるような組織-アーキテ クチャ、ルーティン、文化を形づくることにほかならない。
一般的には以下のことが言える。
努力度合いも増すごとに便益が大きくなる環境では、最適な努力水準も大きくなるので,インセンテイブが大きい制度がよい。つまり業績測定を正確かつ適時に把握困難なタスクについては、明示的な業績インセンティブを制度が望ましい。逆に業績測定が正確にまたタイムリーに行えないタスクについては、インセンティブが強い制度は望ましくない。この問題は、ある人や組織にマルチタスクの仕事をアサインする場合に重要となる。現在の業績を維持すると同時に,新規事業の開拓を使命とするケースでは、.前者の業績評価は,比較的明確であるが、後者の業績評価は明確でなく、向けられる努力の質に関する情報は,かなり把握しずらいばかりではなく成果がでるのに時間がかかってしまう。マルチタスクでそれぞれ期待する成果を出していかなければならない場合には、双方のタスクに注意を向けさせ、それぞれのタスクの努力水準を増やすことで得られる利得の大きさ を,均等化しなければならない。 マルチタスクが必要とされる場合には,双方のアクティビテ イにたいして,相対的に弱いインセンティブを提供するのがベストである。なぜならば、インセンティブを強くすると、個人にとっては、現在の業績を維持することに注力することが合理的となるからである。
③階層
現在のように環境変化が激しく、規模の経済が必ずしも求められない状況では、以下のことを重視した組織デザインが求められる。
◇戦略や企業政策を透明にする。
◇相対的に小規模の独立した組織ユニットとする。
◇組織ユニットのリーダに対して,オペレーションや戦略にかかわる
多くの権限を委譲するとともに結果に対する厳格な責任を負わせる。
◇ディレイヤリングのプロセス置いて,ヒエラルキーの階層の数を滅ら
していく
◇中央スタッフの職位数を減らしていく.。
◇全社的な業績に連動した報酬の増加と合わせて、組織ユニットと
個人の業績にたいして提供するインセンティブを強化する
◇経営者のトレーニングと開発に投入する資源を増やす.
◇ヒエラルキーのトップからロワーに至る全体的なコミュニケーション
というよりも、むしろマネジヤ]とスタッフとの間の水平的な結びつきや
コミュニケ」ションを促す。
◇適切な業績評価を促すとともに,組織ユニット間,ならびに上下間の
コミュニケーションを促進できるように情報システムを改善する.。
期待して読んだ割りには、論理の展開、結論とも注目に値するものは
なかった。分かりやすくしようとしたためか、モデルや数式を説明せす、
文書でだらだらと平凡な結論のみを書いているように見えるところが
かなりあった。平凡な結論でも経済学的なモデル分析から導出された
ものなら、その前提を変えたら結論はどうなるかと思考をめぐらすこと
ができるのだが。
企業組織を経済学的に分析することを整理するため、
別途「経済システムの比較制度分析」の読書ノートを作ることとしたい。
その論理過程が面白いと
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