2009年12月23日水曜日

組織力を高める-最強の組織をどう作るか-

   会社で職位があがるにつれ、自分が個人として如何に成果をだしていくかよりも、自分の属する組織が如何に成果を出していくかに関心が移ってくる。組織で成果を出していく「組織力」の重要性に気づくと言ってもよい。この「組織力」について、体系的に分析し、組織力を上げるための処方箋を具体的に書いたのが「組織力を高める」-最強の組織をどう作るか-である。
 まず「組織力」とは「自らを変革し結果を出していく力」とし、以下のように定義する。
     「組織力」=「戦略能力」×「遂行能力」

 「戦略能力」:「シンプル」で「整合性」の取れたビジネスモデルを
         構築し、 組織と戦略ともに進化していく適応力。
 「遂行能力」:業務をやり遂げ改善していていく「完遂」する能力で
         あり、さらには継続的に結果を出し続けていくために,
                       人が育ち、組織の至るところで「期待を超える動きが
         沸き起こってくる能力。

 つまり、「組織力」は、「戦略能力」と「遂行能力」の掛け算であり、このどちらか一方でも欠ければ、高い「組織力」は望めないと言っている。また両方をつなぐのがマネジャーの役割とも言う。

 かっこよい戦略を作るが、成果を出せない組織(例:出井社長が率いたSONY)は、「戦略力」はよいが、遂行能力が弱かったと言えるだろうし、徹底して現場改善するが成果を出せない組織(例:中村社長が就任する前の松下)は、「遂行能力」よりも「戦略能力」に問題があったと言える。「組織力」を上げるためには、「戦略能力」と「遂行能力」それぞれを上げる必要があり、それらの施策については、後述していくが、「組織力」を低下させる要因についても以下に整理しておく。
 その要因は以下の4つの「減衰」である。
 ◆「情報の減衰」:本来伝えられるべき内容が抜け落ちたり、歪めら
           れたり、行間のニュアンスが消えて正しい情報が、
           有されない。その結果、組織がバラバラの方向
           を向いたり、やるべきことが行われなかったり、
           部門間の縦割り文化が生まれたりといった問題が
           発生する。
 ◆「力の減衰」:チームとしての力が発揮できない事を言う。
          マネジャーがチームの行動特性を理解せず、メン
          バー一人ひとりに的確な指示を与えず、さらにフォ
          ローが不十分な場合に発生する。
 ◆「フィードバックループの減衰」:何事につけフィードバックループなしで
          は物事は改善していかない。組織の中におけるフィ
          ードバックループはまさに日々のオペレーションを
          遂行し、その結果を評価し、更なる改善につなげて
          行くことに他ならない。この減衰が起きるのは、
          マネジャーが、メンバーに、当初の目標をきちんと
          理解させず、達成結果を振り返らせないことによる。
 ◆「顧客の声の減衰」:組織が大きくなると、階層構造、機能分化が
          進み、組織のメンバー全員が顧客と接するということ
          も難しくなり、組織内では部門間の調整ばかりに手間
          がかかってくるようになる。「顧客の声の減衰」と同時
          に組織と顧客の関係で、問題が発生してくる。
          それは外部の変化(顧客ニーズ)と組織の対応の間に、
          時間的なずれ、すなわち対応の遅れが生じてくる。
          「組織の時計」と「顧客の時計」でずれが生じてくる。
  これらの減衰のほとんどは、人のもつ特質や能力に根ざしたものであり、この減衰作用を抑え込む鍵もまた、人そしてマネジャーにある。
  以下具体的に、「遂行能力」、「戦略能力」を向上させる施策について見て行く。
1.「遂行能力」を向上させる。
 マネジャーが自らのチームを率い、その目標を「やり遂げる」ために不可欠なポイントは以下の五つに整理できる。
 ・ ワンランク上で考え、ワンランク下で手足を動かす。
 ・ 「聞く力」を鍛える。
 ・ 自分の力で伝えぬく。
 ・ 自らを厳しい環境に立たせる。コミットメントを持つ。
 ・ 「先を読む力」をつける。
 完遂するためには、以下のステップをきちんと踏むことが不可欠である。
  ① 目的を深く理解する。
  ② 確実に伝える。
  ③ 具体的な目標・活動に落とし込む。
  ④ 遂行させる。
  ⑤ 完了を見届ける。
 さらにメンバーは、以下の能力をつけることが求められる。
  ◆ 全体像を理解する力をつける。
  ◆ 報告力をつける。:何を伝えるべきか、相手は何を知りたがって
               いるのかを理解する。
  ◆ 交渉力をつける。:相手とよい関係を築き、それを長く続ける。」
 人を育てるためには、キャリア意識を育てることが必要。そのためには以下のステップでキャリアプランを作成する。
   ① 自分の興味や関心を客観的に整理する。
   ② 自分の価値観を認識する。
   ③ 将来の自分の姿を描く。(10年先)
   ④ 知識や体験などを棚卸し、あるべき姿と現在の自分の
     ギャップを明確化
   ⑤ シナリオを作成する。(複数、1年から数年単位)

3.戦略能力を向上させる。
 組織の「戦略能力」を高めるという観点から、マネジャーが持つべき能力のポイントは以下の2つに整理できる。
  ◇ 顧客ニ-ズと戦略を内包する「シンプル」で「整合性」のあるビジ
    ネスモデルを考え抜き、実施していこうとする意思を持つ。
    顧客のニーズや戦略(資源配分とその運用方針)、事業推進の
    ためのルールなど個々の要素がしっかりとした理屈で結びつき
    事業推進の力を組織に与えることが必要である。
  ◇ 常に顧客視点の考え方を忘れず、顧客と共有する「場」を全て
    の中心に据える。
    顧客と企業が共有する「場」にこそ、顧客の真のニーズや生の
    声、成長やブレイクスルーのためのヒントや答えがある。
    その「場」と組織全体がどれだけ密着できるかが、その企業の
    競争力を左右する。
 組織の課題を克服する対策をとる場合、以下を怠ると失敗する。
  ◇組織の「段階」を見誤る。
  ◇スピード感を見誤る。
  ◇打ち手の間に「整合性」をとらない。
 組織の「段階」にあった対策とは以下のことを言う。 
  ① 起業者段階:トップマネジメントとマネジャー間、マネジャーと
            メンバーの間で職務分担を明確化していく。
  ② 共同化段階:複雑になりがちな業務プロセスをできるだけ
            シンプルなものにしていく。
  ③ 公式化段階:意識的に組織内のコミュニケーションを行って
            いく。
  ④ 精巧化段階:官僚主義が行き過ぎてしまった場合は、大胆な
            再活性化のための破壊と創造が必要になる。 

「組織力」という抽象的なものを、「戦略能力」と「遂行能力」に分解し、それぞれの能力を向上させていく施策を、現場に分かるような形で整理できているという点で、この書籍は参考になる。

「よかれ」の思い込みが、会社をダメにする。

「よかれ」と思って行った善意に満ちた行動が、かえって事態を悪化させてしまうことは少なくない。その理由が、他人のせいではなく、誤った「思い込み」のせいであることも多い。部分最適が必ずしも全体最適にならない事象を、制約理論(TOC)に基づいて分析した本である。著者は日本TOC推進協議会理事であり、ゴールドラット・コンサルテイングデイレクターであり、大変分かりやすく興味深い事例で説明している。
たとえば以下の事項は本当に正しいのかについて問題提起を行う。
 ① 「コストダウンすれば、利益が増える」
 ② 「大量生産すれば安くなる」
 ③  「大量購入すれば安くなる」
 ④ 「お客様に近ければ近いほど、市場が見える」
 ⑤ 「効率を上げれば、利益が増える」
 ⑥ 「納期にゆとりがあるほうが、納期は守れる。」
 ⑦ 「早く作り始めれば、早くものはできる」
 ⑧ 「全員が一生懸命働けば、効率が上がる」
 ⑨ 「お客様はコストダウンを求めている」
 これらについて、部分最適としては正しいが、全体としてみた場合は、ある前提が満たせされなければ、かえって悪化することを、因果関係チャートを用いて分析している。
 たとえば、①が成立するためには、以下の条件が成立する必要がある。
 ◆ 生産したのと同じ数量か、またはそれ以上に販売できる。
 ◆ 在庫ロスが起きない。
 しかし現実は、
 ◇ 生産した量ほど売れない。
 ◇ 過剰在庫として残ってしまう。
となってしまって、コストダウンしても、販売できずに在庫の山なってしまい、利益向上にはつながらないことが多い。



