デジタル時代の経済メカニズムを分析した「FREE(只、無料)」の英語版を読む。英語版のため少し時間がかかってしまった。著者は、「THE LONG TAIL」で有名な、CHRIS ANDERSONである。CHRISは前著で、今までの実際の小売店では在庫の制限などで売上の上位20%に当たる品目を揃え、その他(80%)の品目は軽視されることが多かった。しかし、インターネットの普及でオンライン小売店は在庫や物流にかかるコストが従来の小売店と比べて遥かに少ないのでこの軽視されていたその他(80%)の品目をビジネス上に組み込むことが可能になり、そこからの売り上げを集積することが可能となった。このことを「ロングテール効果」として、インターネット時代における新しい経済現象として分析した。今回は、一歩進め、現在のように財がデジタル化され、ネットでデリバリーされる経済で「FREE(只、無料)」がどのようなメカニズムを作り出しているのかを分析した本である。現象を捉えているだけでなく、経済のメカニズムを深く理解して、分析していることがよく分かる。
全体を貫く命題は、「希少な(SCARCE)財は価格が上昇し、余分(豊富)(ABUNDANT)な財は価格がゼロに近づく」ということであり、「インターネット上の情報、知識は、限界費用をほとんどかけずに複製・デリバリーが可能なので、ABUNDANTになり、価格がゼロになる」ということである。
ただしFREEだけでは、経済は成立しないので、FREEを活用した以下のようなビジネスモデルが
可能となると述べている。
1.「FREE」を活用したビジネスモデル
①DIRECT CROSS-SUBSIDIES(直接的な(販売者、購買者同一)
関連する派生財の販売
◇只にするもの:何か他のものを購入させたいと思わせるもの。
◆只にする相手:何か他のものを最終的に購入する人。
携帯電話の端末を只にして、通話料で回収するモデルが該当し、これ
を「FREE」とするかどうかは、それ単独のコストによって決まるのでは
なく、購買者に対する心理効果によって決定する。
<例>
・ハードを売るためソフトを無料(IBM、HPのLinux)
・ショ-を売るためドリンクを無料(カジノ等)
・一つ買えば、一つ無料(スーパマーケット)
・中に只の商品(お菓子に只の玩具人形)
・只でのトアイアル(雑誌購入の初期期間只)
②THE THREE-PARTY MARKET(消費者、広告社、販売者)
◇只にするもの:コンテンツやサービス、ソフトウエア等
◆只にする相手:上記を利用する全ての人。
広告モデルがこれに該当する。最終的には、消費者が、財購入時
にマーケッテイング費用(只の部分)を間接的に負担することとなる
が、財を売ろうとする企業、広告会社、消費者でそれぞれ取引を行う。
<例>
・聴衆のアクセスを得るための無料コンテンツ提供(広告メデイア)
・利用者への手数料なしのクレジットカード(取り扱い企業から徴収)
・文書リーダへは無料。文書ライタから徴収。(Adobe)
・物件リストは無料。成約時に徴収。(不動産販売)
・コンテンツは無料。アクセスした消費者に関する情報を優良販売。
③FREEMIUM (FREE 財 とPUREMIUM財との組み合わせ)
◇只にするもの:上級品等に対してプレミアム価格が払ってもらえる
基本品。
◆只にする相手:基本品を購入する人。
ソフトウエアなどの提供でよく行われるもので、FREE VERSION
は機能を限定し、プロ仕様(豊富な機能)の商品はプレミアム価格
を設定する。この言葉は、ベンチャキャピタリストのFred Wilson
がつけたもの。試供品モデルと似ているが、試供品と上級品を購入
する比率が逆である。デジタル財では、5%の人のみがプレミアム
価格を支払っている。FREE財の限界コストがほぼゼロに近いため
可能となる。
<例>
・一般的な経営アドバイスは無料。個別のアドバイスは優良。(マッキインゼイ)
・連邦税計算ソフトは無料。州税計算ソフトは優良。(Turbo Tax)
・一般のオンラインゲームは無料。それ以上の利用は優良。(Club Penguin)
・コンピュータ間通信は無料。携帯とコンピュータ通信は優良。(Skype)
・ある規模内の写真の共有は無料。一定以上は優良。(Flicker)
④NONMONETARY MARKETS (貨幣以外での報酬)
◇只にするもの:支払いを期待せず人々が与えることを選ぶもの。
◆只にする相手:全ての人。
Wikipediaに代表されるような活動、お金が目的に活動するのでは
なく、ATTTENTION(注目されること)とREPUTATION(よい評判を
得ること)を目的に活動する。
2.「FREE」のルール(Abundance シンキングの10の原理)
①デジタル財なら、遅かれ早かれ「只」になる。
競争市場では、価格は限界費用に近づく。インタネーット上の市場は
今まで世界が経験したこともない競争市場である。
処理、広帯域NW、ストレージの限界費用が限りなくゼロに近づくの
で、デジタル財の価格はゼロに近づく。只になることは選択の余地
はなく、不可避な現象である。Bitsは、只になりたがっている。
②ATOM財(物理的な財)も「只」になるかもしれないが、デジタル財
ほど性急ではないであろう。
エアラインから自動車産業まで、自分たちの産業の定義を拡張し
他の何かを売ることにより自分たちのコア製品を只で売る方法を
見つけようとしている。
③FREEとなる動きは止められない。
デジタル財の領域にぽいては、この動きは止められない。
止めるための唯一の方法は、secret code を埋め込むか、
恐ろしい警告を出すかだが、いつかは破られる。
④FREEからお金を作り出すことができる。
人々は、時間を節約するため、リスクを低減するため、ステイタス
のためにお金を支払う。お金を作り出す方法は無数にあるので
それを考えるべきである。FREEで新しい顧客に門戸を開き、
その顧客からお金をもらうことを考えるべきである。
⑤マーケットを再定義すべし。
エアラインは、自社の事業を旅行業と定義し、座席を易く販売し、
旅行にまつわる周辺(レンターカービジネス等)でお金をもうけ
ることを考えるべし。
⑥早く実行すべし。(round down)
只にするのは、するかどうかの問題ではなく、いつ実行するかの
問題である。それならば早く実行することを考えるべきである。
只にするために、今日何ができるかを考えるべし。
⑦遅かれ早かれFREEと競争することとなる。
あなたが有料としているものに対して誰かが只にできる方法
を考える。それに対抗するためにそれの価格は只にせざるを
得ず、他の何かを売ることを考えなければならない。
品質の差は、価格の差を克服できる。
⑧無駄を容認する。
ある商品の価格が、図るコストにくれば易い場合は、図ることは
やめたほうがよい。只にしてしまったほうがよい。
⑨只は、他のものの価値をより向上させる。
全ての豊富は、新しい希少性を作り出す。100年前は娯楽は
希少であり、時間が十分」あった。現在は逆である。
このようにある製品やサービスが只になると、価値は次のより
高い階層に移動する。
⑩希少性ではなく、豊富(abundance)に向けてマネジメントすべし。
リソースが希少のとき、それらは高い。それらを使うとき、失敗
しないように注意しなければならない。今までのトップダウンマネ
ジメントは、高い失敗を避けるためのマネジメントを行ってきた。
リソースが豊富な環境下では、同じマネジメントを行うべきでは
ない。ビジネス機能がデジタルになるので、失敗を恐れること
はあまり重要でなくなる。企業文化は、失敗をするな(DON’T
SCREW UP)から失敗する場合は早くせよ。(FAIL FAST)
へシフトすることもありえる。
考えがしっかりしているだけでなく、豊富な事例に基づいているため、
デジタル経済の特徴を理解するために大変有益な書籍である。
このような書籍が出てくる米国はやはりすごい感じがする。
2010年1月23日土曜日
現在思想の冒険者たち ハーバーマス-「コミュニケ-ション行為」の社会学者ー
第二次大戦後に活躍したドイツの哲学者であり社会学者であるハーバーマスの思想、人物について書かれた本である。現在思想の冒険者たちシリーズの一冊として出版されている。ハ-バーマスの思想の特徴は、社会を「コミュニケーション行為」という概念で分析し、強制や支配のないコミュニケーションによって生み出される合意こそが真に生産的な力であると主張する。彼によると、近代社会は、人間が初めて宗教や因習などの非理性的な力を脱し、民主的な原理が独り立ちした時代であるが、同時に新しい制度や広義のシステムの力も強大となり、計算・支配する思考、そこから生じる人間疎外も強固になっている。人間疎外を克服した新しい社会秩序を生み出すためは、相互の平等な対話によって支えられた合理性の実現(コミュニケーション的理性)が何よりも重要と説く。
私個人として、このインターネットの普及によるネットワーク社会を分析・理解できる思想を整理したいと思っており、現代社会を対象とした社会科学者であること、「コミュニケーション行為」という現在情報社会のキー概念を含んだ思想であること、双方の理由から関心をもって読んだ。現代情報社会は、18世紀、19世紀の時代と大きく異なり、その当時の社会思想で分析するには状況が大きく変わり過ぎたと感じている。たとえば経済学では、18世紀は、農作物を作る土地が希少財であり、これを中心とした分析・思考が、また19世紀は工業製品を作る工場設備が希少財でありこれを中心とした分析・思考が、テーマであった。現在社会の分析に農地の価格決定や分配の理論は、参考になることは合っても、問題意識としてはなじまない。
ハーバーマスのコミュニケーション行為論について、エッセンスを以下に整理する。
ハーバーマスは、資本主義と結びつく道具主義的ないしシステム的合理性が近代の特徴ではあるが、それだけでなく、生活世界の中には近代の成果としてコミュニケーション的理性も育っていることも認める。近代社会が生んだ病理現象たる「生活世界の植民地化」(生活世界も全てシステム的合理性に支配されてしまうこと)に対応するため、そのコミュニケーション的理性の力を支援すべしと説く。
ハーバーマスは全体社会を二つに分けて考える。一方では、文化的な意味や価値の再生産を務めとするコミュニケーション的合理性の領域があり、他方では、社会の物質的再生産に貢献するシステム合理性の領域があり、これは機能的なサブシステム(行政や経済)を基盤として、社会の「システム統合」を志向する。社会においてコンフリクトを避けるためには、人と人との間で「行為調整」を図る必要があるが、コミュニケーション的合理性の領域ではそれは言葉を介した了解・意思疎通によるのに対し、システム的合理性の領域では制御メデイア(権力やお金)がものを言う。
コミュニケ-ション行為は、以下の三つの点で、社会生活にとって不可欠な役割を果たす。
第一に、コミュニケーション行為は、了解を可能とすることにより、文化的伝統を受け継いだり更新したりする。第二に、コミュニケ-ション行為は、言葉による行為調整に従事し、人々の社会的連帯を作り出す。第三に、コミュニケーション行為は、個々の人間が社会の中で成長し、自分なりの人格同一性を達成するために、すなわち「社会化」のために、中心的な役割を演じる。
コミュニケーション行為の概念は、文化的再生産-社会統合ー生活世界-了解による行為調整という線に沿って有効なのであり、もう一方の、物質的再生産-システム統合ーサブシステム-制御メデイアによる行為調整という線に対しては、無力であるという。
その他、いろいろと参考になるところもあるが、社会学の本は読んでいるときには分かったような気持ちになるが、それを起点に論理を展開しよとすると役立たないことが多いので、これ以上の詳述は行わないとことする。社会学は理論ではなく、分類学なので、その思想の中では論理展開できるが、他の背景の中での展開は難しい。
