2012年2月12日日曜日

モバイルパワーの衝撃

IT業界にいると、スマートホン、タブレットが企業の情報シス
テムに今後大きな影響を与えることを肌で感じる。
固定利用でのクラウドは初期コストと運用コストしかメリットは
なかったが、モバイル端末での利用によってユビキタス性のメリット
が明確になる、利用者もサービスの利便性を享受できるようになった。
今後は、キャリアが、スマートホンやタブレットを提供していくこと
となり、通信サービスの提供だけでなく、ITサービスの提供者に
なっていく。
その状況をタイムリーに整理した以下の書籍が出版された。
『モバイルパワーの衝撃』(スマートフォン時代の事業モデル革命)


1.モバイルが持つ五つの特性
  ①本人性
  ②常時性
   常に保有していること。
  ③位置の特定性
  ④ネットワーク性
  ⑤リアルへの拡張性
   リアルへの拡張性は、携帯電話を通じてインターネットの世界
   とリアルの世界がつながることを言っており、電子マネーや電子
   クーポン、乗車券への活用のことを言っている。

2.モバイルパワー
  モバイルが持つ上記の五つの特性の特性により、ビジネスに以下
  のパワーが発揮出るという。
  ①個客の見える化
   携帯電話の本人性、常磁性、位置の特定性により、商品・サービ
   スの消費者は誰なのかを把握するコストが飛躍的に低下し、個を
   特定した新しい事業モデルが可能となった。
   (例)マクドナルドの携帯電話で受け取るクーポンサービス。
    日本マクドナルドの原田社長によると、携帯電話のクーポンに
    より、リアルタイム・ビジネストラッキイング/ナビゲーション
    が可能になったとのこと。紙のクーポンに比べ、対象顧客の明
    確化、タイムリーな割引対象商品の決定、デリバリスピードの
    向上、印刷コストの削減が可能となった。
    さらに、接客のスピードアップは、売上貢献が大きい。
  ②個客ニーズの顕在化
   携帯電話の本人性、常時性、ネットワーク性を利用することに
   よって、顧客が何を欲しがっているかを把握するコストが飛躍的
   に低下した。
    (例)クックパッドのハイパーコミュニティ
     レシピを公開・共有することで、日々の献立に役立てる。
     (月額294円)だけでなく、メーカにも情報を公開。
     モバイル・タブレット活用により、より現場で近い情報や
     写真がアップされるようになった。 
  ③商品・サービスのマイクロ化
   携帯の本人性、常時性、ネットワーク性により、モノやサービス
   を販売する固定費、流通費が縮小され、その結果、商品・サービス
   を小分けして提供することが可能となった。消費者が欲する最適な
   単位でモノを売ることができる。   
    (例)保険業界のマイクロ化商品「ドコモワンタイム保険」
       ゴルフや海外旅行時にその前に入会する。
       GPS機能により、ゴルフ場のクラブハウスに近づくと
       案内メールが送られてくる。また支払いは、ケータイの
       毎月の請求と一緒に落とされる。
      東京海上日動火災保険の家中副社長(当時)によると、
      少額の保険は手続きの面、保険料徴収の麺から難しかったが、
      携帯からの申し込み、携帯電話料金と一緒に保険料を徴収と
      いうことによりその問題を解決できたとのこと。
 
  ④商品・サービス提供の適時化
   携帯電話の本人性、常時性、位置の特定性により、サービス提供者
   が提供する商品・サービスに関する情報提供コストが下がり、タイ
   ミングに対する自由度が大幅に向上した。商品・サービスの訴求を
   最適なタイミングで実施し、そのまま購買につなげることが可能と
   なる。
    (例)iコンシェル、ローソンのデジタルサイネージ
      「今割引をしています」「いまパンが焼きあがりました」、
      「今なら席が空いています」というような「旬な情報を旬な
       タイミングで提供」
     ローソンの新浪社長によると、クーポンの活用や店舗のメデイア
     化で携帯電話が、CRMのツールになると言う。コンビニが店舗
     で売るものは、将来的に、携帯で買えないもの、生鮮食料品に
     なっていくという。 
     イオンマーケッテイングの小賀社長によると、携帯を利用して
     ワントーワンのCRMを実現していき、ネットビジネスへの展開
     も計画しているとのこと。 

