2011年4月30日土曜日

オブジェクト指向でなぜ作るのか

長い間プログラミングはしていないが、ソフトウエア業界
にいるかぎり、ソフトウエアの技術動向には関心を持た
ざるを得ない。
その中で、「オブジェクト指向」は、重要なキーワードで
あり、いろんな本を読んでみたが、「モノ中心」で汎用的に
物事を捉える方法論と概念的には理解できたが、それと
実際のプログラミングとどう繋がるのかが分からなかった。

この本は、オブジェクト指向はソフトウエアを楽に作る
技術であり、プログラミングの仕組みと明確に整理し、
「モノ中心」で汎用的に物事を捕らえる考え方とは別物で
あると明快に説明した書籍である。。


まず、プログラミングの歴史をアセンブラ、高級言語、
構造化プログラミングと振り返り、プログラミング技術
は以下のことを狙いに発展してきたと説く。
 ・命令を簡単に表現する⇒生産性向上
 ・プログラムを分かりやすく⇒保守性向上
 ・制約をつけて複雑さを避ける⇒品質向上
 ・重複ロジックを排除して、
  部品化と再利用を促進⇒ 再利用

構造化プログラミングでは、
 ・基本3構造(順次進行、条件分岐、繰り返し)
 ・GOTOレスプログラミング
 ・サブルーチンの独立性強化
を行ってきたが、まだ不十分である。
これらを克服するために、オブジェクト指向プログラミング
が登場したと言う。
OOP(0bejct Oriented Programming)にはグローバル変数
を使わずに済ませる仕組みが備わっており、共通サブルーチン
以外の再利用を可能にする仕組みが備わっている。
それらは、「クラス」、「ポリモーフィズム」、「継承」である。
1.「クラス」は「まとめて、隠して、たくさん作る」仕組み。
 (1) サブルーチンと変数を「まとめる」
 (2) クラスの内部だけで使う変数やサブルーチンを「隠す」
 (3) ひとつのクラスからインスタンスを「たくさん作る」
2.「ポリモーフィズム」
 サブルーチンを呼び出す側のロジックを一本化する仕組み
 すなわち「共通メインルーチン」を作る仕組み。
 共通サブルーチンは、呼び出される側のロジックを一本化
 するがポリモーフィズムは反対に呼び出す側のロジックを
 一本化
3.「継承」
 似たもの同士のクラスの共通点と相違点を整理する仕組み
 重複するクラス定義を共通化し、別クラスにまとめる仕組み。
 変数とメソッドをまとめた共通クラスを作り、別のクラス
 からその定義を丸ごと拝借する。
 継承を使う場合、共通につかいたいメソッドとインスタンス変数は
 共通クラスに定義し、利用したいクラスはその共通クラスを
「継承する こと」と宣言する。
 共通クラスのことをスーパクラスと呼び、それを利用するクラスを
 サブクラスと呼ぶ。

以上簡潔だがオブジェクト指向のエッセンスを理解することができた。

小室直樹の思想と学問

小室直樹さんと言えば、私は大学時代を思い出す。
高校時代に政治学者の丸山真男さんに憧れ理解系から文科系に
転向した。大学では希望ではなかったが経済学を専攻する
こととなった。
経済学を習いたてのころは、市場の動きなど抽象的な議論が
多く、期待していた社会を鋭く切るというに議論にはほど遠く、
なかなか興味をもつことができなかった。
そのころに、出会ったのが小室直樹さんの書籍であった。
カッパブックスというアカデミックな本とは程遠い本であったが
歴史・宗教の本質的な知識に基づき、最新の経済学、社会学、
政治学を駆使し、現在社会を鋭く分析する論理に強く惹かれた。
数学、経済学、社会学、政治学をその道のトップの大学で極めて
いるキャリアにも関心した。
小室直樹さんの本を読むことにより、経済学の抽象的な一般
均衡論についても興味を持つことができたし、マックスウエ
ーバーの思想にも関心を持つことができた。
社会科学の面白さを教えてもらった先生である。
学園祭で講演をお願いし、そのときに『危機の構造』に直筆
のサインをしてもらった記憶も蘇る。