私個人として、このインターネットの普及によるネットワーク社会を分析・理解できる思想を整理したいと思っており、現代社会を対象とした社会科学者であること、「コミュニケーション行為」という現在情報社会のキー概念を含んだ思想であること、双方の理由から関心をもって読んだ。現代情報社会は、18世紀、19世紀の時代と大きく異なり、その当時の社会思想で分析するには状況が大きく変わり過ぎたと感じている。たとえば経済学では、18世紀は、農作物を作る土地が希少財であり、これを中心とした分析・思考が、また19世紀は工業製品を作る工場設備が希少財でありこれを中心とした分析・思考が、テーマであった。現在社会の分析に農地の価格決定や分配の理論は、参考になることは合っても、問題意識としてはなじまない。
ハーバーマスのコミュニケーション行為論について、エッセンスを以下に整理する。
ハーバーマスは、資本主義と結びつく道具主義的ないしシステム的合理性が近代の特徴ではあるが、それだけでなく、生活世界の中には近代の成果としてコミュニケーション的理性も育っていることも認める。近代社会が生んだ病理現象たる「生活世界の植民地化」(生活世界も全てシステム的合理性に支配されてしまうこと)に対応するため、そのコミュニケーション的理性の力を支援すべしと説く。
ハーバーマスは全体社会を二つに分けて考える。一方では、文化的な意味や価値の再生産を務めとするコミュニケーション的合理性の領域があり、他方では、社会の物質的再生産に貢献するシステム合理性の領域があり、これは機能的なサブシステム(行政や経済)を基盤として、社会の「システム統合」を志向する。社会においてコンフリクトを避けるためには、人と人との間で「行為調整」を図る必要があるが、コミュニケーション的合理性の領域ではそれは言葉を介した了解・意思疎通によるのに対し、システム的合理性の領域では制御メデイア(権力やお金)がものを言う。
コミュニケ-ション行為は、以下の三つの点で、社会生活にとって不可欠な役割を果たす。
第一に、コミュニケーション行為は、了解を可能とすることにより、文化的伝統を受け継いだり更新したりする。第二に、コミュニケ-ション行為は、言葉による行為調整に従事し、人々の社会的連帯を作り出す。第三に、コミュニケーション行為は、個々の人間が社会の中で成長し、自分なりの人格同一性を達成するために、すなわち「社会化」のために、中心的な役割を演じる。
コミュニケーション行為の概念は、文化的再生産-社会統合ー生活世界-了解による行為調整という線に沿って有効なのであり、もう一方の、物質的再生産-システム統合ーサブシステム-制御メデイアによる行為調整という線に対しては、無力であるという。
その他、いろいろと参考になるところもあるが、社会学の本は読んでいるときには分かったような気持ちになるが、それを起点に論理を展開しよとすると役立たないことが多いので、これ以上の詳述は行わないとことする。社会学は理論ではなく、分類学なので、その思想の中では論理展開できるが、他の背景の中での展開は難しい。
2010年1月16日土曜日
現在企業の組織デザイン-戦略経営の経済学-
経済学者として著名なJohn Robertsが書いた企業組織論である。この本は2004年度のエコノミスト誌のBEST経営書に選ばれた本とのことである。John Robertsは、Paul Milgromと「組織の経済学」というこの領域のスタンダードとなる本を書いている。
本書は、市場がコーデイネーション問題やモチベーション問題に対して 最適な解をもたらさない場合、コーデイネーションや動機付けを実現する上で他のメカニズムが必要になると説き、それが企業組織であると、企業の存在を理由つけている。つまり企業は、人々の経済活動に対するタスクを効率的にコーディネートするためと人々を適切に動機付けを実現するための仕組みと位置づけている。
企業組織のメインテーマである、「組織デザイン問題」を、「環境変化を勘案しながら、相互に適合した戦略と組織を創造することで 高業績を実現すること」と定義し、戦略経営論、組織経済学そして比較制度分析などの経済学の分析概念を使って、ケース・スタ ディによる説明を試みている。
組織デザインにおいては、市場分析の経済学で前提している、◇ 実行可能な選択集合の凸性や ◇選択と業績の関係の凹性が、満たされないこともあり、最適解が一意に決まらないという特性を持つ。このような前提の下で、経営者は、目標を設定し、自社で実施するアクティビティの範囲、競争優位の構造を決定していく。そのために、PARC(人々、アーキテクチュア、ルーティン、文化)の要素をを整合的に組み合わせていく必要がある。具体的には、以下の意思決定をしなければならないと説く。
①組織デザインのタイプ:現場の自由裁量に任せるルースカップリン
グタイプにするか、標準化・中央集権化の
タイトカップリングタイプにするか。
②モチベーション :組織メンバーが互いに協力しながら共通
目的にそって行動する協調性と個人の目
標を追求する利己心とのバランス。
③発掘と探索 :既存の機会を有効に掘り下げるという深
堀型事業と、新しい機会を探り当てる新規
展開事業とのバランス。
しかし現実の世界では、戦略が対応しなければならない環境は素早く変化し、その変化に対応する必要性はあまり時間をかけずに認識できるが、実際に組織を変えていくのは容易ではない。なぜならば、成功した組織は、成功体験ゆえになかなか変革できないと説明している。
この組織デザインとその組織の実現が、企業の盛衰を決定すると主張し、特に個人のモチベーションや組織のインセンティブが働く組織構造をつくることの重要性を強調している。個別の成功事例から共通点を抽出する経営学者とは異なる経済学者らしいアプローチである。
詳細な議論は、以下のとおり。
かなり抽象的になるが、まずは、経済学者らしく経済学の概念からスタートする。企業組織は、経済学が市場分析の前提とする前提を満たさず、逆に以下の前提を満たすと言う。
◇ 選択変数間の補完性(Complementarity)
任意の対 をなす2つの選択変数について、その一方を(より多く)実行
することによ って他方を(より多く)実行することから生ずる収獲が増加
する場合、こ れらの変数は,補完的であると言う。
例えば、高品質であるという事実によって、需要が価格の昇に対し
て敏感に反応しなくなる」(つまり弾力的でなくなる)場合,製品の価格と
品質とは、補完的だと言う。補完性は、システム効果を生み出す。
全体は、部分の総和以上のものとなることを意味する。
実際、変数の間に補完性が存在する場合、任意の変散を1つだけ
変化させることによって、業績が悪化してしまう。これに対して、全て
の変数を同時に変化させることによって、業績が実質的に高まると
いうことが考えられる。
◇ 実行可能な選択集合の非凸性(Non-convexity)
選択集合の非凸性である。凸性の場合は、2つのオプションが存在し
ている場合、あらゆる中間的な選択が可能となることを意味するが、
実際の選択肢は2者択一であったりして、不可分となっており、実際
は非凸となる。たとえばある製品開発投資を10億円する選択Aがあり、
開発投資を全くしない戦略Bがあった場合、その間の2億円や5億円
が必ずしも実行可能でないことを意味する。その投資の機器が最低で
も3億円かかる場合、2億円の投資は実行可能ではない。
◇ 選択と業績の関係の非凹性(Non-concavity)
目的関数の非凹性であり,ある所与の環境における選択と業績の関係
を扱ったものである。凹性は、2つの選択水準によってそれぞれ同一の
業績水準がもたらされる場合に、これらの中間的な選択水準で選択を
行った場合の業績水準がつねに高位になるということを示すが、
非凹の場合、最適値が不連続に複数存在することを表す。
つまり組織は、規模に対する収穫逓増、学習効果、そして不可分性を
備えており、目的関数の凹性との間に不整合をきたす。
このような経済空間の中で、経営者は、目標を設定し、実施するアクティビティの範囲、競争優位の構造つまり、PARC(人々、アーキテクチュア、ルーティン、文化)の要素をを整合的に組み合わせ、
それを実現していかなければならない。そのためには、経営者はリーダシップを発揮して変化を生み出していく必要がある。
①戦略的認識:最も根本的な問題は、変化の必要性や機会を認識する
ことである。
②ビジョン策定:それは,大まかな輪郭だけでもよいからより優れたパター
ンを発見するのに必要とされる。
③コミュニケーション:変化を生み出すために従業員等に働きかける能力
が必要である。すなわち、,新しい仕方を説明するだけ
でなく、それを実現するためのプロセスにかんする説明
を行ことである。
④実現への努力:困難な目標の実現に向けて努力することに加えて、変化
そのものが容易ではな、く、業績が悪化してもあきらめな
い勇気が必要である。
特に組織デザインにおいて重要と思われる、①組織デザイン諸相の結びつき度合い、②モチベーションの仕組み、③階層について述べていく。
①結びつき度合い(タイト・カップリング(密結合)/
ルース・カップリング(疎結合)
経済活動を組織化する費用、すなわちコーディネーション費用やモチ
べ―ション費用が存在しており、こうした取引費用の節約という原理
によって組織パターンが決定される。特に、距離を置いた市場契約に
依存した取引をやめて、,それを企業内で組織化する方が低い費用で
実現できる場合、企業の内部組織に依存して取引を行う。
②モチベーション
モチベーション問題が生じるのは、諸個人の利己心に任せているだけ
では、組織が望むような方向へと導けないためである。
このような利害の衝突が生じるのは、個々のメンバーが組織内で自分
が選択する行動や意思決定にと もなう便益と費用にたいして、すべて
の責任を負うわけではないからである.。
経済学で、プリンシパル・エージエント問題といわれるものである。。
組織デザインの視点からすると,モチベーシヨン問題というのは、組織の利害とそのメンバーの利 害とを一致させることによって、メンバーが行う選択の整合性を高められるような組織-アーキテ クチャ、ルーティン、文化を形づくることにほかならない。
一般的には以下のことが言える。
努力度合いも増すごとに便益が大きくなる環境では、最適な努力水準も大きくなるので,インセンテイブが大きい制度がよい。つまり業績測定を正確かつ適時に把握困難なタスクについては、明示的な業績インセンティブを制度が望ましい。逆に業績測定が正確にまたタイムリーに行えないタスクについては、インセンティブが強い制度は望ましくない。この問題は、ある人や組織にマルチタスクの仕事をアサインする場合に重要となる。現在の業績を維持すると同時に,新規事業の開拓を使命とするケースでは、.前者の業績評価は,比較的明確であるが、後者の業績評価は明確でなく、向けられる努力の質に関する情報は,かなり把握しずらいばかりではなく成果がでるのに時間がかかってしまう。マルチタスクでそれぞれ期待する成果を出していかなければならない場合には、双方のタスクに注意を向けさせ、それぞれのタスクの努力水準を増やすことで得られる利得の大きさ を,均等化しなければならない。 マルチタスクが必要とされる場合には,双方のアクティビテ イにたいして,相対的に弱いインセンティブを提供するのがベストである。なぜならば、インセンティブを強くすると、個人にとっては、現在の業績を維持することに注力することが合理的となるからである。
③階層
現在のように環境変化が激しく、規模の経済が必ずしも求められない状況では、以下のことを重視した組織デザインが求められる。
◇戦略や企業政策を透明にする。
◇相対的に小規模の独立した組織ユニットとする。
◇組織ユニットのリーダに対して,オペレーションや戦略にかかわる
多くの権限を委譲するとともに結果に対する厳格な責任を負わせる。
◇ディレイヤリングのプロセス置いて,ヒエラルキーの階層の数を滅ら
していく
◇中央スタッフの職位数を減らしていく.。
◇全社的な業績に連動した報酬の増加と合わせて、組織ユニットと
個人の業績にたいして提供するインセンティブを強化する
◇経営者のトレーニングと開発に投入する資源を増やす.
