まず、プロジェクトの定義からはじまっている。
プロジェクトマネジメントの知識体系(P2M)の定義によると、「プロジェクトとは、特定使命を受けて、初めと終わりのある特定期間に、資源、状況など特定の制約条件のもとで達成を目指す将来に向けた価値事業である。」とのことである。
経営改革から研究開発、新規事業さらにはシステム導入等企業には多数のプロジェクトが走っており、経営はプロジェクトの集まりともいえる。、
しかし、このプロジェクトが必ずしも成功するわけではなく、以下のような問題がよく発生する。
① プロジェクトをなぜやるのか目標がはっきりしない。
② 「手段」がプロジェクトの「目的」となってしまっている。
③ プロジェクトの最中に他の部署の協力が得られずチームワーク
ができない。
プロジェクトが失敗しだすと以下のような悪循環に入っていく。
プロジェクトの失敗を防ぐために管理を強化
⇒現場に詳細な進捗報告を要求。
⇒現場は報告作業が増えて、肝心のプロジェクト作業に手が
回らない。
⇒失敗プロジェクトが多発。
⇒現場にさらに詳細な進捗報告を要求。
⇒肝心のプロジェクトの手が回らなくなる。
この悪循環に陥らないようにプロジェクトをマネジメントしていくことが
求められる。
プロジェクトの成功の必要条件(必ずしも十分条件ではないが)は
納期であり、その納期にかかわるプロジェクトの余裕(サバ)のマネ
ジメントがポイントとなる。
(1)サバと責任感
責任が重い人ほど、信用が重要である。その信用を守るためは、
安全余裕、つまりサバが必要となってくる。以下の理由でサバを
取ることとなる。
・仕事の余裕がなくなる。
・万が一、問題があったら対応する余裕がない。
・余裕がないからほかのプロジェクトが窮地に陥ったときにも助
けられない。
しかしこのサバを各組織、各チームでとり始めると、サバはネズミ算式
に増えていくとなる。サバがあれば、余裕があると思い、当初はゆっくり
と始めてしまい、最後に切羽つまって初めて本気を出すということになり
がちである。さらにサバを持ったら使い切る。つまり
「与えられた予算と時間をあるだけ使ってしまう」というのが人間の性で
もある。しかし仕事のできる人はサバの使い方を知っている。
仕事のできる人は、
①厳しい納期要求により、
・ 部下は自己流のやり方では間に合わないと自覚している。
・ 部下をやり方を他の人から学ぶようになる。
②進行中にもサバを活用
・ 厳しい納期でサバがないので、作業中の小さな問題でも、それ
が大きな問題に発展する前に早めに報告を上司に上げるように
なる。
・ 早めの報告がきたら、上司はその問題の深刻さに合わせて、自
分の持っているサバの中で吸収するか、それとも自ら入り、部下
を助けるか判断し、部下を支援できる。
・ 部下がはやめ、はやめの報・連・相を実施し、上司は手遅れに
なるまえに手を打つ先手管理ができるので上司と部下の信頼関
係が」が増す。
を可能とする。これにより、
◆ 現場で起きる追加案件を早めに報告してもらうメカニズムが
働くようになり、
◆ 現場だけの個別最適の視点から、全体最適の視点でみんなで
意志決定するようになる。
という好循環に入る。
しかしこのサバつまりバッファーどこに持つのがよいのだろうか。
バッファーを個人で持てば個人プレイ、各作業チーム内で共有すれば、
各作業チーム内でのチームワークの源泉となる。そしてプロジェクト全
体で共有すれば、プロジェクト内でのチームワークの源泉となる。
従ってできるだけ、上位のマネジメント単位で持つのがよい。
それではさらにバッファーをどのくらいの量もつべきなのか
結論としては、各チームが個々のバッファを使い切る確率が50%なら、
それらのバッファーを集計したプロジェクト全体のバッファは、全体の
50%でよいので、集計したバッファーの半分をプロジェクトのバッファー
として持つのがよいとのこと。
(2)クリティカルチェーン
チームのバッファをなくして、チームがぎりぎりの納期を目標とした
全体のスケジュール(クリティカルチエーン)上で集中管理すると
ともに全体のバッファの消費量を管理すれば、的確な納期管理が
行える。
納期遅れの可能性が、実際に納期に遅れるはるか前にバッファの
消費量というアラートで示すことができる。
バッファの消費量によって納期遅れが実際に起こるはるか前に危険
予知が可能となり、先手管理の対策を打つことができる。
(3)「あと何日」の進捗管理
進捗管理は、今まで何をしたか、何を完了させたか管理するの
ではなく、「あと何日で終わるか」を管理したほうがよい。この方法
だと
・ 簡単で分かりやすい報告で作業担当者報告の負担が軽減される。
・ 何をしたかではなく、これから何をするか未来形で議論するので
作業担当者の納期に対する意識が向上する。
・ 予定までの進み具合が実感できるので、作業担当者の達成感が
高まる。
・ 作業が進むとともに完成までの見通しがきくようになり、納期を守
れる可能性があがる。
・ 作業進行中も常に見積もりを訓練することになり、作業担当者の
見積もり能力が上がる。
のような効果をあげることができる。
さらに付け加えると、「あと何日」と報告してもらうとともに「問題あると
