日本企業の今後の方向性特に製造業の方向性について最近多くの本が出版されている。
この本は、現役の経済産業省の官僚が、日本企業の今後の方向性について「研究開発のあり方」「水ビジネス、鉄道ビジネス等のインフラビジネス」について書いたものである。
1.ゲームが変わった
まずは今までのゲームを、繊維、自動車、半導体を例にして
①先進国を相手に
②競争が少ない状況で(まだ、新興国などが競争相手ではなかった)
③低価格で(為替レートが円安、先進国と比して生産コストが低かった)
④高品質の製品を供給する
とし、以下のようにゲームが変わったので、日本語企業の利益が出なくなったと言う。
①新興国を相手に
②新興国企業などと競合しながら
③低価格で
④最低限の機能で
⑤相手国のニーズにあった製品を提供する
このようなゲームの下で米国企業は、以下の戦略をとっているという。
自国や進出国の消費者のニーズに応じて製品を開発するというよりは、
消費者自身も認識していないような深層にあるニーズを見つけだして、そのニーズ呼応した製品の提供を行っている。
製品の提供も自国で生産してメイドインUSAで売っているわけではない。生産は他の国で行い、デイザンバイUSAとしてかっこよくて、使いやすい「米国製品」を売り出している。
さらに製品売却で終わりではなく、その後もサービスを提供し、それへの対価として安定的な収入をあげ、顧客をロックインでできるサービスモデルで展開している。
日本の携帯電話は何故海外で売れないのかについて、説得力ある説明がされているので、引用しておく。
メーカは、利用顧客の要求する仕様に応じてではなく、携帯通信会社が要求する仕様に応じた端末を提供している。
なぜならば、メーカは、携帯通信会社の販売奨励金をもらっており、利用顧客から直接お金をもらっているわけではない。。
携帯通信会社は、取り込んだ既存ユーザーからの収入単価をあげるため、多機能、高性能のサービスを提供するための端末を要求しており、メーカはそれに応える端末を開発し、提供してきた。
海外では利用者が端末の費用負担をするので、それにあった機能しか求めない。日本の端末メーカは上記によって利用顧客ニーズが分からなくなってしまっており、それに応えられる端末も開発できなくなっている。
また、日本企業の製品は、パソコンや携帯電話に代表されるように、グローバルでは競争力がなくなっている。例外として
デジカメは、日本企業の優位性を確保できているという。その理由は、レンズから画像処理装置に至るまで技術のする合わせ要素が多く、これを完全に「ブラックボックス化」できたからだという。
また、電気機械の最終財は、中国での生産が大半となっていることは一般に知られている。それでも、中間財においては日本が大半を占めているので安心とと思っている人が多い。しかし実態は、韓国、台湾からの供給が急増しており、日本が約367億ドルに対して韓国が294億ドルと急においついてきている。
2.研究開発力
学術論文が特許の取得にどの程度影響を与えたかを示すサイエンスリンケージでは、米国が4.5で全世界平均が2.5であるにも関わらず、日本は0.5となっている。つまり日本は、基礎研究をうまく特許化できていないことを表している。
各国の研究開発費と政府の負担割合を示したものが以下のとおりであり、日本は米国に遠く及ばないだけでなく、中国や韓国に追い上げられていることがわかる。
研究開発費と政府負担割合( )内の数値は、政府負担割合
米国:46.4兆円(27%)
EU15:31.4兆円(33%)
日本:18.8兆円(18%)
中国:12.3兆円(25%)
ドイツ:8.6兆円(28%)
韓国:5.0兆円(25%)
フランス:5.0兆円(39%)
インド:3.0兆円
ロシア:2.7兆円
インフラビジネスでは、以下のゲームになるという。
①新興国を相手に
②先進国の高ブランド企業や新興国企業などと競争しながら
③相手国のニーズにあった、場合によっては、最低限のサービス水準を低価格で提供する。
3.インフラビジネス