◇ヒエラルキーのトップからロワーに至る全体的なコミュニケーション
というよりも、むしろマネジヤ]とスタッフとの間の水平的な結びつきや
コミュニケ」ションを促す。
◇適切な業績評価を促すとともに,組織ユニット間,ならびに上下間の
コミュニケーションを促進できるように情報システムを改善する.。
期待して読んだ割りには、論理の展開、結論とも注目に値するものは
なかった。分かりやすくしようとしたためか、モデルや数式を説明せす、
文書でだらだらと平凡な結論のみを書いているように見えるところが
かなりあった。平凡な結論でも経済学的なモデル分析から導出された
ものなら、その前提を変えたら結論はどうなるかと思考をめぐらすこと
ができるのだが。
企業組織を経済学的に分析することを整理するため、
別途「経済システムの比較制度分析」の読書ノートを作ることとしたい。
その論理過程が面白いと
本書は、市場がコーデイネーション問題やモチベーション問題に対して 最適な解をもたらさない場合、コーデイネーションや動機付けを実現する上で他のメカニズムが必要になると説き、それが企業組織であると、企業の存在を理由つけている。つまり企業は、人々の経済活動に対するタスクを効率的にコーディネートするためと人々を適切に動機付けを実現するための仕組みと位置づけている。
企業組織のメインテーマである、「組織デザイン問題」を、「環境変化を勘案しながら、相互に適合した戦略と組織を創造することで 高業績を実現すること」と定義し、戦略経営論、組織経済学そして比較制度分析などの経済学の分析概念を使って、ケース・スタ ディによる説明を試みている。
組織デザインにおいては、市場分析の経済学で前提している、◇ 実行可能な選択集合の凸性や ◇選択と業績の関係の凹性が、満たされないこともあり、最適解が一意に決まらないという特性を持つ。このような前提の下で、経営者は、目標を設定し、自社で実施するアクティビティの範囲、競争優位の構造を決定していく。そのために、PARC(人々、アーキテクチュア、ルーティン、文化)の要素をを整合的に組み合わせていく必要がある。具体的には、以下の意思決定をしなければならないと説く。
①組織デザインのタイプ:現場の自由裁量に任せるルースカップリン
グタイプにするか、標準化・中央集権化の
タイトカップリングタイプにするか。
②モチベーション :組織メンバーが互いに協力しながら共通
目的にそって行動する協調性と個人の目
標を追求する利己心とのバランス。
③発掘と探索 :既存の機会を有効に掘り下げるという深
堀型事業と、新しい機会を探り当てる新規
展開事業とのバランス。
しかし現実の世界では、戦略が対応しなければならない環境は素早く変化し、その変化に対応する必要性はあまり時間をかけずに認識できるが、実際に組織を変えていくのは容易ではない。なぜならば、成功した組織は、成功体験ゆえになかなか変革できないと説明している。
この組織デザインとその組織の実現が、企業の盛衰を決定すると主張し、特に個人のモチベーションや組織のインセンティブが働く組織構造をつくることの重要性を強調している。個別の成功事例から共通点を抽出する経営学者とは異なる経済学者らしいアプローチである。
詳細な議論は、以下のとおり。
かなり抽象的になるが、まずは、経済学者らしく経済学の概念からスタートする。企業組織は、経済学が市場分析の前提とする前提を満たさず、逆に以下の前提を満たすと言う。
◇ 選択変数間の補完性(Complementarity)
任意の対 をなす2つの選択変数について、その一方を(より多く)実行
することによ って他方を(より多く)実行することから生ずる収獲が増加
する場合、こ れらの変数は,補完的であると言う。
例えば、高品質であるという事実によって、需要が価格の昇に対し
て敏感に反応しなくなる」(つまり弾力的でなくなる)場合,製品の価格と
品質とは、補完的だと言う。補完性は、システム効果を生み出す。
全体は、部分の総和以上のものとなることを意味する。
実際、変数の間に補完性が存在する場合、任意の変散を1つだけ
変化させることによって、業績が悪化してしまう。これに対して、全て
の変数を同時に変化させることによって、業績が実質的に高まると
いうことが考えられる。
◇ 実行可能な選択集合の非凸性(Non-convexity)
選択集合の非凸性である。凸性の場合は、2つのオプションが存在し
ている場合、あらゆる中間的な選択が可能となることを意味するが、
実際の選択肢は2者択一であったりして、不可分となっており、実際
は非凸となる。たとえばある製品開発投資を10億円する選択Aがあり、
開発投資を全くしない戦略Bがあった場合、その間の2億円や5億円
が必ずしも実行可能でないことを意味する。その投資の機器が最低で
も3億円かかる場合、2億円の投資は実行可能ではない。
◇ 選択と業績の関係の非凹性(Non-concavity)
目的関数の非凹性であり,ある所与の環境における選択と業績の関係
を扱ったものである。凹性は、2つの選択水準によってそれぞれ同一の
業績水準がもたらされる場合に、これらの中間的な選択水準で選択を
行った場合の業績水準がつねに高位になるということを示すが、
非凹の場合、最適値が不連続に複数存在することを表す。
つまり組織は、規模に対する収穫逓増、学習効果、そして不可分性を
備えており、目的関数の凹性との間に不整合をきたす。
このような経済空間の中で、経営者は、目標を設定し、実施するアクティビティの範囲、競争優位の構造つまり、PARC(人々、アーキテクチュア、ルーティン、文化)の要素をを整合的に組み合わせ、
それを実現していかなければならない。そのためには、経営者はリーダシップを発揮して変化を生み出していく必要がある。
①戦略的認識:最も根本的な問題は、変化の必要性や機会を認識する
ことである。
②ビジョン策定:それは,大まかな輪郭だけでもよいからより優れたパター
ンを発見するのに必要とされる。
③コミュニケーション:変化を生み出すために従業員等に働きかける能力
が必要である。すなわち、,新しい仕方を説明するだけ
でなく、それを実現するためのプロセスにかんする説明
を行ことである。
④実現への努力:困難な目標の実現に向けて努力することに加えて、変化
そのものが容易ではな、く、業績が悪化してもあきらめな
い勇気が必要である。
特に組織デザインにおいて重要と思われる、①組織デザイン諸相の結びつき度合い、②モチベーションの仕組み、③階層について述べていく。
①結びつき度合い(タイト・カップリング(密結合)/
ルース・カップリング(疎結合)
経済活動を組織化する費用、すなわちコーディネーション費用やモチ
べ―ション費用が存在しており、こうした取引費用の節約という原理
によって組織パターンが決定される。特に、距離を置いた市場契約に
依存した取引をやめて、,それを企業内で組織化する方が低い費用で
実現できる場合、企業の内部組織に依存して取引を行う。
②モチベーション
モチベーション問題が生じるのは、諸個人の利己心に任せているだけ
では、組織が望むような方向へと導けないためである。
このような利害の衝突が生じるのは、個々のメンバーが組織内で自分
が選択する行動や意思決定にと もなう便益と費用にたいして、すべて
の責任を負うわけではないからである.。
経済学で、プリンシパル・エージエント問題といわれるものである。。
組織デザインの視点からすると,モチベーシヨン問題というのは、組織の利害とそのメンバーの利 害とを一致させることによって、メンバーが行う選択の整合性を高められるような組織-アーキテ クチャ、ルーティン、文化を形づくることにほかならない。
一般的には以下のことが言える。
努力度合いも増すごとに便益が大きくなる環境では、最適な努力水準も大きくなるので,インセンテイブが大きい制度がよい。つまり業績測定を正確かつ適時に把握困難なタスクについては、明示的な業績インセンティブを制度が望ましい。逆に業績測定が正確にまたタイムリーに行えないタスクについては、インセンティブが強い制度は望ましくない。この問題は、ある人や組織にマルチタスクの仕事をアサインする場合に重要となる。現在の業績を維持すると同時に,新規事業の開拓を使命とするケースでは、.前者の業績評価は,比較的明確であるが、後者の業績評価は明確でなく、向けられる努力の質に関する情報は,かなり把握しずらいばかりではなく成果がでるのに時間がかかってしまう。マルチタスクでそれぞれ期待する成果を出していかなければならない場合には、双方のタスクに注意を向けさせ、それぞれのタスクの努力水準を増やすことで得られる利得の大きさ を,均等化しなければならない。 マルチタスクが必要とされる場合には,双方のアクティビテ イにたいして,相対的に弱いインセンティブを提供するのがベストである。なぜならば、インセンティブを強くすると、個人にとっては、現在の業績を維持することに注力することが合理的となるからである。
③階層
現在のように環境変化が激しく、規模の経済が必ずしも求められない状況では、以下のことを重視した組織デザインが求められる。
◇戦略や企業政策を透明にする。
◇相対的に小規模の独立した組織ユニットとする。
◇組織ユニットのリーダに対して,オペレーションや戦略にかかわる
多くの権限を委譲するとともに結果に対する厳格な責任を負わせる。
◇ディレイヤリングのプロセス置いて,ヒエラルキーの階層の数を滅ら
していく
◇中央スタッフの職位数を減らしていく.。
◇全社的な業績に連動した報酬の増加と合わせて、組織ユニットと
個人の業績にたいして提供するインセンティブを強化する
◇経営者のトレーニングと開発に投入する資源を増やす.