1.「コストダウンすれば利益が増える」という思い込み。
 まず、利益に影響する販売価格の分析からスタートする。
◇価格の下がらない商品はどんな商品か。
 <品不足、過剰在庫>と<売れ筋、売れない商品>で2×2マトリクスで整理した場合、
<過剰在庫>である場合には、価格が下がらざるを得ない。価格が下がらない製品は、品不足  に近い商品といえる。
売れない商品での過剰在庫は、小売店は在庫処分したいし、メーカも同様である。
これが特に深刻になるのは、新製品が発売されるときである。
 旧商品が、過剰在庫として店頭にあると、小売側は新製品を仕入れたくても、お店の棚は旧製品で埋め尽くされており、仕入れに必要となるキャッシュも眠っていることとなっている。このような状態では小売業は、メーカに旧商品の引取りを要求したり、旧商品を吐き出すための販売奨励金などの形で、利益の補填を要求する。それを拒否すると、次の商品を仕入れてもらえなくなるので、メーカはそれに応じるか、返品を受けるか検討せざるを得なくなる。メーカとしては、そのまま返品を受けるより、インセンティブを支払ってでも店に協力して売り切ってもらうほうが好ましいので、値下げせざるを得ない。
 これは利益損失につながる。品切れによる機会損失、過剰在庫による利益損失のせいで、小売業は、メーカに対してさらなるコストダウンを要求する。
 メーカは、多量生産のほうが生産コストは安くなるので、小売にもっとたくさん購入してもらうように要求する。このような交渉行うのはメーカの営業で、営業は売上で評価されるので、もっとたくさん買ってもらおうとする。小売はより安く購入するため、多量に仕入れることになる。このように、利益がでない悪循環のループが回り始める。
次に
◇「なぜ過剰在庫となるのか、なぜ作りすぎるのか」を分析する。
 答えは、需要の予測が外れるからであるとの結論を導く。
 需要の予測は、一般にはお客様に近いところのほうがより正確だと思われている。
 しかし、各店舗の売上の変動は大変大きく、かなりの数の店舗の売上をまとめて集約したほうがバラツキは小さくなる。つまり需要予測は、店頭でするより工場で実施したほうがブレが小さくなる。

◇「在庫はなぜ必要か。」を分析する。
 モノがないと売れないからある程度の在庫は必要だが、どれぐらい持つべきなのか。
在庫の量は、品切れを起こさないために、補充期間内の売れる見込みの最大数量に補充期間の不確実性を配慮した安全係数かけた量が必要である。もし補充期間が4週間ならきこの4週間で売れる数量の最大数をもつ必要があり、生産のトラブル、部材の納期遅れ、配送トラブルなどの要因を考慮して安全係数をかけておく必要がある。

◇「みんな一生懸命働、コスト削減の目標も達成している。でも結果として期待している利益がでない。これはなぜか。」
 生産ラインを想定し、Aは20個/日、Bは15個/日、Cは10個/日、Dは12個/日であるとき、このラインの生産性は、10個/日しかならない。Cがボトルネックとなっており、それ以上は、モノは作れないようになっているからだ。
C以外が頑張って生産性向上(たとえば20%)を行っても、Cの生産性が改善されないかぎりこのラインの生産性は10個/日のままである。みんなが一生懸命働くことが必ずしも全体最適ではないということだ。一方でボトルネックに集中すること、すなわち全体のたった一点に集中することが、全体最適の効果をもたらす。このボトルネックのことを「背「制約という。制約に集中することが全体最適になるというのが「TOC(Theory Of Contraints)」理論である。

2.「現場を効率化すれば儲かる」という思い込み
 納期を守るために、前もって少しだけゆとりをもって早めに投入して現場を改善したいと工場は考える。しかしここに落とし穴が待っている。早めに投入するということは、生産ラインにある時間が長くなるということ。それは言い換えると変化にさらされる時間が長くなることだ。つまり必然的に工程の組み替えが頻繁に発生するようになる。そうすると生産リードタイムが長くなり、さらに市場の変化にさらされる期間が長くなる。
 さらに早めにに投入すれば、生産現場の仕掛品の量も増えてしまう。
皮肉にも、納期を守ろうとゆとりをもって早めに投入することがかえって生産現場の仕掛品の滞留を長くし、リードタイムを長くしてしまう。それが上記ループを通じて結果的に納期遵守率を下げてしまう。
流れを滞留させ、リードタイムを長くする落とし穴として以下を挙げている。
 ① 生産効率の改善:まとめて(月、週)生産計画を立てていないか。
 ② 設備稼働の改善:段取り換えの手間削減のため、まとめてつくり過ぎていないか。
 ③ 納期遵守率の改善:納期を守るために念のために早めに投入していないか。
 ④ 生産目標の達成:不要なものをつくっていないか。
 ⑤ コストダウン:まとめて購入していないか。
 ⑥ アウトソース:遠くでつくっているせいで、輸送によりリードタイムが増えていないか。

3.「お客様はコストダウンを求めている」という思い込み
  お客様はもっと利益を出したいというのが本当の目的で、小売業なら、在庫回転率と欠品による機会ロスが、利益に大きく影響する。
 在庫回転率は(売上(原価)/棚卸し資産額)のことで、在庫回転率が倍になるなら粗利も倍になる。
 欠品で被る直接の被害は、売れるはずだった売上の機会損失である。これは、商品の売値と仕入れの差(スループット)と欠品の期間である。売れなかった損害の金銭的価値に遅れた日数をかけたものとして表すのが合理的で、これをスループット・ダラー・デイズという。

4.まとめ
 全体を従来のパラダイムとの比較でコンパクトにまとめている。
  (従来のパラダイム) ⇒(これからのパラダイム)
□ 予測は消費地近いときろで⇒予測はバラツキの少ないところで
□ フォーキャストを磨き上げる⇒全体リードタイムを短く予測期間
                   を短く
□ たくさんつくると安くなる⇒つくりすぎると儲からない
□ 生産改革        ⇒全体最適の生産改革
□ バイイングパワーによるコストダウン⇒オペレーション全体最適
                         の利益アップ
□ バッチ処理でコスト削減⇒流れ重視。必要なものだけ必要な
                 ときに
□ お客様はコストダウンを望んでいる⇒お客様は利益を増やすこと
                        を望んでいる
□ 勝ちの裏には負けがある⇒相手の勝ちも大きくして自分も勝ち
□ お客様は我々の言うことを聞かない⇒お客様は我々の解決策を
                        望んでいる
□ 工場はモノつくりの拠点⇒工場はサービスをつくる拠点
□ 部分効率を上げると全体の効率が上がる⇒全体最適のために
                            ボトネックに集中する
□ 全員参画の活動⇒ボトルネックに集中してみんなで助け合う
□ 変革には多くの時間と労力がかかる⇒変革は集中の力で短期に
                        実現できる
□ モノゴトは分解して分析することが大切⇒モノゴトはつなげるとロジ
                           カルにわかる

対象領域は、SCMだが、広く適用できる考え方である。

2009年12月21日月曜日

インタフェース革命(Best Face Foward)

 「インタフェース革命(Best Face Foward)」(2006)を読む。インタフェース革命といえば、人間がコンピュータを活用するときの操作方法(音声入力等)やバーチャルリアルティ等の人間へ情報提供する方法に関する技術革命の話かと一瞬思うが、この本は、ハーバードビジネススクールプレス」から出版されていることからわかるように、企業戦略としてのIT活用も含めた「顧客接点」、「顧客チャネル」について書かれた本である。
 製品やサービスはあっという間にコモデティ化し、競争が激化している。競争のあり方が「企業対企業」から「サプライチェーン対サプライチェーン」というように移行している。競争優位を獲得するためのフロンティアでは、特定の製品やサービスではなく、顧客インタラクション・顧客リレーションシップで競争するようになってきた。企業は他社に対して競争優位を生み出し、維持するためには、顧客や市場との間に設けるインターフェースを効果的(顧客インタラクションの質を高める)かつ効率的(インタラクション一件あたりのコストを抑える)にする必要がある。このインタフェースという構築物こそが、新たなフロントオフィス業務の生産革命の真髄であり、そこに潜在する可能性の部分を引き出すのはテクノロジーである。