その小室直樹さんの思想と学問について、門下と自認される
橋爪教授と副島さんが語られた内容を文書にした書籍である。


まずは、1980年に出版された『ソビエト帝国の崩壊』の話
から始まる。ソビエト連邦が崩壊したのが1991年であるから
この予言は10年後に見事的中した。
私は、この本の価値は予言が的中したことではなく、社会科学
の分析・論理展開のすばらしさにあると思っている。
ソビエト帝国を構造・機能分析をすることにより、崩壊するとの
結論に導いていく。
ソビエトの本質は、マルクス主義を国教とする人為的な国家であり、
その宗教の目的は資本主義以上のすばらしい社会を実現していくで
あったという。しかしながら現実には、
・社会主義は、階級をなくすどころか新しい階級を作ってしまった。
・計画経済は、資本主義をなくすどころか新しい裏の経済を作って
 しまった。お金を持っていても、それで必ずしも商品が買えると
 は限らないので裏の経済に頼ることになる。 
・計画経済は、技術確認による質の向上と価格の低下とは正反対の
「ある工場は鉄を何万トン生産して生産目標を達成した」という重量
 で図った生産ノルマの達成と消費者無視を必然的に帰結してしまう。
 これは重工業時代にはそれなりにうまく行ったが、技術進歩が早い
 経済ではうまくいかない。この分析は計画経済の本質を突いている。
・人々を自由にするどころか、西洋型の自由が全くない社会を作って
 しまった。

無理にでもマルクス主義の中に未来を賭けていこうとすれば、一種の
ロシア正教的なメシアというか、偶像というか、個人崇拝の要素が
必要となってくるが、1956年にフルシチョフによってなされた
スターリン批判により、求心力をなくし、急性アノミーに陥っていた
と分析する。
さらに、ソ連邦を構成する共和国は、ソ連邦を離脱して独立してよい
と憲法72条に明記されており、強制力、軍隊によってのみしか民族
問題を解決できない構造であったという。
農業においても、スターリンは農民から土地を取り上げて国営農場、
集団農場に押し込み、農民は、スターリズムの潜在敵国を形成して
いたという。このような状態で農業の生産性は上がらず、農業が
崩壊したという。
また党と軍の関係を以下のように分析している。
ソ連陸軍は、トロッキーによって設立されドイツ軍の指導のもとに
近代化されたこともあり、親独的な関係があり、党としては信頼が
おけない。共産党とソ連陸軍という二大組織が単なる分業と共同の関係
にたちつつ併存することはありえないという。
これらの分析から、ソビエト連邦は自己矛盾を起こし、崩壊すると説く。
またマルクス主義は、ユダヤ教と以下の共通点を持つ宗教であるとも
付け加えている。。
神との契約が宗教の内容をなし、これが法であり、規範でもあること。
魂のき救済とか何とかがなくて現世救済であること。
個人救済ではなく契約による集団救済であること。

ソビエト帝国の崩壊の分析をたどったあと、小室さんの学問・思想の
中身に入っていく。
小室さんは、社会を「社会システム」として捉えており、これが基本
思想、フレームワークであるという。
ここで言っている「システム」とは
「多数の変数がお互いに複雑に結びついている全体」と定義している。
この社会システムのベースとなっているのが、経済学では、ワルラス、
ヒックス、サムエルソンの経済学の一般均衡理論であり、社会学では
パーソンズの構造・機能分析であるという。
パーソンズの社会学は、個人も集団も、国家もシステムであり、シス
テムとシステムの間で変数のキャッチボールが行われる「境界相互交換」
と大きなシステムは小さなシステムに分かれていく考え方より成り立って
いる。システムの分かれ方としてAGIL理論を紹介している。
A:Adaptation             ⇒経済
G:Goal Attainment          ⇒政治   
I:Integration             ⇒シンボル
L:Latent Pattern Maintenance and Tension Management) ⇒文化

変数の結びつきを構造と呼び、それがシステムに個性を与えていると考える。
変数の間の安定したパターンがある。これを構造と呼んだ。
構造が構造としてあるあり方を維持する働きを機能と考える。
どんなシステムもAGILという四つの機能に集約され、それぞれの
目的を維持するように活動しているとの考えに立っている。
機能とは結局のところシステムが自分を維持するための条件を示すもので
ある。
小室さんはウエーバこそ構造・機能分析を先取りした社会学者であるという。
さらにフランスの社会学者であるデュルケームからはアノミー概念を得ている。