◇ヒエラルキーのトップからロワーに至る全体的なコミュニケーション
というよりも、むしろマネジヤ]とスタッフとの間の水平的な結びつきや
コミュニケ」ションを促す。
◇適切な業績評価を促すとともに,組織ユニット間,ならびに上下間の
コミュニケーションを促進できるように情報システムを改善する.。
期待して読んだ割りには、論理の展開、結論とも注目に値するものは
なかった。分かりやすくしようとしたためか、モデルや数式を説明せす、
文書でだらだらと平凡な結論のみを書いているように見えるところが
かなりあった。平凡な結論でも経済学的なモデル分析から導出された
ものなら、その前提を変えたら結論はどうなるかと思考をめぐらすこと
ができるのだが。
企業組織を経済学的に分析することを整理するため、
別途「経済システムの比較制度分析」の読書ノートを作ることとしたい。
その論理過程が面白いと
2010年1月11日月曜日
科学的管理法(新訳)-マネジメントの原点-
この本の前書きに書いてあるが、加護野教授や野中教授が、経営学の古典的名著を復刻させようとされており、その中の一冊として出版されたとのことである。テイラーの「科学的管理法」といえば、「動作・時間研究」で有名で、労働者を機械のようにもっとも効率的に働かせるのにはどうすればよいかについて書いた本というイメージがある。Gary Hameは、「The Future of Management 」で、今後の経営管理のあり方を書いたが、その中で、今日までの官僚型組織を中心とする効率中心の経営管理のパラダイムを克服すべきと書き、その起源をテイラーに求めている。Hamelは、テイラーの科学的管理法について、以下のように書いている。
ほとんどの歴史家が、フレデリック・ウインスロー・テイラーを近代経営管理の起源の近くに位置づけて、20世紀のもっとも影響力のあった経営管理のイノベ-タとみなしている。テイラーは、作業の構成に対する経験的なデ-タ主導のアプローチが、生産性の大幅な向上をもたらすと考えていた。
・・・・・経営管理は、「明確に定義された法則とルールと原理に依拠する真の科学」にできると、彼は信じていた。実際の話、テイラーがいかにも彼らしい秩序だった天界から、下界を見下ろして、彼の教えを広め続けているシックスシグマの実践者たちにやさしく微笑みかけるのが目に浮かぶようだ。・・・この生産性向上に伴って、官僚主義化も進行した。労働者を機械のように動かすというテイラ-の目標を達成するためには、標準化されたルーティン作業、厳密に記された職務マニュアル、トップから指示される目標、階層的な報告体系に支えれた官僚型組織を築く以外に方法はなかったのだ。
この中の、「労働者を機械のように動かす」、「トップから指示される目標」、「官僚型組織」のイメージが一般的である。しかし、実際にこの本を読んで、テイラーの科学的管理法がそうばかりでもないことを知った。まず初めに、テイラーは、マネジメントの目的を、雇用主に「限りない繁栄」もたらし、併せて働き手に「最大限の豊かさ」を届けることだと宣言している。働き手に配慮し、働き手からの提案を評価し、全社展開すべしとも言っており、働き手を機械のように捉えていた訳ではない。日本で一般的なQCサークルによる改善活動に近い考え方をしていた面があると思う。
1.科学的管理法の原則
今までのマネジメントは、一人一人の働き手が全力を尽くし、持てる 識や技能を総動員し、創意工夫や善意を十分に発揮するよう、お膳立てをするのがマネャーの仕事であった(これを「「自主性とインセンティブを柱としたマネジメント」と言っている。)。一方、科学的マネジメントは、 マネジャーが作業の中身まで深く踏み込み、これまで、現場の労働者に任せ切りにしてきた仕事の多くを、マネジャーが引き取り、自分たちでこなさなくてはいけないということである。マナジャーは、部下たちを助け導いていくほか、通例とは比べものにならないほど大きな結果責任を果たす必要がある。
このように、働き手とマネジャーが、定量的にPDCAを回しながら改善活動を行っていくという日本的経営と極めて近いことを100年も前に言っていたのには驚く。
本の中では、「銑鉄の運搬作業における取り組み」、「シャベルすくい作業研究」、「レンガ積における検証」「ベアリング用ボールの検品に対する考察」等事例研究が述べられている。
事例から共通に言えるのは、科学的手法の普及のためには、各働き手の判断に代えて、数多くの決まり、規則、定石などを設けなくてはならず、しかもそれらを体系的に記録していつでも参照できるようにすることである。さらに、一人ひとりが一日にどのような仕事をどれだけ なすべきかをマネジャーが十分に理解し、一人ひとり 人材を吟味、指導、育成していくことが必要である。
2.科学的な管理法の実践
科学的な管理を実践していくためには、以下のステップが必要である。
①分析対象の作業に非常に長けた人材を、10人~15人程度選り抜く。
②各人が作業の中でどのような操作や動作をするか、基本的なものを
押さえるとともに使用ツールについても把握する。
③各基本動作に要する時聞をストップウォッチで計測し、各動作もっと
も短時間でこなすための方法を選ぶ。
④適切でない動作、時間がかかりすぎる動作などをすべて取りやめる。
⑤不必要な必要な動作を全て取り除いたあと、最も要領のよい、最適
な動作だけをつなぎ合わせて、最善のツールを用意する。
もっとも重要な法則は、「課題」を軸とした発想が働き手の効率に及ぼす影響だという。まねじゃーは、働き手は一定の課題を決まった時間内にこなすように指示をし、働き手はその指示(基準)に基づいて自分の一日の進捗を測り、目標を達成したかどうかを見る。
最後に、科学的管理法のポイントを以下のように列挙する。
◇経験則ではなく科学、
◇不協和音ではなく、調和、単独
◇独作業ではなく協力
◇はどほどでよしとするのではなく、最大慢の出来高
3.テイラーの世界観
テイラーは、この本の最後で以下のように書いている。「動作・時間」研究の背景にこのような世界観もっていたことが分かり、大変興味深い。
一人ひとりの仕事の効率アップムと豊かさの追求字的管理法を幅広く採用すれば、モノ作りに携る人々の生産性はごく短期間に2倍に跳ね上がるだろう。それが国全体にとってどのような意味を持つか考えていただきたい。生活必需品と奢侈品がともに増えて国中に行き渡るほか、時短が望ましい場合にはそれが実現する可能性が生じ、教育、文化、娯楽などの機会が広がるのだ。
最近、会社の施策として「ソフトウエア開発力強化」に取り組もうとしており、その意味で、テイラーのこの本は、工場の現場を、ソフトウエア開発の現場と考えると大変身近なものと感じることができた。ソフトウエアの開発現場では、個々人の能力差が激しいこともあり、定量化がなかなかできておらず、施策の効果も定量的に捉えられていない。テイラーのいうところの現場マネジャーとして、メンバーを抽出しベンチマークを行っていく手法等踏み込んだ検討等、前向きに現場に入っていくマインドの準備できた感じがする。
ほとんどの歴史家が、フレデリック・ウインスロー・テイラーを近代経営管理の起源の近くに位置づけて、20世紀のもっとも影響力のあった経営管理のイノベ-タとみなしている。テイラーは、作業の構成に対する経験的なデ-タ主導のアプローチが、生産性の大幅な向上をもたらすと考えていた。
・・・・・経営管理は、「明確に定義された法則とルールと原理に依拠する真の科学」にできると、彼は信じていた。実際の話、テイラーがいかにも彼らしい秩序だった天界から、下界を見下ろして、彼の教えを広め続けているシックスシグマの実践者たちにやさしく微笑みかけるのが目に浮かぶようだ。・・・この生産性向上に伴って、官僚主義化も進行した。労働者を機械のように動かすというテイラ-の目標を達成するためには、標準化されたルーティン作業、厳密に記された職務マニュアル、トップから指示される目標、階層的な報告体系に支えれた官僚型組織を築く以外に方法はなかったのだ。
この中の、「労働者を機械のように動かす」、「トップから指示される目標」、「官僚型組織」のイメージが一般的である。しかし、実際にこの本を読んで、テイラーの科学的管理法がそうばかりでもないことを知った。まず初めに、テイラーは、マネジメントの目的を、雇用主に「限りない繁栄」もたらし、併せて働き手に「最大限の豊かさ」を届けることだと宣言している。働き手に配慮し、働き手からの提案を評価し、全社展開すべしとも言っており、働き手を機械のように捉えていた訳ではない。日本で一般的なQCサークルによる改善活動に近い考え方をしていた面があると思う。
1.科学的管理法の原則
今までのマネジメントは、一人一人の働き手が全力を尽くし、持てる 識や技能を総動員し、創意工夫や善意を十分に発揮するよう、お膳立てをするのがマネャーの仕事であった(これを「「自主性とインセンティブを柱としたマネジメント」と言っている。)。一方、科学的マネジメントは、 マネジャーが作業の中身まで深く踏み込み、これまで、現場の労働者に任せ切りにしてきた仕事の多くを、マネジャーが引き取り、自分たちでこなさなくてはいけないということである。マナジャーは、部下たちを助け導いていくほか、通例とは比べものにならないほど大きな結果責任を果たす必要がある。
このように、働き手とマネジャーが、定量的にPDCAを回しながら改善活動を行っていくという日本的経営と極めて近いことを100年も前に言っていたのには驚く。
本の中では、「銑鉄の運搬作業における取り組み」、「シャベルすくい作業研究」、「レンガ積における検証」「ベアリング用ボールの検品に対する考察」等事例研究が述べられている。
事例から共通に言えるのは、科学的手法の普及のためには、各働き手の判断に代えて、数多くの決まり、規則、定石などを設けなくてはならず、しかもそれらを体系的に記録していつでも参照できるようにすることである。さらに、一人ひとりが一日にどのような仕事をどれだけ なすべきかをマネジャーが十分に理解し、一人ひとり 人材を吟味、指導、育成していくことが必要である。
2.科学的な管理法の実践
科学的な管理を実践していくためには、以下のステップが必要である。
①分析対象の作業に非常に長けた人材を、10人~15人程度選り抜く。
②各人が作業の中でどのような操作や動作をするか、基本的なものを
押さえるとともに使用ツールについても把握する。
③各基本動作に要する時聞をストップウォッチで計測し、各動作もっと
も短時間でこなすための方法を選ぶ。
④適切でない動作、時間がかかりすぎる動作などをすべて取りやめる。
⑤不必要な必要な動作を全て取り除いたあと、最も要領のよい、最適
な動作だけをつなぎ合わせて、最善のツールを用意する。