 「インタラクション」とは、企業と関わるときに顧客が取る様々な行動をさす。顧客はインタラクションを取り続けるうちに、知識と感情の両面から企業への評価を形成する。この評価を元に作られるのが、「リレーションシップ」である。つまり、リレーションシップには、インタラクションが顧客の知覚や感覚にどのように訴えてきたのかが表れる。「インタラクション」と「リレーションシップ」の積み重ねによって「経験」が生まれ、それが顧客の将来の行動や態度のあり方に影響を及ぼす。
 19世紀の機械が工業製品とその生産プロセスに用いられたのに対し、今日の新型機械は、人間の交流プロセスのために導入されている。そこでは、現場でじかに顧客と接する多量の労働力(すなわち、人間、機械、プロセス、そしてシステム)を連携させる方法やマネジメント手法が求められる。テクノロジー主導による労働代替が新たな形で進められる(自動化)また、ネットワークの存在が業務の移転を促す(業務の海外移転や外部委託)。その結果、サービス・インタフェースを設置するコストが圧縮され、その質やパフォーマンスも向上する。フロントラインで、自動化テクノロジーの整備や、業務の大掛かりな自動化を行う場合には、IT以外の領域にも多くの経営資源を割り当てなければ成果は上がらない。ITによる生産性向上のためには、以下の無形資産が必要と言われている。
 ◇ 組織資本:新たな業務プロセスの構成、作業慣行、組織全体
         の構造
 ◇ 人的資本:対人能力、意思決定能力、管理能力を養うための
         従業員の教育・再教育
 MITのエリック・ブリニョルフソンの調査によると、成功を収めている企業は、ITに一ドル投資するごとに、IT関連の無形資産に九ドルもの投資を行っている計算になるという。
 技術の進展は早く、以下のようなトレンドは、顧客インタラクションに劇的なイノベーションをもたらす可能性を秘めている。
  ① スマートデバイスの急増
  ② その知性と双方向性の向上
  ③ デバイスが感情に訴える魅力の具備と
  ④ 接続性のユビキタス化により、無線も含めたデバイス
    同士の連結の実現
 フロントオフィスをリエンジニアリングするための構成要素であるインタフェースは以下のように分類できる。
 ① 人間特化型インタフェース
 ② 機械特化型インタフェース(ATM、ウエブ、自動販売機等)
 ③ 人間主導の混成型インタフェース(携帯端末の利用、営業員の
                           無線ヘッドホンの利用)
 ④ 機械主導の混成型インタフェース(テレビ放送、オンライン・チャ
                         ットによるヘルプ)
 優れたインターフェースには、外面的な印象や振る舞い、認知力(知性と双方向性)、情緒・思いやりそして社会的ネットワークと対人力が求められる。
 優れた顧客インタフェースの例として、裕福な企業のビジネストラベラーズに対してパーソナライズしたサービスを提供するリッツ・カールトンが上げられる。顧客データベースによって顧客理解を深め、上得意客の好みを把握し、将来的なニーズの予測も行った顧客サービスを提供している。
 人間インターフェースは「判断力、パターン認識、例外的な事態への対処、考察、創造性」について優れており、機械インターフェースは「データの収集、蓄積、送信、規則的な処理」において威力を発揮する。これらの特性を踏まえて、供給側(人間と機械の能力)と需要側(顧客の欲求)、また効率(サービスインタラクションを低コストで推進する)と効果(サービス・インタラクションによって、顧客の知覚価値を高める)を最適化する人間と機械の業務分担を決めていくことが求められる。
それらを組み合わせて、フロントオフィスのリエンジニアリングとして以下のアプローチが考えられる。
 ① 従来型アプローチ:フロントラインのサービスを人間によって
              提供する。
 ② 自動化型アプローチ:フロントラインでのサービスを機械によ
              って提供する。
 ③ 混成型アプローチ:フロントラインでのサービスを人間と機械の
               双方を利用して提供する。
 たいていの企業は、複数の層からなるインタフェースを持っており、それらの維持・管理を行い、コストの最小化と顧客満足の実現に努めなければならない。そのためには、インタフェース全体を
以下のような手順でデザインする必要がある。
 ①査定(Assessment):現在提供しているインタフェースやインタラ
              クションの全体の把握・評価を行う。
 ②目的(Aspiration):全体として望ましい顧客インタラクションを
             作り出すのに必要なインタフェースやイン
             タフェースシステムを検討する。
             インタフェース間の連携・整合性に留意。 
 ③連携(Alignment):再構築したインタフェース・システムをサポート
             するために、フロントオフィスの人間と機械の
             双方の活用方法を考える。
 ④明確化(Articulation):望ましいインタフェース・システム構築の実
               行計画を策定する。
 ⑤活性化(Activation):インタフェースシステムの発展の仕方を
               考える。インタフェース間のシナジー、
               顧客情報蓄積、ノウハウ蓄積、発展
               ループを考える。
 これらの取り組みの事例として、米国でNO1のテレビショッピング会社であるQVCを分析している。司会者のキャラクター、話し方、利用者の感想の出し方等かなりのノウハウであるようだが、特にシステムとしては、その時間の売上の最大化を図るため、一分ごとに顧客の反応(電話やインターネットからの注文数)を把握し、その分析結果を元に商品の紹介をあとどれくらい続けるかを判断できる仕掛けを作りこんでいるようだ。コールセンターによるサービスも、商品を余計に売って利益を伸ばすといったことではなく、相手と好ましいインタラクションをとるということに重点が置かれている。
 各インタフェースは、顧客の購入プロセスの状況にあった連携を行う必要がある。特に「顧客にストレスを与えるポイント」、「顧客の足を引っ張るポイント」、顧客を失うポイント」と考える部分をなくすようにすることが必要である。顧客に頻繁に利用されるインタフェースや、長時間続けて使われるインタフェースには、優先的に資源を投じて行かなければならない。また顧客の行動には決まった流れがありそれを抑えておくことも必要である。
 上記を実現するために、インタフェース・システムを以下の手順と観点で整理しておくべきである。
①顧客が利用するサービスインタフェースのリスト作成
  ・人間特化型、機械特化型、混成型全てを対象にする。
②インタフェースの中身の整理
  ・設置状況、業務プロセス、責任事業部門、意志決定権限者
③関連情報システムの整理
  ・顧客プロフィール、取引履歴等の顧客情報に関連する情報
   システムの調査と商品とサービスのオファリングに関係する
   情報システムについても調査を行う。
④インタフェース・システム内で連携しているインタフェースと情報
 ソースを明確化し、連携図を作成する。
⑤インタフェースシステムのスコアカード
 ◇効果:顧客インタラクション、リレーションシップに対する効果
   平均購入額、顧客定着率、新規顧客比率などを評価
  ・アクセスしやすさ
  ・簡潔さ
  ・美的価値
  ・パーソナライズ
  ・バランス
  ・快適さ
 ◇効率性:インタラクション、リレーションシップの効率的管理
   顧客インタラクション単位にかかる費用を明確化し、顧客層、
   利用目的別に分析する。
 ◇一貫性:ブランドとインタフェース、インタフェース間の一貫性
   情報や説明が全てのインタフェースで一貫し、ブランドや企
   業のイメージが全てのインタフェースで一貫しているかを
   見て行く。 
 ◇適応力:顧客ニーズの進展にあわせた適応力、発展性
   顧客やテクノロジーの動向をモニタリングして、イナタフェ
   ースシステムの機能を高められる可能性のある事象を
   常に探すようにする。
これらをまとめると、
まず、望ましい顧客インタラクションを実現するための「目標設定」を行う。次にその目標を達成するため、組織の能力を「連携」させる。そして、インタフェ-スを向上させ、システム化のための設計を推進し、システムの運営を「明確化」する。さらには従業員と顧客の双方を視野に入れながら、規模の大きくなった企業の「活性化」に努め、インタフェース・システムの効率性、効果、一貫性、適応力の最大化を実現していくことが必要と説く。
この本を読んで、顧客、従業員、システムをプロセスを軸に統合し、マネジメントしていくアプローチの必要性を再認識した。まさにサイモンの「人工物の科学」[The Sciences of the Artificial」のテーマである。以前「人工物の科学」を読んで大変感銘を受けたことを思い出した。手元には英語版しかないが、近日に読み直したいと思う。






