2009年12月23日水曜日

「よかれ」の思い込みが、会社をダメにする。

「よかれ」と思って行った善意に満ちた行動が、かえって事態を悪化させてしまうことは少なくない。その理由が、他人のせいではなく、誤った「思い込み」のせいであることも多い。部分最適が必ずしも全体最適にならない事象を、制約理論(TOC)に基づいて分析した本である。著者は日本TOC推進協議会理事であり、ゴールドラット・コンサルテイングデイレクターであり、大変分かりやすく興味深い事例で説明している。
たとえば以下の事項は本当に正しいのかについて問題提起を行う。
 ① 「コストダウンすれば、利益が増える」
 ② 「大量生産すれば安くなる」
 ③  「大量購入すれば安くなる」
 ④ 「お客様に近ければ近いほど、市場が見える」
 ⑤ 「効率を上げれば、利益が増える」
 ⑥ 「納期にゆとりがあるほうが、納期は守れる。」
 ⑦ 「早く作り始めれば、早くものはできる」
 ⑧ 「全員が一生懸命働けば、効率が上がる」
 ⑨ 「お客様はコストダウンを求めている」
 これらについて、部分最適としては正しいが、全体としてみた場合は、ある前提が満たせされなければ、かえって悪化することを、因果関係チャートを用いて分析している。
 たとえば、①が成立するためには、以下の条件が成立する必要がある。
 ◆ 生産したのと同じ数量か、またはそれ以上に販売できる。
 ◆ 在庫ロスが起きない。
 しかし現実は、
 ◇ 生産した量ほど売れない。
 ◇ 過剰在庫として残ってしまう。
となってしまって、コストダウンしても、販売できずに在庫の山なってしまい、利益向上にはつながらないことが多い。



1.「コストダウンすれば利益が増える」という思い込み。
 まず、利益に影響する販売価格の分析からスタートする。
◇価格の下がらない商品はどんな商品か。
 <品不足、過剰在庫>と<売れ筋、売れない商品>で2×2マトリクスで整理した場合、
<過剰在庫>である場合には、価格が下がらざるを得ない。価格が下がらない製品は、品不足  に近い商品といえる。
売れない商品での過剰在庫は、小売店は在庫処分したいし、メーカも同様である。
これが特に深刻になるのは、新製品が発売されるときである。
 旧商品が、過剰在庫として店頭にあると、小売側は新製品を仕入れたくても、お店の棚は旧製品で埋め尽くされており、仕入れに必要となるキャッシュも眠っていることとなっている。このような状態では小売業は、メーカに旧商品の引取りを要求したり、旧商品を吐き出すための販売奨励金などの形で、利益の補填を要求する。それを拒否すると、次の商品を仕入れてもらえなくなるので、メーカはそれに応じるか、返品を受けるか検討せざるを得なくなる。メーカとしては、そのまま返品を受けるより、インセンティブを支払ってでも店に協力して売り切ってもらうほうが好ましいので、値下げせざるを得ない。
 これは利益損失につながる。品切れによる機会損失、過剰在庫による利益損失のせいで、小売業は、メーカに対してさらなるコストダウンを要求する。
 メーカは、多量生産のほうが生産コストは安くなるので、小売にもっとたくさん購入してもらうように要求する。このような交渉行うのはメーカの営業で、営業は売上で評価されるので、もっとたくさん買ってもらおうとする。小売はより安く購入するため、多量に仕入れることになる。このように、利益がでない悪循環のループが回り始める。
次に
◇「なぜ過剰在庫となるのか、なぜ作りすぎるのか」を分析する。
 答えは、需要の予測が外れるからであるとの結論を導く。
 需要の予測は、一般にはお客様に近いところのほうがより正確だと思われている。
 しかし、各店舗の売上の変動は大変大きく、かなりの数の店舗の売上をまとめて集約したほうがバラツキは小さくなる。つまり需要予測は、店頭でするより工場で実施したほうがブレが小さくなる。

◇「在庫はなぜ必要か。」を分析する。
 モノがないと売れないからある程度の在庫は必要だが、どれぐらい持つべきなのか。
在庫の量は、品切れを起こさないために、補充期間内の売れる見込みの最大数量に補充期間の不確実性を配慮した安全係数かけた量が必要である。もし補充期間が4週間ならきこの4週間で売れる数量の最大数をもつ必要があり、生産のトラブル、部材の納期遅れ、配送トラブルなどの要因を考慮して安全係数をかけておく必要がある。

