2011年9月23日金曜日

ゲームが変わった(ポストものづくりの競争をどう勝ち抜くか)

日本企業の今後の方向性特に製造業の方向性について最近多くの本が出版されている。
この本は、現役の経済産業省の官僚が、日本企業の今後の方向性について「研究開発のあり方」「水ビジネス、鉄道ビジネス等のインフラビジネス」について書いたものである。


1.ゲームが変わった
まずは今までのゲームを、繊維、自動車、半導体を例にして
①先進国を相手に
②競争が少ない状況で(まだ、新興国などが競争相手ではなかった)
③低価格で(為替レートが円安、先進国と比して生産コストが低かった)
 ④高品質の製品を供給する
とし、以下のようにゲームが変わったので、日本語企業の利益が出なくなったと言う。
①新興国を相手に
②新興国企業などと競合しながら
③低価格で
 ④最低限の機能で
 ⑤相手国のニーズにあった製品を提供する

このようなゲームの下で米国企業は、以下の戦略をとっているという。
自国や進出国の消費者のニーズに応じて製品を開発するというよりは、
消費者自身も認識していないような深層にあるニーズを見つけだして、そのニーズ呼応した製品の提供を行っている。
製品の提供も自国で生産してメイドインUSAで売っているわけではない。生産は他の国で行い、デイザンバイUSAとしてかっこよくて、使いやすい「米国製品」を売り出している。
さらに製品売却で終わりではなく、その後もサービスを提供し、それへの対価として安定的な収入をあげ、顧客をロックインでできるサービスモデルで展開している。

日本の携帯電話は何故海外で売れないのかについて、説得力ある説明がされているので、引用しておく。
メーカは、利用顧客の要求する仕様に応じてではなく、携帯通信会社が要求する仕様に応じた端末を提供している。
なぜならば、メーカは、携帯通信会社の販売奨励金をもらっており、利用顧客から直接お金をもらっているわけではない。。
携帯通信会社は、取り込んだ既存ユーザーからの収入単価をあげるため、多機能、高性能のサービスを提供するための端末を要求しており、メーカはそれに応える端末を開発し、提供してきた。
海外では利用者が端末の費用負担をするので、それにあった機能しか求めない。日本の端末メーカは上記によって利用顧客ニーズが分からなくなってしまっており、それに応えられる端末も開発できなくなっている。

また、日本企業の製品は、パソコンや携帯電話に代表されるように、グローバルでは競争力がなくなっている。例外として
デジカメは、日本企業の優位性を確保できているという。その理由は、レンズから画像処理装置に至るまで技術のする合わせ要素が多く、これを完全に「ブラックボックス化」できたからだという。
また、電気機械の最終財は、中国での生産が大半となっていることは一般に知られている。それでも、中間財においては日本が大半を占めているので安心とと思っている人が多い。しかし実態は、韓国、台湾からの供給が急増しており、日本が約367億ドルに対して韓国が294億ドルと急においついてきている。

2.研究開発力
 学術論文が特許の取得にどの程度影響を与えたかを示すサイエンスリンケージでは、米国が4.5で全世界平均が2.5であるにも関わらず、日本は0.5となっている。つまり日本は、基礎研究をうまく特許化できていないことを表している。
各国の研究開発費と政府の負担割合を示したものが以下のとおりであり、日本は米国に遠く及ばないだけでなく、中国や韓国に追い上げられていることがわかる。

研究開発費と政府負担割合( )内の数値は、政府負担割合
  米国:46.4兆円(27%)
  EU15:31.4兆円(33%)
  日本:18.8兆円(18%)
  中国:12.3兆円(25%)
  ドイツ:8.6兆円(28%)
  韓国:5.0兆円(25%)
  フランス:5.0兆円(39%)
  インド:3.0兆円
  ロシア:2.7兆円
インフラビジネスでは、以下のゲームになるという。
 ①新興国を相手に
 ②先進国の高ブランド企業や新興国企業などと競争しながら
 ③相手国のニーズにあった、場合によっては、最低限のサービス水準を低価格で提供する。

3.インフラビジネス
 インフラビジネスは、インフラを設計・構築するだけでなく、運用まで含めた「システムで稼ぐモデル」が必要。

水ビジネスは、今後大きな伸びが期待できるが、入札になることが多く価格が勝負とも言える。
 ・36.2兆円 (2007) ⇒86.5
 ・素材、部材、コンサル、建設設計48.5兆円
 ・管理運営サービス 38兆円

事業毎では、以下の内訳となると言う。
上水道:38、9兆円
下水道:35、5兆円
工業用水:5、7兆円
海水淡水化:4、4兆円
再利用水:2、1兆

水に関しては、少ない供給に対して需要が大きいという問題があり、省水型の水循環システムなど日本に比較優位のある技術が有効であり、日本の企業の強さを出していける領域である。そうは言っても、低コストがポイントで、すべての部品や設備を日本製にしてしまうことは難しい。
現在では、ウ゛エオリア、スエズが、海外水メジャーとして、シエアの大半を占めている。

3.鉄道ビジネス

鉄道ビジネス
15、9兆円(2007)⇒22、0兆円(2020)
保守:9、3兆円
車両:6、6兆円
軌道:4、3兆円
信号制御:1、9兆円

海外競合
シーメンス(独)、<16%>、アルストム(仏)<21%>、ボンバルディア(独)<21%>
日本のメーカー合計<9%>
現代ロテム(韓)、北車グループ、南車グループ(中)
⇒低コストと安全性がポイント

このように経済産業省の現役の官僚が書いただけあり、日本の産業を取り巻く環境の変化が定量的に
網羅的に書かれている。
ただ残念なのは、より深い分析やそれから導かれる戦略が書かれていないことである。

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