  ⑤商品・サービス提供チャネルのポータブル化
   決済や送金などの購入プロセスをモバイルでできる(ユビキタス)
   ようになった。 
    (例)モバイルSUICA
     SUICAの基本機能である自動改札のタッチ&ゴーやショッ
     ピング機能に加えて、新幹線のチケットレスサービスが使える。
     利用履歴の参照も可能。
     ANAのスキップサービスでは、携帯から予約するとチエック
     インカウンタに並ぶことなく、リーダライターにケータイを
     タッチするだけで、チエックインが完了する。
     みずほ銀行との協業による「ドコモケータイ送金」がある。
     ドコモのユーザ同士であれば携帯電話の番号で送金が可能と
     なる。送った金額は送金者の携帯料金と一緒に請求される。
     受け取る側は、銀行口座に振り込むか、携帯料金に充当
     するか選択することができる。
     JR東日本の椎橋副本部長によると、SUICA利用の拡大
     により、自動改札機のメンテナンスコストの削減をはじめと
     した効果は増大している。
     モバイルSUICAにより、表示機能とチャージ、定期券購入
     が可能となり、さらにGPSと連動して位置情報を把握し、
     降車駅の改札を出たら、周辺の飲食店情報やおすすめ情報を
     携帯へ送る「SUICAマーケッテイング」も可能になると
     言う。
     みずほ銀行の斉藤常務によると、携帯は、店舗窓口、ATM、
     インターネットバンキングと並ぶ「第四のチャネル」と位置
     付けられるとのこと。

2012年2月5日日曜日

認められたい人間 =ホモ-リスペクタス

最近組織理論に関心を持っている。
市場では、価格が供給のインセンテイブとして働く。
つまり、価格が高くなれば多く供給する。
組織において、メンバーは、何によってモチベーションを上げる
のか、何を目的に働いているのかについて少し整理できればと
思っていた。つまり組織の力学、組織内メンバーの活動が組織と
してどのような結果に結実していくのかについてモデルができれば
と思っている。
30年近くも大きな組織の中でビジネスをしていると自分なりに
漠然とした考えは持っているが、理論にはなっていない。
実際組織を運営していくためには、上司、部下、同僚からの承認・
合意は必要で、階層化して上司の承認ループは、ある目的を達成
していく組織行動には不可欠であることを実感している。
事業方針、事業計画のプレゼンテーション、業績評価の説明
は、まさに会社(経営陣でる上司)の承認を正式に求める場で
もある。
この承認要求をキーコンセプトに経営や組織を分析している
経営学者の書籍に出会った。
神戸大学経営学部出身の太田肇氏の書籍である。
他の書籍も多くあるが、すぐに手に入った『認められたい!』
をベースにポイントを書く。


日頃思っているところの根源が整理・分析されている。

一言で言えば、「人は認めてもらうために働いている。」
ということである。
勤労意識のアンケート調査 (2000 年野村総研 ) でも「自分の
能力や専門性を高めることで社会的に認められたい」が74%と
高くなっており、承認欲求が強いことを表している。
しかし、日本では、なかなか「自己実現」や「社会貢献」が上位
にならび、「認められたい」ということが表に表れないとのことで
ある。しかし「自己実現」「社会貢献」も自己満足ではなく、
「認められてこそ」でもある。
また日本では、平等主義の下、「人格的評価」に結びつきやすい
「認める」ことは肯定されないとも、以下の例を挙げながら述べ
ている。
小学校では、スポーツの出来る子、習字や絵で入選した子は称え
られるが、知能指数が高い子供や、勉強がよくできて有名私立
中学に進学する子に対しては、先生も周囲の子の視線も冷たい。
それは知能指数が高いこと、勉強がよくできることのほうが将来
の人格的評価「偉くなる」ことにつながりやすいと分かっている
からだと説く。
また人に認められる機会が少ないとモチベーションが上がらない
例として、在宅勤務がうまく行かない例を挙げる。
なるほどと思う。
太田氏は、承認のレベルを以下のように分類している。
第一レベルの承認欲求
日常の中で自分の仕事ぶりや個性を認められることによって満
たされる 承認欲求のこと。
第二レベルの承認欲求
組織の中での地位や肩書きによって満たされる承認欲求
 さらに以下のように分類する。
 ○より威信の高い会社に入るための競争によって得られる承
 認「メンバーとしての承認」
 ○企業社会の中で地位や肩書きを得るための競争によって得
 られる承認「ポストによる承認」
第三レベルの承認欲求
 組織内での地位や肩書きだけでは満たされない社会的な名誉
 や名声、あるいは尊敬を求める欲求

しかしこの第三レベルの承認は、少し厄介な問題を引き起こす。
つまり、「私は名誉欲が強い。」「尊敬されたい。」と公言する
ことは、「私はあなたたちよりも偉くなりたい。」 と言ってい
るのと同じで、人格の優劣をかけた闘いを宣言していることを
意味する。
「万人の万人に対する闘争」ホッブズの状況を認めることと
なる。名誉や尊敬に付随する上下・優劣の関係と人間はみな
平等であるというタテマエとは本質的に相容れず、公言でき
ないものとなる。

