2009年12月21日月曜日

インタフェース革命(Best Face Foward)

 「インタフェース革命(Best Face Foward)」(2006)を読む。インタフェース革命といえば、人間がコンピュータを活用するときの操作方法(音声入力等)やバーチャルリアルティ等の人間へ情報提供する方法に関する技術革命の話かと一瞬思うが、この本は、ハーバードビジネススクールプレス」から出版されていることからわかるように、企業戦略としてのIT活用も含めた「顧客接点」、「顧客チャネル」について書かれた本である。
 製品やサービスはあっという間にコモデティ化し、競争が激化している。競争のあり方が「企業対企業」から「サプライチェーン対サプライチェーン」というように移行している。競争優位を獲得するためのフロンティアでは、特定の製品やサービスではなく、顧客インタラクション・顧客リレーションシップで競争するようになってきた。企業は他社に対して競争優位を生み出し、維持するためには、顧客や市場との間に設けるインターフェースを効果的(顧客インタラクションの質を高める)かつ効率的(インタラクション一件あたりのコストを抑える)にする必要がある。このインタフェースという構築物こそが、新たなフロントオフィス業務の生産革命の真髄であり、そこに潜在する可能性の部分を引き出すのはテクノロジーである。



 「インタラクション」とは、企業と関わるときに顧客が取る様々な行動をさす。顧客はインタラクションを取り続けるうちに、知識と感情の両面から企業への評価を形成する。この評価を元に作られるのが、「リレーションシップ」である。つまり、リレーションシップには、インタラクションが顧客の知覚や感覚にどのように訴えてきたのかが表れる。「インタラクション」と「リレーションシップ」の積み重ねによって「経験」が生まれ、それが顧客の将来の行動や態度のあり方に影響を及ぼす。
 19世紀の機械が工業製品とその生産プロセスに用いられたのに対し、今日の新型機械は、人間の交流プロセスのために導入されている。そこでは、現場でじかに顧客と接する多量の労働力(すなわち、人間、機械、プロセス、そしてシステム)を連携させる方法やマネジメント手法が求められる。テクノロジー主導による労働代替が新たな形で進められる(自動化)また、ネットワークの存在が業務の移転を促す(業務の海外移転や外部委託)。その結果、サービス・インタフェースを設置するコストが圧縮され、その質やパフォーマンスも向上する。フロントラインで、自動化テクノロジーの整備や、業務の大掛かりな自動化を行う場合には、IT以外の領域にも多くの経営資源を割り当てなければ成果は上がらない。ITによる生産性向上のためには、以下の無形資産が必要と言われている。
 ◇ 組織資本:新たな業務プロセスの構成、作業慣行、組織全体
         の構造
 ◇ 人的資本:対人能力、意思決定能力、管理能力を養うための
         従業員の教育・再教育
 MITのエリック・ブリニョルフソンの調査によると、成功を収めている企業は、ITに一ドル投資するごとに、IT関連の無形資産に九ドルもの投資を行っている計算になるという。
 技術の進展は早く、以下のようなトレンドは、顧客インタラクションに劇的なイノベーションをもたらす可能性を秘めている。
  ① スマートデバイスの急増
  ② その知性と双方向性の向上
  ③ デバイスが感情に訴える魅力の具備と
  ④ 接続性のユビキタス化により、無線も含めたデバイス
    同士の連結の実現
 フロントオフィスをリエンジニアリングするための構成要素であるインタフェースは以下のように分類できる。
 ① 人間特化型インタフェース
 ② 機械特化型インタフェース(ATM、ウエブ、自動販売機等)
 ③ 人間主導の混成型インタフェース(携帯端末の利用、営業員の
                           無線ヘッドホンの利用)
 ④ 機械主導の混成型インタフェース(テレビ放送、オンライン・チャ
                         ットによるヘルプ)
 優れたインターフェースには、外面的な印象や振る舞い、認知力(知性と双方向性)、情緒・思いやりそして社会的ネットワークと対人力が求められる。
 優れた顧客インタフェースの例として、裕福な企業のビジネストラベラーズに対してパーソナライズしたサービスを提供するリッツ・カールトンが上げられる。顧客データベースによって顧客理解を深め、上得意客の好みを把握し、将来的なニーズの予測も行った顧客サービスを提供している。
 人間インターフェースは「判断力、パターン認識、例外的な事態への対処、考察、創造性」について優れており、機械インターフェースは「データの収集、蓄積、送信、規則的な処理」において威力を発揮する。これらの特性を踏まえて、供給側(人間と機械の能力)と需要側(顧客の欲求)、また効率(サービスインタラクションを低コストで推進する)と効果(サービス・インタラクションによって、顧客の知覚価値を高める)を最適化する人間と機械の業務分担を決めていくことが求められる。
それらを組み合わせて、フロントオフィスのリエンジニアリングとして以下のアプローチが考えられる。
 ① 従来型アプローチ:フロントラインのサービスを人間によって
              提供する。
