デジタル時代の経済メカニズムを分析した「FREE(只、無料)」の英語版を読む。英語版のため少し時間がかかってしまった。著者は、「THE LONG TAIL」で有名な、CHRIS ANDERSONである。CHRISは前著で、今までの実際の小売店では在庫の制限などで売上の上位20%に当たる品目を揃え、その他(80%)の品目は軽視されることが多かった。しかし、インターネットの普及でオンライン小売店は在庫や物流にかかるコストが従来の小売店と比べて遥かに少ないのでこの軽視されていたその他(80%)の品目をビジネス上に組み込むことが可能になり、そこからの売り上げを集積することが可能となった。このことを「ロングテール効果」として、インターネット時代における新しい経済現象として分析した。今回は、一歩進め、現在のように財がデジタル化され、ネットでデリバリーされる経済で「FREE(只、無料)」がどのようなメカニズムを作り出しているのかを分析した本である。現象を捉えているだけでなく、経済のメカニズムを深く理解して、分析していることがよく分かる。
全体を貫く命題は、「希少な(SCARCE)財は価格が上昇し、余分(豊富)(ABUNDANT)な財は価格がゼロに近づく」ということであり、「インターネット上の情報、知識は、限界費用をほとんどかけずに複製・デリバリーが可能なので、ABUNDANTになり、価格がゼロになる」ということである。
ただしFREEだけでは、経済は成立しないので、FREEを活用した以下のようなビジネスモデルが
可能となると述べている。
1.「FREE」を活用したビジネスモデル
①DIRECT CROSS-SUBSIDIES(直接的な(販売者、購買者同一)
関連する派生財の販売
◇只にするもの:何か他のものを購入させたいと思わせるもの。
◆只にする相手:何か他のものを最終的に購入する人。
携帯電話の端末を只にして、通話料で回収するモデルが該当し、これ
を「FREE」とするかどうかは、それ単独のコストによって決まるのでは
なく、購買者に対する心理効果によって決定する。
<例>
・ハードを売るためソフトを無料(IBM、HPのLinux)
・ショ-を売るためドリンクを無料(カジノ等)
・一つ買えば、一つ無料(スーパマーケット)
・中に只の商品(お菓子に只の玩具人形)
・只でのトアイアル(雑誌購入の初期期間只)
②THE THREE-PARTY MARKET(消費者、広告社、販売者)
◇只にするもの:コンテンツやサービス、ソフトウエア等
◆只にする相手:上記を利用する全ての人。
広告モデルがこれに該当する。最終的には、消費者が、財購入時
にマーケッテイング費用(只の部分)を間接的に負担することとなる
が、財を売ろうとする企業、広告会社、消費者でそれぞれ取引を行う。
<例>
・聴衆のアクセスを得るための無料コンテンツ提供(広告メデイア)
・利用者への手数料なしのクレジットカード(取り扱い企業から徴収)
・文書リーダへは無料。文書ライタから徴収。(Adobe)
・物件リストは無料。成約時に徴収。(不動産販売)
・コンテンツは無料。アクセスした消費者に関する情報を優良販売。
③FREEMIUM (FREE 財 とPUREMIUM財との組み合わせ)
◇只にするもの:上級品等に対してプレミアム価格が払ってもらえる
基本品。
◆只にする相手:基本品を購入する人。
ソフトウエアなどの提供でよく行われるもので、FREE VERSION
は機能を限定し、プロ仕様(豊富な機能)の商品はプレミアム価格
を設定する。この言葉は、ベンチャキャピタリストのFred Wilson
がつけたもの。試供品モデルと似ているが、試供品と上級品を購入
する比率が逆である。デジタル財では、5%の人のみがプレミアム
価格を支払っている。FREE財の限界コストがほぼゼロに近いため
可能となる。
<例>
・一般的な経営アドバイスは無料。個別のアドバイスは優良。(マッキインゼイ)
・連邦税計算ソフトは無料。州税計算ソフトは優良。(Turbo Tax)
