2011年4月20日水曜日

『ホワイトスペース戦略』 (マークジョンソン)

著者は、『イノベーションのジレンマ』で著名なハーバード・ビジネススクール教授の
クリステンセンと共同で戦略コンサルテイング会社(イノセント)を創業したイノベーション
の専門家とのことである。またこの書籍は、2009年のハーバード・ビジネスレビューで
マッキンゼー賞を受賞した論文を発展させたものとのことである。
期待を持って読んでみたが、私個人としては、『イノベーションのデイレンマ』を読んだ
ときのような面白みは感じられなかった。『イノベーションのジレンマ』の面白さは、
経済主体の合理的な活動が、失敗に帰着するという『モデルに基づく思考』にあるが、
この本は、新しいビジネスモデルを企画・実行していくために必要な検討項目を体系的に
まとめた内容となっている。



1. ビジネスモデルの「四つの箱」
新しいビジネスモデルを成功させるためには、以下の四つの箱の内容を検討していく
必要があると説き、全体のフレームワークの定義からスタートする。
①顧客価値提案
②利益方程式
③主要経営資源
④主要業務プロセス
 これらの四つの箱の内容を、以下のように定義している。
① 顧客価値提案
顧客価値提案とは、一定の金銭的対価と引き換えに、顧客がそれより有効に、あるいは
確実に、便利に、安価に、重要な懸案を解決したり、課題を成し遂げたりするのを助ける
商品やサービスのことと定義し、そのためにはターゲットとする顧客がどのような未解
決のジョブを抱えているのかを十分理解することから始める必要があるという。
この顧客価値提案の質は、
・ その顧客価値提案で解決されるジョブが顧客にとってどの程度重要か
・ 顧客が既存の選択肢にどの程度満足しているか
・ ほかの選択肢と比べて、その提案がどの程度、ジョブを有効に解決できるか。
    によって評価できる。
② 利益方程式
利益方程式とは、収益モデル、コスト構造、商品やサービス一単位あたりの目標利益率、
経営資源の回転率の4つの変数で構成されるもので、以下のように定義する。
・収益モデル:価格×販売数量。
      (どれだけの数の顧客を、一回の取引での数量は、ひとつの顧客で何回の取引が)
・コスト構造:直接費と間接費。規模の経済も考慮。
・一単位あたりの目標利益率:間接費をまかない、目標とする利益水準を達成するために
             一回の取引で得るべき利益
・経営資源の回転率 :商品の開発から出荷までの所要時間、一定期間内で処理できる業務の量
在庫の回転率、資産の活用度など
③ 主要経営資源
主要経営資源は、顧客価値提案を実現するために必要な人材、テクノロジー、商品、施設・設備、
納入業者、流通経路、資金、ブランド等のことであり、通常のものと変わりはない。
④ 主要業務プロセス
主要業務プロセスは、持続可能、再現可能、拡張可能、管理可能な形で顧客価値提案を実現する
ための手段業務プロセス、ビジネスのルールと評価基準、行動規範のことであり、これも通常の
  定義と変わらない。

2.新しいビジネスモデルが要請されるときとその事例
  フレームワークを定義した上で、新しいビジネスモデルはどのようなときに必要とされるのか
  を明らかにしていく。それの答えとして
① 既存の利益方程式、特に間接費のコスト構造と資源の回転率の一方または両方を変更しなく
てはならない場合。
② 主要経営資源・業務プロセスを新たに多数導入しなくてはならない場合
③ 事業を行うために、これまでとは全く異なるルールや規範、基準を取り入れなくてはなら
ない場合。
   を挙げる。
    この事例として、以下6つの事例について述べている。
① 顧客がコモデティ用品を要望し、それにWEB販売で対応したダウコーニングのザイアメター事業。
② 電動工具のコモデティ化をチャンスに管理サービス・レンタルサービスを開始したヒルティ社。
   ③販売チャネルとして農村の女性互助グループを活用したヒンドウスタン・ユニリーバ社。
④電気自動車のインフラを作るために、自動車は低利益率で提供し、収益源はエネルギー補給システムの
利用料とするビジネスモデルを確立したベタープレイス社。
⑤インターネットを活用して顧客参加型のTシャツデザイン、製造スレッドレス社。
    ⑥自然食品・有機食材の合理的な流通網を確立したホールフーズ社。

  参考であるが、競争の基準は以下の関係で変化していく。
  機能性(商品イノベーション)⇒信頼性(業務プロセスイノベーション)⇒利便性(ビジネスモデル)⇒価格(ビジネスモデルイノベーション)
  また参考であるが、今までの技術革命の歴史を以下のように整理している。