 ② 自動化型アプローチ:フロントラインでのサービスを機械によ
              って提供する。
 ③ 混成型アプローチ:フロントラインでのサービスを人間と機械の
               双方を利用して提供する。
 たいていの企業は、複数の層からなるインタフェースを持っており、それらの維持・管理を行い、コストの最小化と顧客満足の実現に努めなければならない。そのためには、インタフェース全体を
以下のような手順でデザインする必要がある。
 ①査定(Assessment):現在提供しているインタフェースやインタラ
              クションの全体の把握・評価を行う。
 ②目的(Aspiration):全体として望ましい顧客インタラクションを
             作り出すのに必要なインタフェースやイン
             タフェースシステムを検討する。
             インタフェース間の連携・整合性に留意。 
 ③連携(Alignment):再構築したインタフェース・システムをサポート
             するために、フロントオフィスの人間と機械の
             双方の活用方法を考える。
 ④明確化(Articulation):望ましいインタフェース・システム構築の実
               行計画を策定する。
 ⑤活性化(Activation):インタフェースシステムの発展の仕方を
               考える。インタフェース間のシナジー、
               顧客情報蓄積、ノウハウ蓄積、発展
               ループを考える。
 これらの取り組みの事例として、米国でNO1のテレビショッピング会社であるQVCを分析している。司会者のキャラクター、話し方、利用者の感想の出し方等かなりのノウハウであるようだが、特にシステムとしては、その時間の売上の最大化を図るため、一分ごとに顧客の反応(電話やインターネットからの注文数)を把握し、その分析結果を元に商品の紹介をあとどれくらい続けるかを判断できる仕掛けを作りこんでいるようだ。コールセンターによるサービスも、商品を余計に売って利益を伸ばすといったことではなく、相手と好ましいインタラクションをとるということに重点が置かれている。
 各インタフェースは、顧客の購入プロセスの状況にあった連携を行う必要がある。特に「顧客にストレスを与えるポイント」、「顧客の足を引っ張るポイント」、顧客を失うポイント」と考える部分をなくすようにすることが必要である。顧客に頻繁に利用されるインタフェースや、長時間続けて使われるインタフェースには、優先的に資源を投じて行かなければならない。また顧客の行動には決まった流れがありそれを抑えておくことも必要である。
 上記を実現するために、インタフェース・システムを以下の手順と観点で整理しておくべきである。
①顧客が利用するサービスインタフェースのリスト作成
  ・人間特化型、機械特化型、混成型全てを対象にする。
②インタフェースの中身の整理
  ・設置状況、業務プロセス、責任事業部門、意志決定権限者
③関連情報システムの整理
  ・顧客プロフィール、取引履歴等の顧客情報に関連する情報
   システムの調査と商品とサービスのオファリングに関係する
   情報システムについても調査を行う。
④インタフェース・システム内で連携しているインタフェースと情報
 ソースを明確化し、連携図を作成する。
⑤インタフェースシステムのスコアカード
 ◇効果:顧客インタラクション、リレーションシップに対する効果
   平均購入額、顧客定着率、新規顧客比率などを評価
  ・アクセスしやすさ
  ・簡潔さ
  ・美的価値
  ・パーソナライズ
  ・バランス
  ・快適さ
 ◇効率性:インタラクション、リレーションシップの効率的管理
   顧客インタラクション単位にかかる費用を明確化し、顧客層、
   利用目的別に分析する。
 ◇一貫性:ブランドとインタフェース、インタフェース間の一貫性
   情報や説明が全てのインタフェースで一貫し、ブランドや企
   業のイメージが全てのインタフェースで一貫しているかを
   見て行く。 
 ◇適応力:顧客ニーズの進展にあわせた適応力、発展性
   顧客やテクノロジーの動向をモニタリングして、イナタフェ
   ースシステムの機能を高められる可能性のある事象を
   常に探すようにする。
これらをまとめると、
まず、望ましい顧客インタラクションを実現するための「目標設定」を行う。次にその目標を達成するため、組織の能力を「連携」させる。そして、インタフェ-スを向上させ、システム化のための設計を推進し、システムの運営を「明確化」する。さらには従業員と顧客の双方を視野に入れながら、規模の大きくなった企業の「活性化」に努め、インタフェース・システムの効率性、効果、一貫性、適応力の最大化を実現していくことが必要と説く。
この本を読んで、顧客、従業員、システムをプロセスを軸に統合し、マネジメントしていくアプローチの必要性を再認識した。まさにサイモンの「人工物の科学」[The Sciences of the Artificial」のテーマである。以前「人工物の科学」を読んで大変感銘を受けたことを思い出した。手元には英語版しかないが、近日に読み直したいと思う。






 

0 件のコメント:

コメントを投稿