 

2009年12月13日日曜日

中国分裂7つの理由

中国がここ数年で、世界の経済、政治でプレゼンスを大きくしてきている。中国について少し知りたい思ったが、世界史で習ったレベルの知識しかなくまた最近の動きについて断片的なことしか知らない。広大な中国は、いろいろな民族の集まりであり、それぞれの地域で特性があり、将来的に分裂するという主張を展開しているのが「中国分裂7つの理由」(宮崎正弘)である。7つに分裂するかどうかは分からないが、中国という広大な国土を有する国家の複雑性を理解するには大変参考になる。ウイグル族の反乱、チベットの独立運動、内蒙古の民族自決、それに「経済圏」の分解で上海、福建、広東、香港、マカオも独立してゆく可能性がある説く。
 中国を正しく理解するためには、中国は近代政治学が定義する「国民国家」ではなく、古代王朝の延長線上にある「独裁王朝」であることを認識する必要がある。秦の始皇帝以来の漢、隋、唐、宋、元、明、清王朝と続いた支配機構が「共産党王朝」に変わったのだという。まがりなりにも一つの国家に見えるのは、軍事力という凄まじい力で強制的に束ねているためだ。さらにこの軍隊が国軍ではなく中国共産党に従属する私軍であり、外国と戦争をする目的よりも国内の反政府勢力をひねりつぶす弾圧装置の一環という性格が強いという。この軍事力が効かなくなると分裂して行くという論理である。また驚くことに、人口の高齢化、高学歴化、少子化の影響で2050年までに65歳以上の人口がが全人口の40%に達する見込みであり、中国の今後に少なからぬ影響を及ぼす。
地図なしでは、イメージがわかないので、地図は以下のリンクを参照。
中国の地図と経済圏

参考に詳細な中国の行政区画ごとの地図や情報は以下のへリンクを参照。
http://searchina.ne.jp/map/index.cgi?citylist=1


1.北京・天津経済圏
 北京は天津などの沿岸都市を飲み込んで「北京・天津経済圏」を形成し、この中には遼東半島の大連などを含み、河北省、河南省、山西省にまで及ぶ経済圏を想定する。天津には、トヨタの主力工場の一つがあり、今後製造業も発展する。温家宝は天津出身。

2.上海経済圏
 上海メガロポリスは、蘇州、杭州、無錫、南京までのセツ江省、江蘇省を中心に河西省、安微省から河北省までまたがり、そのすぐ南の福建省も上海経済圏が飲み込む勢いがあるようだ。金融、ハイテク、IT等は上海に集中しており、海外からの居住者も多い。ちなみに上海在住日本人は、5万人でニュヨ-クより多いそうだ。江沢民も上海市長を経験者であり、恩来はセツ江省出身である。

3.華南経済圏(広東、四川、福建)
 華南経済圏は、孫文を生んだ革命的志向が強く情熱的な人が多く、商売熱心の土地柄のようである。広東経済圏は、香港に隣接の深せん、東莞、珠海、中山、仏山、肇慶、恵州など広州が中枢となり、さらに湖南省などへまたがる。製造業の中心である。もともとが半中央、独立精神旺盛で広東省を中心とする経済圏単独で全中国の20%を稼ぎ出している。四川省が、重慶、雲南などを飲み込んで四川経済圏を作る可能性もある。さらには福建省が、対岸の台湾へ重点を移して華中の上海に対抗する独自の経済圏を作る可能性もある。ちなみに鄧小平は葉剣英に保護されて失脚の時代を広東で耐えたとのこと。また毛沢東は湖南省出身。

4.チベット居住権
 西暦七世紀から九世紀にかけて興隆を極め、763年には唐の都長安を軍事陥落させた。チベットが、後世のモンゴルのように漢族の中原を治めていればチベット王朝を構築できるほどの勢いがあったようだが、杜蕃王国が南北に分裂し、群雄割拠となったため、実現しなかった。1950年中国はチベットの併合を宣言し、軍隊による制圧を行った。チベットは、以下の目的で侵略された。
宗教の問題だけでなく、経済的な要因あることを知った。
 ① 膨大なレアメタルの資源確保。
   金銀銅はもとより、クローム、鉛、ウラン、鉄鉱石のほか石油鉱区もある。
 ② 宗教的な脅威。
   共産主義は、他の宗教を認めるわけにはいかない。
 ③ 水源の確保。
   黄河、長江の水源は、チベット高原。

5.ウイグル自治区
 ウイグル自治区は歴史的にも文化的にもウイグル人の土地であり、1944年から1949年までは「東トルキスタン」という独立国であった。民族的にはトルコ系であり大半がイスラム教徒である。1944年から1984年にかけて300万人の漢民族が移住し、現在は漢民族が多くなっているようだ。
6.東北三省(黒竜江、吉林、遼寧)
 清朝が統治していた期間は、この地は無人に近く漢民族の入植が禁止されていた。ところが日本が満州に進出して新国家建設が始まるやいなや、山東省を中心に年間100万人の漢族が移住し、革命後は満族が追い出され蒙古族も弾圧された。地理的に朝鮮族が多いこともあり、韓国等が輸出企業を積極的に立ち上げているようだ。基本的には、漢民族の中国とはかなり異なると思われる。

このように中国は、民族的にも宗教的にも多様であり、理解が難しいことがよく分かった。
中国人の思想を歴史的に分析し、分かりやすく書いた「これが中国人だ!―日本人が勘違いしている「中国人の思想」を読んだが、今思えば中国人の思想ではなく、漢民族の思想と理解したほうがよさそうだ。

2009年12月9日水曜日

デジタルビジネスデザイン戦略

デジタルビジネスデザイン戦略-最強の「バリュー・プロポジション」実現のために(スライウォツキー)を読み直す。この本は2000年に米国で出版された本で、ITを経営戦略にどう活かすかについいて体系的に書いた数少ない本である。スライォツキーは、「The Profit Zone」で有名で、「Industry Week」誌において、ポーター、ドラッカー等ビジネス戦略に関する世界六賢人に選ばれるほどの著名な経営戦略家である。利益を拡大するための経営戦略であるProfit ZoneをIT(デジタル)でどう実現するかを経営戦略家の視点で書いている。この10年で、ITは進歩し、IT活用領域も多様化したが、この本に書いている考え方は今でも十分通用するし、頭を整理するのに大変役立つ。

デジタルビジネスデザインは、以下のことを可能とする。その具体的事例としてデル、セメックス、チャールズ・シュワブ、シスコシステムズ、GE、IBMを取り上げ、分析している。
 ① 事業の意思決定の根拠を「予測」から「認識」へ
 ② 顧客に対するバリュー・プロポジションを(大小の)「不適合」から
  「最適」へ
 ③ 社内の情報の流れを「ラグタイム(遅延)」から「リアルタイム
   (同時)」へ
 ④ 顧客サービスのモデルを、「供給者によるサービス」から
  「顧客のセルフサービス」へ
 ⑤ 従業員の時間の使い方を「付加価値の低い仕事」から「能力の
   最大活用」へ
 ⑥ さまざまなプロセスの重点を「ミスの処理」から「ミスの予防」へ
 ⑦ 生産性の成長パターンを「10%増のノルマ」から「生産性10倍
   増」へ
 ⑧ 組織を、「独立したバラバラな活動の寄せ集め」から、情報、
   考え方、解決法を共有する「統合されたシステム」へ

