個々人の動きが組織行動としてどうなるか、逆に組織は個々人の意識・行動をどう規定するのかに相変わらず関心を持っている。特にこの本には、組織が個人の意識をどう規定するのか、経済的な利得だけでなく、行動を動機つけまた行動の善悪を把握する個人の「意識」についての分析を期待した。社会学により「企業組織と個人」の分析を行っている書籍とも言える。
まずは、企業文化が個人の意識を一方的に規定する考えとして、1980年代にBEST SELLERとなった「セオリーZ」、「エクセレントカンパニー」、さらには「シンボリック・マネジャー」を取り上げる。共通する考えは、「共通の理念や価値観あるいは信念のもとに組織全体として統合されており、それによって従業員が全社的に結束し、優れた経営業績をあげている企業の話」である。
2000年ごろ、この本で取り上げられた「エクセレントカンパニー」でそのままエクセレントカンパニーで残っているところが少ないとの話があったが、企業文化が経営業績を規定するとの考えでエクセレントカンパニーを選定していたなら、十分ありえる話ではある。
1.組織文化と組織アイデンティティ
組織文化をエドガー・シャインは「組織文化とリーダシップ」の中で以下のように規定している。
[外的適応]①使命と戦略、②目標、③手段、④測定、⑤修正
[内的適応]①共通言語と概念カテゴリー、②集団境界と包摂、
排除の基準、③権力と地位、④親密さ・友情・愛
⑤賞罰、⑥イデオロギーと宗教
つまり組織文化は、一方では、組織の価値や目標や活動を明確に
定めることを通じて、その組織を取り巻く環境への外的機能を果た
し、他方では、その組織における成員たちを結束させ協働行為を
活性化する事を通じ、内的統合を図ることによって、組織の存在
(生成・維持・変容)を根本から基礎付けていく。
組織のユニークさを作り上げているのがこの組織文化(共有価値観、
共通言語)であるとの考えが主流であったが、これに対し、
「集団的なまとまりや集合的なアイデンティティの基礎となっている
のは、内集団と外集団とを区別する成員性の認知(自分が特定の
集団メンバーであって、他の集団メンバーではないという点に関する
自己認識)それ自体であって、その他の諸要因(共有価値・目標や
機能的な相互依存性や相互の魅力など)は本質的なところでは
大した意味を持たない。」というラディカルな主張が、社会心理学者
のヘンリー・タイフェルによってなされたとのこと。
この主張は、個人と組織をつなぐ大変面白い味方だと思う。
つまり、人々が価値を共有したり、相互に魅力を感じていなくても
、成員性の認知という条件さえ満たされていれば、集団が形成され、
またその反対に成員性の認知が存在しなければ、共有価値が相互
の魅力があったとしても、集団は形成されないことを言っている。
成員性の認知が集団存在の必要十分条件である。
さらに面白い実験結果が紹介されている。
以下の4つの実験条件が用意され、各条件で集団への同一視の
程度と生産性の関係を分析した。集団顕在性の条件として、集団
には特定の名前をつけ、制服を与えるということを行った。
以下の4つの実験条件で一番生産性があがったのはどこか。
①集団顕在性(高)×集団間競争(あり)
②集団顕在性(低)×集団間競争(あり)
③集団顕在性(低)×集団間競争(なし)
④集団顕在性(高)×集団間競争(なし)
集団への同一性意識も高く、生産性も高いのは、①の場合であり、
不思議なことに、集団への同一性意識と生産性がもっとも低かった
のは、④の場合のようです。集団間での競争関係が成立していない
ところでむやみに集団を強調すると、この強調が全く意味のないこと
ととられてしまい、そのためにかえって作業を行ううえでの士気の低下
が生じてしまったと解釈できる。
2.組織理論-効率性モデルVS環境・認知モデル
「組織は戦略に従う」という考え方は、チャンドラーが「経営戦略と組織」で提唱した考えであり、