もっとも重要な法則は、「課題」を軸とした発想が働き手の効率に及ぼす影響だという。まねじゃーは、働き手は一定の課題を決まった時間内にこなすように指示をし、働き手はその指示(基準)に基づいて自分の一日の進捗を測り、目標を達成したかどうかを見る。
最後に、科学的管理法のポイントを以下のように列挙する。
◇経験則ではなく科学、
◇不協和音ではなく、調和、単独
◇独作業ではなく協力
◇はどほどでよしとするのではなく、最大慢の出来高
3.テイラーの世界観
テイラーは、この本の最後で以下のように書いている。「動作・時間」研究の背景にこのような世界観もっていたことが分かり、大変興味深い。
一人ひとりの仕事の効率アップムと豊かさの追求字的管理法を幅広く採用すれば、モノ作りに携る人々の生産性はごく短期間に2倍に跳ね上がるだろう。それが国全体にとってどのような意味を持つか考えていただきたい。生活必需品と奢侈品がともに増えて国中に行き渡るほか、時短が望ましい場合にはそれが実現する可能性が生じ、教育、文化、娯楽などの機会が広がるのだ。
最近、会社の施策として「ソフトウエア開発力強化」に取り組もうとしており、その意味で、テイラーのこの本は、工場の現場を、ソフトウエア開発の現場と考えると大変身近なものと感じることができた。ソフトウエアの開発現場では、個々人の能力差が激しいこともあり、定量化がなかなかできておらず、施策の効果も定量的に捉えられていない。テイラーのいうところの現場マネジャーとして、メンバーを抽出しベンチマークを行っていく手法等踏み込んだ検討等、前向きに現場に入っていくマインドの準備できた感じがする。
2010年1月6日水曜日
制度と文化-組織を動かす見えない力-
個々人の動きが組織行動としてどうなるか、逆に組織は個々人の意識・行動をどう規定するのかに相変わらず関心を持っている。特にこの本には、組織が個人の意識をどう規定するのか、経済的な利得だけでなく、行動を動機つけまた行動の善悪を把握する個人の「意識」についての分析を期待した。社会学により「企業組織と個人」の分析を行っている書籍とも言える。
まずは、企業文化が個人の意識を一方的に規定する考えとして、1980年代にBEST SELLERとなった「セオリーZ」、「エクセレントカンパニー」、さらには「シンボリック・マネジャー」を取り上げる。共通する考えは、「共通の理念や価値観あるいは信念のもとに組織全体として統合されており、それによって従業員が全社的に結束し、優れた経営業績をあげている企業の話」である。
2000年ごろ、この本で取り上げられた「エクセレントカンパニー」でそのままエクセレントカンパニーで残っているところが少ないとの話があったが、企業文化が経営業績を規定するとの考えでエクセレントカンパニーを選定していたなら、十分ありえる話ではある。
1.組織文化と組織アイデンティティ
組織文化をエドガー・シャインは「組織文化とリーダシップ」の中で以下のように規定している。
[外的適応]①使命と戦略、②目標、③手段、④測定、⑤修正
[内的適応]①共通言語と概念カテゴリー、②集団境界と包摂、
排除の基準、③権力と地位、④親密さ・友情・愛
⑤賞罰、⑥イデオロギーと宗教
つまり組織文化は、一方では、組織の価値や目標や活動を明確に
定めることを通じて、その組織を取り巻く環境への外的機能を果た
し、他方では、その組織における成員たちを結束させ協働行為を
活性化する事を通じ、内的統合を図ることによって、組織の存在
(生成・維持・変容)を根本から基礎付けていく。
組織のユニークさを作り上げているのがこの組織文化(共有価値観、
共通言語)であるとの考えが主流であったが、これに対し、
「集団的なまとまりや集合的なアイデンティティの基礎となっている
のは、内集団と外集団とを区別する成員性の認知(自分が特定の
集団メンバーであって、他の集団メンバーではないという点に関する
自己認識)それ自体であって、その他の諸要因(共有価値・目標や
機能的な相互依存性や相互の魅力など)は本質的なところでは
大した意味を持たない。」というラディカルな主張が、社会心理学者
のヘンリー・タイフェルによってなされたとのこと。
この主張は、個人と組織をつなぐ大変面白い味方だと思う。
つまり、人々が価値を共有したり、相互に魅力を感じていなくても
、成員性の認知という条件さえ満たされていれば、集団が形成され、
またその反対に成員性の認知が存在しなければ、共有価値が相互
の魅力があったとしても、集団は形成されないことを言っている。
成員性の認知が集団存在の必要十分条件である。
さらに面白い実験結果が紹介されている。
以下の4つの実験条件が用意され、各条件で集団への同一視の
程度と生産性の関係を分析した。集団顕在性の条件として、集団
には特定の名前をつけ、制服を与えるということを行った。
以下の4つの実験条件で一番生産性があがったのはどこか。
①集団顕在性(高)×集団間競争(あり)
②集団顕在性(低)×集団間競争(あり)
③集団顕在性(低)×集団間競争(なし)
④集団顕在性(高)×集団間競争(なし)
集団への同一性意識も高く、生産性も高いのは、①の場合であり、
不思議なことに、集団への同一性意識と生産性がもっとも低かった
のは、④の場合のようです。集団間での競争関係が成立していない
ところでむやみに集団を強調すると、この強調が全く意味のないこと
ととられてしまい、そのためにかえって作業を行ううえでの士気の低下
が生じてしまったと解釈できる。
2.組織理論-効率性モデルVS環境・認知モデル
「組織は戦略に従う」という考え方は、チャンドラーが「経営戦略と組織」で提唱した考えであり、
原材料の調達と工業製品の販売機能を社内に取り込んでそれらを一貫しして行う垂直統合戦略に対しては、意思決定は中央集権で、その下に製造や販売の職能別に分かれた「集権的職能別組織」が採用され、事業分野を拡大していくことにより会社を成長させていく多角化戦略には、事業部制組織が採用されるという考え方です。例として、デュポン社を取り上げ、第一次大戦中に無煙火薬の生産と販売に集中して垂直統合方式によって事業を拡大したが、この組織で多角化を行ったところ大幅な赤字という事態を迎えた。それを克服するため1921年に分権的事業部制組織を採用し、この危機を乗り切った事例等を挙げている。大変分かりやすい理論であるが、これに対して「組織は勝者の世界観に従う」という説を展開したのが、「企業コントロールの転換」を著したフリグスタインである。国家による規制や企業の内部体制、業界等の企業間関係等に代表される制度的プレッシャーにより、その時代時代で、以下の観点・レンズをもつ人材が社内で影響力を持ち、その方向で組織を再編成するという考えだ。この本ではこの考え方を「組織は流行に従う」と書いている。
◇生産性の観点を重視する「製造によるコントロール」
◇新たな市場の開拓や製品の差別化を重視しする「販売とマー
ケッティングを通したコントロール」、
◇業内容よりも財務数値を重視した「財務によるコントロール」
3.各組織論を位置つける企業分析フレームワーク
文化や制度という視点から組織現象を理解しようとするときに、「組織(メゾ)⇒個人(ミクロ)」、「制度(マクロ)⇒組織(メゾ)という方向で作用する影響関係の内容と因果関係のメカニズムを明らかにしていく一方で、「個人(ミクロ)⇒組織(メゾ)」、「組織(メゾ)⇒制度(マクロ)という逆方向の影響関係の内容と因果関係のメカニズムを明らかにしていく必要がある。
この文化の枠組みや自分が置かれている社会的文脈からの影響度合いについて、影響をすごく受ける事を「社会化過剰」といい、影響を受けないきおとを「社会化過少」と定義している。
このようなフレームワークで、それぞれの組織論を整理すると以下のようになる。
◇企業文化論(「エクセレントカンパニ」等):社会化過剰の人間観
+社会化過少の組織観
個人は組織に強く影響されるが、組織は制度(環境)
にあまり影響されないとの考え。
◇効率性モデル(「組織は戦略に従う」等):社会化過少の組織観
+社会化過少の人間観
組織は、制度(環境)にあまり影響されず、個人も
組織にあまり影響されない。
◇組織アイデンティティ論(ヘンリー・タイフル):マクロ・メゾ・ミクロ関係
の解明
◇新制度派組織論(「企業コントロールの転換]等):社会化過剰の
組織観+社会化過剰の人間観
組織は、制度(環境)に強く影響され、個人も組織に
影響される。
新制度派組織論は、新しい視点を提供してこいたが、①制度の生成や変化についての分析
が甘い。②個人の認知プロセスについての理論化の不備、③組織や個人の利害関心と主体的な行為能力の欠如等の問題点を持っている。
4.複合戦略モデル
著者は、新制度派組織論の問題を解決するモデルとして「複合戦略モデル」を提唱する。「道具箱としての文化」「行為戦略」「制度固有のロジック」という3つのアイデアを織り込んだモデルとのことである。「道具としての文化」とは、人間が文化特定の要素を生活上の道具として能動的かつ主体的に選んで「使って」いくことの意味であるようで、また「行為戦略」とは、様々な文化的要素ののレパートリーの中から、現実の生活を送る上でもっとも役に立つと思われるものをとって行為を組織化することの意味のようである。「制度固有のロジック」とは家族制度、政治制度、国家制度、市場制度などそれぞれの社会領域に基本的な構成原理で、追求すべき目標、価値、評価の基準等のことを言っている。
著者は、この複合戦略モデルでは、制度的・文化的プレッシャーが、最終的な経営戦略に反映されるまでに間に、次の2つのプロセスが介在するという。
①制度的・文化的要請が個人ないし集団の行為戦略のフィルターを介して経営戦略案に選択的に取り込まれるプロセス。つまり個人・集団レベルにおける行為戦略と経営戦略案の間の複合性
②個人・集団レベルで構想された複数の経営戦略案が、組織内の政治プロセスを経て最終的な
経営戦略へと絞りこまれていくプロセス。つまり組織レベルにおける複数の経営戦略案の間の複合性。
複合戦略モデルが解決しようとした課題については、まさに同感であるが、解決のための具体的モデルがどうも十分でないように思う。十分でないというよりほとんど提示されていない。
いろんな組織論の背景および概念モデルについての情報を得るにはよい本であるが、複合戦略モデルの具体論がないので、貴重な時間を割いて読む必要はないかもしれない。
まずは、企業文化が個人の意識を一方的に規定する考えとして、1980年代にBEST SELLERとなった「セオリーZ」、「エクセレントカンパニー」、さらには「シンボリック・マネジャー」を取り上げる。共通する考えは、「共通の理念や価値観あるいは信念のもとに組織全体として統合されており、それによって従業員が全社的に結束し、優れた経営業績をあげている企業の話」である。