これらの経済学と社会学をベースに構造・機能分析の小室バージョンは以下の
ように示せるという。

① 社会は変数の集まり  
x1、x2、x3、・・・・・、xn
②変数の間には製薬がある。 
  f1(x1、x2、x3、・・・・・x)=0
  f2(x1、x2、x3、・・・・・x)=0
・ ・・・・・・
  fn(x1、x2、x3、・・・・・x)=0
③関数f1、f2、・・・fnを構造と呼ぶ。
  構造が、均衡x1*、x2*、・・・・・xn*を決定する。
④それを、機能評価する。
この構造の下で変数の値が決まるとその変数の値がさらに機能的に
(例えばAGILの観点から)評価される。
 機能評価関数、限界機能
⑤機能が達成されなければ、構造が変動する。
つまり、①から③において、対象が価格・数量だけなら経済学の一般
均衡に過ぎないが、価格・数量以外に文化や権力を対象とし、それら
を④で4機能評価することを考えている。機能評価が達成されなければ
構造が変動する。つまり社会の構造変動を機能の観点から説明する。
小室さんの活躍された知的フィールドは多く、法律学、政治学でも活躍
している。
法社会学で小室さんの考え方をよく著している例でとして、法の
サイバネティクスモデルを提示している。
裁判過程は社会を制御する。さらに法(的制御)は裁判過程を制御する。
かくて、このような二重制御のメカニズムを通じて、法は社会制御と
して機能すると。

政治学での思考は、丸山真男氏が重視した「作為の契機」をベースに
している。ここでは、近代以前の伝統主義な社会では。社会のあり方、
制度や習慣や権力は、あたかも天然自然のごとくそこに「ある」と捕
らえているが、近代社会の人々は、それらを人間が「作り出した」も
のだと考える。人々の意思で、返ることができると考える。
このことの強烈な自覚なしに民主主義は成り立たないと言う。
この考え方を、小室さんは「危機の構造」で描く日本社会の危機として
描いた。企業や学校なのどのさまざまな組織が(擬似)共同体に転化して
しまい、それが本来果たすべき機能を差し置いて、自己の存続を自己
目的化していくというところにあると説く。
丸山真男氏の超国家主義研究を現在に適用している感じである。

小室さん、さらに田中角栄問題と中国・韓国分析を行っている。
田中角栄問題は、田中角栄を袋井叩きする世論に反対し、国民に違う
観点から考えることの必要性を訴える目的が先にありだったと私は
思っている。30年前の大学祭でここのところを質問したが、私は
理解できなかった。この本の中で、副島さんが
「国会議員の地位は憲法によって国内のあらゆる勢力の攻撃から
守られている」との論拠で説明しているが、やはりよく分からない。

韓国の分析のサマリーは以下のとおりである。
韓国は、輸出が増えれば増えるほど輸入が増える国であり、世界経済
の動向が何倍にも増幅されて、自国経済に跳ね返ってくる。さらに
その輸出のために日本の半導体や先端技術を大変な額を買わなければ
ならないことで、日本との関係では深刻な経済不均衡を引きずり続け
るという。さらに韓国の企業では人材が育たない、あるいは韓国人の
社会では労働のエートスが成立しないという厳しい指摘を行っている。
この当時、輸出・輸入構造から韓国の課題を論じていることは流石だと
思うが、後半の人材や労働のエートスについては、昨今のサムスン等の
躍進を見るにつけ、必ずしもあたっていないと思う。

最後に中国ついて、以下のように分析している。
中国は、底辺が宗族という血縁手段からなり、官僚組織は、血族の原理
とは無関係に運営するかとなっている。このシステムが資本主義とミス
マッチであり、政治的な自由主義、民主主義と調和しない。
そのとおりであるが、最近躍進凄まじい中国を小室理論で分析してほし
かったと思う。
最後に、小室さんが追求したのは、人間の発想と行動を捉えている根底的
な要因は何かということに対するあくなき追求であったと二人は述べている。

2000年までの「もの」を中心とした経済、覇権争いの国際政治の分析
では大変的確で、今読んでも勉強になると思われる。

GoogleやFacebookが主役の、「ものつくり」精神のエートス
と異なる情報ネットワーク社会、中国・インドの経済的台頭した世界につ
いて小室さんならどんな分析をしただろうかと考える。
当時の小室さんの分析は、私にとって、社会や世界の方向性を社会科学的に
理解する羅針盤でもあった。
今は、私自身、最近の情報ネットワーク社会、エコ経済の歴史的意義、
今後の方向性がつかめず、表面的理解にとどまっていることを反省して
いる。

2011年4月20日水曜日

『ホワイトスペース戦略』 (マークジョンソン)

著者は、『イノベーションのジレンマ』で著名なハーバード・ビジネススクール教授の
クリステンセンと共同で戦略コンサルテイング会社(イノセント)を創業したイノベーション
の専門家とのことである。またこの書籍は、2009年のハーバード・ビジネスレビューで
マッキンゼー賞を受賞した論文を発展させたものとのことである。
期待を持って読んでみたが、私個人としては、『イノベーションのデイレンマ』を読んだ
ときのような面白みは感じられなかった。『イノベーションのジレンマ』の面白さは、
経済主体の合理的な活動が、失敗に帰着するという『モデルに基づく思考』にあるが、
この本は、新しいビジネスモデルを企画・実行していくために必要な検討項目を体系的に
まとめた内容となっている。