原材料の調達と工業製品の販売機能を社内に取り込んでそれらを一貫しして行う垂直統合戦略に対しては、意思決定は中央集権で、その下に製造や販売の職能別に分かれた「集権的職能別組織」が採用され、事業分野を拡大していくことにより会社を成長させていく多角化戦略には、事業部制組織が採用されるという考え方です。例として、デュポン社を取り上げ、第一次大戦中に無煙火薬の生産と販売に集中して垂直統合方式によって事業を拡大したが、この組織で多角化を行ったところ大幅な赤字という事態を迎えた。それを克服するため1921年に分権的事業部制組織を採用し、この危機を乗り切った事例等を挙げている。大変分かりやすい理論であるが、これに対して「組織は勝者の世界観に従う」という説を展開したのが、「企業コントロールの転換」を著したフリグスタインである。国家による規制や企業の内部体制、業界等の企業間関係等に代表される制度的プレッシャーにより、その時代時代で、以下の観点・レンズをもつ人材が社内で影響力を持ち、その方向で組織を再編成するという考えだ。この本ではこの考え方を「組織は流行に従う」と書いている。
◇生産性の観点を重視する「製造によるコントロール」
◇新たな市場の開拓や製品の差別化を重視しする「販売とマー
ケッティングを通したコントロール」、
◇業内容よりも財務数値を重視した「財務によるコントロール」
3.各組織論を位置つける企業分析フレームワーク
文化や制度という視点から組織現象を理解しようとするときに、「組織(メゾ)⇒個人(ミクロ)」、「制度(マクロ)⇒組織(メゾ)という方向で作用する影響関係の内容と因果関係のメカニズムを明らかにしていく一方で、「個人(ミクロ)⇒組織(メゾ)」、「組織(メゾ)⇒制度(マクロ)という逆方向の影響関係の内容と因果関係のメカニズムを明らかにしていく必要がある。
この文化の枠組みや自分が置かれている社会的文脈からの影響度合いについて、影響をすごく受ける事を「社会化過剰」といい、影響を受けないきおとを「社会化過少」と定義している。
このようなフレームワークで、それぞれの組織論を整理すると以下のようになる。
◇企業文化論(「エクセレントカンパニ」等):社会化過剰の人間観
+社会化過少の組織観
個人は組織に強く影響されるが、組織は制度(環境)
にあまり影響されないとの考え。
◇効率性モデル(「組織は戦略に従う」等):社会化過少の組織観
+社会化過少の人間観
組織は、制度(環境)にあまり影響されず、個人も
組織にあまり影響されない。
◇組織アイデンティティ論(ヘンリー・タイフル):マクロ・メゾ・ミクロ関係
の解明
◇新制度派組織論(「企業コントロールの転換]等):社会化過剰の
組織観+社会化過剰の人間観
組織は、制度(環境)に強く影響され、個人も組織に
影響される。
新制度派組織論は、新しい視点を提供してこいたが、①制度の生成や変化についての分析
が甘い。②個人の認知プロセスについての理論化の不備、③組織や個人の利害関心と主体的な行為能力の欠如等の問題点を持っている。
4.複合戦略モデル
著者は、新制度派組織論の問題を解決するモデルとして「複合戦略モデル」を提唱する。「道具箱としての文化」「行為戦略」「制度固有のロジック」という3つのアイデアを織り込んだモデルとのことである。「道具としての文化」とは、人間が文化特定の要素を生活上の道具として能動的かつ主体的に選んで「使って」いくことの意味であるようで、また「行為戦略」とは、様々な文化的要素ののレパートリーの中から、現実の生活を送る上でもっとも役に立つと思われるものをとって行為を組織化することの意味のようである。「制度固有のロジック」とは家族制度、政治制度、国家制度、市場制度などそれぞれの社会領域に基本的な構成原理で、追求すべき目標、価値、評価の基準等のことを言っている。
著者は、この複合戦略モデルでは、制度的・文化的プレッシャーが、最終的な経営戦略に反映されるまでに間に、次の2つのプロセスが介在するという。
①制度的・文化的要請が個人ないし集団の行為戦略のフィルターを介して経営戦略案に選択的に取り込まれるプロセス。つまり個人・集団レベルにおける行為戦略と経営戦略案の間の複合性
②個人・集団レベルで構想された複数の経営戦略案が、組織内の政治プロセスを経て最終的な
経営戦略へと絞りこまれていくプロセス。つまり組織レベルにおける複数の経営戦略案の間の複合性。
複合戦略モデルが解決しようとした課題については、まさに同感であるが、解決のための具体的モデルがどうも十分でないように思う。十分でないというよりほとんど提示されていない。
いろんな組織論の背景および概念モデルについての情報を得るにはよい本であるが、複合戦略モデルの具体論がないので、貴重な時間を割いて読む必要はないかもしれない。
2010年1月6日水曜日
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