インフラビジネスは、インフラを設計・構築するだけでなく、運用まで含めた「システムで稼ぐモデル」が必要。
水ビジネスは、今後大きな伸びが期待できるが、入札になることが多く価格が勝負とも言える。
・36.2兆円 (2007) ⇒86.5
・素材、部材、コンサル、建設設計48.5兆円
・管理運営サービス 38兆円
事業毎では、以下の内訳となると言う。
上水道:38、9兆円
下水道:35、5兆円
工業用水:5、7兆円
海水淡水化:4、4兆円
再利用水:2、1兆
水に関しては、少ない供給に対して需要が大きいという問題があり、省水型の水循環システムなど日本に比較優位のある技術が有効であり、日本の企業の強さを出していける領域である。そうは言っても、低コストがポイントで、すべての部品や設備を日本製にしてしまうことは難しい。
現在では、ウ゛エオリア、スエズが、海外水メジャーとして、シエアの大半を占めている。
3.鉄道ビジネス
鉄道ビジネス
15、9兆円(2007)⇒22、0兆円(2020)
保守:9、3兆円
車両:6、6兆円
軌道:4、3兆円
信号制御:1、9兆円
海外競合
シーメンス(独)、<16%>、アルストム(仏)<21%>、ボンバルディア(独)<21%>
日本のメーカー合計<9%>
現代ロテム(韓)、北車グループ、南車グループ(中)
⇒低コストと安全性がポイント
このように経済産業省の現役の官僚が書いただけあり、日本の産業を取り巻く環境の変化が定量的に
網羅的に書かれている。
ただ残念なのは、より深い分析やそれから導かれる戦略が書かれていないことである。
2011年9月23日金曜日
2011年9月19日月曜日
ダニエルカーネマン 心理と経済を語る
個人が集まって組織を作ったとき、個人の意思がどのような組織行動(administrative behavior)を帰結するかに関心を持っている。合理的な個人を前提にゲーム理論等で組織行動を分析することも必要だと思うが、不完全情報の下での個人の意思決定を前提とした組織行動の分析が現実解のようにも感じている。
その問題意識の下、『最小合理性』勁草書房、『心は遺伝子の論理で決まるか』みすず書房を図書館で借りてきたが、なかなか取り組めていない。
以前購入して積んでいた『ダニエルカーネマン 心理と経済を語る』を、今日突然読んだ。
心理学者でノーベル経済学賞受賞のカーネマンのノーベル賞受賞記念講演と自伝、さらに二つの論文「効用最大化と経験効用」と「主観的な満足の測定に関する進展」 を翻訳した本である。プロスペクト理論やヒューリスティクス等キーワードと概念 は経済心理学や実験経済学の本で知っているが、なぜこのような概念を思いついたのかはよく知らなかった。その理論を構築した本人が書いたものであり、この本を読むことにより、大変よく理解できた。特に記念講演と自伝を興味深く読んだ。 受賞記念講演の中からポイントとなるところを以下に記す。
(1) 知覚の特性①・・・・・・「変化」に集中し、「状態」を無視する。
目から脳に伝えられる情報のほとんどは、変化する物事、前とは違う物事に ついての情報である。 現在の刺激だけによって決まるのではなく、現在の刺激と過去の刺激との間の 差異によって決まる。 ⇒プロスペクト理論 効用(満足度)を決めるのは「変化」であって「状態」(富の絶対量)ではない。 知覚と類比させて考えてみたこと、適応という概念を借用したこと、そして 中立的な参照点という概念が、プロスペクト理論の発展を導いた。
(2) 知覚の特性②・・・・・足し算すべきときに平均値を求めてしまう。
基本的な知覚的な表象には、例えば全部の線を足した長さがどのくらいに なるかというようなより複雑な統計は含まれておらず、平均値は直感的に ただちに分かるので、平均値に基づく判断を行ってしまう。 平均値は表象に含まれているが、合計は含まれていない。
表象に含まれているもの。
・ 平均値/典型的な値
・ 極端な値
・ 特徴の(おおよその)相対度数 表象に含まれていないもの。