1. ビジネスモデルの「四つの箱」
新しいビジネスモデルを成功させるためには、以下の四つの箱の内容を検討していく
必要があると説き、全体のフレームワークの定義からスタートする。
①顧客価値提案
②利益方程式
③主要経営資源
④主要業務プロセス
 これらの四つの箱の内容を、以下のように定義している。
① 顧客価値提案
顧客価値提案とは、一定の金銭的対価と引き換えに、顧客がそれより有効に、あるいは
確実に、便利に、安価に、重要な懸案を解決したり、課題を成し遂げたりするのを助ける
商品やサービスのことと定義し、そのためにはターゲットとする顧客がどのような未解
決のジョブを抱えているのかを十分理解することから始める必要があるという。
この顧客価値提案の質は、
・ その顧客価値提案で解決されるジョブが顧客にとってどの程度重要か
・ 顧客が既存の選択肢にどの程度満足しているか
・ ほかの選択肢と比べて、その提案がどの程度、ジョブを有効に解決できるか。
    によって評価できる。
② 利益方程式
利益方程式とは、収益モデル、コスト構造、商品やサービス一単位あたりの目標利益率、
経営資源の回転率の4つの変数で構成されるもので、以下のように定義する。
・収益モデル:価格×販売数量。
      (どれだけの数の顧客を、一回の取引での数量は、ひとつの顧客で何回の取引が)
・コスト構造:直接費と間接費。規模の経済も考慮。
・一単位あたりの目標利益率:間接費をまかない、目標とする利益水準を達成するために
             一回の取引で得るべき利益
・経営資源の回転率 :商品の開発から出荷までの所要時間、一定期間内で処理できる業務の量
在庫の回転率、資産の活用度など
③ 主要経営資源
主要経営資源は、顧客価値提案を実現するために必要な人材、テクノロジー、商品、施設・設備、
納入業者、流通経路、資金、ブランド等のことであり、通常のものと変わりはない。
④ 主要業務プロセス
主要業務プロセスは、持続可能、再現可能、拡張可能、管理可能な形で顧客価値提案を実現する
ための手段業務プロセス、ビジネスのルールと評価基準、行動規範のことであり、これも通常の
  定義と変わらない。

2.新しいビジネスモデルが要請されるときとその事例
  フレームワークを定義した上で、新しいビジネスモデルはどのようなときに必要とされるのか
  を明らかにしていく。それの答えとして
① 既存の利益方程式、特に間接費のコスト構造と資源の回転率の一方または両方を変更しなく
てはならない場合。
② 主要経営資源・業務プロセスを新たに多数導入しなくてはならない場合
③ 事業を行うために、これまでとは全く異なるルールや規範、基準を取り入れなくてはなら
ない場合。
   を挙げる。
    この事例として、以下6つの事例について述べている。
① 顧客がコモデティ用品を要望し、それにWEB販売で対応したダウコーニングのザイアメター事業。
② 電動工具のコモデティ化をチャンスに管理サービス・レンタルサービスを開始したヒルティ社。
   ③販売チャネルとして農村の女性互助グループを活用したヒンドウスタン・ユニリーバ社。
④電気自動車のインフラを作るために、自動車は低利益率で提供し、収益源はエネルギー補給システムの
利用料とするビジネスモデルを確立したベタープレイス社。
⑤インターネットを活用して顧客参加型のTシャツデザイン、製造スレッドレス社。
    ⑥自然食品・有機食材の合理的な流通網を確立したホールフーズ社。

  参考であるが、競争の基準は以下の関係で変化していく。
  機能性(商品イノベーション)⇒信頼性(業務プロセスイノベーション)⇒利便性(ビジネスモデル)⇒価格(ビジネスモデルイノベーション)
  また参考であるが、今までの技術革命の歴史を以下のように整理している。

技術革命の歴史
         技術    ⇒インフラ
第一次(1771~):綿工業・錬鉄・機会⇒運河・水路・有料道路・水力
第二次(1829~):蒸気機関・機械・鉄鉱石・石炭⇒鉄道・電信・帆船・港湾
第三次(1875~):安価な鉄鋼・重化学・電器・缶詰⇒世界の貨物輸送大陸横断鉄道・電信電話
第四次(1908~):自動車・石油科学・家電・冷凍食品⇒道路・港湾・空港網・電力制御・アナログ通信網
第五次(1971~):コンピュータとソフト・遠距離通信・制御機器⇒デジタル通信・インターネット・電力網・高速輸送網
第六次(2003~):太陽光等の再生可能エネルギ・電気自動車・ナノ素材⇒分散型発電・電力インフラと輸送エネルギーインフラ