技術革命の歴史
         技術    ⇒インフラ
第一次(1771~):綿工業・錬鉄・機会⇒運河・水路・有料道路・水力
第二次(1829~):蒸気機関・機械・鉄鉱石・石炭⇒鉄道・電信・帆船・港湾
第三次(1875~):安価な鉄鋼・重化学・電器・缶詰⇒世界の貨物輸送大陸横断鉄道・電信電話
第四次(1908~):自動車・石油科学・家電・冷凍食品⇒道路・港湾・空港網・電力制御・アナログ通信網
第五次(1971~):コンピュータとソフト・遠距離通信・制御機器⇒デジタル通信・インターネット・電力網・高速輸送網
第六次(2003~):太陽光等の再生可能エネルギ・電気自動車・ナノ素材⇒分散型発電・電力インフラと輸送エネルギーインフラ

3.新しいビジネスモデルの設計。
  新しいビジネスモデルは、以下の順序で設計していくべきと説いている。まずは
① 顧客価値提案
まずは顧客のジョブを発見することから始めよと説く。
顧客のジョブを発見するとは、顧客の課題を把握することであり、そのために自社の製品に何を求めるかを聞いても意味はなく、
それを聞いても、機能・価格の要望は得られるが、業務課題は見えてこない。
例として、ミルクシェイクの売り上げを伸ばしたいファストフード店で、商品に対する要望を聞いても売上向上の施策は打て
なかったが、だれがどのようなタイミングで購入するかを調べ、利用目的を調べた上でその目的に応じた対策(朝食時、帰宅時)
を打って場合にのみ効果があったとのことである。
  また顧客価値を提案する場合、以下の構成要素を考慮すべきと説く。
・商品/サービス内容
・アクセス(販売方法)
・支払いスキーム
② 利益方程式
③ 主要経営資源
 ④主要業務プロセス

4.新しいビジネスモデルの導入
  ビジネスモデルの考慮点での四つの箱は当たり前であまり参考にならないが、導入時に考慮すべき点は参考になる。
  ポイントは「新しいビジネスモデルを導入するとは、仮説を明確化に定義した上で、ビジネスモデルを実際に導入しながら
その仮説を検証し、もし仮説に欠陥が見つかれば修正する。」この一言は大変重要である。
  フェーズを「育成期」、「加速期」、「移行期」にわけ、それぞれの留意点を書く。
① 育成期
顧客価値提案の成否を左右する重要な仮説を割り出し、それを意識的・体系的に検証して、その仮説のひいてはビジネス
モデルそのものの実現性を早期に判断する。この仮説検証の重要性の例として、サウスウエスト航空はオースチンとダラス
の間をバスで移動している非消費者をターゲットにしてサービス・価格を設定して成功した事例と、ソングエアラインが
ディスカウントのディーバ(低価格でおしゃれな旅行を希望する女性)をターゲットにして中途半端なサービス。価格で失敗
して例を挙げている。
② 加速期
利益を上げるための再現性のあるプロセス確立に注力。業務プロセスを洗練化・標準化」し、ビジネスのルールを確立し、
成功の評価基準を定める。この例としてzaraのグローバル展開を取り上げている。
③ 移行期
新しいビジネスモデルは、コアスペースの事業に統合できるのか、それとも独立を保つのかを考えることが一番重要と説く。
これが言うは容易だが、実行は難しいこと。買収したビジネスを無理やり既存事業に組み込もうとして、そのビジネスの独自性を
壊してしまう企業が多いことにもよく現れている。
またこのときに、既存事業を担当する部署が苦しんでいると、新規事業の取り組みが打ち切らたり、既存のルール、行動規範、
評価基準が新ビジネスモデル移行への障害となると説く。この既存のルール等が邪魔をすることを「限界費用のドクトリン」と
言うらしい。つまり既存のものの限界費用は低いので、既存のものを活用する。延長の事業になってしまい、新しいビジネス
モデルが制約されてしまうことを言うようだ。コダックは、1975年にデジタルカメラを企画していたにもかかわらず、
フィルムにこだわったため、デジタルカメラのビジネスを立ち上げることができなかった。
ここで著者は、意外なことを言う。大変重要なメッセージである。
「新しいビジネスモデルを築こうとする人たちが直面する障害の多くは、既存のビジネスモデルを十分理解していない
ことが原因で生まれる。」つまり既存のビジネスモデルを十分理解していると、その限界もよく分かりどのような事業
では効果を発揮するが、どのような事業ではうまく行かないかが判断できるということである。

この本の中でビジネスモデルの類型として、以下を挙げているので参考として残しておく。
親睦団体提携型、仲介型、セット販売型、携帯電話型、クラウドソーシング型、中抜き型、共有型、フリーミアム型、リース型
サービス削減型、プロセス逆転型、従量制料金型、髭剃りと替え刃型、リバースオークション型、逆髭剃りと替え刃型、サービス
移行型、標準形型、定期購買型、ユーザコミュニティ型

既存、新規にかかわらず、事業が成功している要因・ビジネスモデルを顧客価値、利益方程式、主要経営資源、主要プロセスに分解して理解
することの大切さを認識できた。事業の現象のみでなく本質を掴むことが必要である。

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