・ 合計などの統計値
アンカーリング:数値や物事を推定したり調整したりする際に、与えられた 初期値が錨(アンカー)のような機能を果たし、人の志向がそこに縛り付けられる こと。またそれによって判断に影響が及ぶこと。
ある人が、あるグループもしくはカテゴリーに属すかどうかを判断する。
(例1)
「・・・大学では哲学を専攻。・・・学生時代に反核デモに参加。」 この人は、A:「銀行の出納係り」 B:「銀行の出納係りであり活発なフェミニスト」 確率的なBの場合「銀行の出納係り」かつ「フェミニスト」 なのでAの「銀行の出納係り」より確立は低いが、代表性に よる判断、つまり代表制ヒューリステイックにより、主観的 にはBが選ばれる。
(例2)
大腸内視鏡検査で8分間の検査のAさん、22分間検査のBさん。 辛い思いを長くしたのはBさんだが、Bさんの場合、最後の方で 辛さが和らぐと、主観的に辛い思いをしたのはAさんになる。
直感的思考は、比較的苦心もせず、余分な計算をすることもなく、 基本表象(basic representation)にそのまま従って動作する。 グループの基本表彰には、平均値は含まれているが、合計値は 含まれていない。
つまり以前の経済学は、意識や注意を無限で制約がないものとし、その他のものの最適化・効率化を検討していたが
経済心理学は、意識や注意も最適化・効率化が必要で、それらを含めた最適化を考えることを提唱していると思う。
その問題意識の下、『最小合理性』勁草書房、『心は遺伝子の論理で決まるか』みすず書房を図書館で借りてきたが、なかなか取り組めていない。
以前購入して積んでいた『ダニエルカーネマン 心理と経済を語る』を、今日突然読んだ。
心理学者でノーベル経済学賞受賞のカーネマンのノーベル賞受賞記念講演と自伝、さらに二つの論文「効用最大化と経験効用」と「主観的な満足の測定に関する進展」 を翻訳した本である。プロスペクト理論やヒューリスティクス等キーワードと概念 は経済心理学や実験経済学の本で知っているが、なぜこのような概念を思いついたのかはよく知らなかった。その理論を構築した本人が書いたものであり、この本を読むことにより、大変よく理解できた。特に記念講演と自伝を興味深く読んだ。 受賞記念講演の中からポイントとなるところを以下に記す。
(1) 知覚の特性①・・・・・・「変化」に集中し、「状態」を無視する。
目から脳に伝えられる情報のほとんどは、変化する物事、前とは違う物事に ついての情報である。 現在の刺激だけによって決まるのではなく、現在の刺激と過去の刺激との間の 差異によって決まる。 ⇒プロスペクト理論 効用(満足度)を決めるのは「変化」であって「状態」(富の絶対量)ではない。 知覚と類比させて考えてみたこと、適応という概念を借用したこと、そして 中立的な参照点という概念が、プロスペクト理論の発展を導いた。
(2) 知覚の特性②・・・・・足し算すべきときに平均値を求めてしまう。
基本的な知覚的な表象には、例えば全部の線を足した長さがどのくらいに なるかというようなより複雑な統計は含まれておらず、平均値は直感的に ただちに分かるので、平均値に基づく判断を行ってしまう。 平均値は表象に含まれているが、合計は含まれていない。
表象に含まれているもの。
・ 平均値/典型的な値
・ 極端な値
・ 特徴の(おおよその)相対度数 表象に含まれていないもの。
・ 合計などの統計値
アンカーリング:数値や物事を推定したり調整したりする際に、与えられた 初期値が錨(アンカー)のような機能を果たし、人の志向がそこに縛り付けられる こと。またそれによって判断に影響が及ぶこと。
ある人が、あるグループもしくはカテゴリーに属すかどうかを判断する。
(例1)
「・・・大学では哲学を専攻。・・・学生時代に反核デモに参加。」 この人は、A:「銀行の出納係り」 B:「銀行の出納係りであり活発なフェミニスト」 確率的なBの場合「銀行の出納係り」かつ「フェミニスト」 なのでAの「銀行の出納係り」より確立は低いが、代表性に よる判断、つまり代表制ヒューリステイックにより、主観的 にはBが選ばれる。