3.新しいビジネスモデルの設計。
  新しいビジネスモデルは、以下の順序で設計していくべきと説いている。まずは
① 顧客価値提案
まずは顧客のジョブを発見することから始めよと説く。
顧客のジョブを発見するとは、顧客の課題を把握することであり、そのために自社の製品に何を求めるかを聞いても意味はなく、
それを聞いても、機能・価格の要望は得られるが、業務課題は見えてこない。
例として、ミルクシェイクの売り上げを伸ばしたいファストフード店で、商品に対する要望を聞いても売上向上の施策は打て
なかったが、だれがどのようなタイミングで購入するかを調べ、利用目的を調べた上でその目的に応じた対策(朝食時、帰宅時)
を打って場合にのみ効果があったとのことである。
  また顧客価値を提案する場合、以下の構成要素を考慮すべきと説く。
・商品/サービス内容
・アクセス(販売方法)
・支払いスキーム
② 利益方程式
③ 主要経営資源
 ④主要業務プロセス

4.新しいビジネスモデルの導入
  ビジネスモデルの考慮点での四つの箱は当たり前であまり参考にならないが、導入時に考慮すべき点は参考になる。
  ポイントは「新しいビジネスモデルを導入するとは、仮説を明確化に定義した上で、ビジネスモデルを実際に導入しながら
その仮説を検証し、もし仮説に欠陥が見つかれば修正する。」この一言は大変重要である。
  フェーズを「育成期」、「加速期」、「移行期」にわけ、それぞれの留意点を書く。
① 育成期
顧客価値提案の成否を左右する重要な仮説を割り出し、それを意識的・体系的に検証して、その仮説のひいてはビジネス
モデルそのものの実現性を早期に判断する。この仮説検証の重要性の例として、サウスウエスト航空はオースチンとダラス
の間をバスで移動している非消費者をターゲットにしてサービス・価格を設定して成功した事例と、ソングエアラインが
ディスカウントのディーバ(低価格でおしゃれな旅行を希望する女性)をターゲットにして中途半端なサービス。価格で失敗
して例を挙げている。
② 加速期
利益を上げるための再現性のあるプロセス確立に注力。業務プロセスを洗練化・標準化」し、ビジネスのルールを確立し、
成功の評価基準を定める。この例としてzaraのグローバル展開を取り上げている。
③ 移行期
新しいビジネスモデルは、コアスペースの事業に統合できるのか、それとも独立を保つのかを考えることが一番重要と説く。
これが言うは容易だが、実行は難しいこと。買収したビジネスを無理やり既存事業に組み込もうとして、そのビジネスの独自性を
壊してしまう企業が多いことにもよく現れている。
またこのときに、既存事業を担当する部署が苦しんでいると、新規事業の取り組みが打ち切らたり、既存のルール、行動規範、
評価基準が新ビジネスモデル移行への障害となると説く。この既存のルール等が邪魔をすることを「限界費用のドクトリン」と
言うらしい。つまり既存のものの限界費用は低いので、既存のものを活用する。延長の事業になってしまい、新しいビジネス
モデルが制約されてしまうことを言うようだ。コダックは、1975年にデジタルカメラを企画していたにもかかわらず、
フィルムにこだわったため、デジタルカメラのビジネスを立ち上げることができなかった。
ここで著者は、意外なことを言う。大変重要なメッセージである。
「新しいビジネスモデルを築こうとする人たちが直面する障害の多くは、既存のビジネスモデルを十分理解していない
ことが原因で生まれる。」つまり既存のビジネスモデルを十分理解していると、その限界もよく分かりどのような事業
では効果を発揮するが、どのような事業ではうまく行かないかが判断できるということである。

この本の中でビジネスモデルの類型として、以下を挙げているので参考として残しておく。
親睦団体提携型、仲介型、セット販売型、携帯電話型、クラウドソーシング型、中抜き型、共有型、フリーミアム型、リース型
サービス削減型、プロセス逆転型、従量制料金型、髭剃りと替え刃型、リバースオークション型、逆髭剃りと替え刃型、サービス
移行型、標準形型、定期購買型、ユーザコミュニティ型

既存、新規にかかわらず、事業が成功している要因・ビジネスモデルを顧客価値、利益方程式、主要経営資源、主要プロセスに分解して理解
することの大切さを認識できた。事業の現象のみでなく本質を掴むことが必要である。