以下に内容の要約を書いていく。
デジタルビジネスデザイン(DBD)を以下のように定義している。
デジタル技術を用いて企業の戦略の選択肢を拡大させるある種のアートでありサイエンスである。デジタル技術を用いて、顧客の要求を満たしたり、ユニークなバリュー・プロポジションを生み出したり、人材を活用したり、生産性を抜本的に向上させたり、利益を拡大させることを目指す。優位を作り出すだけでなく「ユニーク」なビジネス・モデルをつくり上げることでもある。
ビジネスデザインは以下の八つの主要次元で行う必要があり、デジタル化によりそれらの諸元の中身をどう変革できるかがポイントである。
 ① 顧客選択 :どういった顧客を対象にサービスを提供すべきか。
 ② 顧客に対するユニークなバリュー・プロポジション
   ・なぜ顧客は自社の製品を買ってくれるのか。
 ③ 社員に対するユニークなバリュー・プロポジション
   ・なぜ彼らは自社で働いているのか。
 ④ 価値の獲得/利益モデル
   ・どのようにして収益を上げるのか。
 ⑤ 戦略的コントロール/差別化
   ・どのようにして利益と顧客関係を守るのか。
 ⑥ 事業領域
   ・付加価値をつけるために何をすべきか。
 ⑦ 組織のシステム
   ・どのような組織の構造と企業文化を作り出すか。
 ⑧ ビット・エンジン
   ・システム内の情報をどう管理し、配布するか。
デジタルビジネスデザインは、それぞれの諸元以下を可能とする。
 ① 新たな顧客創出
  地理的に離れた、あるいは、これまでとは規模もタイプも異な
  る新たな顧客に訴求することを可能とする。
 ② 顧客に対する新たなバリュー・プロポジション
  より効率的な市場を新たに生み出したり、より広い製品やサー
  ビスを提供したり、顧客の問題を解決する際の精度やタイミン
  グを向上させることを可能とする。
 ③ 社員に対する新たなバリュー・プロポジション
  社員が行わなければならない低価値な仕事の量を減らし、
  創造的な問題解決、関係の構築、自分の技能や知識の向上
  に専念することを可能とする。
 ④ 新たな利益モデル
  新しい収入や収益性の源泉を生み出す。
 ⑤ 新たな形の戦略的コントロール
  顧客と供給者のネットワークの構築を促進し、関係を幅広く奥深い
  ものにし、顧客を引き付け保持するのに役立つ規模の経済、事業
  領域、反復」を新たに生み出す。
 インターネットの普及で、顧客は自分たちが求めるものを正確に伝えられるようになり、供給者は求められる製品やサービスを不適合や遅延なく提供できるようになる。
 この移行を引き起こしているイノベーションが「チョイスボード」であり、デジタルビジネスデザインのキーアプリケーションの一つである。「チョイスボード」は、個々の顧客が、特性、構成要素、価格、受け渡し方法などをメニューから選び、自分の購入するサービスをデザインできる双方向型オンラインシステムで、顧客の選択は供給者の製造システムに送られ、部品調達、組み立て、出荷という活動が開始されるようなシステムの総称である。
この「チョイスボード」を活用することにより、販売をダイレクト化するだけでなく、以下のビジネス効果が期待できる。
 ① 顧客のセルフセグメンテーションを可能とする。
 ② アップセル(上位製品の販売)、クロスセル(関連商品の販売)、
   リピートビジネス(反復取引)を促す。
 ③ 実際の顧客需要についてタイムリーで正確なデータが自動で
   入手できる。
 ④ 顧客の価値を犠牲にせず、メーカやサプライヤーのコストを削減
  する。
 デジタルビジネスデザイン成功例で特に参考になるものを、5つの諸元で整理しながら見て行くこととする。
(1) デルコンピュータ
  デルコンピュータは、エンドユーザの要求におうじてデザイン、カスタマイズされたPCを直販するメーカ(ダイレクトモデル)である。世界発のチョイスボードの一つである「オンライン・コンフィギュレータ」の果たす役割は大きい。このオンライン・コンフィギュレータに以下のメリットをもたらす。
 ① 顧客
  ・カスタマイゼーション:自分にあった組み合わせを選択できる。
  ・迅速なフィードバック:それぞれの選択に関する正確な費用が
   即座に分かる。
 ②自社への直接的な効果
  ・ 完璧な正確さと速度:注文の処理に遅延がなく、ミスや誤情報が
   生じる余地がない。
  ・ 売上の増加:付属品やオプションを購入しやすくなる。
  ・ 顧客情報の獲得:顧客の嗜好や購買履歴を瞬時に記録でき、
   購買パターンをリアルタイムに把握できる。 
デルはフロントだけでなく、全体として以下の特徴を持つシステムを
構築している。
  ・ 部品の徹底的な削減
  ・ 情報のデジタル化
   注文の詳細と仕様はすべてオンラインでデジタル化
   ・デジタル化された供給ネットワーク
   小規模サプライヤーとネットワーク化し、変化する注文パターンや
   部品のニーズに関するあらゆる情報を常に共有。
  ・ プロセスの簡素化:パソコン組み立て工程を半分にした。
デジタルビジネスデザインの8つの諸元でデジタル化によって実現できるものを以下のように整理できる。
 ① 顧客選択 
  得になしとなっているが、インターネット活用したダイレクト販売に
  より顧客が大幅に増加したと思われるが。
 ② 顧客に対するユニークなバリュー・プロポジション
  ・ チョイスボード/カスタマイゼーション
  ・ 使用法に関する情報提供
  ・ 迅速性、柔軟性、適正価格
  ・ セルフサービス(注文状況の確認、デザイン)
 ③ 社員に対するユニークなバリュー・プロポジション
  ・ デジタル化された教育
  ・ ボタン操作による容易な情報入手
 ④ 価値の獲得/利益モデル
  ・ 値下げは行わない
  ・ クロスセル、アップセル
  ・ デジタル化による生産性
 ⑤ 戦略的コントロール/差別化
  ・ チョイスボードの進化
  ・ 供給ネットワークにおけるコストと応答力の優位性
  ・ リアルタイムな市場の把握
 ⑥ 事業領域
  ・ オンラインストア「ギガバイズ」での周辺装置やオプションの
   販売
 ⑦ ビット・エンジン
  ・ チョイスボードによる注文システム
  ・ 顧客やサプライチェーンとの電子的なつながり。
(2)セメックス
 セメックスは、メキシコを本拠として、現在30カ国でセメントを製造販売している売上48億ドルを超える世界第三位のセメント製造会社である。セメント業界のお客は、住宅やオフィス、道路を構築するお客は建設業者であり、注文の変更が頻繁であったり、指定された納品時間への要求が強かったりで、大変難しい。セメックスは、建設現場からの需要、運搬ルート、生産状況等を統合的に管理し、リアルタイムに予測、計画、観測、反応、調整ができるデジタルシステムを開発した。
 ① 顧客選択 
   得になし。
 ② 顧客に対するユニークなバリュー・プロポジション
  ・ 信頼できる定刻の納入
  ・ 急な注文にも対応
 ③ 社員に対するユニークなバリュー・プロポジション
  ・ 24時間ごとに配信される的確な情報
 ④ 価値の獲得/利益モデル
  ・ 最小限のコスト、最小限の在庫
 ⑤ 戦略的コントロール/差別化
  ・ ユニークなシステム
  ・ 地域の需要パターンのユニークな認識
 ⑥ 事業領域
  ・ 信頼性と効率性を保証する物流管理
  ・ 高度に情報化されたビット工場
 ⑦ ビット・エンジン
  ・ ネットワークと連結すたGPS搭載のトラックによる最適化
   された配送システム
(3)チャールズ・シュワブ
  シャウブは、証券会社でありハイブリッドなチャネルで顧客からの注文を受けつけている。取引の54%がオンラインで、15%は電話、5%は支店、残りの20数%がファイナンシャルプランナーによるものとなっている。シャウブは、投資プロセスのあらゆる段階で投資家を支援する多様な情報やツールを「マイシャウブ」というサービスで提供している。
 ① 顧客選択 :得になし。
 ② 顧客に対するユニークなバリュー・プロポジション
  ・ チャネルの選択
  ・ 投資判断に必要な情報ツールの提供
 ③ 社員に対するユニークなバリュー・プロポジション
  ・ ラーニング、イントラネット
 ④ 価値の獲得/利益モデル
  ・ 生産性の急激な向上
 ⑤ 戦略的コントロール/差別化
  ・ オフラインとオンライン双方における協力で信頼されるブランド
  ・ 強力な支店の存在、強力なオンラインの存在
 ⑥ 事業領域
  ・ハイブリッドモデル(支店、電話、郵便、オンライン)
 ⑦ ビット・エンジン
  ・ あらゆるサービス段階おける、統合されたリアルタイムの口座
   情報
  ・ チョイスボード
  ・ オンライン取引
  ・ 比較分析ツール
(4)シスコシステムズ
  シスコシステムズは、ルータ等の通信機器を製造販売する企業で1985年にスタンフォード大学の大学院生によって設立され、年間40%の成長を達成してきている企業である。シスコは、顧客や取引先とイントラネットを介して情報を共有する仕掛けを構築した。
 ①顧客選択 
  得になし。
 ②顧客に対するユニークなバリュー・プロポジション
  ・ コンフィギュレータで可能となったシステム
 ③ 社員に対するユニークなバリュー・プロポジション
  ・ オンラインによる顧客サービス
   (付加価値のある仕事の時間を生み出す)
  ・ デジタル化された人材採用
  ・ デジタル化された教育
  ・ リアルタイムな情報の利用
 ④ 価値の獲得/利益モデル
  ・競合企業に対する生産性の優位
 ⑤ 戦略的コントロール/差別化
  特になし。
 ⑥ 事業領域
  ・社内のナレッジマネジメント
 ⑦ ビット・エンジン
  ・チョイスボード
  ・社内ERP(オラクル
  ・顧客およびサプライチェーンとの電子的つながり
  ・ ソフトウエア配布のデジタル化
  ・ 遠隔診断
  ・ よくある質問のデータベース