したら何がある?」と聞くことも重要で、これによりリスクを事前に予測
することができる。
著者は」、マネジメントスタイルを、
横軸:監視・監督⇔コミュニケーション、
縦軸:やさしい⇔複雑
で象限わけをし、COMMAND&CONTROL :「監視・監督」が強く、
「複雑」が強い象限のマネジメントではなく、COMMUNICATION&
COLLABORATIONが今後ますます重要になってくるとのこと。
(4)ODSCで目標のすり合わせ
プロジェクト目標はメンバで議論し、共有化することが必要である。
そのときに以下のフレームワークで考えればよい。
①「O」Objective(目的)
②「D」deliverables(成果物)
③「SC」Success Criteria(成功基準)
「O」(目的)を議論することにより以下を実現できる。
・ それぞれ異なった思惑をもった関係者の間で、目的をするあ
わせし、共有できる。
・ いろんな意見が網羅的に出たかを確認するために、財務の
視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、成長と育成の視点、
経営理念、経営スローガンの視点でチエックすることも必要。
「D」(成果物)を議論することにより以下を実現できる。
・目的を議論したあとで、プロジェクトの成果物、つまりこの
プロジェクトで何を作るかを議論する。成果物が目的ではなく、
目的を達成する手段であることが分かる。
「SC」(成功基準)を議論することにより以下を実現できる。
・O(目的)で議論した項目の一つ一つを成功基準として明確
にする。測定できるものにすることが必要。
ODSCを以下のチエックリストでチエックし、より確かなものにする
ことが必要である。
・ 企業や組織の理念に合致しているか。
・ 経営目標やプロジェクトの本来の目標と合致したものであるか。
・ 参加メンバーが熱意をもってこのプロジェクトに参加し、そして
・メンバーが成長するために、積極的でありながら、達成可能な
内容となっているか。
・ 社会に貢献できる視点が入っているか。
(4)工程表を作成するための手順
プロジェクトを成功させるためには、目標を達成するために前もって
先手を打って準備することが必要である。そのためには、ODSCから
出発し、その直前にすることは何か、本当にそれだけでよいかを繰り
返し、プロジェクトの最初(スタート)の部分まで戻っていく手順がよい。
その後、プロジェクトの始まりから、先ほどとは逆方向に時系列の順
番で成果物をつくる観点から見直していく。
タスクは必ず「○○する」という動詞で表現しておく。
リスクの高いタスクは、前に押し出されてくる。リスクの大きい工程は
先に行う。そのタスクについうては、メンバーからまえもってこうしたほ
うがよいという意見も出てくる。
作成した工程表に人と期限を割り当てていく。これはプロジェクトの
最初の工程から行っていくのがよい。
(5)サバ取りを行う手順
まず、タスク工程表の一番長いチエーンをつなぎ合わせクリティカル
チェーンを作成する。このクリティカルチェーンを短くすることで工程
の納期が短縮されないか検討する。つまりクリティカルチェーン上の
各作業タスクにサバが潜んでいないかを検証していく。
ポイントは、クリティカルチェーン上の長いものつまり制約の大きいも
のから順番に、でみんなで短くする方法がないか議論する。
以下を実施していく。
① タスクそのものの期間を短縮する。
長いものから優先的に検討して行く。
② タスクを分ける。
長すぎるタスクは分解する。平行化できないか、短縮できないか、
事前に切り分けられるものはないか。
③ タスクをまとめる。
一緒にまとめたほうが質のよい仕事ができたり、効果が上がった
りすることもある。
④ タスクの順番を見直す。
順番を見直すことにより納期短縮に効果を発揮する。
その議論の中でタスクの優先、つまり段取りが極めて重要で
あることがメンバーに理解される。
サバを見つけるためには、各タスクでやれるかやれない五分五分の
期間を明確にしていく。これをサバを読まない期間として設定していく。
報告では、「あと何日かかる?」を明確化することを基本とし、同時に
「うまくいかない可能性があるとしたら何がある?」と失敗する可能性
のある懸念事項を必ず議論するようにする。
上記基づいた工程管理を行えば、プロジェクトでよく発生する以下の
問題を防げると説いている。
<プロジェクトでよく発生する問題>
・ 予算が足りない
・ 人が足りない
・ 客先やマネジメントの判断が遅れる
・ 情報がタイムリーに共有されない
・ 調達品の納期が遅れる
・ 要求がころころ変わる
・ 周囲が助けてくれない
・ マネジメントの助けが得られない
プロジェクトを成功させるためのノウハウとして分かりやすくよくまとまって
いる。経営改革プロジェクト、システム構築プロジェクト等それぞれプロジェクトの特徴に対応したノウハウは書かれていないが、共通事項として参考になるところが多い。
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