◇「みんな一生懸命働、コスト削減の目標も達成している。でも結果として期待している利益がでない。これはなぜか。」
 生産ラインを想定し、Aは20個/日、Bは15個/日、Cは10個/日、Dは12個/日であるとき、このラインの生産性は、10個/日しかならない。Cがボトルネックとなっており、それ以上は、モノは作れないようになっているからだ。
C以外が頑張って生産性向上(たとえば20%)を行っても、Cの生産性が改善されないかぎりこのラインの生産性は10個/日のままである。みんなが一生懸命働くことが必ずしも全体最適ではないということだ。一方でボトルネックに集中すること、すなわち全体のたった一点に集中することが、全体最適の効果をもたらす。このボトルネックのことを「背「制約という。制約に集中することが全体最適になるというのが「TOC(Theory Of Contraints)」理論である。

2.「現場を効率化すれば儲かる」という思い込み
 納期を守るために、前もって少しだけゆとりをもって早めに投入して現場を改善したいと工場は考える。しかしここに落とし穴が待っている。早めに投入するということは、生産ラインにある時間が長くなるということ。それは言い換えると変化にさらされる時間が長くなることだ。つまり必然的に工程の組み替えが頻繁に発生するようになる。そうすると生産リードタイムが長くなり、さらに市場の変化にさらされる期間が長くなる。
 さらに早めにに投入すれば、生産現場の仕掛品の量も増えてしまう。
皮肉にも、納期を守ろうとゆとりをもって早めに投入することがかえって生産現場の仕掛品の滞留を長くし、リードタイムを長くしてしまう。それが上記ループを通じて結果的に納期遵守率を下げてしまう。
流れを滞留させ、リードタイムを長くする落とし穴として以下を挙げている。
 ① 生産効率の改善:まとめて(月、週)生産計画を立てていないか。
 ② 設備稼働の改善:段取り換えの手間削減のため、まとめてつくり過ぎていないか。
 ③ 納期遵守率の改善:納期を守るために念のために早めに投入していないか。
 ④ 生産目標の達成:不要なものをつくっていないか。
 ⑤ コストダウン:まとめて購入していないか。
 ⑥ アウトソース:遠くでつくっているせいで、輸送によりリードタイムが増えていないか。

3.「お客様はコストダウンを求めている」という思い込み
  お客様はもっと利益を出したいというのが本当の目的で、小売業なら、在庫回転率と欠品による機会ロスが、利益に大きく影響する。
 在庫回転率は(売上(原価)/棚卸し資産額)のことで、在庫回転率が倍になるなら粗利も倍になる。
 欠品で被る直接の被害は、売れるはずだった売上の機会損失である。これは、商品の売値と仕入れの差(スループット)と欠品の期間である。売れなかった損害の金銭的価値に遅れた日数をかけたものとして表すのが合理的で、これをスループット・ダラー・デイズという。

4.まとめ
 全体を従来のパラダイムとの比較でコンパクトにまとめている。
  (従来のパラダイム) ⇒(これからのパラダイム)
□ 予測は消費地近いときろで⇒予測はバラツキの少ないところで
□ フォーキャストを磨き上げる⇒全体リードタイムを短く予測期間
                   を短く
□ たくさんつくると安くなる⇒つくりすぎると儲からない
□ 生産改革        ⇒全体最適の生産改革
□ バイイングパワーによるコストダウン⇒オペレーション全体最適
                         の利益アップ
□ バッチ処理でコスト削減⇒流れ重視。必要なものだけ必要な
                 ときに
□ お客様はコストダウンを望んでいる⇒お客様は利益を増やすこと
                        を望んでいる
□ 勝ちの裏には負けがある⇒相手の勝ちも大きくして自分も勝ち
□ お客様は我々の言うことを聞かない⇒お客様は我々の解決策を
                        望んでいる
□ 工場はモノつくりの拠点⇒工場はサービスをつくる拠点
□ 部分効率を上げると全体の効率が上がる⇒全体最適のために
                            ボトネックに集中する
□ 全員参画の活動⇒ボトルネックに集中してみんなで助け合う
□ 変革には多くの時間と労力がかかる⇒変革は集中の力で短期に
                        実現できる
□ モノゴトは分解して分析することが大切⇒モノゴトはつなげるとロジ
                           カルにわかる

対象領域は、SCMだが、広く適用できる考え方である。

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