ITを経営戦略に活用するということで5つの諸元等体系的に整理できているが、実際のお客様でのプロジェクトでは、経営戦略とITの間がうまく連結できないことが多い。経営戦略で他社と差別化する領域は経営戦略から導出するが、その領域でどのようにITを活用するかを検討するにはその領域でもっともわずらわしい仕事をどうIT化するかを考えたほうが生産的かもしれない。そのIT化のキラーアプリケーションは、以下のものが有力である。 
◆「チョイスボードの活用」
  ⇒{ダイレクトチャネル、ハイブリッドチャネル}        
◆「取引先等のNW化による活動の同期化」
  ⇒{スループットバリューチェ-ン、グローバルサプライチェーン}
◆「取引に付随して自然に蓄積される情報の活用」
  ⇒{ビジネスインテリジエンス、FAQナレッジ}

  

2009年12月6日日曜日

組織は合理的に失敗する。

 『組織は合理的に失敗する。』-日本陸軍に学ぶ不条理のメカニズム-
を読む。
限定合理的な個々人が利己的に行動すると、組織としては(不合理的な行動となり)失敗するということを、経済学の新しい組織論のエッセンスを活用し述べた書籍である。
経済学の新しい組織論である
 ①取引コスト論
 ②プリンシパル・エージエンシー理論
 ③所有権理論
を活用し、
 ◆日本陸軍のガダルカナル作戦の失敗、
 ◆インパール作戦の失敗、
 ◆今村均のジャワ軍政の成功
を分析している。
経済学の理論の結論のみを、無理やり当てはめている感じもしないわけではないが、理論的に組織を分析する方法を分かりやすく整理している。
それぞれの理論の内容は、「Firms、Contracts、and Financial Structure」(HART)に詳しいが、この領域での理論は、この領域で貢献したOliver Williamsonが受賞したことからもわかるように、現在でもホットな領域である。


以下にこの書籍に内容を要約する。
1.組織の新しい考え方
 (1)取引コストアプローチ
  すべての人間は限定合理的であり、相手の不備に付け込んで悪徳的に自己的利益を追求する機会主義的傾向がある。これを防ぐために弁護士などを介在させ、契約を締結しそいて契約締結後も契約履行を監視する必要がある。このように取引が完了するまでに様々なコストがかかる。これを「取引コスト」という。資源をできるだけ効率的に利用するため、「取引コスト」を節約し、悪しき機会主義的行動の出現を抑止する何らかのルール、法律、慣習などの制度を作り出すこととなる。最終的には駆け引きのない知り合い同士だけで取引される制度が形成される。この制度の一つの型が組織である。
 たとえば組み立てメーカと部品メーカとにおいて、相互に取引状況が不確実で相手の行動をよく理解できず、しかも相互に依存するような特殊資産を保有している場合がある。、互いに駆け引きが起こり、最悪の場合は取引が決裂することもある。この場合、この2社間では、取引コストがあまりにも高い。その取引コストを節約するために組み立てメーカと部品供給メーカが垂直的に統合することが合理的となる。このように市場取引では、取引コストがあまりにも高いので、取引コストを
削減するため、取引を組織内化する考えを「取引コストアプローチ」という。
(2)エージェンシーアプローチ
 すべての人間関係を、依頼人であるプリンシパルと代理人であるエージエントからなるエージエンシー関係、代理人関係として分析する。このようなエージエンシー関係では、プリンシパルとエージエントはお互い効用を最大化しようとするが、両者の利害は必ずしも一致しない。もっている情報も異なっている(情報の非対称性)ことが前提とされることが多い。
 エージエントは、プリンシパルとの契約を破り、隠れて手を抜き、サボるというモラルハザードもおこす。よきエージエントが、事前に隠れた情報をもつ悪いエージエントに駆逐されるアドバースセレクション現象も発生する。この非効率を反映して発生するコストがエージエンシーコストである。
 このようなエージエンシーコストを削減するため、エージエントの非倫理的で非効率的な行動を抑止する様々な規制、ルール、そして組織制度が形成される。このようにプリンシパル-エージエントの情報非対象性、利益不一致(相反)を分析するのが、エージエンシーアプローチである。
(3)所有権アプローチ
 財の所有関係の不明確さがもたらす資源の非効率的な利用を解決する方法として様々な制度や組織が検討される。分かりやすいところでは、公害等の外部不経済がある。
 人間は限定合理的なので、財の持つ多様な特質を認識できず、その特質をめぐる所有権をだれかに明確に帰属させることもできない。個人ではなく、組織や集団に帰属させることにより解決する
ことを考える。例えば、個々人が別々で働くより共に働いたほうが生産性が高く、しかも個々人の貢献度を分離して測定することが難しいようなチームを考えると、それぞれのメンバーは、貢献度を正確に測定できないので、各メンバーが怠けるインセンティブを持つ。これは各メンバー個人としては合理的である。このようなメンバーの非効率的な行動を抑えるために、メンバーの行動を監視する監視役が必要となる。さらにこの監視役を怠けないように監視する人が必要となる。またこの監視役を・・・・となる。このような複雑なことをせずに、監視役に残余利益を得る権利つまり「所有権」を与えれば、監視役は怠けるインセイティブはなくなる。このように所有権(残余請求権、メンバーとの契約を改定する権利、これらの権利自体を売る権利等)を集団の個人等に与えることにより集団を効率的にマネジメントができるようになる。このように所有権に注目するアプローチが「所有権アプローチ」である。
2.不条理な組織行動の説明
 (1)取引コストアプローチ
  ある企業が、多額の投資を行い、行動を始めた。途中でより効率的な投資が見つかっても、
取引コストが発生するので、容易に変更できない。具体的には、これまで作り上げてきた人間関係を断ち切る必要があり、これまで投資してきた資金もサンクコストになる。サンクコストを考慮することは個人的にも合理的ではないが、感情としては考慮してしまう。さらに、新しい投資を行うためには、新しい人々との間に新しい人間関係を形成する必要もある。これら一連の取引コストのために、企業はたとえ現在の経営戦略が非効率で不正であったとしても、現状のままでいるほうが合理的と思えるような不条理な世界に導かれる。これが取引コストアプローチによる、組織が不条理の行動をとってしまう理由である。この取引コストアプローチによる組織の不条理の例として、ガダルカナル戦での白兵突撃の例を分析している。