2000年ごろ、この本で取り上げられた「エクセレントカンパニー」でそのままエクセレントカンパニーで残っているところが少ないとの話があったが、企業文化が経営業績を規定するとの考えでエクセレントカンパニーを選定していたなら、十分ありえる話ではある。
1.組織文化と組織アイデンティティ
組織文化をエドガー・シャインは「組織文化とリーダシップ」の中で以下のように規定している。
[外的適応]①使命と戦略、②目標、③手段、④測定、⑤修正
[内的適応]①共通言語と概念カテゴリー、②集団境界と包摂、
排除の基準、③権力と地位、④親密さ・友情・愛
⑤賞罰、⑥イデオロギーと宗教
つまり組織文化は、一方では、組織の価値や目標や活動を明確に
定めることを通じて、その組織を取り巻く環境への外的機能を果た
し、他方では、その組織における成員たちを結束させ協働行為を
活性化する事を通じ、内的統合を図ることによって、組織の存在
(生成・維持・変容)を根本から基礎付けていく。
組織のユニークさを作り上げているのがこの組織文化(共有価値観、
共通言語)であるとの考えが主流であったが、これに対し、
「集団的なまとまりや集合的なアイデンティティの基礎となっている
のは、内集団と外集団とを区別する成員性の認知(自分が特定の
集団メンバーであって、他の集団メンバーではないという点に関する
自己認識)それ自体であって、その他の諸要因(共有価値・目標や
機能的な相互依存性や相互の魅力など)は本質的なところでは
大した意味を持たない。」というラディカルな主張が、社会心理学者
のヘンリー・タイフェルによってなされたとのこと。
この主張は、個人と組織をつなぐ大変面白い味方だと思う。
つまり、人々が価値を共有したり、相互に魅力を感じていなくても
、成員性の認知という条件さえ満たされていれば、集団が形成され、
またその反対に成員性の認知が存在しなければ、共有価値が相互
の魅力があったとしても、集団は形成されないことを言っている。
成員性の認知が集団存在の必要十分条件である。
さらに面白い実験結果が紹介されている。
以下の4つの実験条件が用意され、各条件で集団への同一視の
程度と生産性の関係を分析した。集団顕在性の条件として、集団
には特定の名前をつけ、制服を与えるということを行った。
以下の4つの実験条件で一番生産性があがったのはどこか。
①集団顕在性(高)×集団間競争(あり)
②集団顕在性(低)×集団間競争(あり)
③集団顕在性(低)×集団間競争(なし)
④集団顕在性(高)×集団間競争(なし)
集団への同一性意識も高く、生産性も高いのは、①の場合であり、
不思議なことに、集団への同一性意識と生産性がもっとも低かった
のは、④の場合のようです。集団間での競争関係が成立していない
ところでむやみに集団を強調すると、この強調が全く意味のないこと
ととられてしまい、そのためにかえって作業を行ううえでの士気の低下
が生じてしまったと解釈できる。
2.組織理論-効率性モデルVS環境・認知モデル
「組織は戦略に従う」という考え方は、チャンドラーが「経営戦略と組織」で提唱した考えであり、
原材料の調達と工業製品の販売機能を社内に取り込んでそれらを一貫しして行う垂直統合戦略に対しては、意思決定は中央集権で、その下に製造や販売の職能別に分かれた「集権的職能別組織」が採用され、事業分野を拡大していくことにより会社を成長させていく多角化戦略には、事業部制組織が採用されるという考え方です。例として、デュポン社を取り上げ、第一次大戦中に無煙火薬の生産と販売に集中して垂直統合方式によって事業を拡大したが、この組織で多角化を行ったところ大幅な赤字という事態を迎えた。それを克服するため1921年に分権的事業部制組織を採用し、この危機を乗り切った事例等を挙げている。大変分かりやすい理論であるが、これに対して「組織は勝者の世界観に従う」という説を展開したのが、「企業コントロールの転換」を著したフリグスタインである。国家による規制や企業の内部体制、業界等の企業間関係等に代表される制度的プレッシャーにより、その時代時代で、以下の観点・レンズをもつ人材が社内で影響力を持ち、その方向で組織を再編成するという考えだ。この本ではこの考え方を「組織は流行に従う」と書いている。
◇生産性の観点を重視する「製造によるコントロール」
◇新たな市場の開拓や製品の差別化を重視しする「販売とマー
ケッティングを通したコントロール」、
◇業内容よりも財務数値を重視した「財務によるコントロール」
3.各組織論を位置つける企業分析フレームワーク
文化や制度という視点から組織現象を理解しようとするときに、「組織(メゾ)⇒個人(ミクロ)」、「制度(マクロ)⇒組織(メゾ)という方向で作用する影響関係の内容と因果関係のメカニズムを明らかにしていく一方で、「個人(ミクロ)⇒組織(メゾ)」、「組織(メゾ)⇒制度(マクロ)という逆方向の影響関係の内容と因果関係のメカニズムを明らかにしていく必要がある。
この文化の枠組みや自分が置かれている社会的文脈からの影響度合いについて、影響をすごく受ける事を「社会化過剰」といい、影響を受けないきおとを「社会化過少」と定義している。
このようなフレームワークで、それぞれの組織論を整理すると以下のようになる。
◇企業文化論(「エクセレントカンパニ」等):社会化過剰の人間観
+社会化過少の組織観
個人は組織に強く影響されるが、組織は制度(環境)
にあまり影響されないとの考え。
◇効率性モデル(「組織は戦略に従う」等):社会化過少の組織観
+社会化過少の人間観
組織は、制度(環境)にあまり影響されず、個人も
組織にあまり影響されない。
◇組織アイデンティティ論(ヘンリー・タイフル):マクロ・メゾ・ミクロ関係
の解明
◇新制度派組織論(「企業コントロールの転換]等):社会化過剰の
組織観+社会化過剰の人間観
組織は、制度(環境)に強く影響され、個人も組織に
影響される。
新制度派組織論は、新しい視点を提供してこいたが、①制度の生成や変化についての分析
が甘い。②個人の認知プロセスについての理論化の不備、③組織や個人の利害関心と主体的な行為能力の欠如等の問題点を持っている。
4.複合戦略モデル
著者は、新制度派組織論の問題を解決するモデルとして「複合戦略モデル」を提唱する。「道具箱としての文化」「行為戦略」「制度固有のロジック」という3つのアイデアを織り込んだモデルとのことである。「道具としての文化」とは、人間が文化特定の要素を生活上の道具として能動的かつ主体的に選んで「使って」いくことの意味であるようで、また「行為戦略」とは、様々な文化的要素ののレパートリーの中から、現実の生活を送る上でもっとも役に立つと思われるものをとって行為を組織化することの意味のようである。「制度固有のロジック」とは家族制度、政治制度、国家制度、市場制度などそれぞれの社会領域に基本的な構成原理で、追求すべき目標、価値、評価の基準等のことを言っている。
著者は、この複合戦略モデルでは、制度的・文化的プレッシャーが、最終的な経営戦略に反映されるまでに間に、次の2つのプロセスが介在するという。
①制度的・文化的要請が個人ないし集団の行為戦略のフィルターを介して経営戦略案に選択的に取り込まれるプロセス。つまり個人・集団レベルにおける行為戦略と経営戦略案の間の複合性
②個人・集団レベルで構想された複数の経営戦略案が、組織内の政治プロセスを経て最終的な
経営戦略へと絞りこまれていくプロセス。つまり組織レベルにおける複数の経営戦略案の間の複合性。
複合戦略モデルが解決しようとした課題については、まさに同感であるが、解決のための具体的モデルがどうも十分でないように思う。十分でないというよりほとんど提示されていない。
いろんな組織論の背景および概念モデルについての情報を得るにはよい本であるが、複合戦略モデルの具体論がないので、貴重な時間を割いて読む必要はないかもしれない。
2010年1月4日月曜日
大型商談を成約に導く「SPIN」営業術
法人向けの営業は、実際に経験した者でないと、実感として理解できないと思う。自分自身はここ数年、直接お客様へ営業をする機会が少なくなっていたが、以前の経験を思い出しポイントを整理するとともに、IT業界における営業のありかたを考えるために「大型商談を成功に導く「SPIN」営業術」を読む。35000件を超える商談の分析にもとづいているというだけあり、特定の成功体験に基づくノウハウ本ではなく、小型商談と大型商談の特徴を踏まえた法人営業のあり方を考えるのに示唆に富む本だと思う。まず大型商談(IT、設備機器の商談等)と小型商談(事務用品の商談等)の違いを以下のように整理し、小型商談の成功ノウハウが大型商談においては、障害となることがあると説く。
自分自身の経験でそうだと思うことが、多数の商談の調査・分析によって明確にされており、小気味よささえ感じるところがある。
<顧客>◇大型:既に取引がある。⇔小型:一度だけの取引
<購買リスク>◇大型:組織全体に影響⇔小型:個人的リスク
<意志決定>◇大型:複数ステイクホルダ⇔小型:購買者個人
<時間>◇大型:3ヶ月以上⇔小型:即決または数回
1.商談の四段階
商談を以下の四段階に分けて、小型商談、大型商談それぞれにおける成功ポイントを整理していく。
(1)予備段階
自己紹介や話の切り出しの段階である。
(2)調査段階
見込み客のニーズを探るための段階である。大型商談では
特に重要。この段階の質問を、
S(Situation question)、
P(Problem question)、
I(Implication question)、
N(Need-payoff question)
に整理している。
この本のエッセンスはここにあるので、詳細は後述する。
(3)解決能力を示す段階
見込み客に提案している商品は買うに値するものだと必要が
ある。そのために提案している商品が、見込み客の問題解決
に大きく貢献できることを示す段階である。
(4)約束を取り付ける段階
小型商談では商品の購入であり、大型商談では受注に至るま
での数々の約束を取り付ける段階である。
大型商談では、上記の段階においても時間がかかり、それぞれの段階で、何ができれば成功なのか、失敗なのかを明確にする必要があり、以下の定義を行っている。
成功は「受注」、「進展」の場合のみであり、「継続」は失敗と定義つける。「進展」は、「さらに上位の意志決定者と会える」や「デモ参加、トライアル」等商談を前進させるアクションを含んでいる。それに対し、「継続」は、「なかなかよかったです。必要があればまた連絡します。」等商談は続くものの、前進させるような約束はなかった」場合と定義している。自分自身が実際営業していた時には「継続」でも成功と認識していた甘さがあったように思う。
また、商談の目標を設定すること、さらにその目標が達成できたかどうかのチエックをすることの重要性を説いている。これも言うは安しだが、実行はなかなか難しい。しかし成否を分けるポイントである。大型商談の場合、見込み客のニーズをつかむといっても以下のような特徴があり、なかなか難しい。