(例2)
大腸内視鏡検査で8分間の検査のAさん、22分間検査のBさん。 辛い思いを長くしたのはBさんだが、Bさんの場合、最後の方で 辛さが和らぐと、主観的に辛い思いをしたのはAさんになる。
直感的思考は、比較的苦心もせず、余分な計算をすることもなく、 基本表象(basic representation)にそのまま従って動作する。 グループの基本表彰には、平均値は含まれているが、合計値は 含まれていない。
つまり以前の経済学は、意識や注意を無限で制約がないものとし、その他のものの最適化・効率化を検討していたが
経済心理学は、意識や注意も最適化・効率化が必要で、それらを含めた最適化を考えることを提唱していると思う。
2011年9月3日土曜日
Getting to PLAN B
新規ビジネスを成功させるにはどうすればよいかを、ケーススタディを通して分析し、整理した本である。
最近あるパッケージビジネスの立ち上げに苦労しているところもあり、大変興味深く読むことが
できた。著者二人は、スタンフォード大学で新規ビジネスを担当しているビジネススクールの教授
とロンドン大学で同じく新規ビジネスを担当しているビジネススクールの教授で、多くの事例から
成功のための法則を導き出している。
その法則とは当初策定したビジネスプラン「PLAN A]」は使い物にならないものが多いが、それであきら
めるのでなく、以下に述べる観点で「PLAN B」に移行すべきと説く。観点や実施ステップは目新
しいものではないが、実行が勝負と思うと納得がいく。
アップルのTunes/iPod/iPhone、グーグル、イーベイ、ライアンエア、スカイプ、アマゾンがケース
スタディとして取り上げられており、それぞれの事業の「PLAN A」がどのようなものであり、どの
ような観点で何を参考に改善が行われてきたかがわかり、興味深く読めます。
『Getting to PLAN B』
「PLAN A」の失敗事例だけでなく、始めから成功したトヨタのレクサス高級路線、コストコの会員制モデル、ザラの
高速ファッションモデル等ビジネスモデルのどこが優れているかについても書かれており、ビジネスを成功させるポイ
ントも参考になります。多くの面白いケーススタディが出てきますが、結論としては当初立案したビジネス計画「PLAN A」
を、以下のビジネスモデルの五要素に着目し、
①収入
誰が買ってくれるのか、何に対価を払ってくれるのか、なぜ買ってくれるのか、頻度、量、値段はどうか。
②粗利、
原価をどこまで下がられるか、どこまでの価格なら受け入れられか、稼ぐ製品と見筋製品のミックスをどうするか。
③運営(営業費)
事業成長のために使わざるを得ない営業費目、売上比例費目、削減可能な費目は何か、どこまで削減できるか。
④運転資金、
顧客の支払タイミング、早期化の可能性(会費制等)、取引先への支払タイミングを延ばせるか、必要在庫等期間
は。
⑤投資
立ち上げまでの投資を最小化(段階的投資、既存設備流用等)をどう実現するか。
<ステップ1>
Analog(類似事例)、と ②Antilog(反例)を を見つけ出し、それらを謙虚に分析し、
<ステップ2>
成功の要因と信ずるもの、賭けてみたいアイデア(Leaps of Faith)を整理し
<ステップ3>
それを検証する仮説や手法を考え、
<ステップ4>
「Dashboard」(仮説に対応するKPIの結果管理とフィードバック)で 検証あるいは反証し、
これらのステップを繰りかしえ、「PLAN B」を作成すべきと言っています。
これらを実行できるかどうかが、事業を成功させることができるか、失敗のまま終わるのかを決定する
とのことです。うまく行っているビジネスモデルは、これらの要素が相互に結びつき、さらなる成長軌道
に乗るとも言っています。
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