 日本陸軍は、白兵突撃に長い年月と多大にコストを掛けて訓練してきており、白兵突撃戦術を放棄した場合、これまで投資した巨額の資金が回収できない(サンクコスト)こととその変更に反発する多くの利害関係者を説得するために多大なコストがかかるとの理由で、日本軍は、ガダルカナル戦で3回にもわたって白兵突撃を繰り返し、全滅した。
 他の身近なところでは、ワンマンの社長の体制では、社員や取締役は社長の掲げる基本戦略や方針が間違ったものであっても、社員や取締役の意見を伝えるには様々な交渉取引プロセスが必要となり、取引コストが高いので、その基本戦略や方針がそのまま実行されてしまうというようなことがよく起こっている。また取締役も社長を解任したりするプロセスと手続きを必要とし取引コストが高いので、ワンマン社長の暴走を食い止められないことも起きている。
(2)エージエンシーアプローチ
 利害が不一致で情報が非対称的な状況では、エージエントはプリンシパルに隠れて手を抜き、裏切り、そしてさぼる方が合理的となる。このアプローチの例として、一部の軍が暴走したインパール作戦を上げている。日本軍のインパール作戦では、プリンシパルである大本営とエージエントである牟田口司令官との間には利害の不一致があり、情報の非対称性も成り立っていた。この不正なモラル・ハザードを阻止するために大本営が出した命令は、作戦実行でも中止でもない「作戦実地準備命令」というあいまいな命令であった。これによりこの作戦に反対する人々は去り、政治的野心のある無謀な作戦を実行しようとする人々だけが舞台に登場するアドバースセレクションがおき、結果的に成功する見込みのない非効率的な作戦が合理的に実行されて行った。
また最近よくある話では、不況に悩む企業が、人件費抑制のため全社員を対象に一律賃金カットをするワークシエリングを行ったときに、能力のない社員は高い給与が保証されていると考えるのでこの企業に居残ろうと考えるが、能力ある社員は賃金が低く見えるので、会社をやめ、他の企業に移ることが合理的となる。この企業には能力のない社員だけが残るという不条理の例などがある。
(3)所有権アプローチ
 ある軍隊が、他国を占領し、その住民や兵士を捕虜にしたときに、人間が完全に合理的ならば、捕虜や住民がどのような能力を持っているかを把握し、奴隷のように利用することが一番効率的である。しかし人間は限定合理的なので、捕虜や住民の能力を完全に把握できない。それを回避するために、逆に捕虜に労働の所有権の一部を帰属させること、たとえば生産物の一部や金銭を捕虜に与え、彼ら自身のインセンティブを引き出すような管理方法が効果的となる。このような方法を実行して見せたのが、今村均のジャワ軍政である。このジャワ軍政は、住民との関係の良好で現在でも参考になる統治方法であるとのことである。
 これの裏返しのところもあるが、最近の不祥事の組織的隠蔽の理由が以下の例で分かりやすい。連帯責任制度の下でメンバーが自らの失敗を合法的にあるいは良心に従って公表すれば、組織全員に迷惑がかかることとなり、組織にとってのコストは最大となる。これに対して、違法であれ不正であれ、世間の人々の不備に付け込んで失敗を隠蔽できれば、組織にとってのコストは最小となる。当該のメンバーにとってたとえ不正で非効率的であろうと、失敗を隠し続けたほうが合理的となる不条理に導かれるのである。不祥事の組織的隠蔽は、このようなメカニズムが働いたものと
思われる。
 日本軍の失敗等への適用は少し視点が一元的な感じもするが、個人の思いや行動がどのような組織行動になるのかを分析するツールとして分かりやすく整理できていると思う。






 

2009年12月5日土曜日

フロンティア突破の経営力

フロンティア突破の経営力-時代を切り開く「事業、組織、人材」戦略(小川政信)を読む。
タイトルがダイナミックな感じで、タイトルと推薦文に惹かれて購入した。
事業に携っているものは誰しも、「打ち手について想定しているものがあり、さらに「その前提となっている世界」を無意識に思い描いている。ところが事業のメカニズムの解明を行うと、予想外の重要事実が発見され未知の世界が垣間見え始めるという。つまりフロンティアが全く想定外の世界にあることが判明する。このようにフロンティアを発見し、それを突破するための思考法を説く本である。具体的には、サンプル数は少なくてもよい(例:N=3)ので、事業の戦いの現実のメカニズムを
粗削りでよいから確認する「情報収集」と「思考」を制御する感覚の重要性を説く。
問題分析するために、チームで意見交換するが、意見で経営判断を行ってはいけない。意見は当人の「認識」に基づいているものであるが、「認識」というものは、しばしば間違っていると言い、意見交換より重要なことは、事業の成否を決める現場・現実のメカニズムの解明であると主張する。
N=3のサンプルでもよいので、
  ・原因はAかBか、はたまたCか、 
  ・打ち手はXかYか、
  ・いくつかの打ち手を同時にとらないといけないのか、それとも
   むしろ一方だけのほうがいいのか
  ・それらの問いについて答えをしるのは何が分かればいいのか
  ・今何をすべきなのか
 という「消去法的に情報や思考を制御する感覚」と「結論を左右する分岐点となるポイント、論点、
 イッシュー、情報を見極める感覚」が必要と説く。

具体的には、プレミアムビールの攻防戦について論じ、上記の分析の有効性を実証している。
なぜプレミアムビール市場で、サントリーだけが成功できたのか。迎え撃つサッポロ・エビスはどうしていたのか。キリンとアサヒはどうしていたのか。
22名のサンプルデータで分析したときに価格にもかかわらずビールを選好する者が8名いた。
プリミアムセグメントの売上比率は全体の1~2%なのに、価格を気にせずビールを選考するものが20%おり、プレミアムセグメントの伸びる余地はありそうだ。価格を気にせずプレミアムビールを好んでいるもの大半が、ビールメーカのブランドはどこでもよいと考えている。しかし結果的にはサントリーを選んでいる。つまりCMの影響だといえそうだ。
サントリーは、プレミアムセグメントがまだ潜在的に延びる余地があること、CMによって選好されて
いることを理解したがゆえに成功したのである。
それぞれのビール企業は、見ている(重視している)戦略空間が異なっているという。
アサヒ:ビールは新鮮さが鍵ということとそのためには商品回転力が
     重要であり、カテゴリー毎のトップブランドの確保
キリン:商品開発力、商品等入力、それら多彩な商品の営業提案力
サッポロ:原材料の品質と調達
サントリー:製品カテゴリーごとの商品投入戦略と一気呵成の広告認知戦略

このようにビール業界の分析を通じ、企業によりリーダにより見ている戦略空間が異なっていたこと、大方の業界内関係者では、自分たちがみている戦略空間の外に重要な戦略次元が存在していたこと。そうした中で最重要な戦略空間・戦略次元を発見することは、市場という戦場の現場・現実の観察や調査分析によって可能であったことを示している。

決断力の構造-優れたリーダの思考と行動-

ノール・M・ティシーと言えば「リーダシップエンジン」や「リーダシップサイクル」のリーダシップに関する書籍で有名であるとともに、ジャックウエルチに請われてGEでリーダシップ研修を実施しているというリーダシップの第一人者である。
「決断力の構造」では、リーダシップの核心にある「決断」について述べている。単独個人の決断の瞬間について述べているのではなく、決断の準備、決断の宣言、決断したことの実行の段階について述べている。決断の領域としいて、「人事」、「戦略」、「危機」を取り上げている。優れた決断を下すためには、リーダ自身や周囲との人間関係、組織、ステイクホルダーなどについての的確な状況把握が必要と説く。
この書籍により、大きな組織を運営していくためには、経営を推進するリーダたちに業務を遂行させることがポイントであることを認識できた。小さな組織のリーダが、必ずしも大きな組織のリーダとしては、成功できない理由がここにあると思う。大きな組織を運営していくためには、以下のことが必要であることが分かる。
  ●リーダたちさらには社員とのビジョンの共有
  ●推進の仕組みの確立
  ●評価の仕組みの確立