・一般のオンラインゲームは無料。それ以上の利用は優良。(Club Penguin)
・コンピュータ間通信は無料。携帯とコンピュータ通信は優良。(Skype)
・ある規模内の写真の共有は無料。一定以上は優良。(Flicker)
④NONMONETARY MARKETS (貨幣以外での報酬)
◇只にするもの:支払いを期待せず人々が与えることを選ぶもの。
◆只にする相手:全ての人。
Wikipediaに代表されるような活動、お金が目的に活動するのでは
なく、ATTTENTION(注目されること)とREPUTATION(よい評判を
得ること)を目的に活動する。
2.「FREE」のルール(Abundance シンキングの10の原理)
①デジタル財なら、遅かれ早かれ「只」になる。
競争市場では、価格は限界費用に近づく。インタネーット上の市場は
今まで世界が経験したこともない競争市場である。
処理、広帯域NW、ストレージの限界費用が限りなくゼロに近づくの
で、デジタル財の価格はゼロに近づく。只になることは選択の余地
はなく、不可避な現象である。Bitsは、只になりたがっている。
②ATOM財(物理的な財)も「只」になるかもしれないが、デジタル財
ほど性急ではないであろう。
エアラインから自動車産業まで、自分たちの産業の定義を拡張し
他の何かを売ることにより自分たちのコア製品を只で売る方法を
見つけようとしている。
③FREEとなる動きは止められない。
デジタル財の領域にぽいては、この動きは止められない。
止めるための唯一の方法は、secret code を埋め込むか、
恐ろしい警告を出すかだが、いつかは破られる。
④FREEからお金を作り出すことができる。
人々は、時間を節約するため、リスクを低減するため、ステイタス
のためにお金を支払う。お金を作り出す方法は無数にあるので
それを考えるべきである。FREEで新しい顧客に門戸を開き、
その顧客からお金をもらうことを考えるべきである。
⑤マーケットを再定義すべし。
エアラインは、自社の事業を旅行業と定義し、座席を易く販売し、
旅行にまつわる周辺(レンターカービジネス等)でお金をもうけ
ることを考えるべし。
⑥早く実行すべし。(round down)
只にするのは、するかどうかの問題ではなく、いつ実行するかの
問題である。それならば早く実行することを考えるべきである。
只にするために、今日何ができるかを考えるべし。
⑦遅かれ早かれFREEと競争することとなる。
あなたが有料としているものに対して誰かが只にできる方法
を考える。それに対抗するためにそれの価格は只にせざるを
得ず、他の何かを売ることを考えなければならない。
品質の差は、価格の差を克服できる。
⑧無駄を容認する。
ある商品の価格が、図るコストにくれば易い場合は、図ることは
やめたほうがよい。只にしてしまったほうがよい。
⑨只は、他のものの価値をより向上させる。
全ての豊富は、新しい希少性を作り出す。100年前は娯楽は
希少であり、時間が十分」あった。現在は逆である。
このようにある製品やサービスが只になると、価値は次のより
高い階層に移動する。
⑩希少性ではなく、豊富(abundance)に向けてマネジメントすべし。
リソースが希少のとき、それらは高い。それらを使うとき、失敗
しないように注意しなければならない。今までのトップダウンマネ
ジメントは、高い失敗を避けるためのマネジメントを行ってきた。
リソースが豊富な環境下では、同じマネジメントを行うべきでは
ない。ビジネス機能がデジタルになるので、失敗を恐れること
はあまり重要でなくなる。企業文化は、失敗をするな(DON’T
SCREW UP)から失敗する場合は早くせよ。(FAIL FAST)
へシフトすることもありえる。
考えがしっかりしているだけでなく、豊富な事例に基づいているため、
デジタル経済の特徴を理解するために大変有益な書籍である。
このような書籍が出てくる米国はやはりすごい感じがする。
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