◇ニーズが育つのに時間がかかる。
◇複数の意見や考え、影響がニーズに影響してくる。
◇ニーズは理性的に判断される。
◇購買した商品がなんらか問題ある場合、その決定をした人物
の責任問題になる可能性が高い。
さらに見込み客のニーズを以下のように「潜在ニーズ」と「顕在ニーズ」に分ける。
□潜在ニーズ:見込み客が口にした問題や不満のことで
「現行のシステムはスループットが悪い」、「今のスピードに満足
していない」等
□顕在ニーズ:見込み客が口にした欲求や欲望のことで
「もっとスピードの速いシステムが必要だ」「バックアップ機能が
ほしい」等
実際の事例を分析することにより、以下の結論を導く。
小型商談では潜在ニーズを多く見つければ、商談成立の確率が高まる。それに対して、大型商談では、どれだけ多くの潜在ニーズを見つけるかは、商談の成否にはそれほど影響せず、大型商談で必要なのは、ニーズを発見したあとにそれをどう料理するかがポイントと説く。成功のカギは、潜在ニーズをどう育て、どのような質問の仕方をすることで潜在ニーズを顕在ニーズに変えていけるかである。
2.潜在ニーズを探る質問方法
質問には、以下の二つのタイプがある。
①「発見のための質問」:見込み客から問題点、つまり潜在ニーズを聞き出す。
②「発展のための質問」:潜在ニーズを顕在ニーズへ発展させる。
(1)状況質問(Situation question)
見込み客の現状に関する事実を見つけ出す質問で、具体的には
「今はどんな設備をお使いですか」、「これを使い始めて何年ですか」「購買決定プロセスはど
うなっていますか」等であるが、調査によると、大型商談では失敗例で多く聞かれることや経験
の浅いセールスパーソンが多用するようだ。またこれを連発すると、見込み客は、商談に飽き
てイライラし始める。これも経験済みなのでよく分かる。
(2)問題質問(Problem question)
見込み客の問題点、支障、不満を探り出すもので、見込み客に潜在ニーズを語らせる質問で具体的には
「今の機械は使いにくくないですか」、「品質上の問題はないで
すか」等
であるが、調査によると小型商談での成功例で、多く使われていたことや経験豊富なセールスパーソンほうが使う」傾向が高いとの結果がでている。小型商談では効果絶大だが、大型商談では問題質問は潜在ニーズを浮き彫りにするが、大型商談では、潜在ニーズは成功の指標となっていない。問題質問力を向上させるために、以下を推奨している。
①商談の前に、見込み客が抱えているかも知れず、提案する
商品やサービスで解決可能な潜在的な問題を考えて少なくと
も三つは書き出してみる。
②その仮定した潜在的な問題を浮き彫りにするために、商談で
使う「問題質問」をいくつか書き出してみる。
3.調査段階での進め方-SPINの効用と活用-
大型商談における成否を分けている一番のポイントは、潜在ニーズを顕在ニーズへうまく変えることであるが、しかし「どうやって?」が問題である。この発展させるための質問法が「SPIN」であり、特に問題の深刻さを浮き彫りにする「示唆質問」、解決策や価値を明確化する「解決質問」が重要である。
大型商談では以下のような質問をしていくことが必要である。
《状況質問》
↓
《問題質問(問題点や不満などの質問による潜在ニーズ把握)》
↓
《示唆質問(問題の深刻さを浮き彫り》
↓
《解決質問(解決策の望ましさに関する質問により顕在ニーズ把握
↓
《解決策や解決能力の提案》
示唆質問の目的は、まさに見込み客が大したことはないと思っている問題を、アクションを起こすに足る大きな問題だと認識させることであり、具体的には、以下のような質問をすることである。
「それは生産高にどんな影響を及ぼしていますか」、
「そのせいでコストが高くなっていますか」
「そのことで計画されている事業拡大が遅れませんか」
示唆質問は、調査に「よると、大型商談での成功に大きな関係がある。見込み客が価値を認識できるようにする。「状況質問」や「問題質問」よりも質問しにくい。という特徴を持っている。
押し付けがましくせず問題点が及ぼす影響を一緒にかんがえようとしてくれる人のほうが、お門違いの解決策をせっかちに押し付けてくる人よりも安心され、長く付き合おうと思ってもらえる。
解決質問は、見込み客から提案された解決策の価値や効用に関する質問のことで、具体的には以下のような質問である。
「たとえばどんな利点があるでしょうか」、
「それがどう役に立つでしょうか」、
「この問題を解決することがどうして重要なのですか」等
調査によるとこの「解決質問」は、大型商談での成功に強く結びついている。解決策が見込み客に受け入れられやすくなる。とくに商談の意思決定者に影響力をもつ人物相手に対して効果がある。という特徴を持っている。また解決質問は、見込み客の「内部プレゼン」の練習になる。
4.解決能力を示す段階-「利点」ではなく「利益」を語れ-
解決能力を示す段階で、アピールすべきは「利益」であり、提案している商品の「特徴」や「利点」でないと説く。特に「利益」と「利点」を以下のように定義し、異なる概念であることを示す。
◇利点:製品やサービスがどのように使えるか、どのように見込み
客の役に立つかを説明するもので、具体的には以下のような
質問をすることである。
「ライバル社の機械よりも静かです」、
「自動供給装置で時間が節約できます」、
「コストが低く抑えられるということです」
調査によると、利点の強調は、小型商談では効果的だが、大型商談ではほとんど効果がない。という特徴を持つ。
◇利益:見込み客が口にした「顕在」ニ-ズに製品やサービスが
どのように応えられるかを説明するもので、具体的には以下の
ような質問することである。
「これならお客様の希望速度以上のスピードが可能です」、
「すぐの納品がご希望ですね。在庫はございます」、
「コストダウンをお求めとのことですが、この電力低減型なら
経済的です」
調査によると、セールスの規模にかかわらず、非常に高い効果がある。大型商談ではもっとも威力のある言葉の一つである。
5.反論への正しい対処法-基本は反論を惹起しないことが必要ー
売り手が、以下の行動をとったときに、見込み客のもっとも確率の高い反応は以下のとおりである。
<売り手の行動> <見込み客の反応>
・特徴の説明 ⇒ 価格の心配
・利点の説明 ⇒ 反論
・利益の説明 ⇒ 支持・賛成
つまり、営業マントレーニングでは、特徴や利点をアピールすることを教えており、つまり反論を作り出すことを教えてしまっているということである。さらに不用意に作り出した反論への対処法を教えているということで、マッチポンプのようなものである。
6.クロージング
商談で、受注を獲得するための直前の行動をクロージングするという。クロージングとは、見込み客を何らかの約束をする立場に立たせる売り手の行動のことであり、テクニック的には、見込み客が商品の購入に合意する前から取引が成立したかのように「納入日はいつにしましょうか」等で見込み客にプレッシャーをかける方法等がある。
クロージングは、低額商品では商談の成功率を伸ばす一方、高額商品では成功率をさげてしまう。決めるのが小さいことなら、プレッシャーはプラスに働くが、決めねばならないことが大きくなればなるほど、プレッシャーをかけると否定的な反応になる。
しかし一般的にクロージングテクニックは効果的だと勘違いされている。それは、セールス行動の中で、注文によって直接的な結果が得られる唯一の行動だからである。受注の直前の行動なので、これが受注に効果があったと思ってしまう。
大型商談でクロージングで成功するためには、以下の4つの効果的な行動をとることが必要である。
①「調査段階」と「解決能力を示す段階」に注目する。
②主な懸念事項に対応したかをチエックする。
③「利益」をまとめる。
④次の約束を提案する。
具体的には、「見込み客の上司に会う」、「商品の使用に同意
してもらう」、「調査を引き受ける」等商談を進めるアクション
である。
7.理論を実践に移すコツ
上記のように、大型商談の理論について、整理してきたが、実践
に移して成果をださなければ意味はない。理論を実践に移すコツ
として以下を挙げる。
①練習は「一度に一つ」
②少なくとも3回は試してみる。
③質よりも量
④練習は安全な状況で
そして、最後に、実践で成果を出していくための心構えとして、
以下のような「計画」、「実行」、「見直し」の必要性を説く。
「進展」をどのように獲得するかを考えることが重要であり、「情報の収集」や「関係を絶たない」などと言った「継続」の目標では満足してはいけない。しかし同時に非現実的なほど高い目標はたててはいけない。重要なのは商談を先に進めることである。計画に基づき行動したら以下を考える。
・今回の商談の目標は達成できたか。
・またこの商談ができるとしたら、どこを変えるか。
・この見込み客との先々の商談によい影響を与えるようなことを
何か得たか。
・ほかの見込み客との商談にも役立つことを何か学べたか。
さらに補足の章で、著者は、「数値に表すことができないのなら、その知識は貧弱な、粗末なものである」との認識強くもっていることもあり、 「SPIN」は本当に効くのか。売上向上をもたらすのかについて、いろんな実験で検証しようとしている。
特定の成功体験に基づく営業のノウハウではなく、あくまでも科学的に、実証的にアプローチしようとしている。SPINを中心としてノウハウはもちろん参考になるが、属人性が高く秘伝的ノウハウが多いといわれている法人営業を科学するアプローチ、マインドに新鮮さを感じた。
自分自身の経験でそうだと思うことが、多数の商談の調査・分析によって明確にされており、小気味よささえ感じるところがある。
<顧客>◇大型:既に取引がある。⇔小型:一度だけの取引
<購買リスク>◇大型:組織全体に影響⇔小型:個人的リスク
<意志決定>◇大型:複数ステイクホルダ⇔小型:購買者個人
<時間>◇大型:3ヶ月以上⇔小型:即決または数回
1.商談の四段階
商談を以下の四段階に分けて、小型商談、大型商談それぞれにおける成功ポイントを整理していく。
(1)予備段階
自己紹介や話の切り出しの段階である。
(2)調査段階
見込み客のニーズを探るための段階である。大型商談では
特に重要。この段階の質問を、
S(Situation question)、
P(Problem question)、
I(Implication question)、
N(Need-payoff question)
に整理している。
この本のエッセンスはここにあるので、詳細は後述する。
(3)解決能力を示す段階
見込み客に提案している商品は買うに値するものだと必要が
ある。そのために提案している商品が、見込み客の問題解決
に大きく貢献できることを示す段階である。