承認というものはいろいろな意味で他社依存的であり、他人と
の調和や 周囲への貢献があって初めて手に入れることができる。
ある人が承認欲求で動機付けていること自体が、その人に対す
る信頼や 責任感を担保し、利己主義的な行動を抑制できる。
名誉や尊敬には、個人主義的な側面と集団主義的な側面が統合
されている。
上場している会社は、株主からの株価を通した承認・評価が
必要なため、ワンマン経営による暴走が比較的少ないという
のも、私が常日頃感じている例である。

「万人の万人に対する闘争」を防ぐために、「うぬぼれ」
「自分のほうが偉いと思い込む」の余地を残しておくことや
「偉さ」を測る複数の尺度が存在する、あるいは正確な比較
が困難な、 よい意味での無秩序状態を残しておくことの
必要性も説く。各自がある程度好きなようにうぬぼれることが
できるので、階級闘争のような深刻な対立や 不遇がもたらす
ルサンチマンを防止もしくは緩和できる。

なぜ「成果主義」は失敗するのか。 の説明は、大変注目に値する。

モチベーションの理論としては、期待理論で説明するのがよい
とのことで、モチベーションは、「報酬の魅力」×「努力が報酬
に繋がる期待」で決まる。
この「成果主義」が誤ったシグナルを送ることにより、うまく
機能しないと説く。
つまり、成果主義の下では報酬の金額によって承認欲求が満た
されるはずであるが、現実には、原資総額が決定されており、
相対評価によって配分する方法では 成果が報酬に直結しない。
さらに成果の評価は、上司の判断や人事部による 調整に委ね
られ、主観や裁量、好き嫌い等の不合理な要素も入り込む。
本来の成果主義は、
「仕事の成果」⇒「評価 ( 承認 ) 」⇒「報酬」
となるべきだが 金銭的報酬にばかり関心が奪われ、それを
操作することで動機付けしようとした。その結果、
「仕事の成果」⇒「報酬」⇒「評価 ( 承認 ) 」という、
先に報酬や処遇があって それに社会的な地位や評価がついて
くるという倒錯した現象を起こしている。
成果に直結しない「報酬」という評価・承認によってモチベー
ションが決まってしまうこととなる。
年功制なら、給与やポストが低くても業績や能力が劣るとみな
されない。むしろ業績や能力の 優れた人は、給与が周りの人と
変わらないにも関わらず会社に大きな貢献をしているので、
一種のヒーロ扱いをされる。承認欲求を満たす。
報酬の前に、きちんとした評価・承認を行う必要性を表している。
評価・承認は、原資のように有限な資源ではないので、うまく
活用すべきと再認識する。
また分かりやすい例として、日本の企業は、相撲型から野球型へ
展開すべきと説く。相撲型は、番付がすべての一元的な承認
ゲームであるが、野球は、それぞれのポジションがあり、絶対
序列がない。さらに球団も移動可能である。

企業内での出世競争、つまり承認を求める努力や競争をゲームと
してとらえこともできる。
本論とは直接関係ないが、最近個人的に、企業マネジメントに
ゲーム的に要素を入れたほうが効果的と考えており、丁度、
ゲームの条件が整理してあったので、参考に書いておく。
ゲームの条件
条件1:参加と離脱の自由があること。
条件2:衣食住をはじめ生活と関わる提示欲求が充足されている。
条件3:暗黙の掟もしくは明記されたルールが存在する。
条件4:途中で逆転が可能なこと。
条件5:それに投入できるだけの魅力が備わっていること。

企業マネジメントにゲーム的要素を取り入れたほうが効果的と
いう背景も、個々人のパーフォマンスをフィードバックできる
ことがポイントと考えており、承認欲求と根底では通じている。

この承認欲求という人間の本姓に基づいたものが市場交換
取引ではないかと考え始めた。
お客様に感謝されないと、商品売買や、サービスの取引は成立
しない。お客様に承認してもらうように、工夫するというのが
市場交換取引経済の本質ではないかと思う。
社会主義経済での無愛想な販売員の態度を考えればより納得がいく。
マルクス経済学で、資本家は労働者を搾取するという観点のみで
資本主義を分析しているが、消費者に認められるように工夫する
供給者という視点が欠落しているのではないか。
承認されるように、供給者は工夫し、より承認されるために競争
する、またその承認行為は金銭交換だけでなく、前向きなコミュ
ニケーションの場であるというのが、市場経済の本質であるように
思う。