2010年1月23日土曜日

現在思想の冒険者たち                  ハーバーマス-「コミュニケ-ション行為」の社会学者ー

第二次大戦後に活躍したドイツの哲学者であり社会学者であるハーバーマスの思想、人物について書かれた本である。現在思想の冒険者たちシリーズの一冊として出版されている。ハ-バーマスの思想の特徴は、社会を「コミュニケーション行為」という概念で分析し、強制や支配のないコミュニケーションによって生み出される合意こそが真に生産的な力であると主張する。彼によると、近代社会は、人間が初めて宗教や因習などの非理性的な力を脱し、民主的な原理が独り立ちした時代であるが、同時に新しい制度や広義のシステムの力も強大となり、計算・支配する思考、そこから生じる人間疎外も強固になっている。人間疎外を克服した新しい社会秩序を生み出すためは、相互の平等な対話によって支えられた合理性の実現(コミュニケーション的理性)が何よりも重要と説く。
私個人として、このインターネットの普及によるネットワーク社会を分析・理解できる思想を整理したいと思っており、現代社会を対象とした社会科学者であること、「コミュニケーション行為」という現在情報社会のキー概念を含んだ思想であること、双方の理由から関心をもって読んだ。現代情報社会は、18世紀、19世紀の時代と大きく異なり、その当時の社会思想で分析するには状況が大きく変わり過ぎたと感じている。たとえば経済学では、18世紀は、農作物を作る土地が希少財であり、これを中心とした分析・思考が、また19世紀は工業製品を作る工場設備が希少財でありこれを中心とした分析・思考が、テーマであった。現在社会の分析に農地の価格決定や分配の理論は、参考になることは合っても、問題意識としてはなじまない。


ハーバーマスのコミュニケーション行為論について、エッセンスを以下に整理する。
ハーバーマスは、資本主義と結びつく道具主義的ないしシステム的合理性が近代の特徴ではあるが、それだけでなく、生活世界の中には近代の成果としてコミュニケーション的理性も育っていることも認める。近代社会が生んだ病理現象たる「生活世界の植民地化」(生活世界も全てシステム的合理性に支配されてしまうこと)に対応するため、そのコミュニケーション的理性の力を支援すべしと説く。
ハーバーマスは全体社会を二つに分けて考える。一方では、文化的な意味や価値の再生産を務めとするコミュニケーション的合理性の領域があり、他方では、社会の物質的再生産に貢献するシステム合理性の領域があり、これは機能的なサブシステム(行政や経済)を基盤として、社会の「システム統合」を志向する。社会においてコンフリクトを避けるためには、人と人との間で「行為調整」を図る必要があるが、コミュニケーション的合理性の領域ではそれは言葉を介した了解・意思疎通によるのに対し、システム的合理性の領域では制御メデイア(権力やお金)がものを言う。
コミュニケ-ション行為は、以下の三つの点で、社会生活にとって不可欠な役割を果たす。
第一に、コミュニケーション行為は、了解を可能とすることにより、文化的伝統を受け継いだり更新したりする。第二に、コミュニケ-ション行為は、言葉による行為調整に従事し、人々の社会的連帯を作り出す。第三に、コミュニケーション行為は、個々の人間が社会の中で成長し、自分なりの人格同一性を達成するために、すなわち「社会化」のために、中心的な役割を演じる。
コミュニケーション行為の概念は、文化的再生産-社会統合ー生活世界-了解による行為調整という線に沿って有効なのであり、もう一方の、物質的再生産-システム統合ーサブシステム-制御メデイアによる行為調整という線に対しては、無力であるという。

その他、いろいろと参考になるところもあるが、社会学の本は読んでいるときには分かったような気持ちになるが、それを起点に論理を展開しよとすると役立たないことが多いので、これ以上の詳述は行わないとことする。社会学は理論ではなく、分類学なので、その思想の中では論理展開できるが、他の背景の中での展開は難しい。

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