多く、具体的にどのように対応すればよいのかについて書かれた書籍は
少ない。これはIFRS対応が、情報システムにどのようなインパクトがある
かについて書かれた本であり、具体的かつ体系的で大変分かりやすい。
IFRSに対応していく企業の経理部や情報システム部の方には大変
役立つ本であると思う。
本の内容のポイントを以下に整理する。
1. タイミング
2015年3月末強制適用とすると2013年4月開始時点
の財政状態計算書に表示する開始残高の設定が課題
IFRSの財務諸表には必ず2期分を比較表示しなければ
ならない。
つまり2013年4月から2014年3月までの財務諸表
をIFRS方式で作成しなければならないということである。
以下に各サブシステムがどのような対応が必要になるか
整理していく。
2. 一般会計
(1) 名称変更
現在P/L、B/Sと言っているものが、以下のような名称変更に
なる。
B/S⇒SFP
P/L⇒SCI
財政状態計算書(SFP)(statement of financial position)
包括利益計算書(SCI)(statement of comprehensive income)
(2) 表示項目:以下のような変更が必要となる。
① 損益を継続事業と非継続事業(処分したか売却予定の事業)に分ける。
② 包括利益を示すために、「その他包括利益」というセクションの増加。
③ 費用の表示を費用機能法と費用性質法のいずれかで行う。
費用機能法で集計し、その内訳を費用性質法で表示。
費用機能法:売上・売上原価、製造・製造費用、販売・販売費、管理・管理費
費用性質法:製品および仕掛かり増減、人件費、減価償却費、
→勘定科目コードに影響
「財務諸表の表示に関する予備的見解」では
財政状態計算書と包括利益計算書は、キャッシュフロー計算書と同様に
「事業(営業と投資に分割)」、「財務」、「法人税」、「非継続事業」に分割して表示
(3) 会計情報データベース
複数帳簿対応が必要。
①IFRS基準:連結財務諸表
会社法、金融商品取引法、税法対応の個別財務諸表は、国内基準で作成
②会計上の変更および誤謬に関する会計基準
遡及処理が実行可能なもっとも古い決算期まで遡って開始残高を計算し、
その会計期間から再計算を行う。
③海外子会社は機能通過で取引計上し、決算日に表示通貨(連結決算書表示)
の対応が必要。取引明細レコードを保管。
(4) セグメント情報
① 従来の日本基準のセグメント:事業の種類別、所在地別、海外売上
② IFRSマネジメント・アプローチ:
3. 資金会計システム
2011に公表予定の「財務諸表の表示に関する予備的見解」では直接法のみ。
(1) 間接法:期首と期末の財政状態計算書の科目残高を比較してその差額から計算
(2) 直接法:仕訳の相手が現預金か否かで取引を分類。
キャッシュフロー計算書の分類で集計
① 顧客からの現金収入
② 商品のための現金支出
③ 販売活動のための現金支出
④ 投資に関する現金収支
⑤ 財務に関する現金収支
(3) システム対応の課題
① 複合仕訳 預金、手数料/売掛金
② 分類にあった勘定科目をインプット
③ 包括利益計算書の数値との関係を示した調整表の作成
→一般会計システムの勘定科目コードとは別に、キャッシュ・フロー計算書の
集計単位を示すキャッシュフロー科目コードを新規に設定し、仕訳データを
対応表を使ってキャッシュフロー計算書用データベースを更新する取引明細
レコードを作成する。
4. 販売管理システム
(1) 売上計上基準
① 計上するには、販売する物品の所有権と危険負担を企業が保有していること。
→百貨店の委託販売は売上として計上するのではなく、販売手数料として計上。
② 物品の所有権が完全に買い手に移転しなければならないこと。
→出荷基準ではなく、着荷基準か検収基準で売上計上
③ 収益の額とそれに対応するコストを信頼できる形で測定できること。
→信頼できる形で測定できないと工事進行基準での収益計上は認められない。
(2) 着荷基準への対応
① 原則法:「商品」→「移送品」→「売上原価」→「売掛金/売上」
② 簡便法:「出荷日+通常配送に必要な日数」で売り上げを計上しておき、決算時に
物品受領書と決算日近くの出荷済のものとつき合わせ、未着のものについて
修正仕訳を作成し、計上した売上と売掛金から減額
移送中の棚卸し在庫は、出荷時点で「移送品」扱いにして個別管理。
(3) ポイント制度
商品の販売時にポイントを顧客に与えた場合、将来無償で商品または特典を提供
することを約束したことになる。
① 売上金額の一部を「特典クレジット」として切り分け、将来、ポイントが使われた
時に計上する売り上げとして繰延処理する。
② ポイントの分を見積もりコストとして引き当てる。
(4) 棚卸資産の評価は原価か正味実現可能価額
個々の製品や商品別に正味実現可能価額と原価の比較を行う必要あり。
見積もり販売費用も個々の製品や商品別に計算。
予想売価は以下を含む。
① 販売コミッション
② ロイヤルティ
③ 販売直接経費(物流費)
④ 営業部門の販売間接費の配賦額
*正味実現可能価額=予想売価から販売に要する見積もり費用を差し引いた金額
5. 購買管理システム
「購入原価には購入代価に加えて輸入関税その他税金、運送、保管などその商品や原材料、役務の
調達に必要なコストを含める。値引き、リベート、その他これに類似するものは購入原価から削除する。」
→商品や原材料の単価に反映させる必要あり。
仕入諸掛を品目別に加算。配賦処理が必要。
仕入諸掛は購入品の納品伝票とは別々に計上されるので、仕入諸掛の机上伝票と購入品目を結びつける
ルールを確定する必要あり。
6. 債権・債務、有価証券、貸付金、借入金管理システム
①期日が1年以上の売掛債権や仕入債権については、計上金額を割り引いて金利分を別計上する。
②期日が1年以上の有価証券、貸付金、借入金等の金融商品で実際の入手金と決済の金額に差がある
場合は、償却原価法で金利を期間に配分する。
③ 為替予約については、現在の日本基準の振当処理という簡便法は認められず、決算期ごとに評価損益を
計上する。
7. 在庫管理システム
棚卸資産の価額は個別法、先入先出法、加重平均法のいずれかで計算した原価の金額と正味実現可能価額とを
比較し、いずれか低い方の金額を棚卸金額として決算に使用する。
評価減を計上して次期に棚卸資産を繰り越すとき、在庫金額は評価減前の金額に戻し、翌期初に反対仕訳を作成
する。そのため評価減前の棚卸金額と評価減後の棚卸金額(または評価減の金額)を在庫マスター上に保有する。
8. 原価計算システム
・加工品としての棚卸資産の原価を計算するときに、固定的な労務費と製造間接費を期間費用として処理する直接原価
計算は否定されている。IFRSでは、製品、仕掛品とみに材料費、直接労務費、変動製造間接費、固定製造間接費を
含んだ全部原価計算で棚卸資産の価額を求めなければならない。
・標準原価で計算した棚卸し資産価額を決算委使用している企業は見直しが必要。
・仕掛品の正味実現可能価額=製品の正味実現可能価額-完成までに要する見積原価
・包括利益計算書の費用性質法での表示に対応できるように、部門共通費や補助部門費の配賦は、費用機能法と
費用性質法での集計ができるようにしておく。
以上
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