(4)約束を取り付ける段階
小型商談では商品の購入であり、大型商談では受注に至るま
での数々の約束を取り付ける段階である。
大型商談では、上記の段階においても時間がかかり、それぞれの段階で、何ができれば成功なのか、失敗なのかを明確にする必要があり、以下の定義を行っている。
成功は「受注」、「進展」の場合のみであり、「継続」は失敗と定義つける。「進展」は、「さらに上位の意志決定者と会える」や「デモ参加、トライアル」等商談を前進させるアクションを含んでいる。それに対し、「継続」は、「なかなかよかったです。必要があればまた連絡します。」等商談は続くものの、前進させるような約束はなかった」場合と定義している。自分自身が実際営業していた時には「継続」でも成功と認識していた甘さがあったように思う。
また、商談の目標を設定すること、さらにその目標が達成できたかどうかのチエックをすることの重要性を説いている。これも言うは安しだが、実行はなかなか難しい。しかし成否を分けるポイントである。大型商談の場合、見込み客のニーズをつかむといっても以下のような特徴があり、なかなか難しい。
◇ニーズが育つのに時間がかかる。
◇複数の意見や考え、影響がニーズに影響してくる。
◇ニーズは理性的に判断される。
◇購買した商品がなんらか問題ある場合、その決定をした人物
の責任問題になる可能性が高い。
さらに見込み客のニーズを以下のように「潜在ニーズ」と「顕在ニーズ」に分ける。
□潜在ニーズ:見込み客が口にした問題や不満のことで
「現行のシステムはスループットが悪い」、「今のスピードに満足
していない」等
□顕在ニーズ:見込み客が口にした欲求や欲望のことで
「もっとスピードの速いシステムが必要だ」「バックアップ機能が
ほしい」等
実際の事例を分析することにより、以下の結論を導く。
小型商談では潜在ニーズを多く見つければ、商談成立の確率が高まる。それに対して、大型商談では、どれだけ多くの潜在ニーズを見つけるかは、商談の成否にはそれほど影響せず、大型商談で必要なのは、ニーズを発見したあとにそれをどう料理するかがポイントと説く。成功のカギは、潜在ニーズをどう育て、どのような質問の仕方をすることで潜在ニーズを顕在ニーズに変えていけるかである。
2.潜在ニーズを探る質問方法
質問には、以下の二つのタイプがある。
①「発見のための質問」:見込み客から問題点、つまり潜在ニーズを聞き出す。
②「発展のための質問」:潜在ニーズを顕在ニーズへ発展させる。
(1)状況質問(Situation question)
見込み客の現状に関する事実を見つけ出す質問で、具体的には
「今はどんな設備をお使いですか」、「これを使い始めて何年ですか」「購買決定プロセスはど
うなっていますか」等であるが、調査によると、大型商談では失敗例で多く聞かれることや経験
の浅いセールスパーソンが多用するようだ。またこれを連発すると、見込み客は、商談に飽き
てイライラし始める。これも経験済みなのでよく分かる。
(2)問題質問(Problem question)
見込み客の問題点、支障、不満を探り出すもので、見込み客に潜在ニーズを語らせる質問で具体的には
「今の機械は使いにくくないですか」、「品質上の問題はないで
すか」等
であるが、調査によると小型商談での成功例で、多く使われていたことや経験豊富なセールスパーソンほうが使う」傾向が高いとの結果がでている。小型商談では効果絶大だが、大型商談では問題質問は潜在ニーズを浮き彫りにするが、大型商談では、潜在ニーズは成功の指標となっていない。問題質問力を向上させるために、以下を推奨している。
①商談の前に、見込み客が抱えているかも知れず、提案する
商品やサービスで解決可能な潜在的な問題を考えて少なくと
も三つは書き出してみる。
②その仮定した潜在的な問題を浮き彫りにするために、商談で
使う「問題質問」をいくつか書き出してみる。
3.調査段階での進め方-SPINの効用と活用-
大型商談における成否を分けている一番のポイントは、潜在ニーズを顕在ニーズへうまく変えることであるが、しかし「どうやって?」が問題である。この発展させるための質問法が「SPIN」であり、特に問題の深刻さを浮き彫りにする「示唆質問」、解決策や価値を明確化する「解決質問」が重要である。
大型商談では以下のような質問をしていくことが必要である。
《状況質問》
↓
《問題質問(問題点や不満などの質問による潜在ニーズ把握)》
↓
《示唆質問(問題の深刻さを浮き彫り》
↓
《解決質問(解決策の望ましさに関する質問により顕在ニーズ把握
↓
《解決策や解決能力の提案》
示唆質問の目的は、まさに見込み客が大したことはないと思っている問題を、アクションを起こすに足る大きな問題だと認識させることであり、具体的には、以下のような質問をすることである。
「それは生産高にどんな影響を及ぼしていますか」、
「そのせいでコストが高くなっていますか」
「そのことで計画されている事業拡大が遅れませんか」
示唆質問は、調査に「よると、大型商談での成功に大きな関係がある。見込み客が価値を認識できるようにする。「状況質問」や「問題質問」よりも質問しにくい。という特徴を持っている。
押し付けがましくせず問題点が及ぼす影響を一緒にかんがえようとしてくれる人のほうが、お門違いの解決策をせっかちに押し付けてくる人よりも安心され、長く付き合おうと思ってもらえる。
解決質問は、見込み客から提案された解決策の価値や効用に関する質問のことで、具体的には以下のような質問である。
「たとえばどんな利点があるでしょうか」、
「それがどう役に立つでしょうか」、
「この問題を解決することがどうして重要なのですか」等
調査によるとこの「解決質問」は、大型商談での成功に強く結びついている。解決策が見込み客に受け入れられやすくなる。とくに商談の意思決定者に影響力をもつ人物相手に対して効果がある。という特徴を持っている。また解決質問は、見込み客の「内部プレゼン」の練習になる。
4.解決能力を示す段階-「利点」ではなく「利益」を語れ-
解決能力を示す段階で、アピールすべきは「利益」であり、提案している商品の「特徴」や「利点」でないと説く。特に「利益」と「利点」を以下のように定義し、異なる概念であることを示す。
◇利点:製品やサービスがどのように使えるか、どのように見込み
客の役に立つかを説明するもので、具体的には以下のような
質問をすることである。
「ライバル社の機械よりも静かです」、
「自動供給装置で時間が節約できます」、
「コストが低く抑えられるということです」
調査によると、利点の強調は、小型商談では効果的だが、大型商談ではほとんど効果がない。という特徴を持つ。
◇利益:見込み客が口にした「顕在」ニ-ズに製品やサービスが
どのように応えられるかを説明するもので、具体的には以下の
ような質問することである。
「これならお客様の希望速度以上のスピードが可能です」、
「すぐの納品がご希望ですね。在庫はございます」、
「コストダウンをお求めとのことですが、この電力低減型なら
経済的です」
調査によると、セールスの規模にかかわらず、非常に高い効果がある。大型商談ではもっとも威力のある言葉の一つである。
5.反論への正しい対処法-基本は反論を惹起しないことが必要ー
売り手が、以下の行動をとったときに、見込み客のもっとも確率の高い反応は以下のとおりである。
<売り手の行動> <見込み客の反応>
・特徴の説明 ⇒ 価格の心配
・利点の説明 ⇒ 反論
・利益の説明 ⇒ 支持・賛成
つまり、営業マントレーニングでは、特徴や利点をアピールすることを教えており、つまり反論を作り出すことを教えてしまっているということである。さらに不用意に作り出した反論への対処法を教えているということで、マッチポンプのようなものである。
6.クロージング
商談で、受注を獲得するための直前の行動をクロージングするという。クロージングとは、見込み客を何らかの約束をする立場に立たせる売り手の行動のことであり、テクニック的には、見込み客が商品の購入に合意する前から取引が成立したかのように「納入日はいつにしましょうか」等で見込み客にプレッシャーをかける方法等がある。
クロージングは、低額商品では商談の成功率を伸ばす一方、高額商品では成功率をさげてしまう。決めるのが小さいことなら、プレッシャーはプラスに働くが、決めねばならないことが大きくなればなるほど、プレッシャーをかけると否定的な反応になる。
しかし一般的にクロージングテクニックは効果的だと勘違いされている。それは、セールス行動の中で、注文によって直接的な結果が得られる唯一の行動だからである。受注の直前の行動なので、これが受注に効果があったと思ってしまう。
大型商談でクロージングで成功するためには、以下の4つの効果的な行動をとることが必要である。
①「調査段階」と「解決能力を示す段階」に注目する。
②主な懸念事項に対応したかをチエックする。
③「利益」をまとめる。
④次の約束を提案する。
具体的には、「見込み客の上司に会う」、「商品の使用に同意
してもらう」、「調査を引き受ける」等商談を進めるアクション
である。
7.理論を実践に移すコツ
上記のように、大型商談の理論について、整理してきたが、実践
に移して成果をださなければ意味はない。理論を実践に移すコツ
として以下を挙げる。
①練習は「一度に一つ」
②少なくとも3回は試してみる。
③質よりも量
④練習は安全な状況で
そして、最後に、実践で成果を出していくための心構えとして、
以下のような「計画」、「実行」、「見直し」の必要性を説く。
「進展」をどのように獲得するかを考えることが重要であり、「情報の収集」や「関係を絶たない」などと言った「継続」の目標では満足してはいけない。しかし同時に非現実的なほど高い目標はたててはいけない。重要なのは商談を先に進めることである。計画に基づき行動したら以下を考える。
・今回の商談の目標は達成できたか。
・またこの商談ができるとしたら、どこを変えるか。
・この見込み客との先々の商談によい影響を与えるようなことを
何か得たか。
・ほかの見込み客との商談にも役立つことを何か学べたか。
さらに補足の章で、著者は、「数値に表すことができないのなら、その知識は貧弱な、粗末なものである」との認識強くもっていることもあり、 「SPIN」は本当に効くのか。売上向上をもたらすのかについて、いろんな実験で検証しようとしている。
特定の成功体験に基づく営業のノウハウではなく、あくまでも科学的に、実証的にアプローチしようとしている。SPINを中心としてノウハウはもちろん参考になるが、属人性が高く秘伝的ノウハウが多いといわれている法人営業を科学するアプローチ、マインドに新鮮さを感じた。
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