2010年1月11日月曜日

科学的管理法(新訳)-マネジメントの原点-

この本の前書きに書いてあるが、加護野教授や野中教授が、経営学の古典的名著を復刻させようとされており、その中の一冊として出版されたとのことである。テイラーの「科学的管理法」といえば、「動作・時間研究」で有名で、労働者を機械のようにもっとも効率的に働かせるのにはどうすればよいかについて書いた本というイメージがある。Gary Hameは、「The Future of Management 」で、今後の経営管理のあり方を書いたが、その中で、今日までの官僚型組織を中心とする効率中心の経営管理のパラダイムを克服すべきと書き、その起源をテイラーに求めている。Hamelは、テイラーの科学的管理法について、以下のように書いている。
ほとんどの歴史家が、フレデリック・ウインスロー・テイラーを近代経営管理の起源の近くに位置づけて、20世紀のもっとも影響力のあった経営管理のイノベ-タとみなしている。テイラーは、作業の構成に対する経験的なデ-タ主導のアプローチが、生産性の大幅な向上をもたらすと考えていた。
・・・・・経営管理は、「明確に定義された法則とルールと原理に依拠する真の科学」にできると、彼は信じていた。実際の話、テイラーがいかにも彼らしい秩序だった天界から、下界を見下ろして、彼の教えを広め続けているシックスシグマの実践者たちにやさしく微笑みかけるのが目に浮かぶようだ。・・・この生産性向上に伴って、官僚主義化も進行した。労働者を機械のように動かすというテイラ-の目標を達成するためには、標準化されたルーティン作業、厳密に記された職務マニュアル、トップから指示される目標、階層的な報告体系に支えれた官僚型組織を築く以外に方法はなかったのだ。
この中の、「労働者を機械のように動かす」、「トップから指示される目標」、「官僚型組織」のイメージが一般的である。しかし、実際にこの本を読んで、テイラーの科学的管理法がそうばかりでもないことを知った。まず初めに、テイラーは、マネジメントの目的を、雇用主に「限りない繁栄」もたらし、併せて働き手に「最大限の豊かさ」を届けることだと宣言している。働き手に配慮し、働き手からの提案を評価し、全社展開すべしとも言っており、働き手を機械のように捉えていた訳ではない。日本で一般的なQCサークルによる改善活動に近い考え方をしていた面があると思う。



1.科学的管理法の原則
今までのマネジメントは、一人一人の働き手が全力を尽くし、持てる 識や技能を総動員し、創意工夫や善意を十分に発揮するよう、お膳立てをするのがマネャーの仕事であった(これを「「自主性とインセンティブを柱としたマネジメント」と言っている。)。一方、科学的マネジメントは、 マネジャーが作業の中身まで深く踏み込み、これまで、現場の労働者に任せ切りにしてきた仕事の多くを、マネジャーが引き取り、自分たちでこなさなくてはいけないということである。マナジャーは、部下たちを助け導いていくほか、通例とは比べものにならないほど大きな結果責任を果たす必要がある。
このように、働き手とマネジャーが、定量的にPDCAを回しながら改善活動を行っていくという日本的経営と極めて近いことを100年も前に言っていたのには驚く。
本の中では、「銑鉄の運搬作業における取り組み」、「シャベルすくい作業研究」、「レンガ積における検証」「ベアリング用ボールの検品に対する考察」等事例研究が述べられている。
事例から共通に言えるのは、科学的手法の普及のためには、各働き手の判断に代えて、数多くの決まり、規則、定石などを設けなくてはならず、しかもそれらを体系的に記録していつでも参照できるようにすることである。さらに、一人ひとりが一日にどのような仕事をどれだけ なすべきかをマネジャーが十分に理解し、一人ひとり 人材を吟味、指導、育成していくことが必要である。

 
2.科学的な管理法の実践
  科学的な管理を実践していくためには、以下のステップが必要である。
  ①分析対象の作業に非常に長けた人材を、10人~15人程度選り抜く。
  ②各人が作業の中でどのような操作や動作をするか、基本的なものを
    押さえるとともに使用ツールについても把握する。
  ③各基本動作に要する時聞をストップウォッチで計測し、各動作もっと
   も短時間でこなすための方法を選ぶ。
  ④適切でない動作、時間がかかりすぎる動作などをすべて取りやめる。
  ⑤不必要な必要な動作を全て取り除いたあと、最も要領のよい、最適
   な動作だけをつなぎ合わせて、最善のツールを用意する。
  もっとも重要な法則は、「課題」を軸とした発想が働き手の効率に及ぼす影響だという。まねじゃーは、働き手は一定の課題を決まった時間内にこなすように指示をし、働き手はその指示(基準)に基づいて自分の一日の進捗を測り、目標を達成したかどうかを見る。
最後に、科学的管理法のポイントを以下のように列挙する。
 ◇経験則ではなく科学、
 ◇不協和音ではなく、調和、単独
 ◇独作業ではなく協力 
 ◇はどほどでよしとするのではなく、最大慢の出来高

3.テイラーの世界観
  テイラーは、この本の最後で以下のように書いている。「動作・時間」研究の背景にこのような世界観もっていたことが分かり、大変興味深い。
 一人ひとりの仕事の効率アップムと豊かさの追求字的管理法を幅広く採用すれば、モノ作りに携る人々の生産性はごく短期間に2倍に跳ね上がるだろう。それが国全体にとってどのような意味を持つか考えていただきたい。生活必需品と奢侈品がともに増えて国中に行き渡るほか、時短が望ましい場合にはそれが実現する可能性が生じ、教育、文化、娯楽などの機会が広がるのだ。

最近、会社の施策として「ソフトウエア開発力強化」に取り組もうとしており、その意味で、テイラーのこの本は、工場の現場を、ソフトウエア開発の現場と考えると大変身近なものと感じることができた。ソフトウエアの開発現場では、個々人の能力差が激しいこともあり、定量化がなかなかできておらず、施策の効果も定量的に捉えられていない。テイラーのいうところの現場マネジャーとして、メンバーを抽出しベンチマークを行っていく手法等踏み込んだ検討等、前向きに現場に入っていくマインドの準備できた感じがする。

      

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