ポイントを以下に要約していく。」
1.決断とリーダシップ
  ◆決断を下すという仕事は、リーダの職務の核心。
   ・的確な決断を下さなければ、あとのことは何の意味もない。
     ◆長期的な成功だけが、的確な決断であることのただ一つの指標と
   なる。
   ・優れたリーダは重要な指示を的確に出すことに集中している。
  ◆リーダはさまざまな決断を宣言し、その実行にも目を光らせる。
   ・有力な支持者との関係に腐心する。
優れたリーダは、指示を出す必要性を見極めるところから始まって、問題を明確にし、何がもっとも深刻jな問題かを考え、メンバーを動員し鼓舞するところまでをこなすプロセス全体に通じている。

2.リーダ決断のフレームワーク
  ◆優れた決断の宣言はプロセスであって、儀式ではない。
    ・プロセスは実行と修正作業を重ねながら続いていく。
  ◆リーダは三つの決定的な領域で宣言をしなければならない。
    ・人事についての宣言がもっとも難しく、しかももっとも重要で
     ある。他の主要な領域は、戦略と危機である。
  ◆優れた決断を下すために必要なのは、自己認識である。
    ・それは個人プレーではない。支えてくれるチームが決定的に
     重要だ。
    ・周りの人たちを取り込むことが成功につながる。

<1>リーダシップの決断プロセス
   (1)準備
     ①気づいて見極める。
     ②規定し分かりやすく表現する。
     ③動員し、態勢を整える。
   (2)宣言
     ①決断を宣言する。
   (3)実行
     ①ことを起こす。
     ②学んで調整する。
 
<2>よい決断プロセス
   (1)準備
     ①気づいて見極める。
       ・置かれた環境の下で見極める目をもつ。

       ・行動を起こす態勢を整える。
       ・将来に備えて活力を蓄える。
     ②規定し分かりやすく表現する。
       ・込み入った状態に切り込み核心に迫れる。
       ・問題の要因を明確に分析する。
       ・背景と分かりやすい表現を教える。
     ③動員し、態勢を整える。
       ・有力なステイクホルダを見極める。   
       ・明確な目標に向かって周りの人を巻き込み燃えさせる。
       ・あらゆるところから最高のアイデアを引き出す。
   (2)宣言
     ①決断を宣言する。
       ・YES、NOの決断を下す。
       ・決断を明確に説明する。
   (3)実行
     ①ことを起こす。
       ・リーダは現場に踏みとどまる。
       ・ことを起こそうとしている人たちの力になる。
       ・明確なマイルストーンを設定する。
     ②学んで調整する。
       ・フィードバックを手に入れる。
       ・調整を加える。
       ・フィードバックは次々に入ってくる。

<3>悪い決断プロセス

   (1)準備
     ①気づいて見極める。
       ・置かれた環境が読めない。
       ・現実の直視を怠る。
       ・腹をくくれない。
     ②規定し分かりやすく表現する。
       ・誤った決定・決断を具体化する。
       ・最終目標が明確に定まっていない。
       ・古い態勢に固執する。
     ③動員し、態勢を整える。
       ・明確な将来像を描けない。   
       ・不適切な人材
       ・全く自らを正そうとしない。
   (2)宣言
     ①決断を宣言する。
       ・相変わらず間違った宣言をし、意地を張る。
       ・ものごとがどのように反応しているか、どのように進ん
        でいるかを考えようとしない。
       ・逃げ腰になる。つまりぐずぐずしてなかなか宣言を
        しない。
   (3)実行
     ①ことを起こす。
       ・リーダは現場から消えてしまう。
       ・悪い情報
       ・あらゆる原因に目を凝らすのを怠る。
     ②学んで調整する。
       ・組織の抵抗。
       ・全くないあるいは見当違いのメリット。
       ・変化に対処できる業務遂行の仕組みが欠落している。

3.ストーリーを用意する。
  ◆本物のリーダは、精神面のフレームワークを優れた決断を
   下すための指針にする。
    ・”人に教えられる視点”によって、方向と行動の価値観が
     定まる。
    ・ストーリーを語ることによって、将来のシナリオを活き活きと
     伝えられる。
  ◆最高によくできたストーリには説得力があり、そして実践的である。
    ・次々に起こる出来事に見られる異質な要素を互いにつなぎ
     合わせてくれる。
    ・このストーリーによってリーダは、規模、複雑さ、そして不透明
     な状況に立ち向かえる。
  ◆ストーリーは生き物、変化し続ける環境に応じて進化する。
    ・リーダはさまざまな選択肢を加えることによって、可能性の
     ある結末を探る。
    ・ストーリーは、組織のあらゆる階層で脇筋を書くための足が
     かりを用意する。
4.品格と勇気
  ◆優れた決断を重ねるには、リーダに品格と勇気が備わっていな
    ければならない。
    ・品格は道徳的な基準を示してくれる。
    ・勇気は成果を生み出してくれる。
  ◆品格のある人は明確な基準を持っている。
    ・常に責任を負い、その責任を全うする。
    ・世の中の評判よりも自分に恥じない姿勢を大切にする。
  ◆障害にぶつかっても基準を守るには、勇気が必要だ。
    ・品格は、そこに勇気がなければ、意味がない。
    ・勇気は、そこに品格がなければ、危険なものだ。   

5.人事の決断の宣言
  ◆人事の決断は、戦略と危機両方の優れた決断をするための
    礎である。
    ・チームに誰を入れるか、誰を外すかの決断。
    ・優れた決断を支持してくれるチームをトップ層に作る。
  ◆まずチームありき、戦略は二の次。
6.人事の決断 後継CEO選び
  ◆CEO選びはもっとも重要な人事の決断
    ・すべての決断はCEOの決断から始まる。
    ・外部からの登用は社内のプロセスが間違っている兆し。
  ◆好調を維持し続ける組織は、リーダ輩出の仕組みを作っている。
    ・幹部候補者を数多く抱えている。
    ・あらゆる階層でリーダーを育てている。
  ◆よいCEOの継承プロセスは公明正大なものだ。
    ・CEO職の要件が明確に規定されている。
    ・組織の成功が最終的な判断基準。
7.戦略の決断
  ◆戦略の決断は絶えず進化している。
    ・大枠のストーリーによって、多くの脇筋の話の枠組みが
     できあがる。
    ・戦略的行動はそれぞれに、次の宣言の舞台を整える。
  ◆リーダは、自分なりの戦略を練り上げなければならない。
    ・宣言は官僚主義的な”企画屋”に任せてはならない。
    ・宣言は絶えず見直し、更新する必要がある。
  ◆戦略的な思考は論理と感情の融合だ。
    ・質問と答えを具体的に示せるリーダの知性が必要。
    ・周りの人たちを実行へと駆り立てられるリーダの感情的な
     エネルギーが必要。
8.危機における決断
  ◆実力のあるリーダは自ら、危機対処する責任を取る。
    ・危機の本質を正確に規定する能力は、絶対に欠かせない。
    ・政治的な混乱に対して実際的科学的対処をすると、破滅に
     つながることがある。
  ◆危機に臨んだときにおかす一般的な間違いは、自分の最終的
    な使命を見失ってしまうこと。
    ・緊張感を緩和させる対処をしても、必ず目標に近づける
     わけではない。
    ・危機がもたらす混乱によって、思いがけないチャンスが到来
     することもある。
  ◆人事や戦略にまつわるお粗末な決断が、危機につながることも
   ある。
    ・危機に面したときは、頭がよく忠誠心のあるチームが最も
     重要である。

9.リーダシップを育成するチャンスとしての危機
  ◆優れた決断をするリーダには、危機に備える心構えができている。
    ・一つにまとまった信頼できるチームに恵まれている。
    ・明確な”人に教えられる視点(教えることができる視点)と
     ストーリーを持っている。
  ◆危機が来ると、連戦連勝のリーダは、即座に反応する。
    ・必要な知識のある人材を投入する。
    ・一つにまとまったリーダのチームを動員して、素早く実行する。
  ◆危機そのものがリーダシップ育成のチャンスになる。
    ・リーダは成功に必要な行動のロールモデルを示す。
    ・分かりやすい教育のプロセスが、全員を非常に重要な問題
     に集中させる。